「お姉さま・・・とりあえず、長かったですけど、これが前置きです」
「これからの話で『浜松のサンタ』と彼を呼ぶ理由がわかるの?」
「そうですよ、つい、話が枝葉にそれてすみません」
「いいわよ。ゆっくり紅茶を飲みながら、好きなように話してと言ったのは私だし」
そう言ってくれた彼女の方を一度見てから、私は紅茶セットをずっと眺めていた。
「どうしたの?」
遠くを見るように眺めている私の姿に気付き、声を掛けてくれた。
私は相変わらず遠くを眺めつづけながら、話しを続けた。
「このセットはもらい物なんです。くれたのは・・・三浦君」
仕事が終わり、寮に戻った私は、自分の部屋と山本さんの部屋の
ちょうど真中あたりの壁に置いてある白い紙袋が気になりながらも、
とりあえず、買い物したものをしまいたくて、そのまま通り過ぎ、部屋の鍵を開けようとした。
すると、「ガチャ」と音がしたかと思うと、今日は休みだった山本さんが
ドアの向こうから顔を出し、私に話し掛けてきた。
「ね、これきっと西田宛だよ」そう言うと、無視しようとした紙袋を指差した。
「え?私宛?」心当たりがない私は、「まさか」と思い、
「本当ですか?」と、尋ねてしまった。
「多分そうだよ。だって、誰宛か書いてなくて、悪いと思いつつ、中を見させてもらってさ。
そうしたら、カードが入っていて、『浜松のサンタより』って書いてあったよ。
一人しかいないでしょ?そんなことを書いてくる人は。ほら、早く部屋にもって帰りなって!」
半信半疑でその紙袋に手を伸ばし、中に入っているカードを開くと、
確かに山本さんが言ったように、「少し早いけど、プレゼントです」と言うメッセージの後に、
「浜松のサンタより」と書いてあった。私は、その人が誰かをもちろん頭の中で浮かべていたが、
まさか、こんなことをしてもらえるとは思っていなかったから、頭の中が真っ白になっていた。
訳がわからなくもないが、やっぱり混乱していた。
この事実をどう受け止めたらいいのか。
素直にこれを「クリスマスプレゼント」と取るべきか。
それとも、「付き合って欲しい」と言う意思表示の現れと取るべきなのか。
正直、今までこういったことをされたことがなく、免疫のない私は、まるでインフルエンザに
感染したかのように頭が熱くなり、思考能力が無くなっていた。
とりあえず、もらったものを確認しようと、靴を脱ぎ、部屋に上がると、
紙袋の中から、四角い白い箱を取り出した。少し重さがある。
(何をくれたのだろう・・・)ものすごくそれが気になった。
箱の蓋を開ける。中身は・・・紙に包まれた何か。
(あれ?これって・・・)そう思いながら紙を剥いていくと、
中からティーサーバーが出てきた。あまりこの手の物に詳しくない私でも、
一目で高いものだというものがわかった。持つ手が・・・少し震えていた。
熱湯を注ぐのだから厚いガラスなのはわかっていたが、
(落として割っちゃいけない・・・)と、一度全部を開いて見てから、
また紙で元のように包み、急いで箱の中にしまった。
箱の蓋を閉め、その箱を見ながら、私は嬉しさを感じていた。
・・・自分に対してこうしてプレゼントをしてくれる、
少なくても好意を持ってくれている人がいる。
それも、異性で。生まれてこの方、そうしてくれる人はいなかった。
多分・・・自分から異性を「拒否」するオーラのようなものを発していたから。
よく、周りの人から「あの人が好きなんだって・・・」という話を聞いても、
その人に関心を抱くことも無く、それどころか、それが迷惑なように、
人づてにその話が私の耳に入っているのを本人が知ったとしても、無関心でいた。
そんな素振りを見せる気などもてなかった。だからだろうか。
告白も無ければ、異性の友人もほとんどいなかった。ましてやプレゼントなど。
「その当時から、自分は異性を愛せないのかと、思っていました」
「同性ばかり・・・惹かれていたから?」
彼女の目を見ると、少し冷たさのある笑みを見せた。
「同性も含めてですけどね、正確には。私には人を『愛する』という感情がわからなかった」
「わかろうとして、わかるものじゃないわよ『愛』は」
私の方をずっと見つづける彼女のその言葉は・・・私の胸にズシリときた。
「そうですね・・・でも、私は頭で理解しようとしていた。情を・・・友情、愛情・・・を」
恐れを感じていた。温かい物を心の内に感じながらも、どこか冷めている自分がいる。
(これをもらってどうする気だ?どうすればいいんだ?)
・・・わからない。わかりたくないのかもしれない。
本当にこれを「意思表示」として受け取るとしたら・・・私は自分自身を変えなくてはいけない。
人を愛することを拒みつづけてきた、臆病な私を。・・・どちらにしろ、お礼を言わなくては。
その日の夜、私は三浦君に電話を掛けた。
「もしもし?西田ですけど・・・あの・・・プレゼント・・・ありがとう」
「あ、見てくれた?」
「うん。隣の部屋とのちょうど真中くらいに置いてくれてあったから、
・・・まさか自分宛てだって思わなくて、通り過ぎちゃった」
「ごめんごめん。ドアの前に置くのもなんか、照れ臭くて。
ドアの近くに置いたつもりだったんだけどな」
「それは別にいいんだけど、隣の人にからかわれた」
「え?なんだって?」
「浜松のサンタからだよって」
「ははは、なんか名前を書くのが恥かしくなって、ああ書いたんだけど」
「あっちの方が照れ臭くなかった?」
「実はね」
「やっぱり?」
その後、いつものように仕事の話になった。もちろん、お互い目が回るように忙しくなってきていた。
そんな中、彼が私のためにわざわざ貴重な休みの日を利用して、プレゼントを届けてくれたことを、
とても嬉しく思っていた。・・・自分にとって特別な人になるのかなと、意識をし始めていた。
「ねぇ、何か欲しいものない?」
「え、なんで?」
「プレゼントのお礼がしたいから・・・」
「いいよ、気にしなくて。俺がプレゼントしたくて、勝手にしたことなんだからさ」
「でも・・・」
「いいよ、西田さんだって忙しいんでしょ?別にいいって」
そう押し切られてしまって、結局、お礼を言葉で述べるだけに留まってしまった。
でも、何かを買って渡したいという気持ちに駆られていたので、
次の休みの日、クリスマスイブの前日にプレゼントを買いに行こうと決心していた。
その後、私は三浦君に何を買うか考えていた。
山本さんが、寮の人達には私がプレゼントをもらったことを話していたので、
次の日、私の部屋に皆押しかけてきて、プレゼントを見にきた。
「西田、三浦君からもらったのってどれ?」
閉店までの勤務なので私より帰りが遅い高橋さんが私の部屋に帰り際にやってきた。
「あ、佳乃ちゃん・・・これけど?」
「わ〜っ、これって有名なんだよ。けっこうするよ」
「私、わからなくって、いくらくらい?」
「そうだね・・・」
興味本位で来られたのはちょっと迷惑だったけど、情報をもらえるのなら、ありがたい。
大体の金額を教えてもらい、それより少し上くらいの金額のプレゼントをすることにした。
「西田、三浦君にこんな事してもらって、決まりだね!」
「決まり・・・って?」
「あんた、何言ってンの?こんな事してもらってまだトボケる気?」
「そう言われてもさ。・・・わからないよ」
とぼける気などさらさらない。本当にわかっていないのだから。
「お疲れ〜。佳乃の声がしていたから、きちゃった」と、チーフもやってきた。
「西田ったらひどいんですよ。こんな関係になっても、まだ『わかんない』なんて言ってるんですよ」
「だ、だって真面目にこれで相手が私のことを『好き』だなんてわからないじゃないですか!」
この二人にはかなわない。・・・口ではまず。今回のことでもそうだった。
私がもじもじとしていて、まるで三浦君がしたことが嬉しくないような態度と煮え切らないような態度に、
二人とも、私に説教をし始めた。そうでなくても、今までも、「西田、早く告白しちゃいなよ!」と、
少し後ろ向きな私をいい意味で、後ろから押してくれてきていた二人。黙っていられるはずが無い。
「あんた、こんな事してもらって、まだわからないわけ?」
「チーフ、それはひどいですよ。そりゃ嬉しいですって」
「嬉しいんだけど、三浦君が西田のことが好きかどうか『これじゃあなんとも言えない』なんて言うんでしょ」
「また、西田考えすぎ。三浦君も好きに決まっているじゃん!」
「そうですか?でも、仲がいい人への『プレゼント』かもしれないですよ」
「プレゼントはプレゼント。西田、三浦君のこと好きなんでしょ?」
「嫌いなわけないじゃない。あれだけ頻繁に会っていて」
「なら問題ないよ」
「そうだよ」
「そうですか・・・・・・・・・」
相手が一人でも口では負けるのだ。二人が一緒になっていて・・・かなうはずが無かった。
でも、二人と話していて、自分の仲の気持ちが、だんだん三浦君へ傾いていくのがわかった。
と同時に、相手も自分の事を好きなのかな・・・と、思い始めていた。
「プレゼントは買うんでしょ?」
「それはもちろん」
「絶対に渡すんだよ」
「お返しはするよ」
「ははは、でもこれで西田にも彼氏ができたわけだ」
結局、後押しをしに来てくれたのか、お節介をしにきてくれたのか、からかいに来たのか・・・。
多分それら全てだとは思うが、1時間ぐらい話しをして、最後に、「絶対に渡すんだよ!」
「ホントだよ西田!」と念を押されて二人とも部屋に戻っていった。
二人が帰って静かになった部屋で、私は夕飯を作りながら、再び何を買いに行くか考えていた。
(三浦君にか・・・何にしよう?)普段使うものにしたいと思ったら、何にするかはすぐに思いついた。
後は、買いにいくだけ。次の休みも午前は仕事を手伝うつもりでいたから、午後、行くことにした。
次の休みの日は、あいにくの雨だった。お昼過ぎまで店に行って仕事をした後、
部屋に戻り、洗濯や雑用を済ませたら、15時を過ぎてしまった。その後、銀行に行って、
ATMで年末年始の軍資金をおろし、部屋に戻る。・・・また一人で悩んでしまった。
(いいのかな・・・いいんだよね・・・)優柔不断と言われても、なんと言われてもいい。
私には本当にわかっていなかった。恋愛も、その駆け引きも。・・・恋をする気持ちなんて。
でも、三浦君にプレゼントを返すことで、逆に嫌われてしまうんじゃないかと思ったとき、
私はようやく気付いた。
(・・・嫌われたくない人、別れたくない人・・・やっぱり、好きなのか・・・な)
雨の中、私は車を静岡に走らせた。すでに夕方の渋滞が始まっていて、
結局、静岡に着いたのは、18時半前だった。行ったのは○井。
前にプレゼントをあげる、あげないは別として、気になったものがあったので、見にきた。
私は時間も無いこともあり、真っ直ぐ目的の場所へと向かった。
エスカレータのすぐそばにあるガラスケースに。
彼はタバコを吸う。そんな彼に、ライターと、携帯用灰皿のセットで送ろうと決めていたのだ。
他のものは思いつかなかった。ある意味、優柔不断の私にしては珍しい事だった。
ガラスケースの中には様々なブランドのライターが所狭しと並べられている。
当然、価格も幅広い。とりあえず、彼の好みはわからないから、自分の好みの、
値段的にはもらった紅茶セットより少し上乗せした程度・・・そう決めていた。
シルバーメタリック、つやなしゴールド、皮・・・。色、形、大きさも様々なライターの中で、
私は、少し茶色がかかった黒色の皮のライターを選び、それと同じブランドの携帯灰皿を一緒につけた。
「プレゼント用ですか?」
キャッシャーに向かうと、店員の人が聞いてきた。
「はい、そうです」
私はそう答えると、選んだ商品が包装されていくのを近くに立ちながら見守っていた。
私の心はすでに渡す時に飛んでいた。・・・24日のイブは仕事が入っている。
電話を最近していないからわからないが、おそらく三浦君も仕事のはずだ。
(・・・イブ過ぎてからでもいいかな?)そう考えていた。
私の部屋の片隅に、しばらく白い紙袋が置かれることになった。
それに触れるのがなぜか怖くて、購入してからはほとんど手にしていなかった。
(これを渡したら、三浦君、自分の事どう思うんだろう・・・)
嬉しく思って欲しいのは山々だが、プレゼントをする事自体、
間違っているのではないのではないかと、心の中で繰り返しつぶやいていた。
自分は・・・恋に恋はしているけれど、三浦大地という一人の男性を愛しているかと尋ねられたら、
私は答える事が出来ない。・・・恋をしている自分を冷めた目で見詰めたら、
自分がしている事が滑稽にさえ思えた。恋をしたくて、自分を・・・偽っている。
確かに、プレゼントを渡したい自分がいる。・・・と同時に、これ以上彼に関わってはいけないと止める自分もいる。
自分が一番わかっているから。私は・・・人を愛する事が出来ない人間だと。
あまりその事を悩まずに済んだのは、仕事の忙しさのお陰だった。
だけど、時は確実に流れ、日本では両親が子供にプレゼントを渡し、
恋人が愛を確認する日となったクリスマスイブを迎えた。
その日、普通に18時頃仕事を終え、寮に戻って夕飯を作っていた。
三浦君へは、別に今日でなくてもいいと考えていた。
そうしたら、夜、一緒になって珍しく帰ってきたチーフと佳乃ちゃんが、
私の部屋に灯りが着いているのに気付き、チャイムを鳴らしてきた。
「西田!なにやっているの?」
ドアを開けると同時にチーフが刑事が犯人の部屋に乗り込むような勢いで、私の部屋に入ってきた。
ドアを入るとすぐそこは台所。夕飯の仕度をしているのが目に入っただろう。
私は、「えっ?何って・・・夕飯作っているんですけど?」と答えると、
チーフの後ろから佳乃ちゃんが顔をだしてきて、「そうじゃなくって、何でここにいるの?」
とあきれた表情で見詰めると、しょうがないなといった感じで言ってきた。
「プレゼントは?」と、部屋の中を見渡す感じで見ているチーフに私は
「買ってあります・・・」と正直に答えると、部屋の隅に置いておいた紙袋を見せた。
それを見ると同時に「それもってすぐ浜松行きな」とチーフに言われる。
チーフの有無を言わせない勢いは、私はとても逆らえない。
「でも、今日、行くといっていないから・・・」と俯きながら答えると、佳乃ちゃんが
チーフの隣から顔を出し、「あ〜、ごたごた言わないでとっとと行くの!!」と大声を出した。
「そうだよ、佳乃の言う通り。今日、渡す事に意義があるんだからね!」
チーフがそう言うと、佳乃ちゃんも首を何度も縦に振っている。
私が納得いかない表情で立ちすくんでいるのを見て、二人は痺れを切らしたらしく、
「もう!いい西田?プレゼント渡すまで帰ってきちゃダメだからね!」
「今から行けば充分今日中に渡せるんだから、がんばるんだよ!」
と言われると、私が部屋の外に出るまで見張られてしまった。
それが親切なのか、お節介なのか、私の中では判断がつかないまま、
結果として二人に背中を押される形で、プレゼントの入った紙袋を手にとると、
車に乗り込み、夜の東名をひたすら西へと走らせた。
車を運転している間は不安が私の心を支配していた。
・・・と同時に、彼の彼女になれるのではないかという、期待を抱いていた事も事実だった。
それを目指していた訳ではないけれど、もし、彼が私に告白をしてくれたら・・・。
自分からは出来ない。受身の性格なのもあるけれど、拒否された時のことを思うと、怖くて出来ない。
自分勝手な都合主義者なのはわかっているけれど、もし彼から言い出してくれたら・・・受けるつもりでいた。
もし、言ってくれなかったとしても、少なくとも、お互いが好意をもっていると考えて問題ないと思っていた。
時間的に約40分。あっという間に彼が住む寮に近いコンビニに辿り着くと、
車を止め、公衆電話ボックスに入り、彼の携帯に電話を掛けた。
出てくれる事と、出てくれない事の両方を同時に願いながら・・・。
たかがプレゼント・・・なのかも知れない。それでも、私にとっては生まれて初めてとる行動。
告白ではなく、もらったプレゼントのお返しをするだけなのに、胸をときめかせながら、
受話器に向かい、彼の携帯番号を押していった。
呼び出し音がしばらく続いた。(でないで・・・)と叫ぶ自分の声が聞こえる。
「もしもし?」
(でた!)身体をビクッとさせ、電話ボックスの中で一人慌てる私。
目の前に本人がいない事を感謝しつつ、彼に電話を掛けた用件を告げる。
「もしもし?三浦君?西田です」
「あ、どうしたの?」
「・・・実は寮の近くに来ているの」
「えっ?」
電話口から聞こえる驚きの声。呆れられているのではないかと、怖くなった。
「ち、ちょっと待って」
そう言われると、後ろが少し騒がしい。誰かの部屋にいるのだろうか。
そう考えたら、今かけてよかったのかという後悔の念が湧いてきた。
「ごめん、ごめん、もう大丈夫」
「いいの?」
「さっき、なんて言ってくれた?」
「あ、あのね、先日のプレゼントのお返しがしたくて、店の近くのコンビニにいるの」
「別に良かったのに」
「でも、どうしてもお礼をしたかったから・・・」
「実はさ、俺、年末の売り場を考えるのに、先輩の部屋に来てるさ」
「えっ?ごめん!今、大丈夫なの?」
「ああ。外に出て話しているから平気」
「ごめんね、突然来ちゃって。迷惑だよね・・・」
「・・・店の駐車場で待っていてくれないかな?」
「お店の?」
「そう。俺も今からすぐ行くから、待ってて」
「・・・わかった。それじゃあ、後でね」
「おう!」
電話を切ってから、しばらく頭の中がボーっとしていた。
まるで、熱にうなされるかのように、顔が火照っている気がした。
無意識の内に電話ボックスを出ると、車に乗り、自分がすべき事、
そこから車で数分の所にある彼が働く店の駐車場へと向かった。
駐車場にはチェーンがなく、入る事は出来たが、店の照明も、駐車場の灯りも消えている。
とても暗く、冷たく、火照っていた私の頭を戻すに充分な雰囲気がその場を支配していた。
10分か、15分位だったと思う。彼を待っている時間はとても長く、しかし短くもあった。
彼の車が駐車場に入ってくるのを見て、私はそれまでラジオを聞くのにつけていたエンジンを切り、車を降りた。
すると、彼は私が車をとめたすぐ近くに車を止めると、ヘッドライトをつけたまま、車の外に下りてきてくれた。
「わざわざごめんね・・・。抜けてきても平気だった?」
「別に大丈夫。仕事って言っても、雑談しながらだったから」
「・・・さっそくだけど・・・これ」
そう言って、先日選んだプレゼントを袋後と彼に渡した。
「なんかかえって気を使わせたね」
「そんな事ない。こっちももらえて嬉しかったから・・・お返ししたかっただけだし」
そう言って二人とも照れながら話しを続けた。
12月の夜の空気は身を切るように寒かった。
空も雲がなければ、二人を祝うかのように星々がきらめいていたのかもしれないが、
あいにく空は雲が漂い、月がわずかに雲の隙間から光を私達に向けていた。
・・・それでも、生まれて初めて異性にクリスマスプレゼントを渡し、
告白こそしていないけれど、良い関係を築けるかなと、心の中で期待していた。
「え〜っ、最後は話しをしていただけで終ったの?」
私が話しを中断したので、お姉さまが口を開いた。
「そうですよ。今やっている仕事の話で終りました」
「抱きしめたとか、キスをしたとかはなかったのね」
ちょっと残念という表情をされたので、私は半分呆れた表情をした。
「・・・私の初めてのキスはお姉さまです。それに、そこで抱きしめられていたら・・・今はないですよ
「あ、それもそうね」
「・・・そう、その時にも何もなかった。その後も・・・」
クリスマス、年末年始とあわただしい時期が終った後、
私と三浦君は特に会うこともなく、本当にたまに、電話を掛けるくらいだった。
佳乃ちゃんには「西田、もっと押さなきゃ!!」とはっぱをかけられたけれど、
自分から積極的に動く気は毛頭なかった。
自分の気持ちを図りかねていたのもある。
本当に彼を好きなのだろうかと。何度も自分に問い、答えが出ない。
頭で考えずに、心に問うべきなのだろうけど・・・それすらもわからなかった。
そんな折、私に異動の話が来た。スーパーから、ドラッグへの異動。
・・・希望してスーパーにいたのだから、嬉しいはずがない。
色々と先輩達に相談をした。チーフや、佳乃ちゃんを前に、泣いて訴えもした。
もっとも異動は会社命令。選択肢は2つ。会社を辞めるか、異動をするかだ。
「なにごとも経験だよ。あんたは確かにスーパーでやっていきたいんだろうけど、
ドラッグに行くのが何で嫌なの?なんでもいいからまずやってみな。あんたはまだ若いんだからさ・・・」
同じ店のドラックのベテラン社員の人の話を聞き、何とか自分の気持ちを落ち着かせ、
そのまま、ドラッグ店舗への異動を素直にする事を決心する。
「思えば、この異動がきっかけかもしれませんね」
「何のきっかけ?」
「・・・彼と疎遠になる事のです」
「異動して実家に戻ったのよね?離れたといっても、もともと近くにいた訳じゃないじゃない?」
「確かにそうですよ。でも、面白いもので、私が異動したら、彼も藤枝の実家から通える店になったんです。
もし、私がそのまま藤枝にとどまっていたらとしたら・・・」
「何もなかったわよ。紘子は私と出会う運命だったんだから」
最後の最後まで彼女は優しい。その優しさに心の中で感謝をしながら、
この話の最後を告げるために、また話しを続けた。
「私が記憶する限り、この異動の後彼と会ったのは一度だけ・・・」
まだ異動したばかりの頃、自宅に伊藤さんから電話がかかってきた。
彼女は私の自宅から車で15分ほどの同じ市内にある会社の寮に入っていた。
「もしもし?今から出られない?いまね、藤木君の所にいるんだけど、鍋するんだ。
三浦君も来ているし、西田さんもおいでよ・・・」
藤木君はこれまた同じ市内の車で5分ほどの寮に入っていた。
久しぶりに会えるメンバーだったので、私は迷うことなく出かける事を承諾した。
夜遅くではなかったが、出かけたら夜中になるのは確実な時間だったから、
一人暮らしの時には必要のなかった、姉に出かける事の断りだけを入れると、
車に飛び乗り、藤木君の寮の部屋に向かった。
何ヶ月かぶりの同期の再会に、4人は話に花を咲かせていた。
鍋を食べ終え、皆でゆっくりとしていると、三浦君がズボンのポケットから
タバコとライターを取り出した。そして、そのままタバコに火をつけた。
(あ、私のあげたライター・・・)
彼が使ってくれている事をしり、少々恥かしいような、嬉しいような気持ちになった。
伊藤さんがそのライターに気付き、「それカッコいいね。どこで買った?」
と質問を彼にした。私は思わず、他の3人に気付かれない程度に息を呑むと、
三浦君がなんと答えるのか、興味がない振りをしながら、耳をそばだてていた。
「これ?これは西田さんからもらったんだ」
ライターを指で弄びながら、ちょっとはにかんだ笑みを浮かべ答える彼を見て、
私は胸が熱くなる衝動に駆られた。
「へ〜っ、そうなんだ。二人はそんな仲だったんだ」
と、藤木君が私達を交互ににやけた笑顔を見せてきた。
・・・が、アルコールがしこたま入っていたおかげもあってか、
その件は二人からそれ以上深く突っ込まれる事はなかった。
その後は、藤木君の彼女の話で馬鹿笑いをして、鍋はお開きとなった。
三浦君はその日は藤木君の部屋に泊まり、朝一で帰ることにしていたから、
伊藤さんは原付で、私は車でそれぞれの家へと帰った。
「ねぇ、最後に会ったのがこの鍋の時なの?」
「会ったのは・・・それが最後ですよ」
「意味ありげなものの言い方ね」
「その後、一度連絡が取れなくなったんですよね。
何度か私の方から携帯に電話を掛けたんですけど、
『お客様の都合で現在この電話は使用できません』
みたいなメッセージが流れて。結構、困惑しましたよ。
その当時私は携帯を持っていなくて、全然知らなかったから、
もしかして私からの電話を拒否しているのかななんて考えて」
「でも、着信拒否はそんなメッセージじゃないでしょ?」
「そうなんです。しばらくして、公衆電話から、自宅に三浦君が電話をくれたんです。
携帯を水の中に落として壊れてしまって、修理に出しているって謝っていました」
「で、その携帯が直ってからは、二人は前みたいに連絡を取らなかったの?」
私はそれまでお姉さまに向けていた視線を外すと、少し声を落として答えた。
「・・・その携帯が直ったか、私は知りませんよ。だって、その公衆電話からの電話が、
彼と話しをした最後なんですから」
「あら?その時にケンカでもしたの?」
「いえ、普通に話していただけですよ。・・・ただ、久しぶりだったから、
彼が公衆電話ということに遠慮をせずに長々と話してしまいましたけど。
・・・それで嫌われたんでしょうか?」
「・・・私は彼じゃないからわからないわ」
お気に入りのウエッジウッドのティーカップに入った、
私の大好きなアッサムのミルクティーを飲みながら、
すでに1時間ほど私は彼女に話しをしていた。
もう話は終った。私はティーカップにゆっくりと手を伸ばすと、
冷めたミルクティーを一気に飲み干して、そして告げた。
「これが浜松のサンタの話です・・・」
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