春・・・だよね。


いつの間にかに暖かくなって、着る服も困るようになってきた。
この分だと、4月の入学式には桜が散ってしまうんだろうな。
・・・私は去年でよかった。だって、やっぱり、出会いの時期には桜が欲しいもん。

春休みの一日。昼間はのんびりと母親と買い物になんて行ってきてたりする。
さすがに早朝と夜は肌寒いけれど、昼間は長袖だと「暑い!」と思ってしまうほど。
そんないつもと違う春の訪れに、「桜の木の下で祥子さまと会えないかな」なんて考えてた。
自分の部屋で少しボーっとしながら、早い春を恨めしく思っていると、母親の声が聞こえてきた。

「祐巳ちゃん、電話よ・・・佐藤さんから」
「は〜い!」
そう答えてから、ハッと思った。
(えっ、佐藤さんて・・・)
佐藤という日本に多いその苗字も、自分の知り合いでは一人しかいない。
そう、「白薔薇さま」と呼ばれていた佐藤聖さまただお一人・・・なんだけど、
無事卒業をして、晴れて大学に通う身の彼の人から、私に電話なんてかかってくるのかな?

頭の中にクエッションマークを飛び回らせながら、
ちょっとよそ行きの声で電話口にでる。
「もしもし?」
ほんの一瞬だけ間があいた。それが祐巳の気持ちを不安がらせると、
電話口の向こうから、聞き覚えのある、でも、ある意味懐かしい声が聞こえてきた。
「あっははは!!祐巳ちゃんでもそんな普通の声が出せるんだね!」
「し、白薔薇さま、そんな失礼ですよ!」
「だって、祐巳ちゃんの声の印象って、『怪獣のような声』だからね。
・・・んで、私は白薔薇さまじゃないってね。あ、明日ヒマ?」
「え?」
「明日、お姉さんに桜の下で膝枕なんてしてくれない?」
「は〜っ??」
「別名『花見』と言う」
何を言っているんだこの方は。それは祥子さまに私がしてもらいたい・・・じゃなくって、
いきなりそんなこと言われても・・・あ、そうだ。明日は用事が入っていないんだった。

「ひ、膝枕の件は保留しますが・・・明日はヒマですけど?」
「お、これでバッチリ!」
「え?何か言いました?」
小声で何かを聖さまは言ったようだけれど、祐巳の耳までは届かなかった。
実は、電話口の向こうでは、聖さまが満面の笑みで指を鳴らして、
ある計画が実現できそうなのを喜んでいたのだけれど、当然、祐巳はそれを知らない。
「んじゃ、K寺公園の桜の木に11時。出来たらおにぎりが欲しいかな?オカカおにぎり好きだな!」
その後は、一方的に集合場所を告げられたあと、電話を切った。・・・まるで嵐が過ぎた後のように、
祐巳の頭の中は色んなことがぐちゃぐちゃに散らばっていた。

えっと・・・今年は暖かくてすでに桜が咲いていると。
で、白薔薇さまはそれを観に行きたい・・・と。
少しずつ、今、話したばかりのことを整理していく。
・・・あれ?私と白薔薇さま以外は誰か来るのかな?
誰かが来るとか話して・・・いないよね、一言も。おや?

以前正月に祥子さまのお宅にお邪魔した時も、
その場所に到着するまでなにも詳しいことは知らなかった。
・・・と言うか、私ももう少し成長して、誰かが一緒なのか、
白薔薇さまにもう少し詰め寄って聞けば・・・って今更遅いよね。
う〜ん、まさか、本当に二人っきりでお花見なのかな?

結局、明日になればわかると、悩むことを止めて、明日のために寝ることにした祐巳。
まさか、まさかあんなことなることを当然知らずに・・・。





「うっ・・・K寺公園て広いんだっけ。どこにいるんだろう?」
あまり詳しく場所を聞いていなかったから、どこから探そうか悩む祐巳。
「桜の木があるところ」だけでは確かに見つけるのは難しい・・・ハズだった。
「あ、あれ?ま・・・まさか・・・」
思わず目に入った人物が白昼夢の産物ではないかと目を擦ってみる。
・・・やっぱり消えない。顔は隠れて見えないけれど、あの日本人形のように
つやのある長い黒髪の女性なんて、そうなかなかいるものではない。
「え?あれ?なんで?」
本当に夢じゃないかと疑ってしまう。だって、いくらなんでもこのメンバーが集まるだなんて・・・。
きっとこれは夢だ。そう言えば、春は桜の妖精が人を眠りに誘い込むなんて言うもんね。
だから・・・つねってみれば・・・痛みも感じ・・・る。もしかして、夢でも痛覚はあるとか?

そう、祐巳の視野には信じられない光景が入ってきていた。
例年よりも早く咲いた桜の木の下に、ピクニックシートを敷いて、
楽しそうに場所とりをしている人たちの姿・・・それはつい先日まで、
リリアンの敷地の一角にある「薔薇の館」と呼ばれる建物の中の、
チョコレート色をしたドアの向こうで集まり過ごした山百合会のメンバーだったから。

「お〜い、祐巳ちゃん、待ってたよ〜!!」
聖さまったら私の姿を見つけたようで口に手を当てて大声で叫んでいる。
周りに同じように花見目的で来ている人たちがいたから、恥かしく思いながらも、
みんながいる方へ小走りで向かっていく。もちろん、もってきたバスケットを手にしながら。

「ごきげんよう・・・お姉さま?」
「ごきげんよう、祐巳。元気にしていたかしら?」
ピクニックシートを広げている長髪の人物に声を掛けると、
思わず嬉しさで飛び上がってしまいそうな返事が麗しい声とともに帰ってきた。
やっぱり見間違えていた訳じゃなかった。良かった・・・。
「お姉さま」なんて声を掛けて間違っていたら、何と思われるか・・・。

「あ、祐巳ちゃん来たわね。これで後は3人か。早く来ないかしらね?」
「ご、ごきげんよう紅薔薇さま・・・」
「ごきげんよう。・・・もう『紅薔薇さま』は祥子よ、祐巳ちゃん。早く慣れましょうね」
そう言って祐巳の目の前に現れたのは蓉子さま。
相変わらず、明るい笑顔を祐巳にみせてくれて、やさしい『おばあちゃん』はまだ健在しているみたい。
「お、お姉さま?『あと3人』て・・・」

ちょっと声を下げて祥子さまに質問をする祐巳。
「何を言っているの?山百合会のメンバーの人数も忘れてしまったの?」
いくら学校が休みといってもそんなことまで忘れてしまったのかと、
あきれ顔に加えて、小さなため息がプラス。うう、だって何も教えてもらっていないんです!
「いえ。全部で8人・・・・・・ぜ、全員集まるんですか!?」
「あと、志摩子と令たちが来るだけよ」
祐巳の質問に冷淡に答えながら、手はピクニックシートをピンと伸ばすことに忙しそう。

「お、祐巳ちゃんバスケット持ってきているところをみると、本当におにぎりを作ってきてくれた?」
「ごきげんよう・・・聖さま。おにぎりは作ってきました、リクエストのおかか・・・で、これはどういうことですか?」
「どういうことって?」
「みんなが来るなんて言ってなかったじゃないですか!!」
「ん〜それは言わなかったんじゃなくて、聞かれなかったからよ」
「そ、それは確かに・・・聞かなかったですけど・・・」
「でしょ?それに、驚かせたかったから、聞いても教えなかったけれどね」
ニコニコ顔の聖さまにそう言われたら、何も言えない。
実際に、あまりのことに驚きを超えていたような・・・。

だって、聖さまは大学がリリアンだからわかるけど・・・残りのお二方は他大学。
しかも、蓉子さまにいたっては、自宅を出られるとのことだったけど・・・。
「あら?祐巳ちゃん来たのね。ごきげんよう」
「・・・江利子さまごきげんよう」
一瞬、黄薔薇さまの名前を考えてしまった。

「いきなりで驚いたでしょ?まったく、全部考えなしの聖の企みよ。
いきなり電話を掛けてきたかと思ったら、『花見するよ』だもの。
もう少し計画性を持って、前もって言っておいてくれればいいのに。
ま、たまたま今日は時間があったから来られたんだけどね」
ピクニックシートの端で立ったままの祐巳に聖さまに対するぐちをこぼしながら、
手際よく紙皿やらコップを用意していく江利子さま。う〜ん、相変わらずだな・・・。

祐巳も持ってきたバスケットをシートの上に置いて、
靴を脱いだ・・・けど、何を手伝えば良いんだろう?
他の方々がほとんど準備(といってもたいした物ではないんだけど)を終らせているので、
やることがなくなっていた。申し訳ない気持ちでいたら、祐巳の背後から、
元気が良くてはきはきとした声が聞こえてきた。

「遅れてすみません!」
もちろん、声の主は令さま。その後ろに、志摩子さんと由乃さんもいる。
「大丈夫よ、別に学校の行事じゃないし、まだ11時前だもの。
それより、料理は作ってきてもらえたのかしら?」
蓉子さまは別にたいしたことないって感じ。
確かに、今回は学校での行事ではないから、そう、目くじら立てることではないけれど、
先輩方より遅れたから、令さまも気にしているんだろうな・・・あれ?私もそうじゃなかった?
少しは気にするべきなのかな?でも、聖さまだけならいいと思ったし、
場所も探したからということにしておこう。
「はい!」
由乃さんと二人でたくさん持ってきてくれたらしい。
う・・・私は本当におにぎり少しだけなのに。

「さて、これでみんな集まったわね」
江利子さまが両手を胸前で合わせて嬉しそうな顔をしている。
もう、二度と集まらないようなメンバーが勢ぞろいしているんだもの。
こんな楽しめそうな機会を逃すはずはないよね。
「ごきげんよう志摩子さん。ねぇ、志摩子さんはいつ連絡もらった?」
「ごきげんよう祐巳さん。お久しぶりね。連絡は3日前におね・・・聖さまからいただいたわ。
『せっかく桜が咲いたんだから観に行こう!』って感じで」
やっぱり、志摩子さんも呼び方の変化にはまだなれていないようだ。

スールの制度はリリアン高等部独自のもの。同じリリアンの敷地に通うことになる聖さまとは言え、
「お姉さま」という呼び方は使えなくなる。自分も、来年祥子さまとスールの関係を解消したら・・・。
やめやめ。今そんなことを考えても仕方ない。まだ、1年間も時間があるんだし。
そう、頭をブンブン振りながら暗くなる自分を振り払っていたら、隣で志摩子さんがクスリと笑った。
「祐巳さん、来年のことを考えていたのね。大丈夫よ、祐巳さんは」
何のことを考えていたのかすぐにわかっていたようで、志摩子さんはなぐさめるように私の肩に手を乗せてくれた。
「だって、祐巳さんは祥子さまを『お姉さま』と呼ぶのに苦労していたでしょ?
だから『お姉さま』から『祥子さま』に戻るのはきっと簡単よ」
「そうかな・・・」
逆に苦労した分、ずっと『お姉さま』と呼んでしまいそう。
それ以前に、高校を卒業されてから会う機会すらあるのか不安になってしまう。

「祐巳さんは何を持ってこられたのかしら?」
「私?・・・オカカおにぎり。聖さまにみんなが集まるって聞いていなかったから、ほんとに少しなんだけど・・・」
「あら?そうなの?私には教えてくださってたわよ。忘れていたのかしら?」
(そうじゃなくって、驚かせたかっただけみたい)と言おうとしたら、由乃さんが元気よく二人の間に飛び込んできた。
「なになに、二人してこそこそと。私も混ぜてよ!」

「あ、由乃さんごきげんよう。あのね、由乃さんはいつ連絡が来て、みんながくることを教えてもらった?」
「ごきげんよう。えっと、令ちゃんがおととい江利子さまから電話があって、二人ともヒマなら、
みんなで花見をするからおかずを作ってもってくるようにって言われたみたい。
二人とも、丁度その日に花見に行く予定だったから、こっちに加わったんだけど?」
「私は昨日の夜いきなり聖さまから電話があって・・・」
と、詳しく話すと、さすがに由乃さんも驚いていた。

「え〜っ、そうなの?じゃあ、もし祐巳さんに予定が入っていたら、来られなかったんじゃない?」
「そうだよね・・・でも、こうして来られたんだけどね」
そんなこんなで1年メンバーで話していると、蓉子さまが手招きをしているのに気がつく。
会話を中断すると、みんなで蓉子さまのほうを向いた。

「本当にこうしてみんなで再び集まれるなんてね・・・聖の思いつきもまんざらでもないわね」
「何を言っているんだか。蓉子だって乗り気だったじゃないの?」
「どっちでもいいわよ。こうしてみんながそろえたんだから」
そうお三方が言われると、祥子さまが凛とした声で、問いを発した。
「今回の花見はどなたの立案ですの?」
「これ?蓉子だよ」
「あら、そうなの?てっきり聖だと思ってた」
「ん〜、具体的に決めたのは私だけど、始めに思いついたのは蓉子」
「と言ってもただ『花見がしたい』って言っただけなんだけどね。聖ったら、
『じゃあ、みんなでしよう!』て言い出して、みんなに連絡をとってくれたのよ」
「だって、せっかく桜が早く咲いてくれたんなら、普段ならできないことをしたいじゃない?」
なるほど・・・そうだったんだ。確かに今年じゃなければこんなことは出来なかったかもしれない。

「さ、それはそれでいいとして、せっかくみんなに持ってきてもらったんだし、桜を見ながらいただきましょうか?」
「賛成!」
「私は言われたように御飯ものだけよ」
それなりに分担があったようで、私と江利子さまが御飯もの。令さまと由乃さんと蓉子さまでおかず。
志摩子さんと聖さまがデザートで、祥子さまが飲み物だったらしい。
みんなで持ち寄った食べ物を広げると、いかにも「花見」という雰囲気が作られた。

昼間のK寺公園は、満開の桜を観る人であふれている。私たちの周りにも、
主婦と思しき人たちが、同じようにピクニックシートを敷いてワイワイと騒いでいる。
(あれ?顔がほんのり赤い・・・お酒飲んでいるのかな?)
よく見ると、シートの上には缶ビールが。大人の人たちは、桜より、
お酒をみんなで飲むのに花見を利用しているんじゃないのかな?
「花より団子」という名言もあることだし・・・。

「はい、祐巳ちゃんの飲み物だよ」
「あれ?湯気が出ていますけど・・・これなんですか?」
他の人の飲み物は冷たい飲み物らしく、湯気が出ていないのに、
祐巳に渡された白い液体の入ったカップからは白い湯気がのぼっている。
「お子様が飲んでも怒られないお・さ・け・よ♪」

そう、聖さまが紙コップに注いで渡してくれたのは甘酒。
確かに、甘酒なら子供も飲んでいい飲み物。でも、食べる前にこれは・・・。
「ほら、祐巳ちゃん甘いの大好きでしょ?さすがに『しるこ』じゃあわないから、これね。
あ、ちなみにこれは私のお手製だからね」
「聖さまが作ってくれたんですか?」
「そうそう。みんなの分も一応あるんだけど、他の人たちはお茶が良いって言うから、
祐巳ちゃんだけにでも飲んでもらおうと・・・お姉さんのお酒は飲めない?」
ううう、なんでそうくるんですか?そう言われたら拒否できないじゃないですか!
「い、いただきます!!」
「うんうん、祐巳ちゃんは良い子だね〜」

「じゃあ、みんなに飲み物が行き渡ったようだし、乾杯をしましょうか?」
江利子さまがそう言うと、やっぱり乾杯の音頭をとったのは蓉子さま。
う〜ん、なんかいまだに役割分担がしっかりできているな・・・。
「こうしてまた、みんなで集まれたことを嬉しく思います。
多分、これでもう全員が一度に集まれる機会はないと思うけど、だからこそ、楽しくしましょうね。
江利子と聖は何か言いたいことはあるかしら?」
「そうね、私は特にないわ」
「私はみんなとリリアンで会うことがあるかも知れないから、その時は声を掛けて位かな?」
「みんなは何か言いたいことある?」

「お・・・蓉子さまから電話をいただいた時は、本当にみんなで集まれるなんて思いませんでしたけど、
でも・・・こうしてお姉さま方と祐巳たちと思い出の場を設けられて、光栄ですわ」
「確かに、このメンバーが集まれることはないでしょうし、桜に感謝したいですね」
祥子さまと令さまのちょっとしみじみとした口調を聞いていると、
なぜか、急に涙が出てきた。

「あら、どうしたの祐巳さん?突然泣き出して?」
隣に座っていた志摩子さんに泣いているところを気付かれてしまった。
「良かったら使って・・・」とハンカチを差し出されたけれど、自分で持っていたので、
「ありがとう」とだけお礼を言って、自分のをポケットからだして使った。
志摩子さんの隣に座っている由乃さんもさすがにその気配に気付いて声を掛けてきてくれた。
「祐巳さん、気持ちはわかるけど、桜に涙は禁物よ。
ほら、せっかく薔薇様方は楽しみたいって言っているんだから、
この場は思いっきり盛り上げましょう!!」
そう言って、ウィンクする由乃さん。う〜ん、やっぱりこういうときに頼りになるのは彼女だよな。

「そこの3人。なにこそこそ話をしているの?」
ひそひそ話をしているように見えたのか、祥子さまが恐ろしい形相でこっちをにらんでいる。
ひえ〜怖い・・・。べ、別に何かやましいことを話しているのではなく、単に私が泣いてしまっただけで・・・。
「おっ?そこの3人。何か盛り上げる出し物でもしてくれるのかな?」
「そうね・・・みんなで『マリア様の心』を歌いながら踊ってもらおうかしら?」
え〜っ、勘弁してください江利子さま!!あの時はがんばってしましたけど・・・こんな公衆の面前で・・・。
「なに冗談言っているの二人とも?今日はそういう会じゃないでしょ」
「あ、そうだった・・・ま、先に乾杯しようか?」

「こほん。それじゃあ、早咲きの桜に感謝して・・・乾杯!」
「かんぱ〜い!」
みんなで紙コップを片手で持ち上げると、軽くあわせて乾杯をする。
他の人は冷たい飲み物だからすぐに飲めるけど、私のは熱い甘酒。
フーフーしながら、何とか飲んでいく。うん、おいしい!!
温かくて、さっぱりとした甘さの甘酒だったので、思わず一気に飲んでしまった。

「あ、祐巳ちゃん、言い忘れてたけど、それは本当に日本酒が入っているから一気に飲んじゃ・・・った?もしかして?」
全部飲み終わったころに、聖さまが頭をかきながら、祐巳の顔をのぞきこんだ。
「先に言っておけば良かったかな?でも、やっぱり花見に『酒』はつきもんでしょ、うん!」
何を言っているんですか聖さま!!私たちはまだお酒は飲んじゃいけない・・・
あれ?なんか顔がポカポカするな〜。それに、体も・・・温かいような・・・。
「はは、ダメれすよ〜白薔薇はま!!未成年がお酒らんてろんじゃ〜」
何とか抗議の意を示そうとするも、口が上手くまわっていない気がする・・・。
「どうしたの祐巳?突然顔を赤くして?聖さま、一体祐巳に何を飲ませたんですか?」
突然の祐巳の豹変に慌てる祥子さま。足元をふらつかせながら立ち上がった祐巳を体全身で支えると、
聖さまのほうをむき、きつい口調で問いただした。

それをみて、蓉子さまが聖さまの耳をひっぱり、同じように強い口調で質問をする。
「ちょっと、聖?本当にお酒を祐巳ちゃんに飲ませたの?」
聖さまは二人のきつい視線と口調にも悪びれる様子はなく、逆に楽しそうな表情をみせている。
「いや〜、まさか本当に酔ってくれるとは・・・。本当は入れてないんだけどね、これっぽっちも」
「え?そうなの?」
「いくら私でも、こんな人が多い場所で堂々と飲酒はしないわよ。あれは本当に子供が飲める甘酒よ」
聖さまから本当のことを聞いて驚く二人。どう考えても、目の前にいる祐巳はお酒を飲んだかのように、
目はとろんとしているし、いつも明るいけど、それ以上の明るさを振りまいているし、なにより、ろれつがまわっていない。

「じゃあ・・・」
「祐巳ちゃんは・・・」
「う〜ん、私の言葉に酔ってくれたのかな?ま、楽しくていいんじゃない?」
肩を上下しながら苦笑する聖さまに、蓉子さまと江利子さまはあきれつつも、
本当に飲ませていないんだからいいかと、とりあえず、この場を楽しむことに専念することにした。

「祐巳ちゃん!どうせなら、何か踊ってよ!!」
「この前の安来節のアンコールをしたいな!」
さっきは「そういう会じゃない」と言っていたにもかかわらず、今度は踊って欲しいのリクエスト。
「お姉さま方、何をおしゃるのですか!!」
「もう、あなた達のお姉さまではないのだし、少しは好きなことを言わせてよ」
「そうそう。あ、なんなら祥子も一緒に祐巳ちゃんと踊ってよ!」
江利子さまと蓉子さまの突然のリクエストに何事かと驚く祥子さま。
「いいじゃない、どうせならみんなで踊ろうか、安来節?」
そういいながら立ち上がった聖さま。
「令、由乃ちゃん、ほら、一緒に踊るわよ!!」
「志摩子もそんなところで座っていないで、立った立った!」
「祐巳ちゃん、そのまま祥子を躍らせて!!そう、教えてあげて!!」



・・・・・・嘘のように早く咲いた桜と、お酒の入っていない甘酒が生み出した偶然からの賜物。
満開に咲き乱れる桜の木々の下で、うら若き乙女が8人。周囲からの視線を浴びていた。



あとがき

久方ぶりに1日でガ〜ッと書き上げました。(きつかった・・・)
仕事の関係で頭がぶっ飛んでいるので、話もぶっ飛んでます。(?)

この話は今年じゃなければ思いつかなかったでしょう。
卒業式の時期に桜が咲いて、入学式の時期には散っている。
・・・という事は、「チェリーブロッサム」は今年だったら、ありえない話になると。

でも、もし、これからも地球温暖化等の影響で、3月半ば過ぎに桜が咲くことになったら、
桜は別れの潔さをあらわす花になったりするのかしら?
桜の花びら舞う中で、先輩後輩同士の告白タイムとか?
う〜ん、ちょっといいかも?

でも、大人の花見は減るんでしょうね。3月って決算月のところが多いですからね。
・・・ん?これって消費後退の兆し?(こらこら、ここでの話題じゃない!!)


2002.03.28

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