CHEF'S OFFICE

これからのKOCHI料理によせて
 
(お試しルセット5題)
去る11月9日、高知のRKC調理師学校において<これからのKOCHI料理>というテーマで催しがありました。<地産地消>の立場からこれからの高知料理を考えるという企画で、フランス料理店ながらラ・ヴィルフランシュもいくつかの提案を試みることにいたいました。

公表し広く呼びかけることを目的にしたルセットです。マリオのホームページにも掲載しようと考えました。土佐人は手間暇かけるのが大嫌い。どれも簡単にできるやさしい料理ばかりです。高知の方も高知以外の方もぜひお試しください。 

 *画像をクリックしてください。ジャンプします。

2003年11月30日マリオ       

野菜ピザ、酒盗風味
 ユズと酒盗風味に作る野菜ピザ
イサキの洋風潮汁
作りはプロバンス・スープでも、気持ちの置き場は潮汁。鮮度で勝負の焼き魚スープです。
ウナギのハイカラ焼き
ウナギ、イワシ、白子などに適した、トマトで作る即席グラタン
チャーテの白ワイン煮
果物の風味とパリッとした歯触りが特徴の白ワイン煮。ラ・ヴィルフランシュのスペシャリテ。
アロエのシロップ煮
苦くない。刺身アロエのシロップ煮。
これからのKOCHI料理によせて
 ちょっと面倒な理屈。


野菜ピザ。柚と酒盗が決め手です。
野菜ピザ、酒盗風味


ユズと酒盗風味に作る、園芸王国高知の特産野菜ピザ。
高知ではなんでもユズを使いたがるところがあります。酒盗(シュトウ)はカツオのはらわたの塩辛。伝統食品です。この二つの働きで割に格調高いピザになります。


材料(野菜類)
野菜(タマネギ。ナス。ピーマン。トマト。ズッキーニ、キュウリ、オクラなど任意の夏野菜適量。)ゆず。ニンニク。ブーケガルニ。オリーブ・オイル。
材料(ピザ用)
ピザ用パート。酒盗(シュトウ。カツオのはらわたの塩辛)。ニンニク。グリーン・オリーブ。
チーズ(モッツァレラ。エメンタールまたはグリュイエール。パルメザンなどを好みにミックス。)
オリーブ・オイル。

作り方
1) 野菜はラタトゥイユの要領で煮ておく。風味つけにブーケ・ガルニの他にゆずジュースとピール(皮をおろし入れる)を用いる。生の食感を大切にしたい食材は生のままピザに散らすとよい。なお、写真は安芸のハッピー・トマトを煮野菜とは別に生で散らした。

2) パートを伸ばし、刻んだ酒盗を散らしたうえに煮野菜を広げる。
好みの香草。グリーン・オリーブ。ピーナツ大に小さく切ったニンニクなどを置き、削り出したチーズを上に散らす。オリーブ油適量をかけ、高温のオーブンでピザに焼き上げる。(なお、酒盗を野菜に混ぜ込むのも一法。)

ラタトゥイユ(参考)
材料 タマネギ200g。ナス500g。ズッキーニ500g。
ピーマン100g。トマト600g。
ニンニク3片。ブーケガルニ1本。
オリーブ・オイル150cc。
作り方 鍋にオリーブ・オイルを入れ、火にかけてニンニク、タマ
ネギ。ナスなど、順次材料を加えて野菜から出た水分で煮
る。決してニンニクを焦がさない。野菜炒めではない。

ピザ用パート(参考)
材料 小麦粉500g(強力300g/薄力200g)
ドライ・イースト10g。塩10g。バター50g。
水と牛乳300cc。
作り方 材料すべてを混ぜ合わせ、パン生地のようになめらかに練
り合わす。1次発酵後に分割し、軽く発酵させてから成形
する。


イサキ。焼き魚をスープに仕立てる。
イサキの洋風潮汁


イサキ。ホウガンその他の地魚をバリリと焼いてスープ仕立てで食べる。作りはプロバンス・スープ。でも、気持ちはまさに潮です。鮮度と塩使いがすべてです。

下準備
イサキはおろして、アラでスープを取る。(4人前につき4〜500gのイサキ2匹。600cc程度を目安に)

煮汁はクールブイヨン。風味はニンニク。サフラン。オレンジピール。トマト。ショウガ。レモン汁。セージ。オリーブオイルなど。20分ほど強く煮立ててスープを取るのがコツ。

クールブイヨンがない場合は、改めてクールブイヨンを取るのではなく、必要な香味野菜と魚を一緒に煮ると手間が省ける。また煮汁の3〜4分の1量を白ワインにすると別の風味が加わる。

作り方
1)骨抜きをした下ろし身は調味してオリーブオイルでグリル。

2)皿の中に焼きたての魚を置き。熱々のうちに再調味して仕上げたスープを注ぐ。

 *このスープにはニンニク風味のトースト、ルイユなどを添える。(ルイユはブイヤベースに不可欠の調味料で唐辛子とニンニクの一種マヨネーズのようなソース。)

クール・ブイヨン(参考)
材料
(1g分)
タマネギ100g。ニンジン70g。セロリ少々。
パセリ茎少々。タイム、ロリエ、エストラゴン。コショウ。
水1l。
作り方 材料全部を鍋入れて沸騰させ、穏やかに30分ほど煮出して目の細かい漉し器で漉し取る。

ルイユ(参考)
材料 ニンニク2片。赤唐辛子2本。食パンの薄切り1枚。
卵黄1個分。オリーブ・オイル200cc。
魚のスープ適量。塩コショウ。
作り方 ニンニク、赤唐辛子、湿したパンを順次すりつぶす。卵黄を加え、オリーブオイルでマヨネーズ状のソースを作る。魚のスープと塩コショウで濃度と味を調える。


ハイカラ焼きとチャーテの白ワイン煮。
ウナギ(イワシ・白子)のハイカラ焼き


トマトを使った即席グラタン。ウナギ、イワシ、白子などに好適です。写真は、次のチャーテの白ワイン煮と一緒に撮りました。

材料
ウナギ、イワシ。白子など。
よく熟れた、実のしっかりしたトマト。
好みの香草(バジル。パセリ。エストラゴン。ディル。セルフィーユ。シブレットなど。)
パルメザンチーズを混ぜたパン粉。(これにも香草を混ぜるとよい。)

下準備
ウナギは白焼き。イワシ、白子は少し強めに調味してワインで蒸し煮して冷ましておく。

調理
1) トマトを適当な厚みにスライスし、調味して表面を焼く。

2) ウナギはトマトの上に形よく収まる程度の大きさに切り、塩コショウで強めに調味し、粉をつけてオリーブオイルでフライパン焼き。焼き色を付ける。

3) トマトの上に刻んだ香草を散らし、ウナギを形よく並べ、ミックスパン粉を振りかける。

4) オリーブオイルを注ぎかけてグラタン仕上げ。(サラマンドルや上面のみのグリラー、オーブントースターなどを用いる。グラタンの仕上がりが、トマトの焼き上がりであるように工夫する。)


チャーテ別名ハヤトウリ。
チャーテの白ワイン煮

果物の風味とパリッとした歯触りが特徴の白ワイン煮。
 (料理の写真は上のハイカラ焼きを参照してください。)

ラ・ヴィルフランシュのスペシャリテとしてすでに定着しています。ウリ科の作物にはすべて応用できる料理です。

ちなみに、チャーテは英語名(chayote)の訛りで、元はスペイン語のチャヨータ。最初に鹿児島に導入されたためでしょう。日本名はハヤトウリといいます。西インド諸島原産。栽培が簡単なので高知では広く作られます。

作り方
1) チャーテは櫛形に切り、形よく皮をむき整える。

2) 鍋にチャーテを入れ、砂糖、塩、レモンジュースを加えて白ワインをひたひたまで注ぐ。

3) 強火にかけて煮立てる。塩コショウで調味。(火力は煮汁がシロップ状に煮詰まるとともに火が通るように調節。)

4) 最後に再調味し、仕上げはバターを用いてグラッセする。


アロエのシロップ煮。
アロエのシロップ煮

苦みのないヴェラ種のアロエを用います。(通称刺身アロエ。)写真のとおりアロエ・ヴェラは無色透明の葉肉です。

ビン詰めにしておくき、みつ豆やフルーツ・サラダ。フルーツ・ポンチなどにあしらうとよいでしょう。
(便秘に対して薬効があるとか。)

 写真は<みつ豆>と<ヨーグルトみつ豆>
 撮影協力 茶房板木
 高知市帯屋町2丁目1−38 


作り方
1) アロエは皮をとり、好みの形に切っておく。

2) シロップはアロエの4割程度の目方の砂糖と水。バニラとオレンジスライス。レモンスライス。レモンジュース。

3) シロップが煮えたらアロエを加え、ことことなるぐらいの調子で穏やかに煮る。火が通ったらビンを満たしてフタ。湯煎による滅菌後にフタを下にして自然冷却。アロエの下ごしらえシロップをあらかじめ作る。

アロエはぬめりが強く滑りやすいので皮むきには用心が必要。

トゲのある両はじを先に落とし、丸みのある側から順に皮をむく。

皮の側を下にして置き、包丁とまな板で皮を挟むように包丁を差し入れ、皮の内壁上を滑らせる感じに包丁を動かす。

シロップは好みのものを作る。レモン、オレンジ、バニラを加えてさっと煮立てる。



これからのKOCHI料理によせて

フランス料理の仕事をしていると、何がフランス料理なのか、どうしてフランス料理なのかという問題に常に突き当たります。同様に<これからのKOCHI料理>と言うとき、「何が高知料理なのか?」ということがまず第一にあると思います。ラ・ヴィルフランシュでは、それを大まかに以下のようにくくってみました。
  1. 高知で広く行われている料理で、食材、調理法、提供法、味の特徴などが、際だった地域的差別性を持つ料理群は、食材や手法の起源、新旧、類型の有無にかかわらず、これを土佐料理高知料理と呼んで差し障りがないと思います。

  2. たとえ一般的に行われている調理法による料理でも、特に高知の食材への依存度が高かったり、特に高知で潤沢にその食材があるような料理で、高知で割に広く行われている料理もそう呼ぶことができると思います。(当然他県にも類似料理があると思われますが、それぞれのお国自慢として、相互に許容できるものだろうと思います。)

  3. ある程度広く知られている料理で、高知に起源があるものも、たとえ現在隆盛でなくとも、その名前に値すると思います。
<高知料理と呼べないもの>は何かを考えてみる必要もあります。
  • 工業的なマスプロ食品や全国フランチャイズ・チェーンのための食品が高知料理の担い手でないのは当たり前だと思います。

  • 他の地域や他の国の料理としてすでに広く認められているものは、いくらなんでもそのままでは高知料理とは呼べません。高知で消化されてこうなったとか、高知で受け入れられるためには、目に見える一定の変化が必要だったとか・・・。とにかく生のままではいけないと思います。

  • 個人の資質や特定の施設への依存度が高いものも、ちょっと高知料理とは呼びにくいかも知れません。特定の農園の施設や、ある人の特別な技で作った瓜やトマトでなければ作ることができなかったり、特定のレストランや料理人の手によらなければ実現できないというような、そんな地方料理などはあり得ません。むしろそれは、そのすぐれた農家や料理人や、レストランをこそたたえるべきだろうと思います。

  • おみやげ菓子によく見られるように、微少な差異しかない類似品が広く行き渡っているものも、たとえタイトルはそれでも、必ずしも高知料理とは呼べないのではないでしょうか。「高知のはここが違う。」と言い切れるほどの、広く受け入れられた明快な地域的差別性や歴史的裏打ちがあるなら、それは別かも知れませんが・・・・。
さて、<これからのkOCHI料理料理>というのは、今はそうではないけれど、将来は<高知料理>と呼べるものになって欲しい料理という意味だろうと思います。そういう意味では、イベント企画者は、提案者になにがしかの新しさを期待しているやに思えます。

しかし実のところ、私は、それが、必ず<新しい料理で>なければならないという風にはどうしても思うことができませんでした。むしろ広く知られた月並みなもの、そしてそれに適当な変化を与えるほうが、むしろ容易に地域的広がりを獲得するのではないかと思いました。

それに<新しい料理>というカテゴリーにはちょっと問題があると思います。

「何が新しいのか。何が古いのか。」料理に関わっている人ならすぐに分かると思うのですが、新しい意匠をもった、その実古めかしい料理はたくさんあります。古めかしい意匠のままの新しい料理も同様。ヘンデルを演奏したからといって、その人の音楽が古いとは言えませんし、シェークスピアの上演が古いわけでもない。私は、「シメサバやヒメイチのお寿司をウースターソースで食べると意外においしい。」といって人に勧めたりしますが、はたしてこれは新しいのでしょうか古いのでしょうか。

元来料理人は、演奏家や俳優同様、時間を超えた魔術師です。そして、確かな古いものは必ず新しい発見の宝庫です。料理にあっては、新しいも古いも、セールス上以外の実際的な意味を持たない
のではないかと思います。

結局、ラ・ヴィルフランシュで考えたことは、「こんなものなら、高知人の多くが機嫌良く作って食べるんじゃないか。」というところです。ですから、ここに紹介する料理は、すでにどこかのお宅で頻繁に作られているかも知れない料理です。そしてもし本当にそうなら、「マリオが考えたことも、まんざらではなかったな。」と思います。

2003年11月30日 マリオ 

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