音楽のページ

The Four Tops and The Temps ♪

負けたのはテンプ

USA 160 Min. の後半

出演者

The Temptations

バックバンド

見た時期:2007年11月

最初はザ・フォー・トップスだけを扱う予定だったのですが、ここで予定を変更して・・・行きがかり上テンプも扱います。

「いよいよテンプの登場です」と言うべきなのでしょうが、私はザ・フォー・トップス目当てに来ていたので、この後は付け足し。

★ 見た瞬間違和感

登場したのはカーキ色に黄色を混ぜたような渋い色のスーツに身を固めたザ・テンプテーションズ。一瞬目を疑いました。「これがテンプ!?そんな、まさか・・・」

登場したその瞬間からそこにいたのは誰か他の人。ザ・テンプテーションズではありません。10年前のコンサートの時はメンバーチェンジがあったとしてもテンプでした。何じゃ、これは・・・。

★ 外見の違和感

まずはアウトフィットから。相撲をやった方が良いんじゃないかと思える体格の人が2人。以前のテンプでも見たような痩せ型の人が2人。その中間で普通の体格の人が1人。40年以上経ってオリジナルと比べるのは行けないかも知れませんが、たった今、ザ・フォー・トップスを見たばかりなので、この変わり様には衝撃を受けました。10年前のコンサートの時は、まだテンプとして受け入れることが十分できたのです。

★ 前にテンプとして来たメンバーが、ザ・フォー・トップスになっていた

当時のメンバーは情報が正しいとすると、オーティス・ウィリアムズ、首になりつつあったアリ・オリ・ウッドソンか後任のテリー・ウィークス、ロン・タイソン、テオ・ピープルズ、ハリー・マクギルベリーの5人。テオ・ピープルズは直後にザ・フォー・トップスのメンバーが亡くなったためテンプを辞めて入り、今回もベルリンに来ています。ですから当時テンプとして見た中にオーティス・ウィリアムズとピープルズがいて、10年経った今テンプにいるウィリアムズとザ・フォー・トップスのメンバーとしてのピープルズを再び見たことになります。

★ この変わり様 ピンク・レディーになったテンプ

ヒット曲の多いテンプは最初から有名な曲を混ぜてガンガン飛ばします。曲のテンポはやや速め。しかしのっけから愕然とする事実がもう1つ。

テンプだけでなく、当時の有名グループの売りは歌がうまいだけでなく上手に振り付けされたダンスでした。ザ・フォー・トップス、テンプ、グラディス・ナイト&ザ・ピップスなどが流行の最先端を行っていました。たった今見たばかりのザ・フォー・トップスも当時の踊りを再現してくれたので、私はとても楽しく見ました。10年前ベルリンに来たテンプは踊りを減らしていましたが、時々は見せてくれました。

ところが2007年11月ベルリンに来ていたのは、ピンク・レディーかキャンディーズだったのです。あの横綱のような体格のボーカリストがこのようなスピードで体を動かせるのは脅威ですが、それでも私が見たのはテンプではなく、ピンク・レディーでした。どこの誰が振りつけたのかは分かりませんが、テンプの踊りではありません。まるで電気仕掛けの人形のようでした。

★ ミスの無い歌になぜか失望

失望したのは歌。テンプはエネルギッシュな爆発するような声と、ファルセットや超低音がうまく混ざり、力強さと繊細さを1つのグループで出せるのが売りでした。じっくり聞くと音を外す人が時たまにいますが、なかなか個性的なサウンドでした。

2007年11月ベルリンで聞いたのは、音楽版インポシブル・ミッション。1人1人の声は超完璧。爆発するような声を出すのは1番体格のいいおっさんですが、よくこんな声をあんなに長時間出せるなと思うぐらいのパワー。そしてファルセットとベースの声は完璧で音を外しません。1曲アカペラ風の歌い方をしたのですが、そこでも全く完璧でした。ミュージッシャンとしては超々々一流でしょう。

しかし私が受けた印象は、テンプの1人が(生き)残り、マネージャーかプロデューサーがアメリカの音楽家組合のカードをめくり、きっちり歌えそうな人を何人かオーディションに呼んで、合格した人を4人入れたってな感じでした。実際にそんな事をやったと言っているのではありません。そんな印象を与える歌い方だったというだけです。完璧な音は出すのですが、相互のつながりが全然感じられないのです。

ザ・フォー・トップスには1人歌の弱い人が入っていましたが、4人の結びつきが感じられ、グループとして好感を持ちました。テンプはその逆です。後ろのバンドと似た印象でした。

★ テンプの色が褪せた

そしてブラック・サウンドという印象がほとんど消えかかっていました。変な例えですが、ソウルには演歌のような面があります。最近有名になっている若者のバンドとは違う発声をし、違うサウンドに仕上がります。仮にビートを利かせて伴奏をポップス調にしても、演歌歌手が歌うとポップスとは一味違います。ソウルにもそんな面があります。それがテンプから消えていたのです。

ミキサーがテンプの時にはザ・フォー・トップスよりボリュームを上げたので、会場はかなり大きな音で一杯になり、メンバー1人1人の声を楽しむ雰囲気ではありませんでした。シンセサイザーを多用しており、ブラスが9人もいるのに、ブラスの音がよく聞こえないのです。

電気仕掛けの人形のように踊る5人の青ざめた顔色の男たち、完璧な音程ではあるけれど、ソウルを失った男たち、ソウルらしさを全然出さないバックバンド。これが2007年バージョンのテンプでした。

テンプは元から時代に合わせて変化するバンドでした。サイケデリックをいち早く取り入れ、時代をリードしたバンドです。ですから2007年に1965年、1970年と違うサウンドを出してもそれは構いません。しかしブラック・サウンドはベースにしてもらいたかったです。

よく考えてみると、モータウン自体が政治のコンセプトで生まれて来たかも知れない会社で、社長のバリーの後ろには白人の助言者が見え隠れしていました。当時公民権を持っていなかった貧困層の黒人に公民権を与え、以前よりよくお金が稼げるようにして社会的地位を上げ、アイデンティティーを持たせようみたいな考え方があり、最終的には消費者として、稼いだお金を使ってもらおうという流れでした。ちょうど今アジアの大国で起こっているのと似た流れです。経済が理由で政治が動いたわけですが、どんな理由にしろ当時劣悪な状態で生活していた人が以前より良い生活ができるという動きです。その時大きな役割を果たしたのが黒人の音楽。黒人にアイデンティティーを意識させ、かつ白人が夢中になるような魅力的な音楽、それがソウルでした。

どういう背景だったにせよ、楽しく素敵な音楽が次々に登場し、私は楽しい青春を送りました。その後ずっと、今日に至るまでソウルは好きな音楽ナンバー・ワンのままです。そういう私にはソウルの権化ナンバー・ワンがテンプでした。ですからこの夜の出来事にはすっかり失望してしまいました。この日はソウルの権化ナンバー・ツーが目当てで来たわけですし、そのナンバー・ツーが当時のファンを失望させない良い出来だったので、入場料は無駄にはなりませんでした。しかしテンプのこの様子にはびっくりしました。

この種の変化はテンプの責任と言うより、プロデューサーやツアーのマネージャーの意向によるのではと思いますが、かつてのソウル・ファンにとってはどうなのでしょう。

★ 点の甘いドイツ人 音楽には詳しいはずなのに

ここでいささか驚いたのはドイツ人の観客の反応です。私もかなり影響を受けましたが、ドイツ人というのは自分が払ったお金に見合うものを手に入れることができたかを非常に気にする人たちです。ですから不良品をつかまされたら返しに行くのは当然ですが、注文した品物が気に入らない場合でもすぐ返します。売った側はお金を返すのが普通になっています。私は何年か様子を見た結果その考え方に納得しています。

それとは別な話ですが、ドイツ人というのは音楽に親しんでいる人が非常に多く、1つの楽器をきちんと演奏できる人も多いです。ですから音楽に対する耳は高いレベルと言えます。この両方の事情を知った上でこの日の観客の反応を見ると、矛盾しています。

ザ・フォー・トップスの時はほとんどの時間観客は座って見ていました。とは言うものの観客との一体化はとても良くて、皆がヒット曲を一緒に歌っていました。ザ・フォー・トップスもそれに気づいてマイクを観客側に向けたりもします。テンプになってからは半分近くの曲を立って聞く人が多く、座って見ていたくても前の人が立ってしまうので、自分も立たなければなりません。観客はザ・フォー・トップスの時以上に一緒に歌います。態度を見ると完全にノリノリです。・・・あのパーフォーマンスで・・・???

★ 塩コショーかと疑ったぞ

何でこんなので乗ってしまうんだ、うるさ過ぎて歌すらちゃんと聞こえないじゃないか、バンドの楽器も全然聞こえて来ないじゃないか(ブラスが演奏するといくらかバイブレーションがあってもいいと思ったので塩コショーみたいなプレイバックではないかと疑いましたが、1曲ジャズっぽいアレンジの曲があって、確かにアルト・サックスは自分で吹いていました。)、お前たち払った入場券の価値と比べたのか・・・と考えながらしらけていました。

歌う人の声はかなりのパワーで、音も外さないので、そういう意味では文句がつけにくいです。でも何かが死んでしまった。問題はこれがテンプかというところです。マドンナ以降、歌ではなくパーフォーマンスで見せる歌手が何人も出ました。ちゃんとした歌を聴きたかったら俳優を探せと言いたくなるような出来事もあります。その中でその辺の誰にも負けないはずのテンプの変身ぶりには全く驚きました。お目当てだったザ・フォー・トップスに満足したので、入場料にいちゃもんはつけませんが、どちらを前座にするべきかは考え直してもらいたいです。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ