屋上でお昼休みを過ごす日々が続いていた。
そんなある日、朝から雨が降ってしまった。
(そういえば、青柳さん、雨の日はどうしているのかしら?)
彼女は桜の樹の下を自分の所定の位置と決めているらしく、
毎日、その姿をその場所で見ることができた。
でも、さすがに雨の日はそこでは食べられない。
(雨が降っても食べられる所・・・体育館の裏か、空き教室かしら?)
退屈な古文の授業が終わり、お昼となる。
私は青柳さんの行く先が気になり、彼女のほうに視線を向ける。
・・・と、教科書を鞄にしまっている彼女と目が合ってしまった。
(あっ!?)
自分がしていることに少し後ろめたさを感じ、
顔を伏せようとしたら、彼女は扉の方を指差していた。
(外へ・・・ってこと?)
同じ方向を私も指差すと、彼女はわずかに微笑んだ。
そしてその方向へお弁当を持って歩き出し、扉の外で合流する。
「ちょうど良かったわ。誘おうと思っていたから」
「・・・・・・」
「雨の日に屋上は無理でしょ?だから、私の使っている場所で
良ければお誘いをしてみようかと思っていたの」
「ありがとう・・・」
彼女は私が屋上で1人で食べているのを知っていた。
そして、今日の雨だと食べる所に困るのを気遣い、
一緒にと誘ってくれた。
・・・意外だった。誰にも心を許さないような、
無関心な人かと思っていたのに。
目的の場所もわからないまま、素直に彼女の後をついていく。
・・・たどり着いたのは図書室だった。
「この中よ」
扉を開け、中に入ると、カウンターに座る委員に軽く頭を下げる彼女。
そのまま奥にある資料室のドアへと向かっていった。
「雨の日はいつもここを利用させてもらっているの」
めったに利用することの無いその部屋は、
古そうな本や、厚いで本棚が埋まっていた。
そして、そこで調べ物ができるようにと部屋の中央に
置かれているテーブルの上にお弁当を置くと、
彼女と私はパイプ椅子に腰を下ろした。
「図書委員の職権乱用よ」
そう言うと、彼女は子供のような無邪気な笑顔を見せた。
いままでの彼女のイメージが崩れていくのがわかった。
「こんな形で片野さんと話す機会がもてるなんて、ちょっと複雑ね・・・」
「・・・そうね」
私はどう答えて良いか戸惑いながら、お弁当のから揚げを口の中に入れる。
「あなたともっと前から話したいと思ったの」
卵焼きにハシを伸ばしながら、嫌味の無い笑顔をする彼女。
その笑顔が私の心を楽にしてくれそう・・・。
「話し掛けてくれればよかったのに」
「・・・話し掛けにくくて」
「そうかも・・・しれないわね」
ようやく私も彼女に微笑み返すだけの
ゆとりが生まれてきていた。
・・・と、ふと思ったことを尋ねてみる気になった。
「失礼なことを聞いてもいい?」
「何かしら?」
「一人で・・・いつも一人でいるのはなぜ?」
「一人が楽だから」
間が空くことなく、即答で笑顔とともに答えが返ってきた。
「でも、本当はいたくているわけじゃないの。ただ、人を傷つけてしまいそうで・・・」
・・・その一言で全てがわかった気がした。
彼女は誰とも関係をもちたがらない理由を。
・・・人とのつながりをもつことが、傷つけることとなるから。
相手を傷つけたくない、自分を傷つけたくない。
傷つくことは辛い事だから。たとえそれが経験となると
わかっていたとしても・・・。
「私でいいの?」
「えっ?」
「・・・だって、こうして声をかけたってことは、
繋がりを持つってことでしょ?それともこのままサヨナラ?」
ちょっと意地悪そうな笑みを浮かべながら、
彼女・・・美樹に問い掛けた。美樹はちょっと
私の言葉に驚いた様子だったけれど、
軽くため息をつくと私のほうをしっかりと
向いてくれた。優しい笑顔とともに。
「・・・あなたなら解ってくれると思っていた」
由紀子:「・・・とまぁ、これが私と美樹のなれ初め」
美樹:「この後、私たちは気の置けない関係を築いたぐらいで、さっき、由紀子が冗談で言ったことはなかったわよ」
由紀子:「そんなことないわよ」
朱実:「由紀子さん、どういうことですか?」
樹:「・・・・・・」
由紀子:「私が美樹に惹かれていたことは紛れも無い事実だから」
美樹:「由紀子?」
由紀子:「苦しんでいたとはいえ、自分に素直に生きている美樹がうらやましかった。私、どっかで自分に仮面をかぶせている気がしていたから。でも、美樹には自分は必要とはされていない。あくまでも友達でいるべきだと思った」
樹:「なぜ?」
由紀子:「その時にはわからなかった。でも今ならわかる。私にはイッちゃんとの出会いが用意されていたからだって」
樹:「・・・」(顔が真っ赤)
朱実:「話を聞いていて、私、思ったんですけど、もしかして、樹さんと、美樹さん、似ていませんか?」
樹:「・・・名前に『樹』があるし」
由紀子:「そうね、確かに似ているかも。イッちゃんが言ったように名前がじゃなくてね。だって、私がイッちゃんに初めて会ったときに気になったのって『美樹に雰囲気が似ている』だったからだし」
樹:「もしかしてそれが話したくなかった本当の理由?」
由紀子:「・・・そうよ。だってこんな話をしたら、イッちゃん、傷つくと思っていたから。でも、今なら美樹のことを知っているから、大丈夫だと思って・・・怖かったの。ごめんね」
(立ち上がると由紀子を抱きしめる樹)
樹:「いいよ、こうして話してくれただけで。ありがとう、由紀子・・・」
由紀子:「許してくれるの?」
樹:「由紀子の過去を話してくれただけで十分。辛い思いさせた・・・」
由紀子:「イッちゃん・・・」(胸に顔を埋める)
優しく由紀子の髪をなでる樹。
由紀子はそんな樹の優しさに胸が詰まってしまう。
そんな2人を見て、顔を見合わせて笑顔する美樹と朱実。
美樹:「さて、2人の仲が深まったようだし、どう?飲む?」
朱実:「美樹さ〜ん!私も由紀子さんも明日、会社ですよ〜!!」
樹:「私も仕事があるけど・・・」
由紀子:「2人とも、少しぐらいなら飲むわよね?」
由紀子にこう言われて2人が逆らえるはずがない。
4人の楽しい会話は、この後、夜遅くまで続くのであった。