私は自分が生まれてきた理由を知っている。
だから、祐巳さんにも写真を撮る方法に疑問視された時、
「現役のリリアン女学園生徒という特権を生かさずして、どうするの。
私は、美しいものを美しいままにフレームの中に閉じ込めておきたいだけなの。
私たちもいずれは年老いてしまうけれど、『今』を輝いているままで保存できる。
それはカメラに選ばれた私が、天から与えられた義務なのよ」と断言した。
私はその言葉通り、今も写真を撮り続けている。

「蔦子さん、スールはおつくりにならないの?」
ときかれたこともあるが、妹を導く時間があるのなら、
その時間を、写真を撮る時間に費やしたい。
それに、姉は、私以上の写真の技術、
もしくは情熱を持っている方でなくては。
…そんな方はこの学園内には存在しない。

私は2年生となっていた。
一人で過ごしていた写真部の部室に、
待望の新人が入ってきた。
彼女は、私を中等部の時から知っていて、
写真に向ける情熱に、尊敬の念を抱いていたそうだ。
撮る写真は、家族写真の粋を超えていないが、
何か、写真に光るものがある。期待大だ。

整頓された写真の束を、彼女は一枚一枚、
丁寧に見ていた。その写真達から何か感じられるらしく、
祐巳さんと同じぐらい、感情を豊かに表に出していた。
私は、カメラの手入れをしながら聞いてみた。
「そんなに写真が好き?」
「はい。…というか、蔦子さまの写真が好きなんです。
こう、『今しかない』そんな感じの写真で。
私も、いつかこんな写真を撮れるようになりたいです」
「なれるわよ。きっと。いい写真撮るもの、あなた」
「そ、そうでしょうか?がんばります!」
私に励まされ、とても嬉しそうだ。

「こうして蔦子さまに写真を撮られた方ってお幸せですよね」
「そうでもないわよ。迷惑がる方もいらっしゃるし、
私が写真を撮ること自体、嫌がられる方もいらっしゃるわ」
「そうなんですか?」
「そんなものよ」
「私だったら、こんなすばらしい写真を撮ってもらえるのでしたら、
いつでも、被写体に立候補させていただきます…」
「いつか撮らせていただくわ。撮るべき時にね」
「早くこないでしょうか、その時が」
そういって、満面の笑みをみせる。
(今だ!!)

「あっ?!」
「早速ありましたわね」
「は、はい」
顔を赤らめ、ちょっと興奮気味のよう。
「すぐに現像してみましょうか」

現像した写真は、写された本人が一番驚いていた。
「私、こんな笑顔をしていたんですか?」
「写真は嘘を言わないわ。これがあなたよ」
「自分で言うのも変かもしれませんが、
吸い込まれそうな、いい笑顔ですよね」
「あなた自身が気づいていない良い所も、
写真で写すことができるのよ」
「やっぱり蔦子さまってすばらしいですよね」

「…でも」
「でも?」
「蔦子さまを誰が撮るのでしょうか?」
「えっ?」
考えたことがなかった。自分はカメラに収めることのみを考え、
自分が納まることなど思いもつかなかった。
「蔦子さまの『今』は誰が残されるのですか?」
「それはいいのよ。私が残す写真達、一枚一枚が私の分身だから」
「…そうですか。そういう考え方もあるのですよね」

「どう考えていたの?」
「そういう考え方も」というからには、何か考えていたに違いない。
そういうと、彼女は、照れてしまい、身を小さくしている。
「えっ、あの、私に蔦子さまを被写体にさせていただけないかと…」
「まぁ!」
「す、すみません。実力もないのに、こんな失礼なことを言ってしまって。
もう二度と言いませんので。申し訳ありませんでした」

小さくなった体が、さらに小さくなって頭を下げている。
私はそんな彼女を見て、ある考えを思いつく。
「いいわよ。私を被写体にさせてあげるわ」
「良いんですか?」
顔をあげる彼女。信じられないといった顔をしている。

「もちろん条件があるわよ」
「はい。何でしょうか?」
「私がいる2年間で、私の持つ写真の技術と情熱の全てを学ぶこと。いい?」
「はい!私、蔦子さまから全てを学ばせていただきます。
蔦子さまと同じくらい、いえ、それ以上の写真を残せるようにがんばります!
そして、蔦子さまが知らない蔦子さまをいつかきっと撮って見せます!」
さすがにこういわれると、私も照れてしまう。
でも、なぜこういってしまったのだろう?
スールは作らないと決めていたのに、これではまるで…。


放課後、私はカメラを持って体育館に向かっていた。
剣道部の練習試合が行われていたので、
黄薔薇さまを写そうと唯一の部員を連れて向かっていた。

「ほらほら、急がないと!」
「そんなこと言われても、三脚って持ちにくくて、重いんですよ」
「何を言っているの。そんなことで弱音を吐いていたら、
とても私には追いつけなくてよ」
そういわれて、やる気がでたらしい。
「まだまだ大丈夫です。さっ、行きましょう、お姉さま!!」


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あとがき

さて問題です。新聞部には部員が複数人存在します。が、写真部は?
私の記憶の中では、部室でも、外でも、写真部員は蔦子さんしかいないような…。
もしいたら、この話って、成り立たない?(まっ、2次小説だからということで)

原作の中では、蔦子さんにはスールは存在しません。
本人も、スールを作る気がないと、言い切っていましたが、
もし、できるとしたら、こんな感じだと思います。
やっぱり、写真がらみでしょうね。

2001.07.24


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