・・・そのままどれくらいの時が経っただろうか。
水に近いシャワーを浴びていたことを思い出した。
「体、冷えちゃうよ・・・」
「貴女が冷えてしまうよりましよ」
そう言われて、シャワーの温度を上げることを
ようやく思いつき、蛇口の方へと手を伸ばした。
「ありがとう」
「お礼を言われることじゃない」
「私が自分から抱きついたんだもの。
それなのに気にしてくれた。だから、ありがとう」
「・・・・・・」
体を動かす気配を見せると、
彼女は抱くのを止め、立ち上がった。
私はシャワーを止めると、同じように立ち上がり、
彼女の正面から抱きついた。
彼女の方が5センチ私より背が高い。
肩の所にもたれるような感じで顔を置いた。
彼女は私の背中に腕を回すと、
再び優しく抱きしめてくれた。
柔らかな二つの膨らみがつぶされる感触・・・。
自分達が陽の目を見る関係になれない原因・・・。
私はいつしか涙していた。
嗚咽をこらえながら、彼女の耳元で、
今まで言えずにいた言葉を無意識の内に呟いていた。
「別れ・・・・・・たい」
彼女が狼狽する姿が瞬時に頭の中に思い浮かんだ。
私は身を硬くし、何を言われようと、
何をされようと、全てを受け入れる準備をしていた。
・・・彼女は少し何かを考えていたようだった。
私が何の反応もないので不安になり、顔を上げると、
ようやく微笑みながら口を開いてくれた。
「いいわよ、それが貴女の望みなら」
私はてっきり反対されると思っていた。
だって・・・彼女は私を愛しているのではなかったのか?
・・・それは嘘だったのか?
「な・・・なんでそんなにあっさりと答えられるの?」
「なぜ?貴女を愛しているからよ」
「愛しているのに別れてくれるの?」
「あら、貴女は私を愛していないの?」
「愛・・・してる。今までも、今も、きっとこれからも・・・」
そう言って、彼女の豊かな胸に、涙している顔を埋める。
自分は社会人になってもう何年も経っている人間だが、
彼女の前では子供の自分・・・素直な自分を見せてしまう。
彼女は右手を私の頭の上に乗せると、
濡れた髪の毛をゆっくりと優しくなでてくれる。
「ねぇ、覚えてる?まだ貴女とメールだけの関係だった頃。
あの時でも十分私達は幸せだったし、愛し合っていたといえるわよね?」
「そうだと・・・思う。でも、あの時の関係に戻ったとしても、
また会いたくなるに決まってる。そして、今の関係に戻ってしまう・・・。
なら、いっそ・・・」
話している私の口に指を一本立てられる。
優しくまるで母のような笑みを浮かべている彼女。
「・・・まだ、話の途中よ。あの頃、メールでやりとりした中で、
あなたにいった言葉よ。『私の心は貴女のもの』そう書いたら、
貴女は『返して欲しかったら、許可をとって下さいね!』って書いてきて。
ふふ、私、とてもドキドキしたことを覚えているわ。
ねぇ、その後のメールでなんて書いたか忘れてない?」
「つっ返されるまで、貴女の心は・・・私のもの・・・」
「その通り。こうして返されるのなら・・・素直に受け取るわよ」
「ごめん・・・こうなるって最初から・・・思ってた」
「私も・・・よ」
「えっ?」
「夢のような出会い。嘘のような告白。信じられないほどの愛。
それらは全て幻のようだった・・・そして幻であるべき・・・なんでしょ?」
「私の小説の・・・文章」
「でも、これだけは覚えていて。貴女を本気で
愛している人がいるということだけは、
幻ではない現実であるということを・・・」
「・・・・・・」
「どうしたの?」
「最後のわがまま・・・していい?」
「もちろん。わがまま大好きよ。それも好きな娘なら・・・ね!」
そのまま息をするのも忘れるくらいの激しいキスをした。
2人とも・・・泣いていた。
わかってる。お互い別れたくないって・・・。
でも、この先、十何年、何十年という時間を考えたら・・・、
このままではきっといけないのだ。
わかってる。自分勝手だって。
彼女の気持ちを考えているようで、
自分の都合を押し付けているだけだって。
本当だったら・・・一緒に住んで・・・ずっと・・・愛し合っていたかった。
でも、それは・・・できない。できるはずがないのだ。
・・・今の仕事をやめる・・・気はない。
・・・それに、病んでいる父のそばを離れる訳にはいかない。
彼女も、今、住んでいる場所を動けない・・・。
仕事の為に住んでいる・・・場所だから。
そして、その仕事を・・・やめることは・・・彼女にはできないから。
もう、限界だった。
この世に生を受けしものとして、
愛し、愛されることを許されるものとして、
私達のこの関係を皆に告げたかった。
「私は彼女を愛している!!誰よりも、深く、永遠に!!」
・・・告げた時が、今の生活の終わりであることを知っていた。
その生活を捨てることができないのなら・・・告げることはできないのだ。
もしかしたら・・・受け入れてもらえる・・・かもしれない。
そんな一縷の望みに全てをたくすことなど、臆病な私は選べない。
・・・彼女は知っているのかもしれない。
このまま、私が悩んでいるまま過ごしたとしても、
2人の関係に陽の目を当てようとしたとしても、
この関係は壊れてしまうだろうということを・・・。
最後の交わり。今までで一番激しく、お互いを貪るような・・・。
心も、体も、全てを食い尽くしてしまいたい・・・そんな感情が表れていた。
・・・この交わりの中で私は死ぬのであろうか?
天国の入り口を見た瞬間、小さな頃からの出来事が、
走馬灯のように頭の中を駆けめぐった。
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