GOURMET LABORATORY
オマールのテリーヌ
 テリーヌ・ド・オマール
 (海の幸のテリーヌ。オマールからイワシまで)

 南仏らしい海に張り出したレストランのテラス。青に映える白いテーブルクロス。南国の花。グラスにつがれた白ワイン。そして、少し深めの白皿に堂々たるオマールエビのテリーヌ。あれは一体どこのこと・・・。魚の幸のテリーヌについて考えます。 …2003年8月6日



今となってはもう見つけることができないのだけれど、一枚の写真の記憶があります。

南仏らしい海に張り出したレストランのテラス。青い海に映える白いテーブルクロス。南国の花。グラスにつがれた白ワイン。そして、少し深めの白皿の中に堂々たるオマールエビのテリーヌ。

料理はクラシックらしくパナードを用いたもので、四角い周囲はほのかに黄色みを帯び、中心をなす白いオマールエビの尾の身は、たくましさすら感ずるボリューム。きっとエビは1キロを超す大物にちがいない。

テリーヌの脇にはソースが添えられています。オマールのエキスと珊瑚身、生クリーム等を用いてマヨネーズ状にし仕立て、香草を合わせたものらしい。

ああおいしそう。思わず手が出そうなのだけれど、それはすべて記憶違いか空想のこと。

「あれはビアリッツのカフェ・ド・パリだろうか。ムーラン・ド・ムージャン?それともボーリューのレゼルヴ。いやいや。ムージャンは少し内陸にはいるし、それに、あれはオマールではなくてラングースト(伊勢エビ)だったかも知れない。」
そう思いながら資料を調べなおしてみても写真を見つけることができません。
マリオの店のオマールエビのテリーヌは、そのような、やけに鮮烈な錯誤の上に作られています。

料理は、たとえそれが安価な材料によるモノでも、みすぼらしい気分では作りたくないと思っています。張り子のトラなど論外ですが、鰯のテリーヌだって豪華に作りたい。いわんやオマールエビ。「思いっきり贅沢に作ってやろう。」と思いました。無論クラシックではなく、現代的な、単刀直入なやりかたで・・・。

マリオのオマールエビのテリーヌです。材料を下に示します。

マリオの<オマールエビのテリーヌ>
材料
標準型テリーヌ1本分
オマールエビ(500c程度)4匹。甘鯛(500c程度)1匹。
卵白50g。生クリーム300〜350cc。
刻みトリュフ。塩コショウ。カトル・エピス。トリュフジュース適量。
アーティチョーク小2個(角切り。白ワインで煮ておく。)

テリーヌという料理は、基本的には、「テリーヌ型で調理すれば、すべてテリーヌ。」であるわけですが、普通は、ファルス、つまりなんらかの練り物と、そのテリーヌを特徴付ける主材料という2つの構成要素で成り立っています。

私の場合、ファルスはオマールエビと甘鯛のムースです。材料のうちオマール1匹と甘鯛で、約300cの正肉が得られ、それをフード・プロセッサーでひいて、卵白、生クリーム、トリュフを加えて塩コショウ、カトル・エピスで調味します。必要を感じれば、トリュフジュースで風味を補充します。残りのオマールエビはゆでててから殻をはずし、適当な角切りにして白ワインで煮たアーティチョークとともにファルスにまぜこみます。

当初この料理はテリーヌ型に作られていました。ファルスを敷いて、中央に縦二つに切ったオマールの尾の身とツメを3匹分ぎっしり敷き詰め、さらに上からファルスで覆うという構造です。

本当に贅沢。でもすぐにそのようなテリーヌが、お店の販売状況に適さないことが分かり、調理方針の転換を迫られました。結果が、上記のように、ファルスの中に角切りにした材料を混ぜ込む形式です。加熱も、テリーヌ型を廃し、二つに分けてフィルムで包んで蒸し上げるやりかたに切り替えました。

つまり現在のマリオのオマールエビのテリーヌは、厳密な意味では、テリーヌではなく、<フィルム包み蒸し>です。蒸すとき巻きすを用いるから、見ようによっては<洋風スマキ>ですね。

テリーヌにはソースが添えられます。トマトのフォンデューで、白ワインとサフラン、それにワイン・ヴィネガーを使います。それとは別に香草風味のレモンのムース。これは、レモン・ジュース1に対して生クリーム3〜4程度で泡立てたもので、塩コショウで調味し、仕上げに数種類の香草の刻んだものを加えます。

さて、テリーヌは冷製だけとは限りません。私は<豚バラ肉とリンゴの温製テリーヌ>が大好きで、<豚リンゴ>と名付けて、冬場、あり合わせの肉とリンゴで、ナベを用いて即席によく作ります。

今書いているうちにも、<イワシのテリーヌ>を思いつきました。これなんか冷温どちらでも行けそうだし、夏場特にいいのではないかと思います。

用意するものはイワシのほかに、ナス。トマト。赤ピーマン。フェンネル。オリーブ・オイル。

調味は、塩コショウ、ロリエ、タイム。ニンニク。バジルなどの香草。好みによってセージ、コリアンダー、サフラン、ショウガ、カエン・ペパーなど。

ナスはざっと粗く皮をとって大きく棒状に切ってたっぷりのオリーブ・オイルで火を通す。ピーマンは強火で焼いて皮を取り、適度に幅のあるひも状に切る。トマトは湯むきして1センチぐらいの厚さの輪切り。フェンネルは散らしやすい長さで少し歯ごたえの残る厚さに。なければ種子。イワシは小さめのもの。3枚におろして強い骨は取り、調味して粉をつけてオリーブオイルで表面をカリッと焼いておく。

イワシのテリーヌ。ウナギでテストテリーヌ型にクッキングシートを張り、調味したトマト、ナスなどの野菜と香草類、イワシの順で層状にし、それをさらにもう一度繰り返す。最後にもう一度トマトと野菜をのせ、好みの香草を散らしてオリーブ・オイル。アルミフォイルでふたをしてオーブンで焼き、煮えたら、自然に休ませて、温かいまま提供する。

冷製用には適度に冷めたものに重しをかけてさらに冷まし、冷えたら冷蔵庫に入れる。

提供は、シートを利用して深皿に反転して移し、厚めに切って取り分ける。こぼれたジュースを上からかける。・・・と考えができたところで、さっそく手近にあるウナギを用いて、写真のような、1層のみの手抜き超簡略版をやってみました。

おいしい!塩分は強めに。ナスもピーマンもたくさんはいらない。酸味は重要。レモンを考えてもよい。混ぜる香草はなんでも楽しめそう。カレー粉だっていけそうです。

もっともマリオの思いつきではあまり興が乗らないかも知れません。クロード・ペロー氏の<La Cuisine de L'émotion>のなかに<イワシとトマトのコンフィの押しつけテリーヌ、オリーブのクリームソース添え>という冷製のテリーヌがのっていますのでザッと紹介します。

<イワシとトマトのコンフィの押しつけテリーヌ、オリーブのクリームソース添え>
材料
テリーヌ用(6人分)
大きすぎない程度のイワシ 1kg。
トマト10個。 (よく熟れて果肉のしっかりしたもの。)
ソースと付け合わせ用
その他
種抜きニヨン・オリーブ 100g。
フィレ・アンチョビー 3本。 ケーパー(酢漬け) 10g
フォン・ド・ヴォライユ 1dl。 生クリーム 1dl。

そら豆 サヤ付き 1kg (正味約400g)。
イタリアン・パセリ 1束。 ピーナツ・オイル 200cc。
ヴィネグレット(フレンチ・ドレッシング)少々。

オリーブ・オイル 300cc。 クミン(パウダー)10g。
タイム。ロリエ(刻んで)少量。塩。コショウ(コショウ挽きから)。

  • イワシは3枚におろす。(イワシをおろすのはやっぱり指ですね。日仏同じ。)
  • クミン・パウダーをオリーブ・オイル(スープ・スプーン1杯ほど)に溶いて、イワシに刷毛で塗り、冷蔵庫で休ませる。
  • トマトは湯むきして二つ切りし、水分と種を絞ったら、クッキング・シートを敷いた天板に並べて、塩コショウ、タイム、ロリエで調味し、皮付きのニンニクを配する。オリーブ・オイルの残りをかけて60度で2〜3時間ほど乾燥加熱を施す。火が通ると水が出るので水切りをする。
  • イワシを皮の面を上にして天板に並べ、軽く調味し、天火のみのオーブンかサラマンドルで焼く。
  • テリーヌ型にフィルムを張り、トマトを並べ再調味しイワシをのせることを3回繰り返し、最後にトマトだけの層。フィルムを閉じ、板か厚紙で作った平板を置き、重しをかける。冷蔵庫で12時間以上冷却。フィルムを使って型から出し、切り分け。
  • ソースはオリーブ、ケーパー、アンチョビーをミキサーでドロドロにし、フォン・ド・ヴォライユでゆるめて最後に生クリーム。調味して容器に入れる。
ペロー氏はピーナツ・オイルでさっとフライにしたパセリの葉っぱと、茹でてヴィネグレットであえたそら豆を付け合わせに選んでいます。さて、3つ星シェフの味、なっとく頂けましたでしょうか。

2003年8月6日 マリオ 

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