果たして今のままでいいのだろうか。
このまま進んでしまって、後悔はしないのだろうか。
気持ちだけが先走りしているのではないだろうか。
現実から目を背けようとしているのではないだろうか。
・・・私達は本当に愛し合っているといえるのだろうか。
窓から薄日が差し込んできている。
後、数時間もすれば、世界は目覚める。
それまでの静かなる時の中で、私は一人、
椅子に座り、自分を苦悩の中に追いやっていた。
「どうしたの?」
それまでベットで寝ていた彼女が、
隣に誰もいないのに気付き、目を覚ましたようだ。
片手をまだ開ききることができない目にあて、擦っている。
布団から顔を出している上半身。
何も身に付けていないその肌は、
ベッドの脇に置かれたライトの薄明かりによって、
幻想的な雰囲気で、あたかも私を誘っているかのように見えた。
羽織っていたバスローブを自らの手で脱ぐと、
彼女と同じように一糸纏わぬ姿と化した。
ダブルベッドの空いたスペースに肢体を横たえると、
彼女を自らの方に抱き寄せる。
「ねぇ、どうしたの?」
何も言わずに抱く私に、問いを発しつづける彼女。
私は答えることなく、目を閉じ、顔を近づける。
彼女もそれに答え、目を閉じた。
そして、そのまま、彼女の小さく潤いを持った、
薔薇色の唇に自らのそれをあてた。
柔らかい彼女の唇を、自らの唇で堪能する。
今まで数え切れぬほど感じたその唇は、
何度味わっても、飽きることがない。
彼女の下唇を、両方の唇で挟み、伸ばそうとする。
プルンとした弾力を感じつつ唇を離した。
今度は、彼女が私の唇を舌で弄び始めた。
そのまま、口腔に舌は侵入し、内部を散策し始めた。
不思議だ。どうして人はキスだけで感じることができるんだろう。
なんで、これだけのことであそこが濡れてしまうのだろう。
・・・子孫を残す為の行為など、私達の間では行えないのに。
激しく互いの舌を絡めあう。
行き場を無くした唾液が、隙間から、こぼれ落ちてゆく。
もうすでに、互いの行為はヒートアップするだけである。
片手を彼女の右の膨らみへと移動させると、
豊かな胸の柔らかな感触を手で楽しむ。
下から掬うような感じで擦り始めると、
我慢ができなくなったのか、彼女は唇を離すと、
小さな喘ぎ声を放った。
「あっ・・・」
自由になった口を左の膨らみへと持っていくため、
体を少しずらす。膨らみに乗っかっているかのように
存在する、小さな突起を口に含む。
彼女の口から洩れる喘ぎ声が大きくなる。
「あん・・・」
自分が行った行為によって、彼女が
感じているということを確認する時の喜び。
・・・それはどんな酒よりも、私を酔わせ、狂わせる。
硬くなった突起を舌で転がしたり、突いたりする。
右手は休むことなく、膨らみを揉み、突起を擦り、摘み上げる。
その行為一つ一つに反応する彼女の姿を見て、
まるで自分が愛撫されているかのように感じてしまう。
頭の中でこのままでいいのだろうかと考えていたくせに、
まるでそれが些細なことであるかのようにも思えてしまう。
そう、彼女と愛し合い始めれば私は己を忘れられる。
・・・心の底から私は彼女を愛しているから。
たとえ彼女が私を愛していなくても、
すでに私の心と体は彼女のものなのだから。
そして、愛し合う間は、彼女の全てが私のもの・・・。
目を覚ますと、すでに世界は太陽の光に支配されていた。
心地好い疲労感を感じながら、隣で寝息をたてている
彼女を起こさぬようにベッドから身を起こすと、
浴室へと足を運び、冷たいシャワーを頭から浴びる。
「また・・・やってしまった」
シャワーでその声を隠すかのように小さく呟いた。
もう二度と彼女を抱いてはいけないと思っているのに、
その度に欲望に負けてしまう。
その度に苦悩から逃げようとしてしまう。
・・・愛しているからこその別れ。
そう決心したのはもういつのことだろか。
何度となく彼女に伝えようと試みた。
「もう、新しい道をお互いに進もう・・・」
私達が今いる道は、あまりにも細く、険しく、そして先が見えない。
今ならまだ引き返せる。今なら、新しい道を歩める。
「だから、別れるべきなんだ。別れなければ!!」
思わず出してしまった大声が浴室内に響き渡る。
狭い浴室内に響き渡る私の心の中の叫び。
その中で私は自分がどうしたいのかわからなくなっていた。
プラスチックのイスに座りながら、頭をうな垂れる。
髪の毛にシャワーがとどめもなくあたるが、
そんなことは気にならなかった。
(今のままの関係をこのまま続けられるのか?)
何度となく自分へと向けた問い・・・。
陽の目を見ることなく、密かに続けているこの関係。
陽があたらないのならば、あたるようにすればよいのか。
・・・自信がない。
陽のあたる関係にできるものなら、
付き合い始めた時点で、皆に伝え、祝福を受けたかった。
・・・が実際はそれが簡単にかなわぬ事だということを、
お互い、十分に理解していた。
だからこそ、長い間、逢引のような形で
会い続けているのだから・・・そう今日も。
「カチャ・・・」
背後で扉がゆっくりと開く音がする。
さっきの大声で目覚めたのであろうか。
後ろに立っているであろう彼女の方に
振り向くこともせずに、そのままの体勢でいると、
背後から柔らかな感触を感じた。
・・・何も言ってくれない。ただ優しく私を包んでくれる。
何も聞かずに、私の代わりに頭からシャワーをかぶっている。
しばらくそのままの状態でいる。
ただ、抱きしめてくれるだけの彼女の行動に、
私は限りなく優しさを感じてしまう。
思わず涙しそうになる。
私は彼女の優しさに甘えきってしまっていた。
怖さも、不安も・・・マイナスの感情をすべて彼女の
優しさで包み込まれてしまっていた。
・・・それで良いと思っていた。
それが私達の関係だと思っていたから。
・・・が、この関係をいつまでも続けることができるのであろうか。
いつまでも続けることが、果たしてお互いの為になるのであろうか。
今なら、まだ新しい、お互いもっと相応しい関係・・・異性との恋愛を
見付けることができるのではないだろうか。
頭の中で次々と湧き上がる疑問の声。
それは付き合い始めた時から聞こえる声・・・。
彼女の温もりを背中全部で感じながら、
私は恐る恐る尋ねてみた。
「何も・・・聞かないの?」
「うん?だって話したくないんでしょ?
話したくなるときまで・・・待つわ」
いつものように明るい彼女の声。
すでに私の異変に気付いているはずなのに、
問いただすことなく、そのまま見守ろうとしてくれている。
全てを受け止めようとしてくれている。
・・・それとも彼女も怖いのだろうか。
私から「別れ話」をされることを。
彼女も本心から私を愛してくれている。
心も、体も、私という存在全てをありのままで受け止め、
そして、丸ごと愛してくれた初めての人・・・。
あるきっかけでメールをやりとりするようになり、
次第に胸襟を開き、お互いに惹かれていることに気付いた。
その後、今の関係になるまで時間はかかったが、
それは、お互いの置かれていた環境によるものであり、
逆にそれがお互いを強く求めるきっかけとなった。
・・・夢のような、嘘のような出会いだった。
そのまま・・・夢のままにしておくべきだったのではないか・・・。
出されたままのシャワーが
彼女にあたる音だけが浴室内に響いている・・・。
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