GOURMET LABORATORY
 
クグロフのクリスマスケーキ。
 びっくりクグロフ
 (やさしいクグロフ発見!) 2003年10月27日

しばしばお菓子の本の表紙を飾るクグロフ。
マリー・アントワネットのお菓子として知られるこのお菓子は、ウイーン銘菓であると同時にアルザス銘菓でもあります。
クグロフは、誰でも手軽に作れる割りにやさしいお菓子ですが、さらにやさしくなる発見がありました。



クグロフというお菓子をご存じですか。アルザスのスペシャリテで中空の螺旋模様のついた帽子のような形のお菓子です。アーモンドを貼り、レーズンを散らして粉砂糖仕上げ。もとはオーストリアのお菓子で、グーゲルフプフがその名前です。どちらも飾りをして、クリスマスのお菓子になりました。しばしばお菓子の本の表紙に登場しますから、ご存じの方も多いと思います。

以前、県立美術館のカフェー「ピチカート」の撤退に伴って、企画入札のかたちで県内のレストランに引き継ぎが求められたことがありました。ラ・ヴィルフランシュにもそのような話があり、私は「オーストリア料理とウイーン菓子を売る、ウイーナー・カフェかコンデュトライなら。」というフランス料理店らしからぬ提案をして、万一決まった場合に備えて大急ぎでウイーン菓子の見直しに取りかかりました。入札の結果は別のイタリアン・カフェーの提案が採用になり、ある意味ほっとしたわけですが、その見直し作業中、私たちとしては思いがけない、びっくりするようなクグロフに出会うことができました。

クグロフの作り方には2法あります。一つはバターと卵を泡立てて作るケーキっぽいタイプ。もう一つは<ブリオッシュ>のような発酵生地を用いる、いわばパンのようなタイプで、前者が主にウイーン風。そしてフランス菓子としては、なんと言っても後者の発酵生地が大勢です。たとえばルノートルなどは、ズバリ、<ブリオッシュ>そのものを用います。



お菓子の本。表紙を飾るクグロフ。さて、問題のクグロフはアンリ・ポール・ペラプラの著書『現代フランス料理全書』に出でている<クーゲルホップフ>ですが、それがこの本に載っていることは知っていても、お菓子は別の教科書で勉強していたし、クグロフ自体が必ずしもラ・ヴィルフランシュ向けという感じでないので、試したことはありませんでした。・・・・が、今回はウイーン菓子がらみ。試してみたくなりました。

とにかくこのクグロフは、まずルセットにびっくりです。
「えーっ?こんなのベチャベチャで形にならんよ。ひょっとして牛乳の量、ミスプリントとちがう?」それが第一印象です。

ここで巨匠たちのクグロフないしはクーゲルホップフ、および伝統菓子として知られているそれらのルセットに見られる基本構成を紹介したいと思います。一般に、パン種を予備発酵させる中種法が推奨で、1次発酵後に型詰めですが、しかし、中種を合わせたらそのまま型詰めし、ふくらんだら焼く、よりシンプルな形も普通に見られます。またクグロフは、表面積がおおきく、乾燥を嫌うお菓子です。

<クグロフの構成> ・・・・6人前の型2台分
作者と菓子名 小麦粉 バター 牛乳 砂糖
ペラプラ
クーゲルホップフ
500g 160g 4dl 6g 100g
その他の材料 生イースト30g  スミルナ干しぶどう(金色)250g (下ごしらえの指定なし。) スライス・アーモンド少々
越後 和義
クグロフA
500g 300g 10g 75g
その他の材料 生イースト30g
干しぶどう200g(ラム酒に浸しておきフランベして使う。)
ラルース(大事典)
クグロフ
350g 175g 大さじ3
+アルファ
小さじ1 40g
その他の材料 生イースト22g  スライス・アーモンド100g
コリント・レーズン40g(黒ぶどう。あらかじめ紅茶に浸しておく)
ラルース料理百科
(P.モンタニエ)クグロフ
500g 200g 10g 90g
その他の材料 生イースト15〜25g
コリント・レーズン50g(下ごしらえに指定なし。)
Y.ティリエ  クグロフ・アルザシヤンA 500g 300g 100cc 10g 75g
その他の材料 生イースト25g  レモン・ピール 1/2個分
つけ込みレーズン200g
Y.ティリエ  クグロフ・アルザシヤンB 500g 200g 175cc 10g 75g
その他の材料 生イースト15g つけ込みレーズン200g
ルノートル
アルザスのクグロフ
500g 200g 1dl 記入なし 60g
その他の材料 生イースト15g  レーズンもアーモンドも使わない。
ルノートル クグロフ・ルノートル・スタイル 500g 450g 大さじ2 15g 30g
その他の材料 イースト(ドライ)15g  これらの材料で作ったブリオッシュ生地の7割にラム酒風味のシロップに浸したレーズン200gを加える。
サヴュール・デュ・モンド
伝統的アルザス・クグロフ
400g 150g スープ・
スプーン3
1つまみ 75g
その他の材料 生イースト 25g  レーズン 75g (湯に浸しておく)

一覧にしてつくづく思うのですが、一つにお菓子でよくぞこれほど違うものです。しかし、各氏のルセットに見る限り、おおむねクグロフは少し柔らかめの発酵生地で、その配合は、バターと卵。それに牛乳による水分で適度にバランスしています。そして、ペラプラ氏だけがなぜか牛乳を多く使い、突出して柔らかい生地を用います。発酵は一度だけ。

とにかく、「疑問に思えばやるしかない。」で、やってみました。

こちらはただ生地の特性を見たいだけだから、4分の1量。ドライイースト小さじ1杯に置き換えて、予備発酵を省略し、直捏法を用います。

まずお湯でレーズンを戻しにかかり、バターを柔らかくし、ついで材料をはかったら、小麦粉を最初にして、次々に材料をボウルに入れ、一気に手で捏ねます。と言って、いわゆるパン生地とは違います。どちらかと言えば、ホットケーキの生地でしょう。

卵やバターをクチュクチュつまんでほぐしたら、あとは全部の指を立ててキリキリとかき回す。中心部でそうすると次第に全部を掻き込んで、更にそれを続けると少し粘り気がでて、更に続けるうち、やがて生地に少しもったりとしたガスっぽい応答が出てきます。本格的な発酵の始まりです。水気をふき取ったレーズンを混ぜ込んで、生地の準備は終わりです。

型にバターを塗りスライスアーモンドを貼って、その中にできあがった生地を流します。後は温かいところに置いて発酵を待ち、ほぼ型いっぱいになったら、高温のオーブンで焼き上げる。
焼き上がり。3人前。15センチの型でも入れすぎた。
実験は、クグロフではなく、ババやサバランでおなじみのテュルバン型(蛇の目。内法15cm。)を用いました。生地の状態。焼き上がりは写真のような具合です。

さて、できあがりはすべてを語ります。
しっとりしたおいしいケーキです。少し多く入れすぎたらしく、型いっぱいでも少し発酵不足気味でしたが、それはともかく、一体これはミスプリントとは思えない仕上がりです。それならミルクの量半分ならどうかと別に試した結果、やはりこれもOKです。ミルクが多いことが問題だったのだから当然と言えば当然ですが。

してみると・・・・。としかめっ面しく考えるのはよしましょう。結論から言えば、このお菓子は、少々牛乳入れて柔らかろうが硬かろうが、「どんな生地でもうまくゆく。」ということでしょう。これで決まりです。明日からおやつは、クグロフですね。

嫌いでなければ、レーズンはラムとコニャックのミックスで戻しておくとおいしいです。お祝い用には、果物のピューレやカスタードを用いたソース。チョコレートソース。立てクリーム、ジャムなどを添えましょう。甘みの少ないお菓子ですから、その方が引き立つと思います。

最後なりましたが、公平を期してウイーン風のクグロフ<グーゲルフプフ>です。
越後 和義
 クグロフB
バターケーキのようなタイプでウイーン風。八木淳司氏の『マイスターのウイーン菓子』にあるグーゲルフプフもニュアンスはあってもこれとそっくりです。
バター400g。 砂糖325g。 卵黄7個分 塩少々。 バニラ。 レモンの皮適量。牛乳125cc。 バター。砂糖。塩。バニラ。レモンをよくかき立て、卵黄を少しずつ入れながら泡立てる。
最後に牛乳も入れてかき立てる。
卵白7個分 砂糖250g 小麦粉450g
ラム酒で戻してフランベしたレーズン200g
卵白と砂糖をなめらかなムラング状にする。
最初の生地にざっと合わせ、、さらに小麦粉をサックリ混ぜる。
最後にレーズンを加えて、アーモンドをしいた型に詰め、焼き上げる。
なおフランベは火を点けてアルコールを飛ばすこと。

2003年10月27日 マリオ 
 

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