祥子さまの妹となって3ヶ月が過ぎたある冬の日。
朝から雨が降り出しそうなどんよりとした空。
そのくせ、身を切るような寒さで耳が切れるような感じだ。
放課後、薔薇の館で会議と称した、お茶会に参加する。
薔薇さま方は、受験勉強があるので、当然お姿はない。
志摩子さんが用事で先に帰ってしまっていたので、
久しぶりに祥子さまと二人っきりの下校となった。
「あっ、雪です。雪ですよ、祥子さま」
「祐巳、何を興奮しているの、はしたない。見ればわかるわよ」
表情を変えず、冷静に答えられる祥子さま。
落ち着きなさいとたしなめられてしまった。
「す、すみません」
おもわず、首をすくめる祐巳。
「朝から冷えるとは思っていたけれど、降ってきたわね」
雪がふわふわと、空から舞い降りてくる様子を見ながら祥子さまがつぶやく。
話すたびに見える、白い息。それを見るだけで、ちょっとドキドキする。
「積もると思いますか?」
積もって欲しいな。どうしてといわれても困るけど、
真っ白な、穢れのない景色に世の中が変わるのが、
とても神秘的な感じをもたらしてくれるからかもしれない。
「さぁ、どうかしら。でも、積もってしまうと、通学に支障が出てしまうわ」
「積もって欲しいわね」という言葉を期待していた祐巳は、
とても現実的なコメントをいただいて、とてもがっかりした。
(そうだよね、祥子さま電車通学だし…)
「でも…」
(でも?)なんだろう?
首をかしげていると、祥子さまの手が髪に伸びてきて、
リボンの形を直してくれた。
そのまま歩いていき、バス停まで歩いていく。
時間的に遅くなってしまっていたし、
次のバスまで時間があるためか、
他に生徒の姿は見あたらなかった。
「祐巳、寒いでしょ。もっと近づいて」
祥子さまに近づきすぎると、緊張してしまうので、
意識的に距離を開けていたのだけれど、
こう言われてしまうと、近づかないわけにはいかないよな。
お姉さまの言葉は絶対だし…。
「ほら、何をしているの」
そういって、肩に手を回され、祥子さまの方に引き寄せられる。
祥子さまのコートの上からだけど、祥子さまの体温を感じる気がする。
それだけで、足の指先から、頭のてっぺんまで、
熱くなってしまう。やっぱり、体は正直だ。
「温かいわね、祐巳」
「はっ、はい」
緊張しているのを知ってか知らずか、
肩に回された手は、そのままにされていて、
まるで、恋人が、抱き寄せ合っているような感じになっている。
ドキドキしながら、祐巳は思う。
(時間よ止まれ!)
大好きな祥子さまと、ずっとこのままでいたいから。
「さ…お姉さま?」
まわされた手に力が入ったのことに気がつく。
祥子さまは相変わらず、凛とした顔の表情を崩していなかった。
でも、気のせいか、祥子さまの鼓動が早くなっているのを感じる。
そっか。このままでいたいのは、私だけじゃないんだよね。
きっと祥子さまも、同じ思いでいてくれているんだ。
そう思って、祥子さまに、体重をかけるように体をあずける。
雪が止みそうな気配はなかった。
あとがき(SSは、本文といっしょにします)
ついに手を出してしまったという感じです。
うーん、大丈夫かしら…。なにがですって?
それはもちろん、自分で自分の入る穴を掘っていないかってことです。
好きこそ上手のなんたらじゃないですけど、
(それとも下手の物好き?)
ついつい書きたい衝動にかられて、勢いで書いちゃいました。
(夏の暑い日に、寒い話を書くなんて…)
2001.7.18
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