「やめる?」

「そう、やめます」

目を瞑りながら、私は受話器を片手にお姉さまと話していた。
相手はものすごく驚いている態度ではないみたいだが、
私が発した言葉の内容の意味を図りかねているようだ。

「なんで?」

「理由がなくなるから」

「理由?なんの?」

「ホームページを・・・話を書く理由」

そう、何も考えずにホームページを作成した訳ではない。
自分の胸の内にあった「しこり」のようなもの。
それが自らを痛めるようになり始めたため、
自らその「しこり」を取り除くきっかけを探るべく始めたのだ。

「そうか、お姉さまは読んでいないのかもしれませんね」

「読んでいないって、何を?」

「まだ、ホームページを作ったばかりの頃に乗せていた文章を。
そこには簡単にですけど、私がホームページを始めた理由を書いてあったんです」

「あら・・・知らないわ・・・」

「まぁ、それ程、長い時期乗せていたわけでもありませんから、当然でしょうね。
そうですね、先にメールで送りますよ。読んでもらえませんか?」

「いいわよ。送って」


そう言って、一度電話を切ると、ファイルを添付して、メールを送った。
本当に開設したばかりにどうしてもこらえることが出来なくて発した私の内なる叫び・・・
誰かに読んでもらいたい訳じゃなかった。それこそ・・・秘めていたものだから。
ただ、不特定多数が、なんらかの縁によって私のホームページに迷い込んだ時に、
それを目にして、もし共感する物があるのなら・・・ふっ、なんて非現実的な望みだったのか。

自分で書いた物を読み直してしばらくしてから、お姉さまにワンコールをする。


「読んでもらえました?」

「読んだわよ」

「ご感想は?」

「う〜ん・・・」

「私にとってホームページは自らの中に閉じ込めて置けなくなった感情をぶつける場だったんです。
そう、本来はその為でした。でも、開設して一月としないうちに、予期せぬことが起きたんです。
そして、それは私の人生を変え、ホームページに対する姿勢をも変えたんです」

「私との・・・出会いよね?」

それには答えることを保留して、私は話しを続けた。

「ただ、それによって、ぶつける必要がなくなった今、ホームページの作成の意義が薄れているんです。
そんな気持ちを持って、ダラダラと続けるのは、読んでくださっている方に失礼ですし、プロの物書きではないのですから、
書くことに意固地になる必要性もないはずです。ただ、まだ書き途中の物があるので、それを完結させずに閉鎖することは、
逃げることと私にとっては同じだし、自分が未完の作品を読んでもやもやした気持ちになった事があるので、
今書いている物を全て終えてから、閉鎖しようと考えてはいますが」

「と言うことは、しばらくは続けるということよね?」

「そうですね、早くても・・・半年。長くて、1年くらいでしょうか」

「・・・紘子がそう考えているのなら・・・それでいいんじゃない?」

「反対しないんですね」

「だって、もう決めていることなんでしょ?」

「・・・正直、ホームページを作成したことを振り返ってみて、良かったと思っています。
ストレス解消になったし、色んな人たちと交流をもてましたし・・・何よりお姉さまと知り合うきっかけとなった。
でも・・・もともとホームページはそれ程長く続けるつもりは当初からなかったんですよ」

「あら?そうだったの?」

「そう、だから、ほかの人の掲示板に書き込みをしないんですよ」

「それって理由になるの?」

「書き込みをしている人が突然いなくなることは、
そこの管理人にとっては哀しい出来事にならないかと思って・・・。
本当なら、自分のところに掲示板を設置する予定も、メールアドレスを乗せるつもりもなかったんです。
でも、どこかで自分が書いた物に対して読んでくれた人たちがどう思ってくれているか知りたかった。
だから・・・自分の所の掲示板にはしっかりとレスをするんです。本当は・・・したくないんですけどね・・・・・・」

一度間を置いてから、私は再び言葉を吐き出した。

「そもそも、自分は『生きる』ことから逃げている人間なんです。
自分の生きた痕跡を残したくない・・・日記も、写真も、人間関係も。
・・・何もかもまったく残さないことは不可能だから、極力、残さないようにしてきた。
そんな自分が、たとえ見るのが砂浜の中の一握りの砂と同じくらいの人達だとしても、
ホームページで自分の分身でもある『話』を公開しているなんて・・・滑稽にもほどがあります」

「・・・どこが滑稽なの?」

自分自身の矛盾に皮肉な笑いを浮かべる。
お姉さまには見えないだろうけど、
あまり見せたくない顔の表情をする。

「ふっ・・・滑稽ですよ。自分の痕跡を残したくないと願っているくせに・・・評価を求め、
一度、メールアドレスを載せると、投稿を望む。滑稽以外の何と言えますか?」

「でも・・・そのお陰で私と出会えたんだよ」

そう、メールアドレスを載せていたから、お姉さまはメールをくれた。
掲示板には書き込みをしない人だから、メールアドレスを載せていなかったら、
お姉さまとのメールのやりとりすら生まれることはなく、
それは、二人の出会いのきっかけの喪失を意味する。

「わかっています。今は、結果として良かったと思っていますよ。
でも、やっぱりホームページを続けていく熱意が薄れているのには変わりません。
ただ、ホームページを続けることが・・・私を私らしくさせていると思えるようになったら・・・」

「思えるようになったら?」

「それこそ、息をするのと同じように、ホームページを続けることが当たり前になるかもしれませんね」

「私としてはそうなることを望んでいるわ」

「・・・そう?」

「だ、だって、私、紘子が書くものを読むの好きだもん。
できれば、そんなに難しく考えずに・・・続けて欲しいな!」

「そうですね・・・確かに難しく考えすぎてはいますよね。
まだまだ結論を出すのは先ですよ。なんたって2次創作が全然進んでいないんですから」

「むっ、早く続きが読みたいけれど、読みたくないような・・・」

「ふふ、大丈夫ですよ。まだ、最後まで考えていないですから、当分先の話になりますよ。
それに、お姉さまが話しを書いてくれるのなら、それを載せるということで続けますけど?」

「そ、そ、それはか、考えておくわね!!」

実はお姉さまも2次創作をしている。・・・もっとも、私はまだ全部読ませてもらっていない。
恥かしがりやのお姉さま。見せることを拒否をしてきた。でも、こんな形で催促する。

「お待ちしておりますよ」



閉鎖するかどうかは・・・そうですね、今だとやっぱりお姉さま次第になるのかも。
少なくても、話のネタが尽きない限り、今書いている話は終らないのですからね。
そのことに気付いてました?ねぇ、お姉さま?


あとがき

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