「イッちゃんのお願いは?」

そう聞いてくる由紀子の声は心なし重い。
もっとも、それに答える私の声もそう変わらないだろうが。

「お願い・・・ね。由紀子は短冊に書いて、笹の葉に飾ったの?」

「・・・イッちゃん、またいじめるの?」

「いじめ?なにが?」

「また『子供じみた事を・・・』って呆れているんでしょ?」

「ああ、良くわかっているね。さすが付き合いが長くなっただけある」

「くっく」と苦笑を交える。
一気に畳み掛けるのが、私の普段のパターン。
もちろん今日も例外ではない。

「七夕・・・か。由紀子は彦星と織り姫の二人の再会と、
願いをなぜ結びつける必要があると思う?」

「それは二人の想いの強さが年に一度だけれど会う事を叶えられたから、
皆も『願う』大事さって言うのを知って欲しいからじゃないかしら?」

「おや?由紀子くんにしては珍しい意見ですね」

確かに珍しい。
ロマンチスト&素直&馬鹿正直の由紀子にしたら、
子供からの意見じゃなく、大人の面から物事を見てる。
私の考え方がなんだかんだうつったのかな?

「も〜っ!!イッちゃん!!」

「私も同意見だよ。まあ、七夕自体が古い伝説から生まれたものだから、
それそのものの起源が怪しい所も在るけど、それはそれとして、願いを言う事に意義があるんだろうね。
願う事が人々には必要だから、子供のうちからその気持ちを持って欲しい。
だから、逆に大人の私達が、『願い』をする必要は特にないのでは?」

「へっへ〜ん!いつもはイッちゃんの意見に反論できないけれど、今日はさせてもらうわよ♪」

ほ〜っ、それは頼もしい。じっくり拝聴させていただきましょうか。

「『願う』気持ちは子供だけが持っているだけではいけないの。
大人だってもっているべきだわ。それこそ、生きている限りずっとよ」

「ふむふむ」

「確かに七夕は民話や伝説に裏付けされたものなのかもしれないけど、
それでも、こうしてずっと続いている習慣なんだもの。それだけ、『願う』ことが必要だってことよ」

「なるほどね。確かに由紀子の言う通りかも。で、由紀子は笹の葉に願い事を書いたの?」

「もちろん!!イッちゃん、私のクローゼットを開けてくれる?」

「クローゼット?」

「そうよ」

「よいしょっと、ちょっと待って・・・」

私はリビングのソファーから立ち上がると、二人の寝室へと向かった。
真っ暗な部屋に電気をつけると、由紀子に言われた通りにクローゼットへと向かい開けた。

「あっ・・・」

スーツの下に、短く切られた笹に折り紙の短冊が何枚か。
その内の一枚に、見慣れた几帳面な文字が書かれた短冊が。
ああ、朝、何かごそごそしていたのはこれだったのか。

『来年こそはイッちゃんと七夕を一緒に過ごせますように・・・』

そう書かれた短冊には、下のほうに浴衣を着てうちわを持つ二人の絵が。

「由紀子・・・去年は一緒だったんじゃないっけ?」

「いいの!!」

「ま、いいでしょう。・・・で、楽しかったんだね?」

とりあえず、話の本題に戻した。
実は、七夕の話は急に由紀子が思い出して話し始めたのであって、
泊りがけで行っている由紀子の高校の同窓会の話を聞いていたのだ。

「うん、とっても。久しぶりの同窓会だったし、イッちゃんのことも話したわよ、みんなに」

「ほ〜っ、なんて?」

それはとても興味深い。
どうせ悪口を言われてるに決まってる。

「とってもいじわるで性格の悪い同居人。でも、いつまでもこのままの関係でいたいって。
あ、美樹が私の隣で笑っていたわね・・・なんでかしら?」

「さぁ・・・きっと『自分の事を棚において』と思っていたんじゃない?」

「美樹が?まさか。きっと、『その通り』と思って笑っていたのよ」

美樹さん、どっちが正解?
それとも、全然違う答えかな?

「いつまでもこのままの関係って?」

「このまま・・・ずっと二人とも離れることなくお互いの時間を共有するって事よ。
そして毎年お願いするの。『来年もイッちゃんと過ごせますように』ってね♪」

「・・・来年は晴れるといいね」

「満天の星空の元、二人で浴衣姿でビールと枝豆ね♪」

「それ、却下!!」

最近、由紀子はアルコールに関しては『限度』というものを忘れたらしく、
飲むと必ず絡んでくる。由紀子が酒を飲み過ぎると絡むとは・・・つい最近まで気づかなかった。
まさしく、不覚以外の何でもないね、これは。
せっかくの満天の星の下で絡まれるなんて、笑い話にしかなりゃしない。

「なんで〜??イッちゃんのいじわる!!!!!」

「ああ、どうせ性格の悪い同居人だからね〜〜!!」

でもまぁ、来年はお酒抜きなら二人で七夕を過ごすのも悪くないかもしれない。

由紀子のいない部屋の窓から、カーテンを少し開け外を望む。
曇って天の川どころか、星の輝きすら見る事の出来ない七夕の夜空。
受話器を片手にいつまでもいつまでも眺め続けていた。


つぶやき

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