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ボウリング・フォー・コロンバイン /
Bowling for Columbine

Michael Moore

2002 Kanada/USA/D 120 Min. ドキュメンタリー

出演者

Michael Moore
(インタビューアー)

ショービジネスから

Charlton Heston
Matt Stone
Marilyn Manson
Chris Rock (録画)
Denise Ames (ビデオ)

報道録画

George W. Bush
Dick Cheney
Bill Clinton
Salvador Allende
Adolf Hitler

何かの事件関係者
(本人、学校関係者、警察、身内、友人など)

John Nichols
Robert J. Pickel(保安官)
Jimmie Hughes(校長)
Daniel V. Jones(録画)
R. Budd Dwyer(録画)

見た時期:2003年4月

ようやく見る機会がありました。以前見た人からおもしろいと聞いていたので、是非そのうちにと思っていました。肩の力は抜いてありますが、気合の入った作品で、オスカーに値します。しかし実際にオスカーがもらえたというのは不思議な感じがします。反対意見を持っている人も多いと思ったのですが、この作品にオスカーが行くということは、まだ捨てたものではないということでしょうか。

コロンバイン乱射事件: 1999年4月、アメリカの普通の都市コロンバインの高校で銃乱射事件発生。犯人の高校生2人は生徒12人と教師1人を射殺、怪我人24人。本人たちはその後自殺。突発的な出来事ではなく、2人の生徒は火器だけでなく爆発物も用意しており、3桁の犠牲者を見込んでいた。爆発物は爆発しなかったため、犠牲者の数は上記の通り。

出演者は書き切れないぐらい大勢で、ここに上げたのはごく一部です。重要人物でも名前を覚え切れなかったケースがたくさんあります。ざっと言うと、当時のコロンバイン事件の報道ビデオがあり、そこには被害者、学校関係者などが大勢出て来ます。その後身体障害が残った事件の被害者2人と校長のインタビューやキャンペーン運動があります。校長のインタビューを聞いていると涙が出てしまいます。また、息子を無くしたお父さんが運動家になり、その様子もインタビューに出て来ます。

次に重要なのは政治家の報道ビデオ。この映画に出演したのではなく、よそから借りて来たものです。

他に各界からインタビューに応じた人たちが多数登場します。事件に何らかの関連があり、ムーアが選んだ人たちで、学者などもいますが、似たような他の事件の関係者、とばっちりを受けた人なども含まれます。

この作品を見たらシティ・オブ・ゴッドを見なければ行けません。間もなくここでも取上げます。

ドキュメンタリー映画で、作ったのはあのマイケル・ムーア。「あの」と言うのは、先日オスカー授賞式で主催者の制止を振り切って大統領批判をしたのと、その前に別なドキュメンタリー The Big One で知っていたからです。大胆な人です。

映画のテーマはアメリカの火器。ドンパチやるための武器です。後半統計が出て来ますが、アメリカは世界一武器の多い国ではないのです。カナダに負けています。ところがアメリカは武器を使って起きる死傷事件、事故が世界の中で飛び抜けて多い。その象徴的な事件としてコロンバインの高校で起きた乱射事件を扱っています。

この人は単純な疑問から始めて物事を分かりやすく説明するのが上手ですが、まず問題提起。口座を開くと景品にライフルが貰える銀行というのを発見。早速ムーア氏も口座を開いてみます。すると本当に銃が貰えてしまった。犯罪歴があったり精神状態が不安定な人は貰えないらしく無制限ではないようですが、それでもたいていの成人は貰えてしまうようです。 次にいかに簡単にお店で銃が買えてしまうか、スーパーマーケットで銃弾が買えてしまうかを紹介します。

ムーア氏が目の敵にしているのは全米ライフル協会なのですが、実は本人も正式な会員で、コロンバインの事件が起きるまでムーア氏自身何の疑問も持たずに銃に親しんで暮らしていました。アメリカには、銃が至る所に置いてあるというのを普通だと感じる人ばかりが住んでいる州というのがあるのだという事を初めて知りました。これまでは南の州の人が銃をぶっ放す映画のシーンを見て「これは映画だからこうなっているのだ、現実は違うんだ」と勝手に信じていました。ところがそういう傾向は北の方の州でもそれほど変わらず、ムーア氏も北の出身です。枕の下に毎日銃を置いて眠るという人がいるのですが、この話を信じなかったムーア氏にその人は本当にそれを見せます。それでもこの人は特殊な人なのだろうと思っていると、銃を子供が持ち出して死亡事件を起こした例が出て来ます。こういった具合にアメリカの銃の現状が具体的に説明されて行きます。

銃が簡単に手に入るという話と平行して不穏な事件がいくつか紹介されます。その1つがオクラホマのビル爆破事件(1995年4月)。隣人は静かに笑う (1998年) で似たような事件が扱われていましたが、そのネタ元になったらしいオクラホマ事件の犯人と思われる2人が紹介されます。1人は死刑になったティモシー・マクベイ。彼はほとんど何も言わずにさっさと死んでしまったので、謎だけが残りました。その相棒とされるテリー・ニコルズは終身刑になり、そのお兄さんがインタビューに登場します。枕の下に銃を置いて寝るという人。コロンバイン事件も当時のビデオ、事件に巻き込まれた人のインタビューなどが出て来ます。劇映画ですと「迫真の演技」なのですが、ここで紹介されるのは現実。それなのに何だか変な感じで、現実味が出ないのです。その原因が私には電話を取った警察や救急隊の応対にあるのではないかと思えて来ました。今学校にいて目の前で友達や生徒が撃たれて血を流していて「ああ、神様、何て事なの!」と恐怖の叫びを上げているのですが、それを聞いてパトカーや救急車を手配する側が、いつもと同じ話し方をしているためです。警察の電話センターの職員が冷静さを失っては行けないのですが、この事件ではその大きな差が非人間的に聞こえてしまうほどです。

このシーンはいわばこの映画のクライマックスですが、ムーアはさらに突っ込みます。各国の統計を出し、年に銃で死んだ人の数を挙げます。 日本などは民間で銃はほとんど使えない規則になっているので、日本人の私は日本の年間の犠牲者数は多過ぎると感じましたが、確かにアメリカと比べるとお話にならないぐらい少ないです(最近ドンパチが増えているとは言え日本政府、よくがんばった)。ドイツでは狩、スポーツ、護身など一応日本以上の範囲で許されてはいるのですが、アメリカほど大量に出回っておらず、武器を携帯する人のチェックもあります。それで事件はそういう現実に大体合った程度の数。 ドイツでは警官が職務で撃った弾でも、撃った警官を銃使用の正当性が証明されるまで職務から暫くはずすなどという日本のような事はしませんが、警官の銃の使用、特に死傷者が出た場合はそれなりに調査をし、やたらドンパチ撃つわけではありません。傾向としてはアメリカより日本に近いです。 アメリカの犠牲者の数とは桁が2つほど違います。

日ごろの教育も違います。私は70年代に1度東の国境警備の警官らしき人に列車内で銃をつきつけられたことがあるのですが、それだけでおびえてしまいました。向こうは職務で、どうやら亡命を試みた人を追っていたようです。私を個人的に狙ったわけではありません。車内にいた人一般に対して「取り敢えず動くな」という意味を込めていたようです。列車が止められ、何の説明も無く、銃を構えた人間がそこいら中に立っているというのは、テレビのスパイ大作戦の中だけだとこちらで勝手に決めていたので、ちょっとショックでした。私はピストルはモデルガンでも見るのが嫌いです。大きな銃などもってのほか。ここから弾が飛び出して人に当たると誰でも簡単に死んでしまうということが子供の時から分かっていたからです。日本でもドイツでも普通の警官はピストルをホルスターに入れてスナップをとめています。そう簡単に暴発ということもありません。ところがアメリカは違う。無造作にその辺に置いてあったりするわけです。持っている人は職務で持っているのではなく、一般人には職務規定などというものは無い!!!怖い!これが私の正直な気持ちです。

カナダ人はアメリカ人よりたくさん銃を持っていると聞きつけて、ムーア氏は早速国境を越えてカナダへ。「カナダ人は家にもちゃんと鍵をかけないでのんびり暮らしている」という話も聞きつけ、早速お得意の実験を始めます。その辺の家を無作為に選んで、カメラを回しながら「ごめん下さい」と玄関のドアを開けてしまいます。かなりの数の家に鍵がかかっていませんでした。みのもんたのように大いに驚いて見せるムーア氏ですが、私は去年ファンタでテッド・バンディ 全米史上最高の殺人者を見ていました。この映画によると、テッド・バンディー事件が起きるまではアメリカ人もあまり家に鍵をかけていなかったようです。バンディーがそれを悪用して若い女性の部屋に入り込み、暴行して殺して回って以来真似をする人も出て、世間が用心するようになったという風に聞いています。カナダにはまだそこまでやる凶悪犯が続出していないようです。

「2000年代に入ってもカナダ人は人を信頼して平和に暮らしている、それなのにアメリカ人はなぜ」というのがムーア氏の単純な疑問。彼なりの答は映画の中で出ています。

ドイツは暴力に縁の無い国ではありません。過去に国を挙げて組織的にやった時代もありました。ところがムーア氏の統計ではやはり事件が少ない部類に入ります。なぜ少ないか、その理由はいくつかあると思いますが、とにかく手にしようと思ってもアメリカほど簡単に銃が手に入らないという事実が挙げられます。そして「銃を持つのは私の権利だ」などと大声で主張する人はいません。元を断ってしまうとその先の事件は起きません。他の人が楽器や、モデルを収集するように趣味で銃を集める人はいるようです。スポーツで銃を扱う人はけっこういます。オリンピックに出る人もいます。銃に魅せられるという人も時々います。それでも事件はアメリカと比べるとかなり少ないです。

チューリンゲン州のエアフルトの高校で1度コロンバインを凌ぐような事件が起きました(2002年4月26日)(なぜどの事件も4月に起きるのか!?)。高校生、教師が犠牲になり、死者はアメリカを凌ぐ16人。犯人はその学校を退学させられた若者でした。主として教師を狙っていたそうで、犠牲者の数も教師が圧倒的に多いです。この元生徒は正式な銃砲所持許可証を持っており、クラブで練習をし、確かな腕前でした。死傷者の数はここまで行きませんがもう1つこの前だったか後だったかに少年が銃を使う事件がありました。それ以外は16人といった規模の射殺事件は無いのですが、これを機に法律が変わり、制限がきつくなったり、使用許可の年齢が引き上げられたりしました。シンボル的に起きた2件だけで国民は銃に関する法律を厳しくする必要性を感じ、実行に移しており、「銃を持つ権利を制限するな」と言って反対する人は出ません。

エアフルトとコロンバイン事件に共通していたのは、周囲に若者の言う事をゆっくり聞く環境があったら防げたかも知れないという意見。アメリカでは犯人が聞いていたというのでヒステリーのようにマリリン・マンソンの音楽が責められました。当のマンソンは「人の言う事にちゃんと耳を貸せばこういう事にはならなかった」と実にまともな意見を吐いています。

ドイツでも同じ事が犯人の少年に関して言われました。犯人の両親が悪いかと言うとそうでもなかったようで、両親はかなり苦労しています(片親が重い病気を抱えており全てをパーフェクトにできる状況ではなかったのですが、それでも犯人の子供については努力した跡が見られます)。

ドイツの場合学校の環境が危なさを見せています。北欧などと違いドイツは規則ずくめで、落ちこぼれた生徒を拾う環境が整っていません。70年代80年代に教師になった、現在ベテランのはずの教師が大挙して早期年金生活に入ってしまっています。学校のストレスに耐えられないのだそうです。学校制度が悪いのか、教師がストレスに耐えられない世代なのかが問われます。このため生徒1人1人の事情に合わせた対応ができず、無視される子供が出て来ます。そのあたりは私も目の当たりにしたことがあるので、報道はわりと現実を把握していると思います。こういう環境が暴力に向かわせるというのが専門家の意見で、その時にたまたま近くに銃があればそちらに向かい、銃が無ければ何か別なものに走るでしょう。

大悪を中悪と比較していいものか分かりませんが、その時手にする物が銃であるか、ナイフであるかで差が出ます。銃というのは何メートルも離れている所(安全地帯)から引き金を引くだけで相手が死んでしまう武器です。ナイフですと(まあ、ナイフ投げの名手というのがいるかも知れませんが、それを別にすると)直接相手の所まで出向き、目の前数センチの所まで近づいて、直接自分の手で相手を刺さなければ行けません。こういう事をするのにはトミー・リー・ジョーンズ のような教官についてプロの訓練を受けるか、 かなり図太い神経が必要です。それを考えただけで止めてしまう人が出るでしょう。このように単純に考えただけでも、銃に手が届かないようにすることには大きな意味があります。ドイツの課題は子供の心をどういうふうにして開くかというところにありますが、アメリカはそれに加えて、ここまで普及してしまった火器をどうやって回収し、制限するかという大問題があります。この問題に大統領が取り締まるという立場で取り組むとなると、制限に反対するロビーが手ごわいです。その1人チャールトン・ヘストンにムーア氏が直接会いに行きました。ムーア氏も全米ライフル協会の正式会員だったためか、すんなり会見には応じてくれます。しかし銃を持つ権利を確信しているヘストンを相手に話は平行線。前の作品 The Big One のナイキと違ってヘストンを説得することはできません。

逆にコロンバインの生存者を使ってスーパーに押しかけた作戦は成功。このスーパーは今後短期間の内に店で弾丸を売ることは止めると決定、実行しました。

後記: 昨日チャールトン・ヘストンが全米ライフル協会の代表を引退するというニュースが入りました。リーガン大統領と同じアルツハイマーにかかったそうです。次に代表に就任する人はどんな人なのでしょう。ムーア氏はまたインタビューに行くのでしょうか。

ムーア氏の次の作品は言論の自由を扱ったテーマで、華氏451にインスピレーションを得たものだそうです。

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