映画と関係のないページ

ウクライナのCCR

考えた時期:2004年4月

時たまチラッと触れましたが、ベルリンには路上で音楽を演奏する人たちが多いです。市や市の交通局からから許可を貰って、道路や駅の構内で演奏をし、その間お金を恵んでもらっても良いことになっています。許可がないとうるさい国ですが、市はわりと簡単に許可を与えるらしく、警官などとのトラブルはあまり聞きません。

演奏する人のレベルは上から下までさまざま。初めて楽器を手にして、ちょっと演奏できるようになったので腕試しにという感じの人から、この人にレコーディングやコンサートの話が回って来ないのは変だと思えるようなプロ級まで何でもありです。

電車の中で演奏する人もいます。こちらはもしかしたら BVG など市の交通局が許可していない可能性もあります。というのは検札が来ている時に音楽を聞いたことが1度も無いのと、電車のドアが開くと音楽を止めてしまったり、小さな音で演奏する人が多いからです。

確かに知り合いと電車の中でおしゃべりしていたり、1人静かに座っていたい時に誰かが下手な音楽を演奏し始めると、検札と同じぐらい腹が立ちます。しかし時たま凄い腕の音楽家も現われます。

昨日そういうのに出くわしました。この種の音楽家はたいていソロかデュエット。4人組などというのはまずありません。2人組で1人が音楽をやって、もう1人が「寄付金」を集めて回るパターンが多いです。S バーンと呼ばれる地上を走る電車、東京で言うなら中央線や山手線のような電車の中での話ですが、昨日はまず最初タンバリンとギターを持った2人組が来て景気の悪い暗い歌を歌って行きました。しつこくお金を恵んでくれと歩き回っていましたが、下手くそで、こちら、失業しておらずお金を持っていても 1¢ もやらないぞという感じ。

たいていはそれっ切りなのですが、この日は暫くして別なグループが来ました。いきなり演奏を始めたのですが、それが「おや」っと思わせるサウンド。あまり高そうでないギターを持った2人組。サイモンとガーファンクルを思わせるような高めの歌声、オリジナルとは全く違うアレンジでクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの Have you ever seen the rain を歌い始めました。上手い!。音程もしっかりしていましたが、歌い慣れた声です。それだけではありません。あまり歌わない方の人が弾くギターが凄かったです。どんどん前へ前へと飛ばして行く軽いサウンドなのですが、どういう風に表現したら良いんでしょう。カントリーと R&B を合わせたような感じ。ドイツ人では絶対に出せないようなサウンドです。歌っている人も発音が良く、欧州の英語圏、スコットランドかアイルランド人あたりかなと思いました。

2人の息はぴったりで、サイモンとガーファンクルにちょっとましなレパートリーを歌わせたような感じです。ギターの飛ばし方は CSNY よりやや楽しげ、悪い意味でない軽さがあります。私は思わず一緒に歌ってしまいました。

たっぷり聞きたかったのですが、残念ながら終着駅。この線は本当はもっと長いのですが、現在隣の駅から先が工事中なため、Zoo という駅、ちょっと前に地下鉄が消えた駅で終わり。この時は地下鉄でなく、上を走っている方の駅に到着。もたもたしていると Alle aussteigen! (全員降りろ!)と怒鳴られそうです。

私はあまり印象に残ったので、好奇心に駆られ、暫くホームに立ってこの2人をしげしげ眺めていました。2人はベンチに座り、1人は水を飲んで休憩。良く見ると若者などではなく、中年のおやじ2人。それなのに明るい軽い(若い)声が出ます。

このあたりでチラッと「東かな」とは思いました。東ドイツの人は大道芸人でもれっきとした音楽アカデミーの教育を受けていて、実は譜面などは軽く読め、数種類の音楽と楽器を軽くこなすような人ばかりなのです。ある有名なビールの CM をやっているバンドも音だけ聞いていると、ティーンのバンドかと思います。ところが映画館に入って CM を見ると50ぐらいのヒッピー崩れのような白髪長髪のおやじが数人。この年であんなに軽いロックンロールができるのかと驚いた事があります。私が「軽い」と言っているのは軽々しいとか、薄っぺらという意味でなく、リズムが重くならずどんどん前へ進むという意味。ロックンロールなどは軽ければ軽いほど乗りがいいです。

さて、この2人組のおやじを前にして、私は何語で話しかけたら良いのか迷っていました。図々しく見ず知らずの男に話しかける決心はすぐできたのですが、顔を見ても何人(なにじん)か分からないのです。1人はスコットランドやアイルランドでも通りそうなおやじで、薄い髪を全部そってしまった上にチェックの帽子をかぶっていました。チェックの帽子をかぶるドイツ人などはまずいないのでこれは確実に外国人。英語にしようかなと思っていたところです。

ところが相棒が全然違うのです。後ろから見ると東洋人に見えました。前から見ると東洋人ではありませんが、南米の山の方の人か、バルカンか、とにかくはっきり決めつけられない顔です。髪はふさふさ生えていて、こげ茶色。幸いこの人が他のドイツ人とドイツ語で話していました。それで私もドイツ語に決めました。

で、どこから来たのか聞いてみると予想を全部はずしてウクライナと言うのです。これにはびっくり。私はウクライナ人の知り合いがいて、一緒に勉強したことがありますが、その人たちと全然違うのです。しかしソビエト時代は言わば合衆国。大きな国ですから西はスカンジナビアから東は日本のちょっと手前まで全部がソビエトでした。何かの理由で西洋風の人がナホトカに住んでいたり、東洋風の人がモスクワに住んでいたりすることもあるでしょう。その辺はま、驚くようなことではありません。

驚いたのは英語圏の出身かと思わせるようなスムーズな英語と、アメリカの南部のバンドかと思わせるようなギターのサウンドがウクライナから来ていたという点と、50前後のおやじが2人だったこと。何でこんな上手い人が電車の中で演奏しているの?というのが正直な感想でした。これぐらい行ければライブ・ハウスでもレストランやホテルでも雇ってくれそうです。

話ついでに向こうは私の名前を聞いて来ました。こちらは音楽を勉強したのかと聞きました。ドイツ語で「勉強したのか」と言うと自動的に音大など大学クラスの学校でという意味になります。東の人がそういう学校に行っている場合が多いので聞いたのですが、ヴォーカルをやった方の人が「勉強はしていない」と言います。テレビの音楽ディレクター(直訳すると「音響技術者」と言っていたのですが、日本語ではこういう職業を何と呼ぶんでしょう。音楽ディレクターは外れているかも知れません)だったそうです。ちょっとお小遣いが足りないので一稼ぎしているところだと言っていました。

ドイツ人で電車や路上に登場する音楽家にも時々上手な人がいますが、譜面や元の曲の枠を飛び越えて自由に音で動き回る人はまずいません。レコーディングやコンサートをやるようなプロでもそうです。クラフトヴェルクに代表されるように演奏前に決めた規則を自分できっちり守るという演奏の仕方をする人ばかりです。ジャズでも、ロックでもそれは変わりません。ですから私はあまりドイツの音楽家に夢中になれないのです。アメリカ人をひいきするわけではありませんが、アメリカのミュージッシャンにはよくポイントを先に決めておくけれど、実際に演奏が始まるとそのポイントはただの目安で、その先にどんどん突き進んで行く人がいます。音楽家の場合「どうにも止まらない」という状態は聞く方にとって楽しく、スリルがあって大歓迎。そういうミュージッシャンがドイツではあまり見つからないのです。それをこのウクライナの無名の2人組はあっという間にクリア。

もう1人このデュエットと話し込んでいたドイツ人がプロデューサーかプロモーターだといいのですが。何だか携帯を持ち出し、ギタリストと話し込んでいました。

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