映画と関係のないページ

デモかパレードか

考えた時期:2004年6月

> ベルリンのデモとかパレードは、日本のお祭りの山車とかお神輿みたいなものなのかなあ。
> 世界どこでも、街中を集団で歩くのが好きなのかもね。

という書き込みをいただきました。この話題は来年も出るかも知れないので、書き込みに返事を入れようかと思ったのですが、長くなりそうなので、こちらに移しました。

日本とよく似ていて、政治的なデモをやりたいという人は、当局の許可を取れば、問題無くやることができます。犯罪を奨励するようなテーマでなければたいていのテーマが許され、日本よりうるさくないのではないかという印象を持ったこともあります。犯罪に関わらなくてもややうるさいと思えるのは右翼や左翼の前に《極》という字のつきそうな団体。文字が示す通り極端な主張も出ますし、中には政治的な理由とは言え、人を傷つけたり、憲法で保障されている権利を制限したりという主張も見え隠れするので、その辺は境界線を引かなければ行けないでしょう。

普通行なわれるデモは大小さまざまな規模で、人がプラカードや横断幕を持って特定の場所を練り歩き、最後に代表者が声明などを読み上げるという形で、日本とよく似ています。デモを行なう場所はどこでもいいようですが、たいていは大勢の人に見てもらえる目抜き通りが選ばれます。井上さんが泊まったホテルのある通りなどは好まれるようです。

一旦許可となると、警察が守りを固めます。デモをやっている人を保護するという趣旨ではないかと思います。外国人の少数民族がデモをやると、それに反対する人たちに襲われる危険がある場合もあるのです。左翼がデモをやると、スキンヘッドが押し寄せ乱闘になることもあるので、守るという部分と、分離するという部分が重なる時もあります。対立するグループが同じ日にデモの登録をするなどという事もありますからね。この辺は詳しく知りませんが、日本でも同じなのではないかと思います。

警官のガード担当者はデモの許可の下りた時間の少し前から、少し後まで、通る道の交通をパトカー、オートバイなどで遮断。マスコミ、特にラジオの交通情報では遮断される場所と時間を放送。救急車も待機します。これは規模が大きい場合で、救急車が来ない小さいデモもたくさんあります。救急車はデモ隊が強行採決のような乱闘になった場合に備えているという面(ああいう屋内のスポーツ的な政治活動はドイツにはありません)と、見物人が日射病などで卒倒してしまった場合という両面に備えています。 そしてデモが終わると市の清掃局が来て、道路をきれいに掃除。デモが小さい場合は散らかりませんから、来ません。

これがデモのスタンダードですが、変り種が毎年6月下旬、7月上旬の週末に行なわれる《クリストファー・ストリート・デイ》や《ラブ・パレード》。この2つは数年前までは政治デモ扱いでした。政治デモということは、上に書いたようなサービスが市の費用でまかなわれるということです。《クリストファー・ストリート・デイ》は明らかな政治デモ。アメリカで起きた事件に端を発し、ゲイの人たちが自分たちの権利を主張するために毎年行なっています。ですからエイズ対策に関する主張や、職場差別撤廃などというのぼりが立っています。本家はアメリカで、ベルリンの《クリストファー・ストリート・デイ》は25年続いています。

しかし、上に書いたような大勢の人が徒歩で練り歩くデモと違い、30から40台の大型トラックやバスを借り切り、その他に中型車が加わり、それを移動ステージのように改造して、ロック・コンサートに使うような大型スピーカーを乗せ、20人、30人、時にはもっと大勢の人が乗って、ダンスをします。車の周囲には大勢の人が徒歩でついて来ます。流れる音楽はテクノが多いですが、ビレッジ・ピープルなどゲイの人にはシンボル的な意味のある古い曲も使われます。踊る人たちはさまざまな工夫を凝らした衣裳で、中にはほとんど全裸に近い人もいます。今年はちょっと寒い日で気の毒でしたが、普段この時期は天気が良く、汗を流しながら楽しそうに踊りまくります。

この衣裳に特徴があり、1つの派はブラジルのカーニバルを手本にしたような色とりどり、極楽鳥のようなもの。もう1つの派はサド・マゾ・スタイル。そしてほとんどが男性。ベルリンのゲイ運動は男性を中心に行なわれており、《クリストファー・ストリート・デイ》のデモに参加するのも圧倒的に男性が多いです。近年女性がやや増えて来たかという感じですが、半分には至っていません。

元々《クリストファー・ストリート・デイ》はゲイの男性が存在を主張するデモですから、女性、男女のカップルは関係ないようなものですが、ゲイ運動はレズビアン運動とも連動しています(《ゲイ》という言葉を男女に関わらず同性愛とする向きもあるのですが、ベルリンでは一般的には男性を指します。ドイツ語ではシュブールと言う方が多いです)。ですからゲイ運動に合流する女性カップルが出るのは自然な動き。しかしゲイの運動はゲイに反対しないヘテロ(男女コンビ)の人たちにも受け入れられています。デモがカーニバルみたいで楽しいからという理由で見に来る男女もたくさんいるのです。この日も親子連れの家族をちょくちょく見かけました。子供がまだ小学生ぐらいという家族がいました。と言うわけで最近では《クリストファー・ストリート・デイ》のデモは6月の観光スケジュールにも入っています。

これに対抗したのか、関係無いのかは分かりませんが、この1週間から2週間後に《ラブ・パレード》が行なわれるのが最近の慣わしでした。昨年は15周年でした。

《ラブ・パレード》はニュースが日本にも行っているでしょうから、ご存知の方もおられると思いますが、市の人口が一時3分の1ほど増加してしまうという物凄い規模のデモで、150万人参加などという記録もあります。

《ラブ・パレード》もちょっと前までは政治デモと認められていました。ですから上に書いたような市のサービスを受けていました。しかし《クリストファー・ストリート・デイ》と違い、一体デモで何を主張しているのかはよく分かりませんでした。市もそう思ったのか、ちょっと前に、これは商業的な催しだということになり、サービスは中止。主催者が自分で掃除してくれということになりました。このような大規模な掃除ができるのはベルリンの清掃局ぐらいしかないので、清掃局がやっています。請求書が主催者に来るという点が違います。

市が政治デモと認めるか認めないかでは暫くもめました。欧州の各国から若者が押し寄せて来るので、市に観光費用が転がり込むという面と、若者は貧乏だからホテルに泊まらない、あまり金を落とさないという面があり、市の税金を使うという点をどこまで正当化できるかなどの議論がありました。結局デモとしての条件を揃えていないという結論になったようです。

そのためということではなく、若者の音楽の嗜好が最近変わり、どちらかと言えばそれが原因だと思いますが、参加者が減り始め、今年は中止になりました。中止にするかどうかでも暫くもめていましたが、どうやら赤字を恐れての決定だったようです。私も色々な理由で、少なくとも今年は中止に賛成していました。1つには自分の区の庭が踏み荒らされ、後で芝生の世話をする市の庭師の人たちが涙にくれてしまうからです。1年かけてせっかく世話をしたのに、またガタガタ。しかし、インターネットや携帯ばかりで友達と付き合う若者が年に1度同じ思い出を共有するという意味では、私も賛成。難しい選択です。しかしスペインの列車爆発事件などもあり、若者が100万人以上無防備で集まる場所は警備の急所。そういうこともあって、ちょっと心配していました。ですからほっとしたというのも本音。結局今年は《ラブ・ウイーク》というのに切り替わり、その週にテクノのクラブでそれぞれ催しをやる、屋外で1箇所に大勢が集まるのを止めて、色々なトレンディー・クラブで分かれてやるということになりました。以前にもちょっと書きましたが、テロの心配などが減った時点でまたやればいいのではと思います。

さて、今年の《クリストファー・ストリート・デイ》の方は、以前よりやや色褪せたという感想。天気は良かったのですが、肌寒い日だったというのも1つの原因。前日は雨天でした。また、最初の車はエイズ患者の救済を訴える目的を持っていて、非常にまじめな、やや深刻な顔をした人たちの車だったので、そういう印象になったのかも知れません。しかし全体を見ても、以前のような若者の生き生きした表情が減り、やや守勢に転じたような印象です。

アメリカでは一部の都市や州が今年ゲイ・カップルの結婚を認め、それに対して州知事、大統領が反対の立場の意見を言い、一部は裁判にもなっています。欧州ではゲイの結婚を認めている国もあります。ドイツ、ベルリンは認めていませんが、どういうわけか、ドイツでは大きな対立がほとんどありません。今年のデモのモットーは《寛容の精神を持って容認という立場から、普通に受け入れという立場に変えていこう》というもので、ベルリンに限って、それも特定の区に限って言うともう実現している内容です。それを拡げて行こうという趣旨。以前からできそうだという話があり、去年からどうやら実現した新しい法律で、結婚していなくてもきちんとパートナーとして登録すれば、結婚した人と同じような優遇措置が受けられることになったからかも知れません。

カーニバルのように見えてもこれが政治デモだという理由は、参加者。エイズ支援団体も出ていますが、有名な政党も参加。警察のゲイ・グループ、消防自動車なども出ていました。警察のゲイ・グループがにわか作りの借り物でないという点は裏が取れています。この間警察が1日職場を市民に開放してさまざまな催しをやったので見に行って来ましたが、そこでは警察官のゲイ・グループもテントを出していました。

市の男性人口の3分の1がゲイだという噂を聞いたことがあります。どんぶり勘定で、人口を350万とすると175万が男性で、その3分の1となると60万弱。本当にそれほど多いかどうかは知りませんが、ドイツの人口の5%がゲイだという話もあります。8000万人ちょっとの5%というと400万人。ベルリン全人口をやや上回る数です。よく考えて見ると、凄い数字だなあと思いますが、昨日まで気づかなかった。

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