木洩れ日が少しだけ入るある部屋の中。
白薔薇さまは少し戸惑いながらも、
ある生徒と対面をしていた。

「どうぞ」

渡す時の表情にまったく変化は見られない。
まるで形式的に渡している、そんな感じにも思える。
そんな表情を見て、ますます困惑した白薔薇さまは、
いけないと思いながらも、渡されたばかりの、
包装紙に包まれた長方形の箱を窓からの光で
透かして中身を見るような行動を見せた。

「・・・これはもらっていいのかな?」

箱を頭の上に上げながら、渡してくれた人物のほうを向くと、
本当に渡す相手は自分なのかと、質問をした。
さすがに相手はその質問を聞くと、心外だったのか、
顔をちょっと歪めた。でも、その歪めた顔でも充分に澄ましていると
見えるその顔に、白薔薇さまは「さすがだね」と思う。

長い黒髪を少し揺らしながら、相手の人物は白薔薇さまに詰め寄ると、
きつめの語調で渡した相手も、渡したことも間違っていない事を伝える。

「もちろんですわ。それとも、私からはもらっていただけないとでも?」

「いや、そんなことはないけれど、本当にいいの?」

相手にキツイ視線を向けられても、白薔薇さまは動ずる事はない。
そんな事でいちいち動じていたら、からかいたくてもからかえない相手がいるから。

「同じ言葉を繰り返すなんて、白薔薇さまらしくありませんわね。
私が差し上げるといったのですから、素直に受け取ってください」

「ふ〜ん、それなら喜んでいただくけどさ。・・・これって残り物?」

「失礼な事をいわないでいただけますか?そんな事を私がするとお思いですの?」

そう、今日はバレンタインデー。
新聞部の陰謀が実を結び、今、薔薇のつぼみのカードを探そうと、
必死で生徒達が校内をシスターに「はしたない」と言われるぐらいに、
駈けずりまわっているはず。そんな中、相手は白薔薇さまを見つけると、
生徒が来ない部屋に連れて行き、たった一つだけ持って来ていた
チョコレートを手渡したのである。

「いや、一応・・・ね。だって祥子が私にチョコレートをくれるなんて、
これっぽっちも思いつかなかったからね。祐巳ちゃんが祥子へ渡すチョコレートの
失敗作を持ってきてくれるとは考えていたけど」

勘が鋭い白薔薇さま。実際に祐巳が
失敗したチョコレートを渡そうと考えていたことを、
伝えられていないのに、見通していた。
ただし、それはこの後、違う相手に渡されることになるのだけれど。

「私が白薔薇さまに差し上げてはいけないのですね。わかりました。
その箱、お返しいただけますか?」

手のひらを上にして、白薔薇さまの前に差し出す祥子さま。
その手を少しだけ見ると、子供のような笑顔を見せながら、
漫画を取り上げたガキ大将のような行動を白薔薇さまはとった。

「や〜だね、せっかくもらった物を返す法律はないってね」

背中に箱を隠すと、何歩か後ずさりをした白薔薇さま。
祥子さまはそれを追うことはなく、少しはなれた場所から、
もう一度だけ、白薔薇さまに念を押す。

「もらっていただけるのですね」

「もちろん、喜んで食べさせてもらうよ・・・でも、まさか毒は入れてないよね?」

「そんな事を私がするとでも?」

私を誰だとお思いですかとでもいいたそうな表情を見せる祥子。

「ほら、だって祐巳ちゃんにちょっかいを出しているからさ」

「・・・白薔薇さま、何か勘違いをしているようですね」

「勘違い?なにを?」

「私は祐巳にちょっかいを出しているから怒っているのではありません。
もちろん、お姉さま達への手前、その様に見せていますけど・・・・」

「けど・・・なに?」

「私がいつも怒っているのは祐巳をからかって私の気を惹こうという白薔薇さまの考えです」

「・・・もしかして、ばれてた?」

一瞬、目を見開いたかと思うと、自分の心を見破られていた事に恥かしさを
覚えたのか、頬を指で「ポリポリ」と掻く白薔薇さま。
祥子さまも自分が知っていながらもずっと隠してきた事を告白してしまったと、
気持ち俯きながら、頬を赤らめ、目をつぶって返事をする。

「・・・はい」

「そっか、ばれてたのか。じゃあ、こんな事しても、許される・・ね」

窓際は木洩れ日で暖かくなっている。
そんな部屋の中で、一際温かい空間が生まれていた。



あとがき

え〜、遅れたバレンタイン特集の最後はこれです。
・・・ダメ?変?最後のほうは手抜きしてるし。
でも、こんなのもよろしくないでしょうかね?

今月発刊予定の新刊・・・でも、あんまりな〜。
ほら、私も旧薔薇様方のファンですから。(そうなのか?)

(2002.3.6)

追伸♪
わ〜い、この話を読んでくださったきわ様が絵を描いてくれました!!
(ちなみに、この話はきわ様のリクなんです♪)
「献上品」との事なので、とりあえず、承諾は得ていないのですけど・・・、
よろしいですよね?きわ様?

う〜ん、絵だと、文章だけだとわかりにくい二人の動きが・・・って、
私は何を考えているんでしょう。(やばやば?)

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