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鴨のテリーヌ (お肉のテリーヌについて考える。) 先にお魚のテリーヌのことを書きましたから、今度はお肉のテリーヌについて少し考えてみたいと思います。 もっとも、フランス料理店としては、少し悩ましいところがあるのがこのテーマです。おなじみの<鴨のテリーヌ>を軸に考えてみたいと思います。 2003年9月1日 お肉のテリーヌはフランス料理店としては割りに悩ましいテーマです。つまりお店の顔としてなくてはならない料理ですが、力を入れる割りには、缶詰などの量産品が多く出回っていて、それらがしばしばホテルやレストランで使われて、がっかりさせられることがあるためでしょう。肉のテリーヌにマイナス・イメージを持っている人も少なからずあり、また、テリーヌを食べるということそれ自体が食習慣にないということも手伝って、しばしばその立場は不確かです。 ともあれ、比較的ポピュラーな<鴨のテリーヌ>を軸に考えましょう。まず私の店、ラ・ヴィルフランシュの鴨のテリーヌから。
作り方。 鴨は1.3〜5キロのもを1羽。適度に熟成した鴨をさばいて皮をとり、スジを掃除して、胸肉とももの上部肉で約300c。残りのもも肉と脚部で125cをえる。 漬け込み 胸肉とももの上部肉。フォアグラ。ベーコンは角切りにし適量のマデール酒とコニャックに漬ける。別に、もも肉と脚部肉。豚肉および背脂も角切りにして残りの酒に漬ける。数時間〜一晩。 ファルスと調理 豚肉125cと鴨の雑肉125c。豚の背脂250c及び調味料を一緒にしてフードプロセッサーにかけ、なめらかなファルスができたら最後に卵とすべての漬け汁を加えて攪拌する。 できたファルスをボウルに取り、角切りの上肉。フォアグラなどを散らし、少量の粉ゼラチンを振りかけてよく混ぜる。豚の背脂を敷いたテリーヌ型に詰めて背脂でフタをして蒸し器で約1時間。 できあがったテリーヌは、あらかた熱が取れたら重しをしてさらに冷やし。室温になればさらに冷蔵庫。翌日より提供。 ワンポイント 上面や切り口をラードで覆っておくと保存性がまします。また粉ゼラチンを使うのは、切り出したあとで、切り口から水分が流れ出て食味とテリーヌの保存性が失われるのを防ぐためです。使用は必要最低限にとどめます。なお、火の通りのチェックは、テリーヌの中程を調理用の縫い針で深くさして、それを下唇の下に当てて内部の温度を確かめるのが普通のやり方です。 ヒントとテクニック お肉のテリーヌやガランティーヌ、パテなどの一連の類似料理については、エスコフィエの記述が大いに参考になると思います。
ここで述べるファルス、つまり詰め物用の挽肉は、パテやテリーヌ、ガランティーヌにとっては基礎的な下地材料ですが、エスコフィエは、さらに、目的に応じて異なるいくつかのファルスを提案しています。
このように書けばおおよそのことは分かると思います。つまり、肉と豚脂同量でできるファルスAがすべての基本であり、続くファルスBとファルスCは、肉の部分が細かく分かれた変種です。 エスコフィエの場合、鴨のテリーヌは、胸肉をのぞいて作ったファルスCにその4分の1量のファルスAを加え、胸肉とフォアグラ。トリュフの櫛形切りなどを入れて作ります。(鴨はとれる肉の比率が小さいため、多少の増量が必要ということでしょうか?) また、ポール・ボキューズ氏が氏の『 La Cuisine du marché 』の中で述べているテリーヌ用のファルスは、このファルスBの変形で、豚脂の量を3分の2に減して作ります。 さて、私と同じ戦後世代の料理人で、テリーヌにかなりのページを割いて多くの試みを発表した料理人がいます。ジャン・ピエール・ビルー。ディジョンの人で、幸運に恵まれて、リタイヤした巨匠アレクサンドル・デュメーヌやマキシムのアレックス・アンベールから多くを学んだ人です。 ビルー氏は、著書『 Recettes Pour Alexis 』のなかで、<野生の鴨のテリーヌ、フォアグラ添え><鳩のテリーヌ、ニンニク風味>という、ほぼ同じやり方のテリーヌを2つ発表してくれています。ほかにも<フォアグラとオマールのテリーヌ>などおもしろいのがあるのですが、とりあえずはこの鴨です。
鴨は野生のコル・ヴェール(青首)1羽を用います。ファルス用の豚肉はネックを用いています。脂肪が多い部位だから、改めて豚脂は加えません。また、風味付けには、鴨のレバー1個では不足なのでしょう。鶏のレバーを補充しています。(なおこの種のレバーの強化はよくある手法で、以前のマリオのルセットでも行っていました。) 胸肉は前日からマリナードに漬けてマリネーしますが、モモ肉やその他のファルス用の材料はマリネーをしません。またファルスは塩コショウで調味し、最後の香り付けにはシャルトリューズ・ヴェルトを用います。これはマリオで食後酒やデザートととしておなじみの修道院のリキュール、グリーン・シャルトリューズです。 それから、これは重要だと思うのですが、乱切りにした鴨のガラをエシャロットともに炒めてワインで煮出し、調味し、彼がいうところのムイユマンというエッセンスを作ってファルスに加えます。このあたりは行き届いて丁寧ですね。 加熱は、湯煎にして高温のオーブンで1時間あまり。冷却や重しは、人によらずすべて同じです。 さて、ご覧お通り、一口に鴨のテリーヌと言っても人によって中身はかなり違います。ゆたかに脂肪分を蓄えたなめらかなファルスが決め手のエスコフィエ氏のようなもの。ボキューズ氏やラ・ヴィルフランシュのような、どちらかと言えばちょっと軽快なタイプ。ビルー氏のように力強い味わいに力点を置いたものなど。 もう少しフォーカスを引いて肉のテリーヌ全体を見渡せば、お魚のテリーヌでもお話ししたように、テリーヌ型で調理すれば何でもテリーヌであるわけで、その限りではもうほとんど何でもありのような感じですが、しかし問題を冷製料理に限れば、この肉のテリーヌは、おおざっぱには、上記のようなファルスを用いて成形するものと、ほとんどゼリー寄せのように主材料とガルニチュール(主材料調味料以外の、料理を構成する補助的な材料の総称)をゼリーでつなぎあわせるものとに分けることができるように思います。そして食べ方は、(後者はまた改めて別の項目で解説するとして、)どちらも、おおむねグリルしたパン・ド・カンパーニュなどと一緒に食べ、サラダやピクルズ。オリーブなどとともに軽い一食を形づくります。 いいですねぇ。たとえば夏の暑いときなど。疲れてちょっと食欲が落ちているとき。テリーヌとサラダだけの軽い食事をしてゆったりとワインを飲んでリラックスする。 もう少し食べる気になれば、サッと魚をグリルし、ゆでた野菜を添えて、バターとレモンと香草で食べる。 デザートは冷やした生の果物か、冷たいコンポート。 ああ。夏もよきかなフランス料理。できれば、テラスにテーブルを置いてそういきたいですね。 ワンポイント。 テリーヌの過熱は高温のオーブンで湯煎にして行うのが普通ですが、私は、フィルムを掛け、蒸し器を利用して加熱しています。 また、テリーヌは、ご家庭では、しっかりした広口のジャムのビンに、1食分ずついくつかに分けて作ると便利です。・・・ジャムのビンは、最初フタを緩くしたままで蒸し器に入れます。サンプルの1個で火の通りを確認し、締め直してさらに穏やかに2〜3分。できあがれば、取り出してフタの側を下にして自然に冷まし、冷めたら天地を戻して冷蔵庫に保存。必要なとき取り出して、1回食べきりで楽しみます。そうすればいつも新しい。そして安全です。 2003年9月1日 マリオ |
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