「美和、何をボ〜ッとしているの?」
「えっ?」
「メレンゲを作るときは一気にしないといけないんじゃなかったのかしら?」
「あっ・・・そうね。私ったらどうしたのかしら?」
慌ててメレンゲを作ってしまう。
今日は2月の14日。・・・バレンタインデー。
毎年の恒例行事として、私はこの日にチョコを使ったお菓子を作っている。
去年はチョコチップたっぷりのクッキー。今年は、チョコレートケーキ。
形としては父親にあげるのだけど、母親と私も一緒に食べるので、
チョコレートそのものだけを渡したことはほとんどない。
軽くため息をつき、(いけない、いけない・・・)と心の中で叫ぶ。
父が帰ってくる前に焼き上げないといけない。
考えていたことを一端、頭の中から消し去った。
何度も作っているのでレシピを見る必要なんてない。
いつもより砂糖を少なめにして、リキュールを増やしたチョコレートケーキ。
ケーキ形に生地を流し込み、すでに温めてあったオーブンに入れる。
「後は焼くだけね。見ていてあげるから、お風呂に先に入ったら?」
「そうさせてもらう」
母親に見ていてもらうことをお願いして、階段をゆっくりと上がり、一度部屋に戻ると、
着替えを用意して、お風呂場へと向かった。
すでにチョコレートケーキのことは私の頭の中から消えていた。
「お姉さま」
「どうしたのかしら真央?」
放課後。いつものように生徒会室にいると、真央がやってきた。
今日は会う約束はしていなかったはずなのに。
「お姉さまにお渡ししたい物があるのですが」
「なにかしら?」
「これです」
「これは?」
「中身はチョコレートです。お姉さまに渡したくて」
それは小さな長方形の箱に入って包装されていた。
私はそれを一度手で受け取ると、ゆっくりと机の上に置いた。
「真央、渡す相手を間違えていないかしら?」
「間違えていません。間違え様がありませんから・・・」
「奈津実ちゃんへは?」
「あいつのことはいいじゃないですか。お姉さまに渡したい・・・いけませんか?」
「気持ちは嬉しいけど・・・」
「自分の気持ちに素直になりたいだけなんです」
「真央・・・」
目の前で見せられる真剣な眼差し。私は思わず真央を抱きしめてしまった。
こんな風に言われて、耐えられるはずがない。私も、自分の気持ちに素直になりたい・・・。
「ありがとう」
「そんなにお礼を言われるほどのものではないですけど」
「チョコレートも嬉しいけど、真央の気持ちのほうがもっと嬉しいの」
「お姉さま・・・」
二人の手に力が入る。このままずっと抱きしめていられたらいいのに。
「真央・・・奈津実ちゃんとケンカをしたのね」
「えっ?」
「あなたがこんな事をするのにはそれぐらいしか考えられないもの」
少し身体を離して、姉が妹を諭すかのような表情をすると真央は顔を横に向けた。
「・・・当たり。でも、お姉さまに渡したかったのは本当です。本来なら渡すべき関係じゃないけど、
もともとバレンタインは親しい人への感謝の気持ちを示す日だって聞きましたし・・・」
「真央、別に怒っていないわよ」
笑顔で真央の顔を見詰めると、さすがにばつの悪そうな顔をしている。
「でも、奈津実ちゃんとケンカしなかったら、チョコレートはもらえなかったのかしら?」
「そんな事はありません。だって、奈津実とけんかをする前から、お姉さまへ渡す分は買ってありましたから」
また、真っ直ぐに私のほうへと顔を向けると、真央はそう言ってくれた。
それはわかってる・・・わかっているけど、少しくらい意地悪をしてみたくなる。
私と真央は強いて言うなら姉と妹の関係であり、条件付の恋人でもある。
でも、私の中で、それだけでは物足りなくなっている自分もいる。
せめて、今日という日ぐらい・・・。
「真央・・・キスして」
「お姉さま?」
「いいじゃないの。恋人でしょ?私達?」
「・・・そうですね」
浴槽に身を沈ませ、身体に湯を掛けながら思っていたのは今日の出来事。
二人の関係も後少しで終る。私は・・・真央と離れられるのか。
あれだけ激しい関係を持ちながら・・・も。
真央は私を必要としてくれている。私も真央を必要としている。
ただし、その関係は直接的ではなく、奈津実ちゃんという真央の幼馴染が間に入る。
彼女のひたむきな恋心を直接自分の方に向けたいと思ったことは何度もあった。
その度に自分を戒めてきた。約束は約束。
それに・・・彼女が私を選ぶ事はありえないから。
もうケーキも焼けている頃。父親も帰ってくる。
自分の中にあるもう一人の自分を洗い流してしまおう。
渡せなかった真央へのチョコレートは、後でケーキと一緒に、
父親にプレゼントをしてあげればいいから・・・。
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つぶやき(暫定)
え〜、この後もバレンタイン話を書くんですけど・・・いつ更新でしょう?(^_^;)
アンケートを参考に、ネタはちらほら・・・でも、書くひまが・・・。
本当に、申し訳ないです。m(__)m
しかし、どうも市ノ瀬先輩を書くときは真面目になっちゃうんだよな〜私。