私は部屋の近くの公園で、緑のじゅうたんのように
柔らかく青々と茂った芝生の上で、仰向けに寝転んでいた。
これでもかという程、照り付けられる太陽の光を
顔の前で両腕をおくことで少しでもさえぎろうとする。
暑い。連日、30度を超す真夏日。
そんな暑い日に、それでもこの公園にきてしまうのは、
緑が煙る空間が大好きだから。
つらいこと、嫌なことがあると、必ずここに足を向ける。
一人で、この場所で物思いに耽ることが多かった。
「あっ、発見!」
由紀子の声がする。今日は一緒に買い物に行く予定だったが、
どうしても考えたいことがあり、私はこの公園にきていた。
そうか、もう約束の時間を過ぎていたのか。
「もう、部屋をたずねたら、いないんだもの。
まったく、今日の約束、忘れているのかと思った」
私が寝転ぶ脇に、ちょっとごみを払うようなしぐさをしてから座る。
ぷーっと、頬を膨らましている由紀子。外見は、大人の女性という感じなのに、
取る行動が子供っぽくて、そのギャップが見ていて楽しい。
「せめて、どこに行くか、メモを残していくか、いいかげんに携帯もってよ」
「ごめん」
由紀子は、以前から私に携帯をもてと勧める。
しかし、私は拒否しつづけている。
なぜなら、私には友人がほとんどいないため、
持っていても、お金の無駄だからである。
部屋にある、普通の電話でさえ、
たまに調子を聞いてくる母親か、
由紀子位からしかこない。
由紀子には、自分の為だけでもいいから、
携帯を持ってくれと一度せがまれたことがある。
その時は、電話で話すより、直接会って話す方がいいと伝えた。
そうしたら、しばらく携帯のことは話にあがらなくなった。
日差しが強くてまともに由紀子の方を見られない。
右手で日よけをしながら、由紀子の方に顔を向ける。
その仕草で、由紀子は自分の座った位置が悪いのに気づき、
「よいしょっ」と小声で言って立ち上がり、
今度は反対側に座る。
「また考えごと?」
「そう」
「また、暗い方へと考えちゃっているんでしょ?」
「そう」
由紀子は私のことなら何でもお見通しである。
意地を張るだけ無駄だ。
「今度は何?また、誰かを傷つけちゃった?」
由紀子曰く、私は優しく、もろく繊細な心の持ち主らしい。
だから、他の人からすれば、どうってことのない言動で、
一人悩んでしまっているのだという。
「ちがう。考えていたのは、由紀子のこと」
「私のこと?」
「そう」
今日、こんなに暑い中、公園にきていたのは、この後に会う、
由紀子のことを考えていたからである。
「何を考えていたかわからないけど、結論は?」
先に自分勝手な結論に辿りつき、その後ふさぎ込む私の
思考回路を知り尽くしている由紀子はそう聞いてきた。
「由紀子とはもう会えない」
端的に、出た結論を伝える。
表情も変えず、無機質な声で伝える私。
由紀子は、ちょっと下を向き、何かを考えている。
「私、嫌いになんかならないからね」
ほんの一言伝えただけで、私の気持ちを理解してくれる由紀子。
そんな由紀子だからこそ、私は唯一の友達…親友として付き合えた。
でも、逆にそれが負担になることもある。
常に、塞ぎこみ、悩み、傷つく私に由紀子をつき合わせていいのだろうかと。
私には、由紀子は必要な人間だ。でも、由紀子には…。
夏休みに入ってから、毎日というほど私を外につれまわす由紀子。
私を一人にしてはいけないという親切心には、感謝している。
だが、由紀子の時間を私なんかのために奪ってしまって良いのだろうか。
私のような人間といたところで、どう考えても、
楽しいときを過ごしているとはいえないはずだ。
そう、彼女のためを思えば、私は一緒にいてはいけない。
「嫌いになる必要はない。でも、もう会えない」
由紀子の方をみることができない。
彼女とは反対の方に寝転ぶ。
わかっている、自分が傷つくことは。
それだけではなく、由紀子も傷つくということも。
だが、これ以上私と一緒にいることは、
彼女にとってきっと重荷になる。そして、それに私は耐えられない。
傷をつけるのが怖いんだ。傷つくのも怖いんだ。
私は、優しい人間なんかじゃない。繊細な心の持ち主なんかでもない。
臆病で、弱虫で、そのくせ意地っ張りで、わがまま。
自分が傷つくことに耐えられないんだ。
背中から由紀子の声がする。
「なぜって聞いてもいい?」
「…」
「あなたが理由もなくそんなことを言うなんて、ありえない。ねぇ、教えて」
振り返りもせず、私は答えた。
「由紀子のことが好きだから」
私の肩に手をかけようとしている由紀子の手が止まる。
思わず涙しそうになる自分。
なんてことだ、どこかでこの自分の行動を
由紀子にとめてもらいたいと思っている。
「好きだから、別れる」
そう、決心したはずなのに…。
私はなんてやつなのか。
由紀子は動かない。何をしているのかは、
今の私の体勢からはわからない。
二人の間の気まずい雰囲気。
それを破ったのは、由紀子の方だった。
「イッちゃんの部屋に行こう!」
それはいつもと変わらぬ由紀子の態度だった。
「ほらほら、行こうよ。立って、立って!」
いつも以上に明るい由紀子の笑顔。
手をとられ、立つようにと促される。
私は、それを拒否をすることはしなかった。
二人でそのまま私の部屋へと向かう。
普段なら、由紀子が何かと話題を提供してくれるが、
さすがに、今は、無言である。
私からは当然…するはずもない。
閑静な住宅地の一角にある、学生向けのアパート。
そこが私の住まいである。階段を上がり、
2階の一番端の部屋に向かう。
ふと、ドアノブのところにコンビニの袋がかかっているのに気づく。
私のすぐ後ろを歩いていた由紀子の方を思わず見る。
首を縦に振り、肯定を示す由紀子。
そうか。公園に行っているのに気づいて、
予定していた買い物のかわりに、私から話を聞くつもりで、
用意してくれたのだろう。
いつもなら、その行動に素直に感謝する私だが、
今の私には、それは、心をえぐられるような感じがして、とても辛い。
こんな優しい由紀子だからこそ、私のそばにいさせちゃいけないんだ。
買い物袋をドアノブから外し、
鍵を開け、部屋の中に入る。
いまだに、お互い無言のままである。
部屋の中に入ると、私は、冷凍庫から氷を出し、
由紀子の買ってくれた飲み物をグラスに入れる。
その間、由紀子は、いつもは開ける部屋の窓のかわりに、
扇風機をつけ、テーブルのそばのクッションに座る。
私は、グラスと、一緒に入っていたスナックとを、
お盆に載せ、テーブルまで運ぶ。
いつにない、由紀子の真剣な顔。
私にとっては、天女のような微笑を常に絶やさない彼女から、
それを奪ってしまっただけで、私は自分が罪人のような気がする。
私には、免罪符はもらえるのだろうか。そう考えそうになったとき、
由紀子が私の方に顔を向ける。
思わず目に入る、全てを見透しているような黒い瞳。
お盆を運んでいる足が止まりそうになる。
私は、彼女のこの目が好きだ。
初めて、大学の教室で出会ったときも、
珍しく、私の方から人に話し掛けたのも、
この透き通るような目に惹かれたからだ。
彼女なら、こんな私でも理解してもらえる。
直感でそう感じたのだ。
実際、彼女は私が言葉足らずではないかと思うような時でも、
正確に、私の意を汲んでくれる。
そんな彼女の目を見て、思わず逃げたくなる自分。
しかし、「今日で最後なんだ」と自分に言い聞かせる。
グラスを由紀子の前と、自分の前に置き、
お盆をテーブルの下に。自分も由紀子の前に座る。
どちらからともなく、互いの目を見つめ合う。
お互いの気持ちを読むためではなく、
純粋に、互いの存在を確認するため。
私は、由紀子の目が潤んでいるのに気づき、
思わず、目をそむける。…と同時に、由紀子が口を開いた。
今まで溜めていたものが、堰を切ったかのように。
「ねぇ、話して。どんなに時間がかかってもいいの。
イッちゃんの考えていることを、気持ちを、全て打ち明けて欲しいの。
…何で急に、もう会えないなんていったの。
何で私のことが好きだって告白してくれて、
その日にお別れを言われないといけないの?
私わからないよ。イッちゃんがなに考えているか全然解らない!」
始めは囁くほどの声だったが、だんだん叫び声に近くなっていく。
テーブルの上に身を乗り出し、私に食いかかる形になっている。
グラスの中身がゆれている。由紀子の手が震えている。
こんな由紀子の姿を私は初めて見た。
いつも、知的で、冷静で、すました顔。
明るく、優しいが、どこか冷たい声。
そして何もかもを見通してしまう黒く澄んだ瞳。
それが今まで見てきた由紀子の普段の姿だった。
…まさか、今、目の前にいるのが、本当の彼女の姿?
表情に驚きを隠せない私を見て、
由紀子は悲しそうな顔を見せた。
何かにおびえるような、すがるような目。
私は、そんな彼女を見て、居たたまれなくなった。
(彼女に告白したのは間違いだったのか?)
自問自答する私。わかっていた筈だ。
自分も、由紀子も、このことで傷つくことを。
(でも、由紀子のためなんだ。由紀子の…)
「由紀子、私はね、自分が傷つくのが嫌なんだ。
だから、由紀子と一緒にいれない」
「私と一緒にいることが重荷なの?」
「ちがう。逆、とても楽。私、感情表現が苦手だし、口下手だから、
由紀子以外の人だと、『何を考えているか解らない』
とか、『まどろっこしい』とか言われた」
ゆっくりと、言葉を選びながら、私は話し始めた。
由紀子のために、私自身のために。
「そうね、確かにあなたは話すの苦手かもしれない。
でも、それは、言葉が大切ということを知っているから。
あなたは知っている。言葉は人を傷つけられるということを。そうでしょ?」
「小さい頃、私はおしゃべりだった。お調子者で、
話を誇張する癖があった。それで、大切な友達を失った」
「そんなことがあったの…。ならなぜ、同じ過ちを繰り返そうとするの?」
わかっている。だが、何度、考えても、私の中に思いつくのが
由紀子との別れだったからだ。別れる上で、
どうすれば、お互いが最小限に傷をとどめられるか、
私は、それのみを考え、公園での言葉を吐いたのだ。
「何か、何か隠しているよね。
別れる理由が好きになったからって言っていたけど、
本当は、逆なんじゃない。…私のことが嫌いになったからでしょ?
でもそれだと私のことを傷つけるから、『好き』って言ってくれただけでしょ?
ねぇ、そうなんでしょ?」
由紀子、違うよ。それは絶対にない。だって私は、私は…。
「由紀子!」
名前を呼ぶと同時に、私は身を乗り出していた由紀子を抱きしめた。
グラスの中身がこぼれる。由紀子が反射的に動こうとしたので、
力を入れる。由紀子もグラスをそのままにする。
「私…、由紀子のこと、嫌いじゃない。
だって、だって、本当に好きだから。
こうして抱きしめたいって、ずっと願ってた。
由紀子のことを私のものにしたいって思うほど、
由紀子のことが好き。…愛しているから」
考えるよりも先にとってしまった行動。
口から出てしまった、胸に秘めた想い。
もうだめだ。由紀子…。
「そう。私のことをそう思ってくれたんだ」
私の肩に何か落ちる。由紀子の涙だ。
思わず、体が反応する。
その動作を感じた由紀子が声を出す。
「イッちゃん、ごめんね。私がもっと早く気づけば、
こんなに悩ませずに済んだんだよね」
「由紀子が悪いんじゃない」
「そう、私が悪いんじゃない。…イッちゃんも悪くない。
でも、私にも責任がある」
私は、自分が話すことで、由紀子の話をさえぎる。
「由紀子に責任なんかない。私がいけないんだ。
私は…、私は、常に由紀子を必要としてしまう。
由紀子以外の人と、うまく接することが出来ないから、
つい、由紀子に頼って、甘えてばかりいる。
由紀子は『それで良い』って感じでいてくれるけど、
本当にそれで良いのか、考えたんだ。
由紀子は、もっと、多くの人と接するべきだし、
私以外の人も、きっと由紀子との出会いを待っている。
由紀子は、私だけの由紀子でいちゃいけないんだ」
自分で何を話しているのか、すでにわからない。
「今のままだと、私は、絶対にもっと由紀子に依存するようになる。
それだけじゃない。さっきみたいな行動を、いや、それ以上のことを、
またしないという約束も出来ない。私だけの由紀子になって欲しいから。
他の誰も見て欲しくないから。自分の独占欲と、
エゴに由紀子を縛りたくないから…」
もう、どちらが傷つくかなんて考えていなかった。
最後だから、もう会うつもりはないから、
自分の全てをさらけ出してしまいたかった。
少なくとも、それが、この数年、私の親友として付き合ってくれた
由紀子への礼儀であり、けじめのつもりである。
「本当は、好きだから別れたいんじゃない。
好きだから別れざるを得ないんだ。
だって、由紀子にとって私は、手のかかる親友なのに、
私にとっての由紀子は、私の全てなんだ。
由紀子がいない生活なんて考えられない」
由紀子を抱きしめる腕に力がこもる。
自分でも気づかぬ間に、頬を涙がぬらしていた。
「由紀子には迷惑だよね。
こんな私があなたのことを好きだなんて。
友達以上の関係になりたいだなんて。
だから、もう会えない」
私は、同じように涙で顔をぬらしている
由紀子の体を解放した。
「女が女を好きになるなんて…恋愛感情を抱くなんて、
きっと私は変なやつなんだよ。どこか、狂っているんだ。
由紀子、さよならだ。もう、私みたいなやつ、
顔も見たくないって言ってよ…」
そういって、もう一度だけと、あの透き通った黒い瞳を見た。
私の心を何度も救ってくれた由紀子の心を表しているような瞳を。
その表情に、私は、息を飲んだ。なんて表情をするんだ。
それはまるで、私に何かをすがるような、そんな表情だった。
「はなさないで」
気のせいか、由紀子の表情が、私にそう訴えているかのようだった。
由紀子はしっかりと私の方を見つめている。
その陰りのない瞳で、私の全てを見透かすかのように。
もう、すでに何を言われてもいいという気持ちになっている。
このまま、部屋を去られても良い。
私は、初めて自分の本心を言葉という形に出来た。
それを、生まれて初めて恋愛感情を抱いた人に言えた。
その思い出だけで十分だ、そう思いたかったから。
「樹(いつき)、私は、あなたにこそ、自分は救われたと思っていたのよ」
それほど距離が離れていない二人の顔。それでも、消えるような声で、
由紀子は話したため、私は、彼女が何を言ったか聞こえなかった。
「あなたは、知らない。あなたが私を必要としていたように、
私にもあなたが必要だったということを」
口が動いているし、囁くような声で話しているのはわかるが、
内容までは聞き取れない。由紀子、何を言っているんだ。
今度は、はっきりと耳に届く。
「私もあなたのことが好き。あなたが私を抱きしめたかったように、
私も、あなたを抱きしめたかった。誰よりも、あなたのことが好きだから。
あなたを、愛してしまったから…」
「由紀子、何…をいっ…てるの?」
「ごめんね、樹。本当は、あなたが私のことを特別に思ってくれているのは、
前々から気づいていたの。でも、私がそれに答えられるだけの自信がなくて、
それに気づかない振りをしていたの。だからそれが、あなたを悩ましてしまったのなら、
それは、私のせいなの」
「気づいて…いた?」
「そうよ」
「気づいていて、前と同じように振舞ってくれていた?」
「そうね」
「自信がなかったって…」
「私があなたに好かれるほどの人間ではないって思ったからよ」
そういって、ちょっと照れているような微笑。
いつもの二人に、徐々に戻りつつある。
二人とも、すでに冷静さを取り戻していた。
私は知りたかった。由紀子の言葉の真実を。
素直に自分の心を吐露したのに、素直になりきれない自分。
由紀子のことはまだ信用できない。いや、しているからこそ、
疑ってしまう。由紀子は私を傷つけたくないから、
こうやって、言いたくないことも言ってくれているのではないかと。
「あなたを傷つけたくないからって、無理に言っているわけじゃないのよ」
由紀子の目に炎のような光がともった気がした。
テーブル越しにあった二人の位置を、由紀子が動いて、すぐ私の脇にきた。
覗き込むように私の顔を窺う由紀子
私は由紀子が何を考えているのかわからない。
ただ、由紀子を見守るしかなかった。
由紀子の腕が、私の首に回る。
感じることが出来る。由紀子の温もり。
顔が鼻と鼻が触れるか触れないまでの距離に近づく。
私は、嫌がることもせず、由紀子の行動に任せていた。
「樹、これが私のあなたへの気持ち…」
由紀子は、目を閉じ、私の唇に、自分の唇を重ねた。
驚くことはしなかった。由紀子の全てを受け入れる準備があったから、
たとえ、頬をたたかれたとしても、動ずることはしなかったろう。
熱い。初めて直に感じる由紀子自身の温もり。
それは、由紀子の気持ちを反映してか、
それとも、私の体温が上がっているからか、
まるで互いの感情が、唇を通して行き来しているかのようだ。
私は、由紀子の情熱を感じることで、
自分が間違っていたことをようやく悟った。
由紀子との「別れ」など必要ないのだ。
私たちは、お互いに惹かれあい、必要としていたのだから。
「由紀子、ごめん」
長い口づけを交わした後、私は、由紀子に謝った。
「私、由紀子のこと全然理解していなかったね」
「いいのよ、樹。私は、あなたに私の全てを理解することなんて
望んでいないもの。それは、あなたの苦手とすることでしょ?
樹は、樹でいてさえくれればいいのよ」
…その言葉こそ、私が欲していたものだ。
それこそが、私の免罪符だった。
由紀子は私が犯した過ちを許してくれる。
いや、許す前に、それが過ちとさえ認識していなかったのだ。
私は、無理をすることなんてないのだ。
由紀子は、私の全てを受け入れてくれていた。
おそらく、話したことのない私の過去も、
今の私も、そしてこれからの私も、
全てを包み込んでくれる。
「それより樹、お腹すかない?」
そういえば、部屋に戻ってから、かなり時間がたっている。
「食べに行こう」
二人とも、少しはれぼったくなっていた目頭を、
顔を洗うことで、すっきりさせる。
身支度を簡単に整え、近くのファミレスに向かう。
たったの数時間で、私たちの心の距離は、なくなった気がする。
まるで、心がひとつになった、そんな感じがする。
歩いていると、由紀子が、私の腕に腕を絡ませてきた。
私は嫌がることなく、そうするのが自然なように、
腕を差し出す。胸がときめく。鼓動が早くなるのを感じる。
今まで由紀子と一緒にいて感じたことのない喜び。
「こんなことなら、もっと早く、由紀子に告白すればよかったかな?」
笑いながら、由紀子のほうを見る。
「そうね。私も、もっと早く、イッちゃんに素直になっていればよかったのかも」
「どっちも、どっちか」
「そう、どっちも、どっち。でも、終わりよければ全て良し。
そうじゃない?結果的に、お互い自分に正直になって、
こうして、一緒に過ごせるんだもの」
「それって今までとどう違う?」
ちょっといじめたくなって、聞いてみた。
いままでも、一日の大半の時間をともに過ごしてきたのだ。
「そうね…」
由紀子はちょっとあたりを見渡し、誰もいないことを確認すると、
私の方に向きを変え、口づけをしてきた。
「由紀子、けっこう大胆だね」
「そうよ、知らなかった?こんな私、嫌い?」
「嫌いなわけないじゃない」
そういって、私もお返しのキス。
「食べ終わったら、また、イッちゃんの部屋に行って良い?」
「いいよ。話に盛り上がって、明日の朝帰ることになるかもね」
「ふふふ」
「あっ、ねえ由紀子、公園に寄っていい?」
二人して、通り道にある公園に歩いていく。
犬の散歩をしている人が、何人かいる。
「イッちゃん、何で悩むとき、ここにきたの?
部屋の中で、一人で塞ぎこみそうなタイプなのに?」
そういえば、由紀子に話したことがなかった。
「高校のときまでは、そうだった」
昔を思い出し、ちょっと、眉をしかめる。
「あっ、話したくないならいいよ」
「いや、由紀子だから聞いて欲しい。
て言うか、もう、わかっているんじゃない?」
「あら、ばれちゃった?」
くすっと笑い、ちょっと舌を出す由紀子。
言葉にして、言ってもらいたいのだろう。
しょうがないな、という表情をしっかりとしてから、
「じゃあ言うね。私と、由紀子が初めて外に出かけたとき、
一番初めに向かった場所が…」
「この公園だった!」
二人で顔を見合わせ、大笑い。
「公園って、二人にとって、思い出の場所になりそうね」
あとがき