〜名古屋までの話〜

「ねぇ、イッちゃん、お願いがあるんだけど?」

それは9月の半ば。秋のはずなのに、まだ真夏日のような暑さが残る日の夜のことだ。
作者が二人を離そうとしても、絶対に離れない樹と由紀子の二人は、樹の部屋で、
明日、明後日と前もって一緒に取っていた連休の過ごし方を話していた。

「どうしたの?」
「あのね、明日は名古屋で、前からイッちゃんが食べたいっていってた、
『味噌煮込みうどん』食べに行くんだよね?」
「そのつもりでいるよ」
「…でね、その後、『倉敷』まで足を伸ばさない?」
「倉敷?岡山の隣の駅?」
「ちょっとイッちゃん、倉敷は岡山の隣の駅じゃないよ!」
「○鉄だと、隣の駅なの」
「ゲームの話ね…」
「いいよ。由紀子が行きたいなら、どこでも付き合う。遠いから泊まりだよね。宿は?」
「う〜ん、今からだとネットだと取れないし…名古屋で何とかしよっか?」
「無計画だね」
「ごめん…」
「平日だから何とかなる。行こう」
「ありがとう、イッちゃん!!大好き!」
「由紀子、暑い…」

夜もまだ暑いというのに、由紀子は樹に思いっきり抱きついた。
樹は言葉では嫌がっているものの、顔はまんざらでもなさそう。
あ〜、熱いね、お二人さん。

次の日。まず、新幹線の「ひかり」に乗って、約2時間。                          
当初の目的の名古屋につく。倉敷に向かうことにしたので、
ここでの目的は、宿の確保と、駅周辺の散策と、「味噌煮込みうどん」を食べること。

「ねぇ、イッちゃんなんで『味噌煮込みうどん』だけにこだわるの?
名古屋だと、『天むす』『エビフライ』『味噌カツ』とかもあるのに」
「『天むす』は食べたことがある。『エビフライ』は好きじゃない。『味噌カツ』の味噌は甘そう」
「…わがまま」
「しょうがない。本当だから」
「まっ、私も味噌煮込み食べたかったからいいけどね!」

とりあえず、倉敷での宿を確保しに、名古屋駅前の○TBへ。
 

「すみません、今日の宿ってここでお願いできますか?」
「はい、承りますよ!」
「良かった、イッちゃん、取れるって!」
「由紀子、これから取るんだよ」
「あっ、すみません…」

二人のやりとりを見て、微笑んでいるHさん。
とっても親切に、いい対応をしてくれた。真面目に感謝!
倉敷市内の食事がおいしいと評判の昔からの旅館に宿を取ってもらう。

「お昼の時間になったね」
「うん、イッちゃんの目的を果たしに行こうね!」

前もってどこで食べるかを決めていなかったので、
とりあえず、駅のデパートの中の本屋で情報誌を立ち読み。
しかし、高○屋、何でこんなにでかいの?思わず、買い物しちまったよ。
綺麗だし、休息スペースが充実しているし、静岡にもこんな所できないかな…無理か。

駅の地下にある有名そうなお店に向かう。
13時になると言うのに、ビジネスマン風の人影が店内いっぱいに見える。

「混んでるね」
「でも、だしのにおいが店の外まで香ってる!期待大かも!」

うどんを食べるだけだから、お客さんの回転は早い。
少しだけ外で待つだけで、店内に入ることができた。

「なんにする?私、『名古屋コーチン』も食べたいから、
名古屋コーチン入りしよっかな」
「きのこ入り」
「ご注文お決まりですか?」
「えっと…」

注文を終えると、この後の新幹線の時間を見る。

「旅館に18時までに入るから、う〜ん、高いけどのぞみがいいかな?」
「500系乗りたい」
「500系って何?」
「新幹線の種類。500系のぞみが一番かっこいい。
この後の700系よりもスピードが出るし、外見がスマート」
「そうなんだ…あっ、15時半ぐらいに出るのぞみが500系だよ。これにしよう!」

そんなことを話していると、店員さんがお漬物を持ってくる。

「へーっ、お代わり自由だって。おいしそう!」
「…」

とりあえず、うどんがくるまでのつなぎと、漬物にハシを伸ばす。

「やっぱりおいしいね」
「…」
「まずい?」
「おいしい…」

漬物をあまり食べない樹がおいしいと言うのを聞いて、
ちょっと意外な顔をする由紀子。

「由紀子、私、おいしい漬物なら食べられるよ」
「あっ、なに考えているかわかった?」
「バレバレ…」

と、土鍋に入った出来上がった味噌煮込みうどんが運ばれてくる。
テーブルの上にあった前掛けを使用する。汁が飛んだ時の為。

「お待たせいたしました…」
「わ〜、おいしそう!!」
「…いただきます」

ふたを開けると湯気がふわっと目の前に上がる。
「クツクツ」とまだ煮立っている。
色々なキノコに、名古屋コーチンに、かまぼこに、ねぎがたっぷり。
真中に、卵がしっかりとのっかっていて、見ただけで食欲が湧く。
くっ、さすがにこれの写真は恥かしくて撮れなかった…。

「あれ、イッちゃんなにしてるの?」
「熱いから冷ましてる」

土鍋のふたの上にうどんを取り分けている樹をみて、由紀子が尋ねる。

「そんなことしている人いないけど?変じゃない?」
「さっき店の人が言っていたよ『ふたを取皿に』って」
「そんなこと言ってた?」
「…いい」

お互いの注文したうどんを黙々と食べ始める。
見た目は汁の色が濃いので味の濃そうなイメージだったけど、
食べると、かつおのだしがしっかりときいていてうまい。
ついでに、うどんは、これまた少し硬めで、好みが出るかもしれないけど、
やっぱり、おいしかった。名古屋コーチンは、これまた柔らかくて、
焼き鳥で食べたくなった。(絶対日本酒があう!)

「あれ、イッちゃんの方、ごぼうが入ってる?」
「入ってるけど?」
「私の入ってない…」
「きのこにあうからでしょ…ハイ」
「ありがとう!」

じっと眺められては樹も困る。
まいたけと、ごぼうを由紀子の鍋の中に入れてあげる。

「おいしい?」
「うん、味が染みてておいしい!」

お腹も、心も満足させた所で、店を後にする二人。
先に倉敷までの切符を緑の窓口で買っておいてから、
駅周辺のビルを探索し、「さすがに東と少し服の好みが違う?」
(ちなみに名古屋は東海または中部地方)
などとしゃべりながら、電車までの時間を過ごした。



「これが500系?」
「そう。かっこいいでしょ?」

のぞみは全席指定。
二人とも14号車の席に座る。
樹が窓側、由紀子が中央で通路側が誰もいない三人掛け席。
電車が動き始めたら、見えないと思ったのか、
由紀子が窓の外を見ている樹の手を握った。

岡山駅まではのぞみでも1時間半かかる。
二人の新幹線での時間はまだ始まったばかりだった。

(新幹線の窓から 京都駅を少し過ぎたところ 新大阪駅のホーム)


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