〜旅館での朝〜
「ほら、イッちゃんお風呂はいるんでしょ?」
「…由紀子、まだ眠い」
「ダメ。起きる」
「う〜ん・・・」
朝の6時過ぎ。
昨日、仲居さんから朝もお風呂は入れることを聞いていたので、
朝も入ることに。その方が目覚めもいいし、スッキリもする。
樹は伸びをしてあくびなんかしてる。おうおう、眠そうだね〜。
由紀子はそんな樹の代わりにお風呂に行く支度をしてあげている。
「はい、これもって、いくわよ」
「ありがとう…」
下に降りていくと、人の姿はなかった。
ただ、朝食の支度をしている気配は感じた。
「さっ、お風呂、お風呂っと!」
鼻歌なんか歌っちゃつて、機嫌がいい由紀子。
昨日の夜、良いことあった?
樹はいつもの通りというか、まだ眠たそう。
歩きながら、片手を口に当ててあくびしてる。
また同じヒノキ風呂へと入る二人。
軽くシャワーを浴びると、仲良く浴槽へと入る。
「この後、もう一度寝ていいからね」
「いいの?」
「うん。あくびされながら歩かれたら、情緒も何もないもの。
でも、1時間だけよ。朝食を8時半にお願いしてあるから」
「十分」
「ほんとかしら?」
「多分…」
浴槽の中でじゃれあう二人。お風呂のお湯が湯船からこぼれていく。
さっとお風呂を済ませると、もう一度浴衣に着替える。
脱衣所から出ると、仲居さんが朝の支度をしているのに出くわす。
「おはようございます。昨夜はよく寝れましたか?」
「…はい」
間を置いて返事をする樹。君って正直者!
そのまま階段を上がり、部屋に戻ると、さっそく布団に横になる樹。
「起こして」
「わかってる」
樹のことだから、別に起こさなくても1時間後には起きるのはわかっている。
でも、優しく微笑みながら、うなずく由紀子であった。
樹が寝ている間に、由紀子は身支度を始める。
樹に寝てもいいといったのは、どうせ支度をしている間に飽きると思ったからだった。
8時半になる。仲居さんが朝御飯の支度ができたことを知らせてくれた。
その頃には、由紀子も、樹も外に出かける支度ができていた。
「イッちゃん、朝ごはん、食べられるの?」
「少しは食べる」
「無理しなくていいからね」
そう、樹は朝はほとんど食べない。食べてもヨーグルトぐらい。
朝食を抜くと頭に悪いとはよく言うけれど、習慣的なもので、
食べてしまうと、胃が持たれ、午前中使い物にならなくなるので、
それよりはと、朝食を抜くことにしているのだ。対照的に、
由紀子はしっかりと朝御飯は食べる。会社に遅れても、
しっかりと取るのではないだろうか。…まだないけれど。
喫茶室のような所に朝食の支度がされていた。
すでに、他のお客さんは食事を終えたらしく、
空になったお皿がテーブルの上に乗っていた。
「わっ、豪華!全部食べられる?」
「食べられるだけ食べる」
「そうね、ゆっくりいただきましょうか」
「いただきます」
両手を合わせ、ぺこりとお辞儀をする樹。
そんな仕草が可愛くて、思わず笑みを浮かべる由紀子。
朝食の内容は、のり、鮭の焼いたのと、生のたらこ、梅干に、おからを炊いたもの。湯豆腐に生ハムサラダ…それに果物。豪勢だ…。さすがに全部は食べられませんでしたね。でも、おいしかったです。
食後にコーヒーをいただく二人。
「イッちゃんよく食べたね」
「おいしかった。…お腹へってたし」
「ふふ、そうよね」
「部屋に戻る?」
「そうしよっか」
「ご馳走様」と言ってから、その場を立ち去る二人。
部屋に戻ると、すでに布団は片付けられていた。
「イッちゃん、私が決めていいの?」
「いいよ。でも、備前焼だけ買いたい」
「わかってますって!じゃぁ、この辺の散策をして、
そうね、午後の2時の新幹線に乗って帰ろうね。
明日は二人とも仕事だし、その方がいいわよね」
「それでいいよ」
「よ〜し、それじゃぁ支度をしましょうか!」
洋服はすでに着替えていたので、身支度を済ませ、
荷物をまとめると、旅館の支払いを済ませる。
「今日は天気にも恵まれましたし、良い散策日よりですね。
もしよろしかったら、帰られるまで、お荷物はお預かりいたしますよ」
「いいですか?」
「はい、よろしいですよ」
玄関先でこんな会話が交わされ、旅館の方のご好意に甘える。
「じゃぁ、行ってきます!」
「行ってきます…」
さて、倉敷の古きよき町並みを観に行きましょうかね!
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