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2004 Spanien 110 Min. 劇映画
出演者
Andoni Gracia
(Félix - 建築家)
Mónica López
(Vera/Claudia)
Pere Abello
Rubén Ametllé
Xavier Capdet
Daniel Casadellas
Francesc Garrido (Bruno)
Violeta Llueca
Gemma Lozano
Minnie Marx
Fina Rius
Agustí Villaronga
(Martín)
見た時期:2005年8月
ちょっと出来の悪い作品ではありますが、あと一息で凄くおもしろくなったかも知れません。全体は3つの部分に分かれていて、それぞれの部分が皆あと一息で・・・という感じです。残念と言えば残念ですが、こういうのこそリメイクして仕切り直ししたらどうかと思います。セットや中で使われている調度品、カメラ、光の具合などは一流と言っても良く、演出をもう少し工夫したらかなり良くなったと思います。俳優には特に傑出した人がいないのですが、誰かが傑出する必要は無い筋運びで、演出を工夫すればこのままのキャストでも行けそうです。
ミステリー物の演出の上手い人がやると、他愛ない話でもスリル、サスペンスにあふれ、ハラハラしながら見ていられます。逆にどんなに大金をかけても、大スターやベテラン俳優を連れて来ても、スリラーとかミステリーという乗りでない監督がやるとつまらなくなってしまいます。モラレス監督は1つの映画にスリラー、家族やカップルのドラマ、コメディー、モダンなライフスタイルなどを全部押し込もうとしたため失敗したのかも知れません。どれかを犠牲にしてどれかを取るとすればやはりスリラー的要素を残すべきで、他は放棄しても良かったのではないかと思います。スリラー部分だけにしても、実際の犯罪が起きているのか妄想かという問題が絡み合いますから十分に謎は大きくなり得ます。
ちょうど今同居していた恋人と別れるところの建築家が主人公。職業的に成功しているらしく、静かな高級住宅街に大きな館を構えています。白いきれいな家で、中はモダンなインテリア。きれいに片付いています。これまで2人で暮らしていたので、パートナーが出て行くとがらんとしてしまいます。彼女を何度か説得しようとしますが、女性は気に入っていた大邸宅を出ることになっても1人で暮らす道を選びました。「別れたとは言っても友達じゃない、引越しの荷物を取りに来るし、何かあったらいつでもうちに来るなり、電話して頂戴」と言うのですが、彼との同居には合意しません。きっとそういう結論に至るまでに何度か争いがあったのでしょう。建築家は自分が成功しているので、パートナーの職業的成功や彼女自身の幸福には無頓着。多分自分が食べさせてやれるから、彼女は何もしなくてもいいという考えなのでしょう。これは最近の女性に取っては受け入れにくい提案で、亭主や恋人が大成功していても、自分もそれなりに何かやりたいのです。
で、彼女は町にこれまでとは比べ物にならないほど小さいアパートを借りて暮らし始めます。小さいとは言っても私たち下々の者や、厳しい住宅事情で暮らしている日本人に言わせればかなり贅沢なアパート。ここで新しくやり直して幸せという彼女の気持ちは分かります。建築家は彼女のアパートを見て、自分の所の方がいいと考えますが、彼女が問題にしている本当のテーマには気付きません。
説得しても色よい返事が来ないので、怒ってみたりしょげてみたりの数日を過ごしている時、誰かが玄関先でベルを鳴らします。見知らぬ男が立っていて、「電話を使わせてくれ」と言います。「公衆電話にしろ」と近くにある電話をさして言うと、「故障しているから」との返事。別に押し込み強盗には見えなかったので、建築家は承知して部屋に通します。立ち聞きしては悪いと思いその人物の電話中別の部屋に行きます。ところが戻って見ると男は消えています。
その時は変な奴だなと思いましたが、どうしようもないのでそのまま暮らします。別に物を盗まれたりはしていない様子。ところがそれから毎日ちょっと変だと思うようになります。1人暮しのはずなのに、どうも誰かが家にいるような気配がするのです。時には別れた彼女が荷物を取りに来ることもあるのですが、建築家が感じるのはそれとは別。観客には建築家が別れ病にかかり、彼女との別れに耐えられずノイローゼにかかったのかと思えて来ます。これまでの結びつきが強いと、別れた時にうまく結婚前のような生活に溶け込めなくなる人がいます。去って行く人でなく、去られてしまった人にそういう現象が起き易いです。
建築家の思い込み、考え過ぎか、実際に何か起きているのかという疑問を観客にぶつけ、放りっぱなしにするのはミステリー映画としてはいい思い付きです。この要素はもう少し深く掘り下げても良かったかも知れません。
家に誰かが来ているのかが分からないのは観客だけでなく、建築かも同じ。それで彼は用心し始め、ピストルも持ち出します。同じ EU の中でこんなに簡単に武器が使える国があるとちょっと不安になってしまいますが、そこは映画。実際に誰かがいることが分かり、争いになり、彼は侵入者に数発お見舞いし、上の物置部屋に閉じ込めてしまいます。ここで不思議なのはなぜすぐ警察に行かないかという点。彼は怪我をしたか、死んだかも知れない人をそのままにして自宅を去り、隣人の家に住み(棲み)始めるのです。
彼がやっている事は自分の家に起きたかも知れない事と同じ。そこの家には車椅子に乗った女性が住んでいました。彼女も1人暮しで、夫が行方不明。不自由な生活を夫の友人がサポートしてくれています。しかしその友人は24時間彼女に付き添っているわけではなく、普段は1人暮し。洗濯物を取り入れたり、かなりの仕事は自分でこなせるまでに回復しています。その彼女に親近感を感じてか、あるいは自宅に戻るのが怖くてか、あるいは別れ病が悪化して1人暮しに耐えられないためか、建築家は彼女の家に住み(棲み)付き、隙を見ては洗面所で体を洗ったり物を食べたりとパラサイト生活に生甲斐を感じるようになります。
これだけでも奇妙な話ですが、近所の家と彼の自宅はトンネルで繋がっていたのです。その上今度は彼女の方が家の中で妙な気配がすると思い始めます。その上彼女の夫はなぜ消えたのか、この謎も考え直してみた方がいいような様子になって来ます。
っとまあ、おもしろい話になる要素がちりばめてあるのですが、上にも書いたように演出に稚拙さがあり、ばかばかしく見えてしまうシーンがあります。3つの部分に別れていると書きましたが、それを上手く繋げられず、説得力を欠いています。この後ショーダウンに向かって一応サプライズは用意されているのですが、そこまで言ってしまったら、見に行く必要がなくなってしまうので、内緒。しかし画面の良さ、ロケに選んだ場所の良さ、家具調度品の選択などプラス要素があるので1度ぐらい見ても損はないかも知れません。
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