GOURMET LABORATORY
saucealbufera
 ソース・アルビュフェラのこと
 (Sauce Albuféra)

 ソース・アルブフェラは鶏肉がおいしい、マリオではおなじみのソースですが、実はこのソース、同じ名前で2種類作られているのです。

( 写真は実際より赤っぽくなりました。ゴメン。 )
2003年8月3日



ソース・アルビュフェラというのがあります。マリオでは、蒸したり煮たりした鶏肉をおいしく食べていただくために用いているのですが、実はこのソースは、同じ名前で2種類作られていて、ともにお店のメニュー構成上、不可欠の要素です。

ソース・アルビュフェラというのは、普通は赤ピーマンのピュレで風味を付けたソース・シュプレームのことをさしているのですが、下のエスコフィエのルセットに見るとおり、グラスで味が補強されていて、同じように鶏肉に用いるにしても、ソース・シュプレームよりはかなり味がしっかりしています。

濃度が整い調味を終えて形になったソースは、最後に少量のピーマン・バターが加えられ、それによってソースに何とも言えない南国的で華やいだ趣が加わります。そしてそれこそが、このソースの、魅力の第一のポイントだろうと私は思います。

<エスコフィエに見るソース・シュプレームとソース・アルビュフェラ>
ソース・シュプレーム1g 白い鶏の出し汁によるヴルーテ・ソース1g。 シャンピニョンの煮汁1dl。生クレーム2.5dlを一緒にして煮詰める。
仕上げに生クリーム1dlとバター80cを加える。
(ヴルーテ・ソースは、出し汁を金色のルーでつないだ軽いソース)
ソース・アルビュフェラ1g ソース・シュプレーム1g。 グラス・ド・ヴィヤンド2dl。
ピーマンのピュレ100gに対して250gのバターで作ったピーマン・バター50g

ミヨネーのアラン・シャペル氏のお店にもこの名前のソースがありました。<ブレス・チキンの膀胱詰め、小野菜とソース・アルビュフェラ添え。>若かった私は、アラン・シャペル氏が指揮する、<ラ・メール・シャルル>調理場で作られたこの料理を口にする幸運を得たわけですが、しかしそのソースは、私たちが知っているソース・アルビュフェラとは違う、それをはるかに超えた、複雑な味わいの、シックで奥行きのあるすばらしいソースでした。

アラン・シャペル氏のソース・アルビュフェラは1.6キロの鶏1羽(つまり4人前)につき、500ccの鶏を煮た煮汁に、100ccのトリュフ・ジュース。500ccの生クリーム。30cのフォアグラのピュレ。そして仕上げに20cのバターという構成です。

ソースはルーのようなデンプン質のつなぎを用いず、煮汁は極限までに詰められ、煮詰まった生クリームが、代わってソースのなめらかさを作ります。私の店だとこれが通常のお皿の10人前程度に当たります。

鶏は、皮の下にトリュフをはさみ、胴にはそのトリュフくずとレバーを詰めて、マデール酒、コニャック、およびトリュフ・ジュースとともに豚の膀胱に詰められます。そしてブイヨンでじっくりと煮る。

ですから、このソース・アルビュフェラは、出し汁や生クリームに加えて、マデール酒、トリュフ、そしてフォアグラなどが味を構成する主要な要素です。

「ピーマンはどうなった?」「ピーマンだとどうなるんだろう?」日本へ帰って最初に取りかかった実験はこれでした。

アラン・シャペル氏のソースはピーマンを用いません。しかし、そのトリュフとフォワグラを、微量のピーマンに置き換えれば、気分や風味のよく似た、それとは別の兄弟ソースが出来ることが、その実験により分かったのでした。

現在のマリオでは、この二つの兄弟ソースを、私なりに消化して、二つをそのまま、<ソース・アルビュフェラ>の名で提供しています。しかし、アラン・シャペル氏が、ピーマンを使っていない自身のソースに、どうしてソース・アルビュフェラと言う名前を付けたのかは、依然不明です。

私は、「アラン・シャペル氏は、もともとはソース・アルビュフェラをもっと豊かな味わいのソースにしたいと思って取りかかり、異なったものに行き着きながら、あえてなお、名前をそのまま残したのだろう。」と勝手に思っています。アラン・シャペル氏の著書の名は<料理、ルセットを超えるもの>でした。彼にとってルセットとは、料理を作るうえの出発点ではあっても、到達目標ではありません。料理ができたその時点で、ルセットやその料理名は、ほんの目印程度の意味しか持ちえず、結果として、私たちは、彼が演出する、偉大で小さな料理のパロディーを、楽しめたのだろうと思います。

2003年8月3日 マリオ 

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