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エンパイア・オブ・ザ・ウルフ /
L' Empire des loups /
Empire of the wolves

Chris Nahon

2005 F 128 Min. 劇映画

出演者

Arly Jover
(Anna Heymes - 内務大臣夫人)

Philippe Bas
(Laurent - 内務大臣)

Didier Sauvegrain
(Ackerman - 医師、内務大臣の知り合い)

Laura Morante
(Mathilde Wilcrau - アンナが選んだ神経科)

Jocelyn Quivrin
(Paul Nerteaux - 刑事)

Jean Reno
(Jean-Louis Schiffer - 元刑事、トルコ人街に詳しい)

見た時期:2005年8月

2005年ファンタ参加作品

ストーリーの説明あり

最近各国でこれまで他にほとんど映画を作っていなかった人がぽっと出て来て、いきなり興行収入の良い作品を作ったりするので驚くばかりですが、Kiss of the Dragon の監督登場です。原作はジャン・クリストフ・グランジェの狼の帝国。原題も各国のタイトルもそれを直訳したものが多いようです。

日本では「タブーだ」という報道も出ていますが、欧州に住んでいると灰色の狼という名前を知っている人に時たま出くわします。ドイツに比べ実情が厳しいフランスの方がタブー性は強いのかなとも思います。灰色の狼は実在する秘密組織の名前で、極右の政治組織です。テロ活動も行う団体です。例えば先日高齢で(=天寿をまっとうして)亡くなったローマ法王はこの組織の一員にサンピエトロ広場で暗殺されかかりました。そのために一般の人にも組織の名前が知られているのかも知れません。暗殺未遂の犯人は現在では反省し、おとなしく服役しているのですが、組織自体はかなり危険な団体だそうです。

私が映画を見たのは2005年の夏。その時はまだフランスで暴動などは起きておらず、この作品を見てもフランスの外国人問題が深刻な壁にぶつかっているなどとは考えていませんでした。フランスはドイツに比べ外国人の扱いがやや雑かなという印象があり、私はドイツに比較的満足していました。ただし、この印象は実際のフランスを見て得たものではなく、フランスのアクション映画を見て感じたことなので、フィクションに過ぎなかったのです。

ドイツで私が住んでいるのは元から外国人の比率の高い都市。その中でまた特に外国人の比率の高い区に住みついて長いのですが、警官が外国人を挑発したりする事件はここではまだ聞いておらず、私などはある日しょげて道を歩いていて車に轢かれそうになり、そばにいた(地位が高そうな)制服警官に「危ないよ、気をつけないと」などと気を使ってもらったことまであるのです。

そういう友好的な話がフランスにどのぐらいあるのかは滅多に行かないので分からないですが、映画を見る限りあまり外国人にとっては楽しい人生ではないようです。ドイツではトルコ人は比較的 良く社会に溶け込んでいて、受け入れるドイツ人の方も長い時間をかけて一種の信頼関係に至っています。戦後頼んで来てもらったのですから当然と言えば当然ですが、それでも宗教も様子も全然違う外国人と隣人として仲良くするのはそう一朝一夕に行くことではありません。ドイツ人にもトルコ人にもその過程では色々苦労があったようです。私がドイツに来たばかりの頃はまだドイツ人がトルコ人と結婚すると言うと顔を顰めるケースもあったようですが、最近では「ああ、そう」で済みます。今回のフランスのような長期に渡る暴力事件とか、国が外出禁止令を出すなどという騒ぎは私が知っている限りでは起きていません。最近はトルコ人以外の外国人にも多方面に渡って滞在許可が下りており、帰化する人もいます。中心になっている外国人がトルコ人だったというのはドイツにとっては良い選択だったのかも知れません。ドイツではあまり過激な対立になっていません。

その同じトルコ人がフランスではやや住み難さを感じている様子です。これも映画や話で聞いただけで、私が実際に行って見て体験した話ではありません。その辺はお断わりしておくとして。

フランスにはトルコだけでなく、北アフリカから大勢のイスラム教徒が移住して来ており、合法的に滞在している人の他に非合法で入国している人もいるとの話です。で、当局もそうそう親切にしていられないのかも知れません。西ベルリンは壁が開くまでは陸地の孤島で、身分証明書、パスポートの検査無しに外部から西ベルリンに入るすべはなかったので、あまり非合法の滞在者はいませんでした。そのためか、警察の方も一旦許可をもらっている人たちに対してはあまり無茶をしなかったですし、トルコ人の方もせっかくもらった滞在許可、労働許可をつまらないことでフイにしたくなかったのか、比較的紳士的な付き合い方でした。それがどうやらフランスでは機能しなかったらしく、ドイツ、ベルリンとは事情が違うぞという風評が耳に入っていたわけです。

エンパイア・オブ・ザ・ウルフではフランスの外国人居住者の中のトルコ人が扱われています。最初はフランス人の若夫婦が登場。物静かないい夫婦に見えるのですが、実は夫人は記憶がはっきりせず、幻覚まで見る症状が出て、このところちょっと病気がち。仕事に忙しい内務大臣の夫はこの日妻に気を使いながら友人との夕食に来ています。

それとは別な場所、トルコ人街では非合法で在留しているトルコ人女性ばかりが顔を切り刻まれるという特異な方法で殺されています。事件担当になった刑事パウルは1人では手におえず、トルコ人街に詳しい引退した刑事ジャン・ルイに助けを求めます。猟奇殺人かという話も出ます。ジャン・ルイはやる事が強引なならず者警官。そりが合わないのですが、知識がどうしても欲しいパウルはジャン・ルイに合わせなければならず一苦労。なんとか自分を納得させながらパウルは事件に取り組みます。

一方記憶が怪しくなり、体調も優れないアンナは夫や医師も含む周囲の人としっくり行かず、自分で医者マティルデを見つけて来ます。夫の事となると特に記憶が欠落しています。しかしマティルデとは相性が良く、早くも自分の頭に妙な傷があることを発見。夫が夫に思えないのはロボトミー手術でもやったのかとかんぐり始めます。ところが調べていくうちにアンナはアンナでなかった事までが明るみに出て来ます。その上ジェイソン・ボーンのように、危なくなると無意識に高度な武道が飛び出します。どこでこんな事習ったんだろう・・・。

記憶というのは普通は戻った方がいいですが、たまにはそうでない場合もあるようで、アンナは自分の事を知れば知るほどトラブルに巻き込まれて行きます。整形手術をしたらしく、マティルデの知り合いに頼んで DNA を調べると実はトルコ人だということが判明。その上アンナはどうやら組織を裏切って何かを持ち出したようなのです。アンナを追う夫たち、殺人事件を追うパウルたちが発見したのは、殺された女性たちがみな似たような容姿だったという事実。そしてパウルはジャン・ルイが潜入警官だったことまで発見。皆が結びつくのがトルコのアナトリア。

映画がそうだと言うのでそうなのかも知れませんが、アナトリアというのはあまり豊かでない田舎で、ここからベルリンへ出稼ぎに来ている人たちもたくさんいます。私が知っている人たちは平和な良い人たち。真面目に学校に行ったり工場で働いている人たちを知っていました。灰色の狼なんて話は聞いたこともありませんでした。山の岩に穴を掘って住む人たちもいるとかで写真を見せてもらったことがあります。ちょっと戦時中の山腹の防空壕を思わせますが、穴はそれより大きいようです。結局お金が無くて行けませんでしたが、1度観光で訪れてみたいと思ったこともあります。

さて、事件は突き詰めて行くと、警察が潜入警官を送っていたり、内務大臣がテロ組織の女性の記憶を消して妻にしていたり、とややこしいだけでなく、こんなヤバイ事するの?といった様相になって来ます。あとは見てのお楽しみ。事件がどうの、筋がどうのということの他に見ているだけでおもしろいシーンもあります。ただ、ジャン・レノーのファンの方にはご忠告。ムサイ格好で出て来ます。

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