〜旅館での夕食〜

「お待たせいたしました。
お夕飯の準備ができましたので、
隣のお部屋までお願い致します」

2人でのんびりと座椅子に座り、
TVを見ていたら、仲居さんが呼びにきてくれた。

「イッちゃん、お楽しみの時間だね」
「…」(笑顔)
「どうぞ、こちらです」

何も話さない樹だが、異様に目が輝いている。
意外にも食い意地がはっていたりする。

「お食事の間に、お部屋の方にお布団の方をひかせていただきますので」
「よろしくお願いします」

隣の部屋へと移動する二人。
そこは、通された部屋とはまたちょっと違う、
なかなか落ち着いた雰囲気のする部屋。
平日に来たからこそ味わえたこのもてなし。
ちょっと浸れた優越感。

テーブルの上にはすでに、様々なお皿に盛られた料理が並べられている。
当然のことながら、備前焼のお皿も使われていて、
樹はかなりご機嫌そう。それをみて由紀子もニコニコしている。

「イッちゃん、機嫌いいね」
「そう?」
「そうよ。表情にでてるわよ」
「期待できそうだよ」

もちろん、ここでいう期待とは料理の味のこと。
2人とも席に着き、それぞれ目の前にある料理を目で楽しむ。

「食前酒は、こちらの旅館の斜向かいにあります酒蔵で
秋限定で熟成させた地酒でございます」
「あ、イッちゃん、もう飲んでる!」
「いかがです?女性の方にも飲みやすいお味となっていますが?」
「…飲みやすいかな?」

さて、いただいた地酒。姉は純米酒といっていたが、
あの味はどう考えても純米じゃないぞ。
せめて、吟醸だぞ。舌に残ったあの感じは。

「あと、別料金になってしまいますが、やはり、近くに
ございます所で作られている地ビールもございますよ」
「あ、私、そちらをいただけますでしょうか?
イッちゃんはビール苦手だからいいよね?」
「私は遠慮する」
「それじゃあ、一本お願いできますか?」
「はい、かしこまりました。すぐお持ちいたしますので、
お料理の方をお召し上がりください」

「ねぇ、イッちゃん、明日地ビールと、日本酒のお店は寄っていこうね!」
「当然」
「一本にしてよ。それ以上だと、帰り大変だからね」
「わかってる」

…以前、宮城に旅行に行ったとき、つい気に入ったお酒があった為、
つい、720mlを2本買ってしまった私。…当然、他に荷物があったので
ものすごく、大変だった。

「お待たせいたしました。こちらになります」                               

もってきてくれたのは、「倉敷麦酒」
アルトなので、飲んで気持ち甘味があって、香ばしい感じかな?
私は、ピルスや、バイツェンより、アルトが好き。
…ビール自体はあんまり好きじゃないんですけどね。

「あれ?イッちゃんなんでマグロに手をつけないの?」

上の写真の右上の方に置いてあるのは、
マグロにさいの目の山芋プラス鶉の卵。
お酒のつまみになるから、すぐ手をつけていいはずなのに、
手をつけない樹に気付く由紀子。

「気にしないで…」

そういわれては、由紀子もあえて言う必要もないからと、
自分の分の料理に舌鼓を打つ。
次々に運ばれてくる料理。そのどれもが二人を満足させるものであった。

ただ、樹は右の魚が置かれると、明らかに嫌な表情をみせる。

「こちらは岡山名産のままかりになります。頭も全てお召し上がり
いただけます」

仲居さんの説明を聞いて、「これが有名なままかり…」
と感心をしている由紀子。対照的に、目を瞑りたそうな樹。
仲居さんが退室すると、由紀子が尋ねた。

「イッちゃん、これダメでしょ?」
「骨の多い魚に黒酢…無理」
「でもせっかくだから食べてみたら?」

嫌だけど、試してみるかと決心をする樹。
おい、そんなに決心が必要か?(でも、私には必要だったな…)
お、頭から一気に食べてるよ。

「甘い…苦い…もういい」
「えらい!しっかり一匹は食べられたじゃない?」
「あげる…」
「はいはい」

お肉はなく、魚が主体なのはさすが瀬戸内海が近いからか。
写真には載せてないけど、揚げ物が一品あった。
…個人的にはそれはいらなかった。他のがさっぱりしてたのに、
それだけ、異様に重かった。まっ、好みでしょうけど。

「ごはんまだかな?」
「ん、ごはんて最後でしょ?まだじゃない?」
「欲しい…」
「なんで?」
「これ」

樹が指を指したのは、さっき由紀子が「食べないの?」と尋ねたマグロ。

「あ、いっちゃん、食べないと思ったら、ご飯と一緒に食べたかったんだ!
かしこ〜い!私、そこまで頭回らなかった」
「まだかな?」

そんな会話をしていたら、仲居さんが次の料理を運んできてくれた。

「あの、すみませんが、先にご飯をいただけますか?
このお料理をご飯で食べたいものですから…」
「はい、いいですよ。お待ちください」
「良かったねイッちゃん。すぐくるよ」

さっきのままかりの時とは打って変わって機嫌のいい樹。…単純だね〜。

「はい、お待ちどうさまでした」

仲居さんがおひつを持ってきてくれた。
樹は、待ってましたとばかり、おひつのふたを開けたら…。

「あ、申し訳ございません。今日のご飯は炊き込み御飯でした。
いま、白いご飯をお持ちいたしますから…」

そう、その日のご飯は、秋ということもあってか、「キノコ御飯」だった。
…さすがにそれの上にマグロはいただけないでしょう。
もちろんこれは実話。私がやりました、ハイ。

その後、改めて白い御飯を持ってきてくれた。
本当に無理をいってスミマセンでした…。
でも、お陰で、マグロを大変おいしくいただけました!!

「あ〜、お腹いっぱい。満足?」
「満足」
「良かった」

水物もいただき、食事を終えると、ほうじ茶をいただきながら、
少しのんびりする二人。

「失礼いたします。この後はすぐお風呂になさいますか?」
「もう少ししたらでいいですか?」
「そうね、食べたばかりは少しきついですね。
20分くらいあとでお願いしたいのですが?」
「わかりました。それでは、お風呂は1階のほうになりますので、
お仕度ができましたら、お声をおかけください」

部屋に戻ると、すでに布団が敷かれている。
「旅館て、布団がいいのよね」
「なんで?」
「旅館にきたって感じしない?」
「そう?」
「イッちゃんにはわかんないだろうな〜」
「…」

(わからなくても良いや)と思っている樹であった。



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