次の日、いつものように学校に登校する。

啓子と一緒にと思って、彼女の家に寄ったが、

すでに出かけてしまった後だった。

しかたなく、私は一人で登校したのだった。

 

教室に入ると何ヶ所かで何人かの輪ができていた。

別に、普段から見慣れた光景だったけど、

今朝はなんとなく、違和感を肌で感じる事ができた。

私はそれに臆することなく、近くのクラスメイトに挨拶をした。

 

「おはよう」 

いつものように挨拶をして、

いつものようにみんなが私を見て、

いつものように挨拶が返ってくる・・・ことはなかった。

 

冷たい、突き刺すようないくつもの視線。

それも、挨拶をしたグループだけではなく、

教室内にいた全てのクラスメイトや、

他のクラスの人たちまで同様の視線を向けていた。

 

(まさか・・・!?)

・・・思い当たる節はひとつしかない。

(啓子・・・あなたなの?)

・・・もともと人付き合いが悪いと言われていたし、

優等生ぶっていると陰口を叩かれていた。

でも、それでクラスのつまはじきになる事はなく、

どちらかと言えば、ストレスのはけ口のような立場だった。

 

それもあまり好ましい立場にいるとは思っていなかったけど、

それでも啓子や千恵といった友人達が、

「気にしない。私達がいればいいじゃん!」と言ってくれていた。

その千恵がツカツカと私に歩み寄ってきた。

 

「バシン!!」 

・・・ことばが出される前に、手が出された。

怒りに満ちた目・・・。裏切られたという表情・・・。

 

「由紀子、私、あんたのこと見損なったよ。

友人の好きな人を取るなんて、最低だよ。

そんなやつだなんて思わなかった・・・。

あんたとは友達の縁を切るからね。じゃぁね!!」

 

それだけを言うと、成り行きを見守っていた人たちを

すり抜けるように向こうへと去ってしまった。

私はただ、呆然とさる姿を見詰めるしかできなかった。

 

(弁解をする機会は与えてもらえないのね・・・)

 

そう思うだけで精一杯だった。

私は啓子と話がしたいと思い、彼女の姿を見つけたが、

すでに、私のことを快く思わない人たちに何重にも囲まれ、

私が話したくても、話す事すらできなくなっていた。

 

結局、私は一言も啓子と話しをすることができなかった。

弁解することもできないまま、この日を境に、

私の周りに人が近寄ることがなくなった・・・。

 

この手のうわさは広がるのが早いようで、

他のクラスにも私のことが伝わっていた。

うわさに尾ひれ背びれをつけたかったのか、

「親友の恋人を寝取った」とも言われていたらしい。

 

学校に行くのが嫌になったのは当然・・・だろう。

でも、実際に登校拒否をすることはできなかった・・・。

 

針の筵が自分の周りに敷き詰められているような空間。

鋭い痛みが心を突き刺していく。・・・辛い。

休み時間は文庫を読む振りをして、周りを気にしないようにした。

お昼休みは・・・屋上に行き、1人で食べるようにしていた。

屋上で食べるグループもいるけれど、

一人で食べているのは、私だけだった。

 

みんなから逃げるような生活を始めて一週間が経った。

今日も、お昼を屋上で食べようと階段を上る。

少し重い扉を開けて屋上に出ると、今日はまだ他に誰もいなかった。

 

「せっかくだから、たまには違うところにしよっかな・・・」

そう思って、いつもは校庭が良く見える位置に座るのだが、

校舎の裏が見える所に席を取った。校舎の裏には桜の木が植わっている。

もうそろそろ散り始める桜だが、まだ、十分鑑賞に堪えられる美を放っていた。

 

「綺麗だ・・・。あれ?」

私は、桜の木の下に近づく人影を認めた。

その人物は樹にもたれかかるように座ると、

伸ばした足の上にお弁当を広げ始めた。

・・・ほとんど話したことの無いクラスメイト。

 

私はその人が同じクラスという認識はしていたが、

話し掛けるきっかけが無かった・・・持たせてくれなかった。

 

−存在感を感じさせない人。誰にも心を開かない人。

生きることを・・・否定している人。そしてそれに

違和感を感じさせない不思議な人−それが青柳美樹だった。

 

 

 

朱実:「由紀子さん、何も悪くないじゃないですか?なぜ反論を啓子って人にしなかったのですか?」

由紀子:「もし・・・私にまったくの責任が無かったら、そうしていたと思う。でも、あの時の私にも、彼女をその気にさせてしまったという非があったと思うの。だから、反論して逆に啓子を追い詰めたくなかった」

樹:「由紀子らしくないね」

由紀子:「そうね、確かに私らしくないわよね。何も言わずにみんなの言わせたいままなんて。でもね、イッちゃん、あの時の私は・・・追い詰められていたのかもしれない」

樹:「追い詰められた?精神的に?」

美樹:「他から見ていても辛くないかと思ったもの」

由紀子:「そうなの?」

美樹:「言ったことはなかったけどね。由紀子は良い意味でも、悪い意味でも、目がつく人間なのよ。どんなことをしても、それが他の人なら許されることだったとしても、注目され、非難される」

朱実:「由紀子さん、確かに会社でも目立ちますものね」

由紀子:「コラ朱ちゃん、それはどういう意味?」

朱実:「えっ?あっ・・・あの、私の同期で先輩に憧れている人、多いですよ。カッコイイですもの、由紀子さん」

由紀子:「上司に文句を言っている姿がかっこいいのかしら?」

朱実:「私たちの代表みたいに上の人に意見を言ってくれるからですよ」

 

樹:「由紀子・・・辛いことがあったんだ」

美樹:「樹さんに本当に何も話していなかったのね」

由紀子:「だって・・・やっぱり辛いじゃない?それに、イッちゃんに私の弱い所みせたくなかったし、美樹とのこともあったしね」

樹:「・・・やめる?」

由紀子:「いいわよ、ここまできて。・・・あのね、『人のうわさも75日』と言うけれど、女子校なんて、それこそ一週間で、ほとんどのうわさは下火になるものでしょ?それが、私の場合、普段の行いが良すぎたのか、全然変わらなかったのよ・・・」

 

 

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