〜名古屋から旅館まで〜
「ようやくついたわね」
「由紀子、まだ乗換えがあるよ」
「わかってるってば!!」
「行こう…」
「あっ、イッちゃん待ってよ〜!!」
到着したのは「桃太郎」で有名な岡山駅。
北九州への卒業旅行でここまで、
普通列車で私の地元から半日かけてきたのは、
今となっては良き思い出だな。今は、体力的に無理。
「人が多い」
「平日だから仕方ないわよ」
そう、岡山についたのは17時過ぎ。
学生やら、仕事帰りの人やらで、ホームは人だらけ。
「出雲行きの列車だ」
「ほんとだ。あれ?向こうは四国方面に行く電車かな?」
「岡山って電車の分岐点なんだね」
岡山の駅で思ったこと。失礼とは思うけど、
電車の数(本数じゃなくて、行き先の数)が多い。
確かに○電でも、北と南に線路が続いているけど、
本当にそうだったんだな〜。
そのうち、電車がホームに入ってくる。
観光地に多い、お見合い席があるタイプの車両。
…席には座れず、二人とも、ドア付近に立つ。
「近くだからがまんしよう」
「そうね、15分くらいだったっけ?」
「それくらい」
「じゃぁ、平気よ」
(どれくらいだったら文句を言われたかな?)
などと一人考える樹。まぁ、由紀子じゃ30分じゃない?
日が暮れ始め、景色が暗くなり始めていた。
「倉敷にとうちゃ〜く!」
「由紀子、恥かしい…」
「イッちゃん、倉敷に着いたんだよ。嬉しくないの?あっ、置いてかないで!!」
カメラを持っていた樹は、倉敷駅を収めようと、
はしゃぐ由紀子はとりあえず放っておき、
駅の外へと出て行った。
「わっ、綺麗な駅舎!!」
「そうだね」
「イッちゃん、向こうにあるのは何?」
こら、由紀子!樹も初めてなんだから、知っている訳ないでしょう!
…おっ、樹なんか読んでいるぞ。
「TIVOLE PARK…チボリ公園」
「観覧車があるわね。イッちゃんと乗りたいな…」
(少し赤くなる)「早く旅館に行かないと」
「そうね。タクシーで行く?」
「そうだね」
タクシー乗り場に向かい、旅館の名前を告げる。
…実際に告げた時、運転手の人が怪訝な表情をした。
(?)と思っていたら、走り出してわかった。
旅館の方とは反対の出口に出ていたので、
一度線路を渡る必要があった。…バカ。
「反対側の倉敷駅の周辺は他の駅と変わらないわね」
「市全部、古き良き町並みを残してると思った?」
「それはないけど、少しはあるのかと思ってた」
ホテルに三○。「これが倉敷?」と思った私。
でも、旅館が近づくにしたがって、変わっていった。
「距離的に駅から歩いて15分だから、この辺よね」
「そうですよ。ここの信号を曲がったらすぐですよ」
…と、いきなり建物が変わり始める。
旅行のパンフレットに出てくる倉敷らしい建物。
古くから残る家々といった感じがする。
(写真は後で…)
「わっ、道が狭い!」
「ホントだね。よくすれ違える」
「この辺、道が狭いですね」
「他から来た人にはよく言われるよ。でも、慣れだね」
「なるほど…」
一方通行といわれても不思議じゃない道幅。
そこを普通に通る車達。…私じゃ擦るな。
「備前焼…」
「なに?イッちゃん?」
樹が指を指す方を見ると、備前焼看板が。
どうやら、備前焼の窯直営のお店のようだ。
「あ、イッちゃんて、備前焼好きなんだっけ」
「そう。信楽とか、土そのものの味が出ているのが好き」
「明日、寄っていこうね」
「いいの?」
「いいわよ。私も見たいし」
そういって微笑んでいる由紀子。
他にも、お土産屋さんらしき店や、
地ビールをつくっている所を見つける。
タクシーの中からキョロキョロと周りを見渡しているうちに、
旅館の前にたどり着く。
「ありがとうございました!」
運転手さんに、支払いと笑顔とを渡し、
タクシーから降りると、旅館の仲居が二人の姿を認めて、
外に迎えに出てきてくれる。
「ようこそ○○旅館へ。お待ちいたしておりました…」
旅館の建物は、旅館と言うより、普通の民家。
もともと270年前に立てられた蔵を改築して旅館にしているし、
特に旅館とわかる目印もないので、歩いていたら気がつかなかったかも。
「こんにちは。今日はよろしくお願い致します」
「こちらこそ。お二人はお友達同士ですか?」
ちょっと間があいたかと思うような沈黙が一瞬あってから、
「はい、そうです」との樹の返事。まぁ、由紀子なら「恋人です!」と
言いかねないから、先に言ってしまったようだ。
おっ、由紀子にひじでつつかれてるよ。
「いいですね、女二人旅ですか。このあたりは情緒ある町並みが
連なる所ですから、歩いて観光されるのに便利ですよ。
どうぞ、お部屋の方にご案内いたします」
そういわれて案内されたのは2階の部屋。
今日は、宿泊客が少ないので、2階には、二人以外はいないそうだ。
食事の支度も、空いている部屋にしてくれるとの事。
(暗いからわかりにくいですが、部屋中)
「わ〜っ、さすがに由緒ある旅館ね。部屋の中が落ち着く」
(色々と戸棚を空けている樹)「でも、汚い所もある…」
「イッちゃん、せっかく人が雰囲気に浸っているんだから壊さないでよ!」
「ゆっくりできそうだね」
「うん、ここにして良かったかも?」
「夕飯で決める」
「そうね、イッちゃん食事にはうるさいものね…」
二人でワイワイしていると、仲居さんがお抹茶を持ってきてくれた。
旅館で抹茶を出してもらったのって初めて。
「あっ、イッちゃん抹茶飲まないとダメだよ」
「苦い」
「そのためにお菓子があるの。イッちゃんの好きな和三盆よ」
「…」
「コラ!眉間にしわ寄せて飲まないでよ!」
「やっぱり苦い」
「ハ〜ッ…」
お抹茶の入った器は気に入ったけど、
やっぱりダメだったお抹茶。…茶道は私には向きません。
じっと座っていること自体が無理。
仲居さんと色々と旅館についての説明を聞いた後、
先にお風呂にするか、夕飯にするか尋ねられる。
「夕飯」
「…だそうです。すみませんが、先にお夕飯にしていただけますか?」
「はい、かしこまりました。それでは仕度が済み次第参りますので」
仲居さんがニコニコしながら部屋から出て行く。
仕度ができるまで、しばらくは疲れをとる時間となる。
「イッちゃん、お腹すいてるんだ」
「ぺこぺこ」
座っている樹に後ろから抱きつくと、
顔を覗き込むようにして話し掛ける。
「私を先に食べる?」
「…後でいい」
お〜っ、二人して顔を真っ赤にしちゃって。
由紀子も、自分が赤くなるなら言わないの。
しかし、「後でいい」って、私は書かんぞ!!
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