映画のページ

モータウンの光

永遠のモータウン /
Standing in the Shadows of Motown

Paul Justman

(音楽専門の監督)

2002 USA 116 Min. ドキュメンタリー

出演者

本人、直接の出演、ビデオ、写真

The Funk Brothers に参加して、クレジットされていたメンバー

その他の The Funk Brothers メンバー(参考)

The Funk Brothers と Joe Hunter Band に参加し、
クレジットされていたメンバー

それ以外のメンバー

ゲスト

その他映画で触れられた人

ごく一部が再現ドラマで、ほかはインタビュー、コンサート・シーン、昔の写真やビデオ

見た時期:2003年7月

ソウルというのはあまり複雑な事を考えずに楽しめるので昔から大好き、がっかりした後また元気を取り戻すのにいい音楽、何かいい事があった時についでに聞いてもっと喜ぶ音楽、1人で部屋にこもって聴いていてもなんだか友達と一緒に音楽をやっているような気分にさせてくれる音楽、ソロなんていうのはほとんどなくて、みんなで一緒にやる音楽、とこれまで思っていました。単純極まりない認識です。

学生時代ブルースに凝っていたこともありました。まだ人生をろくに知らない小僧が、人生の辛さを歌ったようなブルース聴いていったい何を分かったつもりなのか、と誰かに言われそうです。お小遣いが限られていてほとんどレコードが買えなかったので、学校にあったブルース・バンドなどを生で聞いていました。結構上手なグループもありました。「日本人に・・・ができるか」などと言われたこともある時代ですが、学生ブルース・バンドには2通りあり、私の見ていたグループのメンバーにも必死でイミテーションをする人と、そんな事には頓着せず、楽器を道具と心得自分のやりたい事をやる人がいました。1つのグループの中にその両方のタイプが混ざっていたりすると、内輪もめなどもあり、大変そうでしたが、無頓着組はたいてい揉め事に積極的に参加せず、グループが空中分解してしまうと、またよそのグループに行って弾かせてもらっていたようです。ドイツの学生アマチュア・バンド(例えばパンク)はそれが個人ではなく、グループでそうなっていたようで、他の人が何をやっているかに頓着せず、好きな事をやるグループというのがあり、弾かせてくれるのならお祭りでも、道路の無料コンサートでも行くという姿勢です。これは長い人生で私がチラッと出会ったシーンですので、日本の場合もドイツの場合も現状を代表しているわけではありません。

人生がそう簡単なものではないと分かるにつれて、家に帰って落ち込んでいる時にブルース聞いたら、もっと落ち込んでしまう、根が単純だからソウルみたいな陽気な音楽聞いて憂さを晴らした方が自分には合っていると、いつのまにか方向は陽気な騒がしい音楽の方に向いていました。

モータウンの映画が来るということは随分前から分かっていたのですが、待っても待っても来ないのです。日本でもあるサイトの公開スケジュールに入っていますが、数回延期になっているようです。うたむらさんから情報が入った時も「これは DVD を見るしかない」とほぼ諦めていました。そうしたら6月末に来る映画雑誌の7月公開のスケジュールに載り、あっという間に映画館へ。大々的な宣伝はしておらず、大きな映画館のメインには入っていないので、注意していないと見逃しますが、私はしっかり待っておりました。

見終わっての感想: これは数回続けて見ないと後ゆっくり眠れない。若い人が順調に育っていない。搾取する側と搾取される側の物語だ。搾取するのが白人でも黒人でも話はそう変わらない。

月並みな言い方をすると、これは最近主要メンバーの1人が亡くなって、国家元首から花束が届いたというあのすげ〜爺様集合のブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのソウル版であります。ソウルという音楽にあまり関心の無い人にはこの説明だけで十分。ソウル・ファン、モータウン・ファン、あるいはファンでなくてもソウルに関心のある人には動く辞典みたいな映画です。とにかく見覚え聞き覚えのある大スターがぞろぞろ出て来ます。「あ、スモーキーだ!」とか「マーサが出て来た!」ってな具合。そしてもの凄くカッコいいマービン・ゲイの弾き語りシーンがあります。ジェームズ・ブラウンがソウルのゴッド・ファーザー、アレサ・フランクリンがソウルのクイーンなら、ゲイはソウルのプリンスだなあ、と容姿、声、歌い方にうっとり。

こういう人たちが全部脇役で、主演はザ・ファンキー・ブラザーズ。総勢かなりの数で、分かっているだけ左にリストアップしました。このバンドに属していて映画に名前が出て来なかった人がたくさんいます。モータウンの創立者が成功を約束されたものだけをリリースするという市場戦略を取ります。いいかげんなミュージッシャンは使えないというので、デトロイトでジャズなどで腕の確かだったミュージッシャンを集めて回ります。彼らの役目はスタジオでこれから売り出す歌手のバックを演奏すること。ミッション・インポシブルみたいなもので、その方面のエキスパートを2重、3重に集めてあります。ドラムス、ベース2人とか、ギター数人、といった具合。映画ではあまりブラス・セクションは強調されていませんが、ソプラノ、テノール・サックス、トロンボーンなども見えます。映画の中心はギター、ベース、ドラムス、キーボード、パーカッションなどです。白人のおじさんたちも入っていて、この人たちがあのザ・コミットメンツ中で白人の坊やが「おれたちはブラックだ、誇りに思っている ぞ」と言うシーンの元祖のように見えます。1人がキング牧師が暗殺された直後の話をしていますが、黒人に受け入れられている白人、皆で一緒に年を取ったという感じです。

40年近く日の目を見なかった、今でもあまり金持ちには見えないということ自体が変ですが、会社が1969年、1970年頃にカリフォルニアに移転した時、ザ・ファンキー・ブラザーズはあっさり見捨てられてしまいます。ローリング・ストーンズでも、あるバンドのメンバーがストーンズ・サウンドの元凶(まるで悪い事をしたみたいな書き方ですが、決してそういう意味ではありません)だったという事が後で判明しましたが、モータウンでもこの全然知られていないおじさんたちが実はあのモータウン・サウンドの元凶(やはり元凶では凶悪犯人みたいで人聞きが悪いですね。原点と言い直しましょう)だったのにです。この人たちの出す音、あのイントロのドラム、ベース、全体をきらきら飾るタンバリン、ビブラフォン、他の会社に差をつけていた、あの「モータウンだ!」とすぐ分かる音を出していたおじさんたちをあっけなくポイです。

これには裏があってこのおじさんたちの裏に他にサウンドを支えていた人たちがいたという説もあります。白人主導型だったという噂もあります。しかし映画の中にはおじさんたちが演奏して見せ、これぞモータウンだというシーンがあります。戦略会議の多い会社で、社長は曲も書ける人、副社長は曲をどんどん書きまくっていたスモーキー・ロビンソン。社長、重役は金庫番と金勘定をしているだけではなく(会社設立当時からRay/レイのように騙されてはいなかった)、具体的に「こういう音楽を演奏しろ」という基本案を持っていたようです。そういう意味では自由な発想を曲にする個人業のアーチストと違い、受けそうな作り方、商業ベースで物を考えるという戦術。ヒット曲工場と言われるのもうなずけます。ファンだった私は楽しい曲が聞ければいいわけです。会社にしてみれば売れればいいわけです。

と一応割り切ってみても「そりゃないだろう」とシーンがあります。ある日会社に出向いてみたらドアに看板がかかっていて、会社はロサンジェルスに移転したというのです。予告も何もなし。その日からザ・ファンキー・ブラザーズは失業。以前の仕事に戻った人、ロサンジェルスに行ってみた人の両方いたようですが、ロサンジェルスになじめず戻って来た人もいたようです。1曲の手間賃が10ドルというのも最初は仕方ないにしても、次々ヒットが出た後はちょっと搾取が過ぎるのではと思ってしまいます。 もしそういう風にするのならせめてしっかりした社内年金制度ぐらいは欲しい。あっさりお払い箱は無いでしょう。

以下は個人的な感想なので、別な意見の方もおられると思います。

えこひいきを承知で言うと、いろいろな音楽がリバイバル、リメイクされるのに比べ、ソウルはもうちょっと伸びてもいいのではといつも思っています。ブルース・ブラザーズは企画の段階では「今時こんな音楽だめだろう」と言われたのだそうです。それがスマッシュ・ヒット。音楽のせいなのか、当時記録破りのパトカー・スタントのせいなのか、ブルース兄弟が前代未聞のアホだったからなのかは分かりません。あの映画にはすばらしい要素が詰まっていて判断が難しいです。音楽ファンにはソウルの動く百科辞典みたいですが、それまで暫くソウルは下火になっていました。ですから、ゴッド・ファーザー、クイーンなどを集めて来ても当時の若い層に受けるかどうか保証はなかったわけです。それが思わぬ大ヒットになり、これを見て初めてソウルを知ったという人が新たにファンになっています。それでブルース・ブラザーズの続編を望む声がその頃からずっと続いており、ブルース・ブラザーズ2000が作られました。それでもヒット・チャートにはあまり上がって来ません。ドイツではレコード店などに行くと、ソウルとヒップホップが一緒に並んでいることが多く、ソウルの音楽を試聴したいと言っても、かかる曲は私の持っているソウルのイメージと少し違います。「60年代、70年代のソウル」と断わらないとだめで、今ではちょっと違うタイプの音楽がソウルという事になっているようです。

後記: その後事情はやや好転(2005年夏)。

私がソウルを応援する1番の理由は、「人が力強く歌っている」という感じがするからです。ジャズなども人が本当に歌っていますが、上品にアレンジされ過ぎて、泥臭いのがいいという人間にはちょっと良過ぎてしまいます。20年ほど前まで聞いていた日本のポップ界ではお腹でなく喉から声を出しているように聞こえる歌手が多かったですが、最近は海外でもそういう歌手がスタジオで録音したテープを何度もフィルターにかけたり、デジタル処理したりして出しているのではという印象。その中で当時のソウルには力があり、聞いている方にそのエネルギーが伝わって来ました。

軽い声、テクノ、デジタル・サウンドなどもあってもいいと思いますが、「ちゃんと声を出している曲」も聞きたいのです。その代表みたいなのがソウルと考えています。ですからモータウンだけでなく、南部のソウルでもいいのです。

しかし Standing in the Shadows of Motown を見ていてちょっと心配になってしまいました。ゲストが何人も登場して、当時のヒット曲を歌ってくれます。このシーンはスタジオ・コンサートみたいな感じなので聞いている方は楽しめます。スモーキー・ロビンソンのコンサート DVD より観客がしらけておらず、うれしい雰囲気です。ところがそこでソロを取るシンガーに何かが欠けています。

ある女性シンガーの場合、あのモータウンの本物のバンドをバックに歌っているのに、重く引きずるような歌い方。モータウンはあの軽くリズミカルなバックが良かったのに・・・と思ってしまいました。下手な人ではないのですが、この人ジャニス・ジョップリンの曲を歌った方がいいんじゃないだろうかと思いました。喉に非常な負担をかけてがなりながら歌うのです。例えばザ・テンプテーションズにも凄いがなり方をするリード・シンガーがいましたが、一瞬爆発するようながなり方で、そこへ他のメンバーのコーラスがさっと入り、聞いている側が疲れないようにアレンジしてあります。そのコーラスにはアイク・ターナーのような低音からスモーキー・ロビンソンのようなファルセットまで混ざっていて、アレンジの巧みさに驚きます。リズムによく乗っていて、バック・バンドにブレーキをかけるような歌い方ではありません。モータウンはあのどんどん転がるように先へ進む軽いリズム、先へ先へと駆り立てるようなアップテンポのリズム、遅目でもその辺に引っかかって道草をしないようなリズムが良かったのです。

著名なシンガーとして登場する男性も1人はソウルとしてはちゃらちゃらし過ぎているような感じで歌唱力は今一つ。もう1人はソウルというにはちょっと厚みが足りないような感じ。曲のジャンルによってはかなり行けそうな人ですが。60年代、70年代のソウルに近い歌い方をするシンガーがいないのではありません。例えばザ・コミットメンツはストーリーの関係で当時の曲を真似ただけですが、全員きっちりソウル歌手になり切っていました。力強く歌い、エネルギーを発散していました。ブルース・ブラザーズ2000 に登場したあるバンドは、種類から言うとロックンロールのような曲を演奏していましたが、ソウル・ミュージックのエッセンスはしっかりつかんで、全てのエネルギーをつぎ込んで歌っていました。ああいう風に歌える若い人は探せばいると思います。

この映画を見に来ていた人は非常に少なく、映画館はガラガラ。それでも最初は小さいホールを予定していたのを1番大きなホールに変更していたので、ある程度お客さんが来ると予想しているのでしょう。行ったのは月曜日で、あまり客の入る日ではありません。来ていた人たちはなんだか変な雰囲気で、およそソウルなどを聞きそうにもない人たちばかり。年金生活に入った夫婦のような人、親子と言ってもいいぐらい年の離れた、25ぐらいの若者と50ぐらいのおじさん、ところがあまり親子にも見えない、等々。もしかして大きなホールでやるはずだった他の映画を見るつもりで入って来たのではと思ったぐらいです。しかし皆最後まで見ていました。あまりにもがらがらなので、私は1人で盛り上がっていたものの、歌うわけには行かず、ちょっと欲求不満。「あ、スモーキーだ!」なんて言っても分かってくれる人がいないような雰囲気でした。

ところが映画が終わり、クレジットがほぼ終了したあたりで後ろから聞き覚えのある歌声がしたのです。なんとベルリンで仕事をしているシンガーでした。確かステージではニューヨークの人だと紹介されていましたが、あるベルリンで有名な詩人兼歌手(男性)がコンサートをやった時、1曲だけこの女性がバックを歌ったのです。10年近く前の話です。有名な歌手というのも美声なのですが、この女性は本物のソウルの迫力。マーサ・リーブスと比較してもいいぐらいの力強い美声。以前うちの近くに住んでいて、同じ地下鉄の駅を使っていたことがあるので、この有名な歌手にはお近づきになったことがあるのですが、今度はその人のバックをやった女性にばったり。ちなみに白人女性です。この2人が歌った曲を英国国営放送にリクエストしてかけてもらったこともあります。滅多にサインなどを欲しいとは思わない私が、この時ばかりはサインをねだってしまいました。もうずっと前にニューヨークに帰ったと思っていたのですが、どうやらベルリンでいくつも仕事があるらしく、ベルリンに住んでいるようです。私とはドイツ語で話しました。本人もあのコンサートのことは割にはっきり覚えていました。私が「あなたは絶対に忘れられないいい声をしている」と言ったら喜んでくれました。この女性がザ・ファンク・ブラザーズと一緒に歌ったら凄いだろうなあと思います。

後記: 9年経った2012年、町中に彼女のポスターがあふれています。アメリカでは活躍しているのか分かりませんが、ベルリンではその後成功したようです。

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