朝。眠い目を何とか開き、部屋を掃除する。
ある程度は許してもらうとしても、掃除ぐらいはと思って、
洗濯とかをしながら、8時過ぎから片付けをしていた。
・・・ら、熱中してしまい、約束の時間ギリギリになっていた。
慌てて車に乗り込み、出かけた私。

「まずい・・・せっかく待っているつもりだったのに・・・ごめん、お姉さま!」

正直・・・不安を隠したかったのかもしれない。
3ヶ月間、それもメールでしか会話をしたことがないのに、
お互いに惹かれあい・・・愛してしまった私たち。
まだ実際に会えるのは先だと考えていたのに、
ひょんな事から2日間会えることになった。

連休に入るのと、特売の準備があって、
正直、不安な気持ちや、あった時のことを考える余裕はなかった。
・・・でも、会う当日は違う。何かしていなかったら、落ち着かなかった。
心の中が騒がしかった。不安、嬉しさ、怖さ、夢心地・・・。
自分でも上手くいえない感情がミックスされていた。
時間ギリギリまで・・・家を出られなかったのは、
もちろん普段から時間にルーズだからもあるけれど、
きっと・・・何かをしていないと震えていたと思う。

携帯に連絡をと思ったけれど・・・直接話したことがなかったから、
話をした瞬間に戸惑ってしまったりしたら、運転に支障が出るとやめた。
工事に捕まり、信号に捕まり・・・いつの間にかに到着時間は過ぎていた。
(優しい人だから、怒ることはないと思うけど・・・まずい!)
メールを読んでいる限り、多少の遅刻で怒る人だとは思っていなかった。
ただ・・・心配をかけてしまうのがわかっていたから心苦しかった。
違う場所に待ち合わせだったのかとか、もしかして、こないのではないかとか。
余計な心配をかけてしまったことを今更ながら後悔しつつ、
駅の送迎用の駐車場に車を止める。すでに到着して5分以上過ぎている。

走っていきたい気持ちがあったけど、それだと目立ちすぎる。
気持ちだけは焦りながら、早歩きで券売機に向かうと、
入場券を購入する。おつりと切符がでてくるわずかな時間さえ、
もどかしかった。出てきた瞬間にそれらを握り締めると、
自動改札に向かい、いつものように切符を通した。

(待ち合わせは1号車の所。いそがないと・・・)
ホームに商品を運ぼうとする職員の人たちがエスカレーターを
使っていたので、私は迷わず階段を駆け上った。
そしてホームに出ると、私は無意識の内に神経を研ぎ澄ませていた。
その場に待っていてくれるとは思っていたけど、もしかしたら、
待ちきれずに階段の方へ向かっているかもしれないからと、
それらしき女性を見かけると思わず顔を見詰めてしまった。
きっと、変な人だと思われたかもしれない。

6号車付近は次の電車を待つ人で溢れていた。
・・・けど、それらしき人物を見かけることはなかった。
(きっと・・・そのまま待ってくれている。ごめんなさい・・・)
心の中で何度もわびながら、ホームの端へと向かっていく。
5号車、4号車、3号車・・・人の数が少しずつ減っていく。
それとともに、下りホームの方に、名古屋方面を向く、
ジーパンに、紺のコートを来たショートヘアーの女性。

(あの人がお姉さま?あの人・・・が?)
期待と・・・不安とが交差する。今更引き返すことなどできない。
足が一歩一歩とその人のほうへと向かっていく。
本当は逃げ出したい気持ちも、心の中にあったと思う。
一度会ってしまったら・・・もう引き返せない。
私はその人だけを・・・愛する事になる。

自信がなかった。その人を愛しぬく自信も、
自分が愛されるだけの価値がある人間なのかも。
・・・でも、もうここまで来てそれを考えるのは遅いのだ。
私は・・・お姉さまを求めている。その存在を確かめたい。
そして・・・愛されたいから。心も身体も・・・全てを。

その人物と、私との間に他の人が誰も入らなくなった時、
その人は私の方を振り向いた。・・・女性だ。
もちろん、お互い顔など知らないから、近づいて、
直接話して確かめるしか術がない。お互いが待ち焦がれた人なのか。

・・・いや、確かめなくても直感が告げていた。
目の前にいる人物こそが、私が求めていた人だと。
彼女も、私の方を見詰めている。私も見詰め返す。
そしてその瞬間に確信した。この人だと。

「・・・さん?」

それは自信のない、小さな声だったと思う。
でも、逆だった。心が舞い上がっていた。
ここにくるまでに抱いた不安など、どこかに飛んでいた。

そして、目の前に立つその人物は、頷く事で問いかけに肯定をした。

私より4歳年上のお姉さま。背は私よりも高く、
メールで気にしているような、体格のようには見えない、
優しそうな人物。真っ直ぐに私を見てくれているという
その事実だけで、私は少し涙ぐんでいた。

少し苦笑いのような、照れ笑いのような笑顔を持って
私を向かえているその人物に、私はまず謝った。
「すみません!!遅れました・・・」
会って最初の会話がこれとは、正直私らしいのかも。

そして、お昼には少々早かったが、この後、
休日にもかかわらず、店に仕事をしに行く必要があった。
だから、おなかがすいているかを尋ねたら、
「先に仕事を終わらせた方がいいでしょ?」
と、自分の事より、私のほうを優先させてくれたのも、
お姉さまらしいと言えるだろう。

抱きしめたい気持ちを何とかおし留め、改札に向かう。
本当はこんな日に仕事なんて行きたくなかった。
しかし、希望ではないとはいえ3連休をもらえた訳だし、
そうもいっていられない仕事だったので、早く終わらせたかった。

自分の隣を歩く初めて会うお姉さまと呼び、想い慕っていた人。
恋愛経験がない私がメールだけで真剣に好きになった人。
・・・不思議な事に、初対面だという気が起きなかった。
もちろん、この3ヶ月の間、それも2ヶ月は毎日メールを
やりとりしていたのだから、多少なりとも互いの事は知っている。
が、むしろ・・・懐かしさを覚えた。デジャブー・・・。
ずっと会えなかった人に久しぶりに会ったような感じ。

会ったら話したいことが山と言うほどあったはずなのに、
車に向かうまで・・・いや、車で仕事場である店に向かう間も、
私達はほとんど会話を交わさなかった。交わせなかった。
お姉さまがどうだったはわからないけれど、
私は、嬉しさと、何を話していいかわからないのとで、
ただ、閉まりのない顔が今の感情を表すだけで、
その気持ちを言葉として告げることができなかった。
互いの人見知りの性格が災いした。

本当は・・・キスをしたかった。ずっとしたかったから。
恥かしい事とは思っていなかったけど、この年になるまで、
キスをしたことさえなかった私。もちろん、異性を含め、
誰とも付き合った事もないのだから、そうであっても不思議ではない。
根が真面目人間なのだから、恋人でもない人と、
キスをするなどとんでもないとどこかで思っていたから。

硬い、緊迫感が漂うよう会話が続く。
お互いに何かを尋ねては、短く答えるだけ。その連続。
何かきっかけを求めているのはわかっていたけれど、
何をきっかけにすれば会話が自然に弾むのかわからなかった。
・・・緊張していたし。

車の中で話したこと、それはお姉さまが住む場所の事だった。
少しは知っていたけれど、詳しく話してくれた。
実家は商店街の中にある、スーパーの隣の魚屋さん。
海に近く、磯の香りが漂う海の街。そんな場所の
アパートに一人でアニメの仕上げの仕事をしながら
暮らしているのがお姉さまだという事を。

「従業員駐車場に車を止めて歩きますけどいいですか?」

店に近づくと、私はお姉さまに断りを入れた。
駐車場から店まで3分ほど坂を下ることになる。
本当なら、店の駐車場に止めてしまいたいが、
そうもいかない。規則なのだ。

「いいわよ、全然構わない」

「すみません、なるべく早く終わらせますから・・・」

「気にしないで。待つのは慣れているから」

待つのは慣れている・・・メールで何度も読んだ言葉。
お姉さまが慣れているからといって、自分は待たせたくなかった。
人に待たされるのが本人にとって当たり前だなんて考え、
もって欲しくなかったから。・・・そのくせ、駅で待たせ、
この後、仕事で何時間か待たせることになってしまった。
そんな自分がものすごく恥かしかった。

従業員駐車場に車を止める。
今日はパートさんがほとんどお子さんの都合で休みを取って、
店のスペースの駐車場は空いていた。
よく見ると、同じように今日は休み、それも希望休である
はずの社員の村松さんの車がある。

「あ、村松さんも来たんだ・・・」

私が勤めているのはSCに入っているドラッグストア。
ドラッグ以外にも、スーパーがあり、私が住む静岡県以外にも、
何県かに跨って営業をする、そこそこ大きな会社。
そんな所に入って早4年。今の店にオープニングスタッフとして
配属されてもう2年。・・・入ってから、何をしていたかと聞かれると、
色々やったとしか答えられない。入社してずっと担当が定まらず、
色々やらされた結果。何かに専門的になることなく、広く浅くの
知識が身についていった。・・・結果的には良かったと思うけど。

たまたまパートさんの都合が重なり、今日は納品が多いというのに、
人がいない。納品を手伝いけど、自分の事だけを済ませて帰りたかった。
そう考えていたら、村松さんが出勤している。・・・助かる。
少しでも早く終わらせ、少しでも長くお姉さまと過ごしたかった。
静岡と広島という距離は、メールでこそすぐにやりとりできるけど、
実際に会うとなったら、そう簡単な距離ではない。

そう、今は簡単に会える状況ではないのだ。
・・・が、来年になれば少しは変わる。お姉さまは
仕事の関係で東京に引っ越してくる。
もちろん、静岡と、東京は近いとはいえない。
が、広島との距離に比べれば近いもの。

それに・・・私は姉との二人暮し。HPを開設している事も、
そこで知り合った人達とメールのやりとりをしている事は、
その内容柄、秘密にしている。三十路に近いものが、
恋愛もせずに、小説・・・それも百合小説を書いているなど、
やっている事は大胆かもしれないが、実際は小心者の私が
告げれるはずがない。もちろん、今日と明日、会うのも秘密だ。

お姉さまが引越しのために母親と上京するのを、
少し早めてもらい、平日の二日間会うことにした私達。
貴重な時間なのだ。いくら来年以降、お姉さまは引越し、
私も一人暮らしを始められるかも知れず、会える回数が増えるとはいえ、
今というときは、今この瞬間しかないのだから。

簡単に館内を案内をして、「なるべく早く終わらせますから!」
と断りを入れると、私は自分の仕事へと向かう。
最低でも・・・2時間はかかる。でも、待たせることは嫌だったが、
待ってくれている人がいる、それも最愛の人が、そう思ったら、
この後の仕事が楽しいものになるだろうという予感があった。

12時前に仕事に取り掛かり、結局上がったのは15時過ぎ。
それでも、かなり急ぎ、調子よくこなしたのに。
・・・待たせすぎだ。でも、2日間に分けてしまうよりは、
今日一日で済ませたほうがと、何とかやってしまった。

「後、少しで終わるので、店の中を見てくださいよ」

売り場を作るのは終わり、後は発注だけとなったとき、
私は店の前にある長いすに座るお姉さまの姿を見つけ、
店内を見て欲しいと勧めた。もちろん、パートさんに
誰かと紹介などできないけれど、今日はみな忙しい。
自分がしている事だけで、精一杯なのだ。

おそらく、何をしていいか困っていたと思う。
別に興味を引くものがあるわけでもないし。
ただ、私の自己満足を満たしたいが為の勧め。
そして、この後、この店をお姉さまが見てくれたと
普段思えば、それだけで嫌な仕事も、楽しいものになるからという、
ちょっと打算的思惑があったりした。

「終わった〜!!」

白衣から、私服に着替えた後、店内にいたお姉さまを見つけると、
そう仕事が終了した事を告げた。そして、店長に先に上がると言って、
さっさと店を後にする。そう、これからが私達の本当の出会いの時間なのだ。


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