研修自体は外から講師を招いたものであり、面白くも何ともなかった。
それは参加しているほとんどの共通の感想であり、皆の楽しみは、
休憩中の同期との会話であった。もちろん、私も久しぶりに会った面々に、
苦労話や、失敗談を、笑いを交えて話していた。
3日間研修は行われた。場所は入社式が行われた所の会議室であり、
新幹線の駅に近かった。ただ、研修そのものは朝早くから、夕方遅くまで、
3日間連続だった為、遠くのものは、駅付近のホテルに泊まりになっていた。
つまらない研修ではあったが、最終日、同じ方面の新幹線で帰るものが集まり、
駅ビルの中で飲むことになった。集まった面子の中には、すでに仲の良い女のグループ、
伊藤さん、高橋さんもはいっていたし、男のグループには同じ店の赤井君や、本間君がいた。
総勢で20名近く。話は盛り上がり、次の日みな仕事だというのに、かなり遅い時間まで食べて飲んだ。
そして、同じ新幹線に乗り、帰っていった。この日、私は実家に帰り、次の日の朝早くに藤枝に戻るつもりだったから、
伊藤さんや、高橋さんと同じ駅で降りた。
降りる間際に一緒に帰っていたうちの一人が私に声を掛けた。
「また、近いうちに藤枝で会おうよ」
・・・後々のことを考えれば、この時から彼との関係が始まった。そう、同じ大学出身の三浦君と。
この研修が終わった後、私は月に1度は三浦君と会うようになっていた。
週休二日の固定休ではないので、互いの休みが重なった日に、
私が浜松の彼の寮に行ったりまで行ったり、彼が藤枝の寮まで来たりしていた。
ほとんどが近くのドライブだった。食事はほとんどが外食だったけれど、
たまに、互いの部屋で一緒に食事を作って食べていたりもした。
彼は鮮魚の担当。魚に詳しくなっていたし、自分専用の包丁を持っていた。
たまに、お願いをして刺身を作ってもらうなんて事もあったし、
鍋の素をくすねてきたやつを使って、鍋をしたこともあった。
それは、とても楽しい時間であったし、その時間を持つことそのものに疑問を抱くことはなかった。
今まで友達ともこんなことをした事ない私にとって、
(今の関係って、恋人同士っていえるのかな・・・)と、漠然ながら思っていた。
周りからすれば、完全に私達は付き合っていると見えたようだ。
当然、頻繁に会っているから、三浦君が私の部屋に夜来ているのも寮の人には知れていた。
隣の部屋に住むチーフや山本さんはもちろん、6月に異動してきていた同期の高橋さんも、
みんな「西田、三浦君いいじゃん」と、意味ありげな笑みを浮かべながら、からかってきていた。
・・・でも、私自身には、彼と「付き合っている」という自覚がなかった。
自覚するのが怖かったのかもしれない。自分ではそうではないと思っているのだけど、
昔から「絶対、一人の人に尽くすタイプ」とか、「一気に結婚しちゃいそう」と、
何人もの友人達に言われてきた。実際、今までそういう人とめぐり合うことはなかったから、
本当に自分がそうだという自覚など持ったことがなく、こうして三浦君と、時間と空間を共有する
事が多くなっても、彼が私の「運命の人」ということだと思ったことがなかった。
あえて言うなら、仲のいい異性の友人であり、話の合う同期・・・という認識であろうか。
もし、彼を生涯共に歩く人と意識してしまったら・・・自分の行動全てが彼を中心になっていただろう。
けれど、そうなることはなかったし、話していて楽しい人だから、それでいいという感じだった。
ただし、周りはそうとることはなく、私もその手のことを言葉にして話すのが苦手だった為、
結局、周りの人からの公認カップルのようになっていた。事実、どうせ家にいても一人だからと、
たまに私の部屋に押しかけてくる姉がきた時も、「最近、西田いい人がいるんですよ!」と、
ありがた迷惑な情報提供を姉にしてくれて、それを聞き姉も、「いい弟ができた」と、
同期全員の顔写真が載った社内報を見ながら、笑顔を私に向けていた。
私達はお互いのことを「好きだ」と言ったことはないし、「付き合って」と言った記憶もないのだけれど。
浜松の彼の寮までは高速を使って40分ほど。車の運転が好きな私は別にそれが苦ではなく、
何度も彼の寮で待ち合わせをして、彼の部屋に行った。もちろん、会社の借り上げ寮だから、
アパートに住む人たちは同じ会社の人。ただ、男性寮だったこともあり、他の住人と顔を
あわせたことは一度もなかった。直接会えないときは、電話をしていた。二人とも、朝が早い。
毎日残業しているとしても、普通の会社勤めの人が帰る時間には部屋にいる。
夕飯が食べ終わった頃を見計らい、彼に電話をする。そして、長話をする・・・。
これだけ頻繁に会ったり話したりしていて、色気のある話は・・・ほとんどなかった。
何を話していたのか。電話だと今している仕事のことがほとんどだった。そして、その説明や、苦労など。
会っている時は、それに大学の話や、共通の友人・・・同期の話が加わるぐらい。
それで間が持つのだ。かなり真剣に討論じみた事もしていた。それだけでも・・・楽しかった。
時は流れ、12月に入る。スーパーの一番あわただしい月。
さすがに二人とも会うことはしていなかったし、電話もほとんど相手の忙しさを考え、していなかった。
寂しさなんて感じない。感じるはずがない。三浦君は私の中ではそういう存在ではないのだから。
そんな12月も残りわずかとなったある日のこと。
その出来事は起きた・・・。
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