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シティ・オブ・ゴッド /
Cidade de Deus /
City of god

Kátia Lund
Fernando Meirelles

2002 Brasilien/F/USA 130 Min. 劇映画

出演者

Alexandre Rodrigues
(Buscape - 写真家希望)

Matheus Nachtergaele
(Sandro Cenoura - 麻薬のディーラー、ゼの敵)

Leandro Firmino da Hora
(Ze Pequeno - カベレイラの弟、大物ギャング希望)

Seu Jorge
(Mane Galinha - バスの車掌)

Johnathan Haagensen
(Cabeleira - 町のチンピラ)

Philippe Haagensen
(Bene - かたぎ希望、ゼの友人)

Douglas Silva
(Dadinho)

Alice Braga
(Ange'lica - ブスカぺ憧れの女性)

見た時期:2003年5月

詳しいストーリーの説明あり

パウロ・リンスのノンフィクション(1997年)の映画化。ストーリーは60年代から80年代のリオに近いスラム街「神の町」の様子と一少年の履歴。演じているのは大多数が本職の俳優でなく、地元の人。地元の顔役と話をつけ、ワークショップを開催し、2年ぐらいかけて作った作品なのだそうです。

素晴らしいタイトルの恐ろしい映画です。監督に悪気があって恐ろしくなったのではありません。現実が恐ろしいので映画も恐ろしくなってしまいます。 まさかとは思いますが、アメリカではアカデミー賞の審査員が恐れをなして、この映画は相手にしてもらえなかったという噂を聞きました。私も怖くて2度見る元気はありません。しかし良い映画です。

子供にこの恐ろしい映画を見せるべきかという議論が起きたようなのですが、本国の政治家の中には教育上の配慮から見せるべきだという意見が出るほどの力作です。「これがあまり凄かったので、アカデミーはボウリング・フォー・コロンバインに賞をあげることで妥協したのだ」などと勝手な事を考えてしまいたくなるほどの作品です。

映画の外枠をざっと。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

パルプ・フィクション式で話が一巡します。最初に出て来る少年が「今なぜこういう事になっているのか」を説明して行きます。「今」というのは前から警官に、後ろからギャングの集団に銃で狙われている状況。

怖かったのは映画がホラーだとかマフィアの殺戮だとかいうのではなく、子供たちの日常に殺人と麻薬が入り込み、子供たちはそれ以外の人生を知らないという現実のためです。貧しいながらも普通の生活をしていた人も巻き込まれて行きます。貧しいとはいえ一応家と言えるものを持っている家族が多く、ホームレス生活とはまた違います。 しかし資金源の多くは武器と麻薬。それも大人が子供を使い走りに使っているのではなく、少年たちにも主体性があり、ビジネスに積極的に関わっているのです。これには衝撃を受けます。

子供たちが大きくなったらどうなるんだろうという不安がまず浮かびます。答1: 大きくなるまで生きていられない子供が多い。答2: 大きくなったらもう犯罪のベテランになっている。答3: 犯罪に手を染めたくなかったら、自分の生まれた町を去るしかない。答4: 清く正しく生きていて、ある日親兄弟が殺されたらどうするかで決断を迫られる。

理由の如何を問わず、一旦銃を手にしてしまったら、ギャングが生活に入り込んで来ます。ギャングが入り込んで来たら、断われなくなります。断われなくなったら「悪い人間だけを殺す」などというモラルすらもろく崩れます。

映画に出て来る地区は神の町という素敵な名前がついていますが、本当は地獄だからそういう名前がついたのでしょう。ゲットーのようにリオの近くでいわば隔離状態。中は麻薬の家内工業のような状態で、小さな子供もせっせと紙を巻いたりしています。映画に出て来るのはハッシシ、コカインなどで、子供がスパスパやってもその場で死ぬということはありませんが、もっと危ない薬物は映画で扱っていないだけなのかも知れない、と妙に不安になってしまいます。 子供が死ぬ理由は麻薬ではなく。やたらたくさんあるのです。

2つの対抗するグループがあって、後半大きな戦争に発展します。まともな職業についていた人も身内や恋人を殺されたり暴行されたりで、やむを得ず参加。結局町は真っ二つに割れ、恐ろしい数の弾丸が飛び交います。戦争になる前、普通の状態で子供たちがをおもちゃのように気軽に扱うシーンはもっと怖いです。兄弟の年上の方が下の子に「気をつけろ」とか「手を触れるな」と言うこともあるにはあるのですが、ほとんど効果がありません。親兄弟など誰か大切な人が殺されてしまったりすると、すぐを手にできてしまいます。

さらにそれに輪をかけて悪いのは、正業についているはずの警官。2組のギャングが抗争を始めたのをいいことにどんどん武器を供給します。外国製品、最新型、大型など何でもあり。処刑人で武器のスーパーマーケットを見た時も呆れましたが、あちらは明らかに劇映画でコメディー。こちらはマジ。 神の町で作った麻薬はリオに流れ、外からはがどんどん神の町に流れ込み経済はそれで成り立っています。

これを見るとマイケル・ムーア氏の話はまだトーンを落としていると言いたくなってしまうほどの迫力です。普段私が「気合が入っている」と言うのを10倍ほどボルテージを上げたと考えて下さい。

パルプ・フィクションのようにストーリーが一巡して、最初のシーンに戻って来ます。前から警官、後ろからギャングに挟まれた主人公の運命やいかに・・・。

加えてもう1つミステリー・クラブの人だったら最初から答がみつかりそうな謎が1つ隠されています。ちょっと考えるとすぐ犯人が分かるのですが、隣に座っている人にそれを言ったら信じてもらえないだろうし、グロテスクなので、口をつぐんでしまいました。小説には出て来そうな話で、伏線は引いてあります。

そういった筋のおもしろさ、子供たちの元気さ、所々に出て来る(ブラックな)ユーモアなどで退屈する暇も無く2時間。確かにユーモアには救われますが、絶望から来る明るさ、始めから変な希望は抱かないあっけらかんとした明るさ、まだ10歳にもならないうちから子供がしっかりと認識している現実、よそに住んでいる大人は負けます。原作が現実、演じている子供の大多数がその地域の子供という重みに押しつぶされず、上手に仕上げた監督の腕はかなりしっかりしています。

この後にボウリング・フォー・コロンバイン を見るのも結構ですが、前に見ることをお薦めします。

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