クレしん科学読本 その6 3段重ねスバル360の運命は
これはメールでいただいたネタですが、映画「オトナ帝国」において、スバル360が3段重ねになって走っているシーンがありましたが、排気量360ccのスバル360が3段重なっても走れるものなのか検証してほしいということがかなり前にありました。 いちおう走れそうです… さて、さっそく検証を始めてみることにします。そのために、まずスバル360のスペックを調べる必要があります。ネットで調べることができるから便利な世の中です。調べた結果、排気量は356ccのようです。ただ、排気量だけではパワーはわかりません。パワーは馬力で表され、スバル360は16馬力だということがわかりました。また自重は385kgとのことです。あのシーンでは1台に4人の人間が乗っていましたから、車1台あたり約600kgとなります。本当はもう少し重めでしょうが計算が楽そうなので…。すると3段重ねの一番下の車は1.8tの重量がかかっていたことになります。これを16馬力で動かせるのかどうか、ということになりますね。とりあえず計算しやすいように馬力の単位を国際的に使われる単位に変えます。すると、16馬力は11.7kWに相当します。11.7kWとは1秒で11.7kJ(ジュール)のエネルギーを出せるという意味なので、これに見合う1.8t車の速度を計算すると、13km/hとなりました。走ることはとりあえず可能なようです。しかし、他の車と同じ速度では走れそうにありません。 でもよく考えると? ただし、あの場合は走っている状態で2台目、3台目が積みあがってきました。物体には慣性というものがあり、外から力を受けないという条件下では、動いているものはそのままの速度で動き続けようとするものです。なので、13km/hより速い速度が出ていてもとりあえずおかしいとは言い切れないかと思います。まあそうだとしても、おそらく2台目を乗せたところから徐々に減速していき、最終的にはアクセル全開にしても13km/hまでしか出ない状態になると思われます。しかし、劇中では3段重ね状態になってからさらに加速するというシーンがありました。あれはスバル360のエンジンでは無理なようです。エンジン積み替えなどの改造でもしていたのでしょうかね。 ああ悲し、地面にめり込むスバル360… さらに、もうひとつの問題があります。それは、圧力の問題です。一般の乗用車のタイヤに比べてダンプカーのタイヤは明らかに幅が広く、また直径も大きいです。これは、ダンプカーが乗用車より重いので、タイヤと地面との接地面積を大きくするためです。接地面積が大きければ大きいほど、地面にかかる圧力は小さくなります。スバル360は小型の車ですからタイヤも小さく、幅も狭いものです。スバル360オリジナルタイヤのサイズは「4.80-10-2PR」だそうですが、これでは意味がよくわかりません。調べたら、最初の4.80がタイヤ幅で、単位はインチです。次の10がリム径(ホイールの直径みたいなもの)で単位はやはりインチです。最後の2PRですが、タイヤ強度を表しているようです。重要なのはタイヤ幅ですが、約12.2cmです。これをもとに接地面積を考えると、350cm2程度となるかと思われます。通常なら600kgを4つのタイヤで支えるので、1つのタイヤあたり4.3t/m2程度の圧力がかかるということになります。地面が耐えられる圧力を地耐圧といい、埼玉県所沢市のとある場所で試算したところ、約5.2t/m2という結果が出たという資料がありました。これなら2階建ての家屋が沈下する恐れもないということでした。1台のスバル360であればこの範囲内ですので地面に沈み込むこともないでしょうね。しかし、1.8tある3段重ねスバル360は12.9t/m2もの圧力を地面に及ぼします。この場合地耐圧をオーバーするので、あえなく地面にめり込んでしまって走行不能に陥ることでしょう…。 まとめ そういうわけで、結果的に3段重ねのスバル360がたどる運命とすれば、そのまま地面にめり込んで終わりです。仮にかなり頑丈な地盤だったとしても、13km/hという自転車並みの速度しか出せずに他の車から置いてけぼりにされるのは明らかです。劇中ではそのどちらにもなっていなかったので、おそらく車体に改造を施してタイヤ幅が広いものを使っていたとか、エンジンパワーを強くしていたとか考えざるを得ないかと思います。 |
「オトナ帝国」 2001年劇場公開作品。正式タイトルは「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」というちょっと長いタイトルになっている。全国で120万人を動員し、シリーズ史上第3位の興行収入を記録した話題作。 排気量 エンジンが一度に吸い込むことのできる混合気の量(もしくは一度に吐き出すことのできる排気の量)。その数値は、エンジンのシリンダーの(内径×0.5)の2乗×π×行程(ピストンが動く距離)×気筒数で求められる。原理的にはこの排気量が大きいほどスピードを出せるが、燃費が悪くなったり自動車税が高くなる弊害も。ちなみに現在では、日本の乗用車での最小排気量は軽自動車の660cc。 馬力 仕事率の単位の一つで、1秒あたりどれだけの仕事ができるかを表す。仕事率の単位はW(ワット)で表され、1馬力は一般的に735Wに相当する。語源はやはり、1頭の馬が発揮できる仕事率による。 圧力 定義とすると「単位面積あたりにかかる力の大きさ」で、単位にはkg/m2などを用いるが、他にも空気の圧力、すなわち気圧にはPa(パスカル)やbar(バール)を使用するなど、さまざまな単位系が存在している。国際統一単位系で書くならばN/m2(ニュートン毎平方メートル)。 インチ アメリカなどで使われている長さの単位で、1インチ=2.54cmの関係がある。 地耐圧 説明は本文に書きました。求める数式は1/3(α*c*Nc+β*γ1*B*Nr+γ2*Df*Nq)だとかいうとても複雑なものを使うみたい…。 |