クレしん科学読本 その3 ぶりぶりざえもんの落下

終わるなぁ〜〜!
映画「クレしんパラダイス!メイド・イン・埼玉」で、最後にぶりぶりざえもんの冒険・銀河篇があり、ぶりぶりざえもん(以下、”ぶりざえ”と略します)が宇宙から地球に落下して火の玉となっていました。もし実際にこんなことが起きたら、どうなってしまうのでしょうか。いったいどれほどの威力があるのでしょうか。

大気が守る
宇宙から地球に物体が落下してくることは実際にあります。例えば、隕石がそうです。話題になったしし座流星群のような流れ星も、宇宙空間に浮かぶちりや砂粒が地球の引力によって落ちてきているものです。さて、ここで地球には厚さ数百kmの大気があり、落下してくる物体から地球を守る役目を果たしているという事実があるのです。実際劇中でも地球のふちがぼやけていて、大気があることを物語っています。よって、ぶりざえが実際に宇宙から落下してきた場合、ぶりざえは地球大気との摩擦で溶けて蒸発してしまうはずなのです。よって科学的に考えたら、地上には被害が及ばないはずです。

熱エネルギーは20日分
しかし、劇中では爆発しています。溶けて蒸発するなら爆発はしません。よって、実際に地表まで到達していると考えざるを得ません。もしぶりざえが爆弾でも持っていたら、摩擦で燃え上がる時に爆発する可能性はありますが、持っていそうな様子はどこにもありません。爆弾処理2級の免許は持っていましたが(笑)。とすると、見た目は普通の生物体だけれど、実は熱に強い体になっていると考えてみましょう。例えば、鉄並みの強さがあったとしましょう。鉄は1535度Cで溶け、2754度Cで沸騰するのでかなりのものですが、発生する摩擦熱のエネルギーがどの程度になるかを調べるためには、ぶりざえの体重がわからないことには計算できません。ここで、現在のオープニングテーマ「ダメダメのうた」を見てみると、しんのすけがぶりざえを頭の上まで持ち上げているシーンがあります。5歳児が軽々持ち上げられるとするなら、せいぜい3kg程度ではないでしょうか。ただし、このシーンではかなり勢いをつけていて、それも一瞬なので、5kgくらいでもなんとかなるかな。すると、宇宙空間から地上まで落下するとき、全く抵抗がなければ、衝突時のぶりざえが持つエネルギーは3億1360万Jとなります。このエネルギーが地面に衝突したときの音と揺れに変わるのですが、大気との摩擦熱に変わるエネルギーがかなりあります。簡単に、50%が熱に変わるとしてみましょう。すると、熱エネルギーは1億5680万Jで、お馴染みの単位に直すと、3万7422kcalになります。人間が20日間普通に生活できるエネルギーです。これだけのエネルギーを与えると、20度Cの水なら468リットルを沸騰させることができます。生物は半分以上が水でできていて、これだけの熱エネルギーを受ければ、体重5kgのぶりざえは蒸発して消えてしまうはずです。現に20度C、5kgの水を蒸発させるのに必要なエネルギーは3100kcal。うわぁ、ひとたまりもない!鉄製のロボットであったとしても、2700度Cほど温度を上げなければなりませんが、鉄は水より温まりやすいため、20度Cの鉄5kgを溶かして沸騰させるのに必要なエネルギーは単純計算で1822kcalにすぎません。実際には高温になると結晶構造が変わるので単純にはいきませんが、やっぱりぶりざえは途中で消えてしまうことになります。

なんだ、こんなもんか
 溶けて蒸発してしまうという結論では予想通りでつまらないから、とりあえずなぜか溶けずにそのまま地上まで落ちてきたとして、今度は音と揺れについて考えてみましょう。地上に衝突したときに地面に与えるエネルギーは1億5680万Jになります。このうちの20%が音になったとしてみます。音は発生する時間がわからないとどのくらいになるかわからないですが、仮にぶりざえが地面に接触している時間を0.5秒とするなら、音の強さは158ホンとなるのですが、人間の耳には130ホンまでしか聞こえず、それ以上になると強烈な不快感を覚えたり、失神してしまうのです。ただし、これは落下地点から1m離れた地点での値で、音のエネルギーは距離の2乗に比例して小さくなるため、実際に失神するのは落下地点から25m以内に限られます。意外と被害は小さかったですな。最も人口密度の高いモナコ公国に落下した場合でも直接的な被害を受けるのは31人ということになります。日本だったら0.7人にすぎません。
 あとは地面の揺れですが、配分されるエネルギーは1億2544万Jです。これだけ壮大なエネルギーを地震のマグニチュードに換算すると、・・・ありゃ、2.2。これまた意外な小ささ。ただ、この地震は地表面で起きるので、いくらかの被害は出るかも。実際に地表で起きた地震は観測例がなく、どの程度の被害になるかまではわかりませんが、落下地点の周辺100mくらいでは建物の倒壊があり得るかも。

ここまでいろいろやってきたのに・・・
 しかし、ここでもう一度映画のシーンを見直してみると、大問題を発見してしまいました。大気圏突入から地面まで落下するのには秒速11.2kmとして約1分30秒かかるはずなのですが、劇中ではそんなにかかっていません。実際は空気抵抗が働いて、時速200km(秒速56m)程度が限界なので、もっとかかるはずです。いつ大気圏に突入したかがはっきりしないので推定ですが、突入から1、2秒程度で火の玉になってました。ということは、やっぱりぶりざえは爆弾を隠し持っていて遙か上空で爆発してしまったと考えなきゃいけなくなっちゃいました。今までの議論は何だったの?
 というわけで、もし実際にぶりざえが宇宙から落下してきても、遙か上空で消え去ってしまい、地上では何も被害がないことになりました。ただ、もしも本当に蒸発せずに落ちてきた場合は、上に示した被害以外に衝撃波による被害が考えられます。衝撃波とは、物体が空気中を音速以上の速度で移動したとき、空気の動きが物体についていけず、固まって同時に進むもので、エネルギーが固まっているため大きな破壊力を持つのです。実はこの衝撃波の被害が一番大きかったりして。・・・と思ったけど、実際に衝撃波に真っ先にやられるのはぶりざえ自身であって、やっぱりぶりざえは途中で消えるのでした。地上は安泰です!

  終わるなぁ〜〜!
実際にぶりぶりざえもんが劇中で言い残した言葉。







隕石(いんせき)
宇宙から落ちてくる石で、その構成成分によって鉄質隕石、石鉄隕石、石質隕石に分けられる。重さ数10gから数100kgまでさまざま。












爆弾処理2級の免許
2000年4月21日放送のスペシャル「ゴールドフィンガー銀ちゃん」で登場する。もちろんまがい物。



「ダメダメのうた」
2000年6月からのオープニングテーマ。LADYQという人が歌っている。ものすごいハイテンポな歌。

J(ジュール)
エネルギーの単位で、例えば1kgの物体を10.2cm持ち上げるのに必要なエネルギーが1J。1cal(カロリー)は1gの水の温度を1度C上げるのに必要なエネルギーで、1J=0.24calまたは1cal=4.18Jという関係がある。また、1kcal=1000cal。


















ホン
音の大きさを表す単位。普通の会話が60ホン、電車が通るガード下が100ホン、飛行機のジェットエンジンが120ホンだという。
モナコ公国
ヨーロッパにある国。地中海に面し、フランスと国境を接している。カジノで有名。面積1.95平方kmの小国ながら人口3万1000人で、人口密度は1万5897人/平方kmとなる。ちなみに日本の人口密度は335人/平方km。(1994年)
マグニチュード
「地震の震源の真上の地面(震央という)から100kmの距離にある特別な地震計の振幅をミクロン単位で測ってその常用対数をとったもの」というのが定義で、エネルギーEとマグニチュードMの間には
logE=11.8+1.5M
という関係がある。ただしEにはエルグという単位を使い、1J=1000万エルグである。
・・・うーん、何のこっちゃ?
秒速11.2km
この速度は、地球の引力圏を脱出するのに必要な速度で、第2宇宙速度と呼ばれる。ここでは逆に宇宙から地上までの話だが、最終的な到達速度は同じになるはず。ちなみに、第1宇宙速度は地面すれすれを飛ぶために必要な速度で、秒速7.9km。

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