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コントロール /
Control /
Control - Du darfst nicht töten

Tim Hunter

2004 USA 90 Min. 劇映画

出演者

Ray Liotta
(Lee Ray Oliver - 凶悪犯、死刑囚)

Victor Krasimirov
(Lee Ray Oliver、少年時代)

Willem Dafoe
(Michael Copeland - 製薬会社で開発研究をしている科学者)

Polly Walker
(Barbara - マイケルの前妻)

Kathleen Robertson
(Eden Ross - マイケルの部の同僚、恋人)

Stephen Rea
(Arlo - 製薬会社のボス)

Michelle Rodriguez
(Teresa - 洗車場の従業員)

Mark Pickard
(Gary Caputo - リー・レイに襲われた一般市民)

Tim DeKay
(Bill Caputo - ゲリーの兄)

Mac McDonald .... Warden刑務所長

見た時期:2005年10月

肝心のネタをばらせないので、やや舌足らずになります。

ちょっと前に出した Kontroll と英語の題は全く同じですが、内容は似ても似つかぬ話。共通しているのはファンタに出せるような作品だという点だけです。

2人のベテラン俳優に取っては以前の作品とやや趣が違いますが、余裕の演技で薬品についての意見を述べる作品です。このコーナーに登場するスリラーには時々凶悪犯もいて、中には実話に基づいている話もあります。人間がなぜ凶悪になってしまうのかは奥の深い、その上間口の広い問題ですが、そういう人間を物静かなモラルを持った人間に変えられないだろうかというのが出発点のテーマです。出発点は良かった・・・。

作品中にも語られますが、かつては頭蓋骨をカパッと開けてしまって(リオッタ!)、脳の一部を切開し、攻撃性を取り除いたそうです。しかしそれをやると取り除かれるのは攻撃性だけでなく、本人のやる気、創造性なども無くなってしまい、一種の廃人になってしまうそうです。ですから人権に大きく関わります。

そこでダフォーが演じるコープランド博士が考え出した新薬を使おうという話になっているところから物語が始まります。リオッタが演じる近年に無い凶暴な殺人犯オリヴァーが死刑になるところから始まり、被害者の家族や法律関係者が見守る中、薬剤による死刑が執行されます。

が、これはフェイクで、ごく1部の人の了解の元、麻酔から目を覚ましたオリヴァーに人体実験の提案がなされます。《拒否をして今すぐ再注射で昇天》、《実験に参加して別人として市民生活を送る、ただし副作用のリスクがある》と2つの選択肢が与えられます。で、リオッタの参加決定。

法律も何も無視して1部の人間がこういう勝手な事をしてもいいのかというモラルはこの作品では問わないお約束にしてあるようです。私などが見たらここですでに背筋が寒くなってしまいますが。モラルを問うということ自体がもう時代遅れなのかも知れません。でも言っちゃおう。他のモラルの問題を提起するために、その前にあるモラルを無視されると、なんだか話に信憑性が無くなるなあと思うのは年寄り世代なんでしょうけれど(ブツクサ)。

第1段階では製薬会社の中の一種の独房で過ごし、言われた通り6時間おきに薬を飲みます。脱走を試みたり最初いくらかドタバタしますが、やがて治療効果があり、静かになります。順調な回復が見られ、第2段階へ。エリンクではありませんが市民生活に溶け込むため、仕度金が払われ、(カメラ付きの)アパートがもらえ、早速職探し。洗車場で働くことに決定。ある程度環境に適応します。

新しい生活に入りカメラに隠れてすぐピストルを手配。ある日監視と尾行を振り切ってよその町へトンズラしたので、追跡ごっこになるかと思いきや、出かけた先は、オリヴァーがピストルを撃ったため障害者になってしまった一般市民ゲリーのアパート。お見舞いです。用が終わるとちゃんとまた町に戻って来ます。

その上会社の女の子とデートにもこぎつけ、何もかもがうまく行きます。博士は自分の研究の成果が出て大喜び。世間ではジョーになったオリヴァーはつつましいながらも人間的な生活ができてこれまた大喜び。ところが反省したオリヴァーを簡単に許せないのが被害者の家族。弟ゲリーを訪ねて来たのが死んだはずの加害者だと気付き、復讐を誓ってオリヴァーに迫って来ます。ここから製薬会社の予定が狂い始め、皆がトラブルに巻き込まれて行きます。

頭の良いオリヴァーが本当に反省したのか確信が無い製薬会社はオリヴァーが第2段階で脱線したら殺せとの命令を出しています。(勝手に殺すの止めたり、また殺して良いことになっていたり、嫌だなあ、こういうの(ブツクサ)。)「嘘は決してつかない」と言うコープランド博士を演じているのがダフォーなので「本当かなあ」とかんぐってしまいます。そしてその都度、その都度それらしい顔のできるリオッタが演じているオリヴァーは薬の効果が出ているのか、飲んだふりをして飲んでいないのか時々怪しく見えて来ます。そういう意味でいい俳優を連れて来たんだけれど・・・。

ベテラン俳優2人の作品ではありますが、両方とも実力全開ではなく、教科書的なメッセージを尊重して、そつ無く演じているので、2人のファンとしてはやや不満が残ります。作品が伝えるメッセージの方が重要ということなのでしょう。その辺は仕方ないのかも知れません。この2人だったら、もっとぞっとするようなスリルを出せるのではないかと思います。しかし前半善人なのか、野心に燃えて実は何でもやる男なのか分かり難かったダフォーが、後半急にリオッタの味方になってしまったり、前半インチキして製薬会社のスタッフを騙そうとしているかも知れないリオッタが、後半博士に電話して来て「薬が切れる、すぐ持って来てくれ」と懇願するなど、前半で自分の方から出していた微妙な怪しさが後半きれいに消えてしまうのが残念です。2人がいい俳優だと知っている私には脚本の責任に思えて来ます。

結局最後は悲劇とハッピーエンドで引き分け。そして最後のメッセージはこの作品に関わった人に取っては1番強調したいところでしょう。薬品対教育の戦いで、この映画の関係者は教育に1票を投じています。

私もその趣旨に賛成ですが、映画の説得力が最後4分の1あたりから落ちます。あれほどの凶悪犯で、顔がこわばり、目に全く表情を浮かべず人を殺せる男が(リオッタ、上手い!)こういう方法でこうも早く更生できるのだったら、なぜ死刑の前に手を施せなかったのかなどと考えてしまいます。

細かい点では途中で出て来た列車があまりにも欧州風だったので驚いたのですが、撮影がブルガリアだったというので納得。しかし話全体はアメリカで起きた事のようになっているので、見せている映像で国内のアメリカ人を納得させられるか。枝葉末節はどうでもいいのかな。

アクション・シーンはリオッタの勝ち。重量感があり、あの体で全速力で走ったり、ジャンプするだけで迫力です。対するダフォーですが、彼もリオッタと格闘するシーンがあったりしますが、華奢な体つきなため「あれでは殴った腕が折れてしまいそう」と余計な心配をしました。ダフォーはしかしスパイダーマン以来アクション・シーンにも挑戦している様子。ご老体ご苦労様と言おうと思ったら、リオッタと同い年でした。

ミシェル・ロドリゲスはまだ俳優としては未熟ですが、現われると存在感があります。これは俳優として必要な要素。共演がリオッタやダフォーではたいていの若手が迫力負けしてしまうでしょうが、共演を重ねて成長してもらいたいところ。代わりがいくらでも見つかりそうなあと2人の共演女優に比べ、ロドリゲスは「あの映画に出ていた」と覚えられるような印象を残します。

何かのメッセージを伝えたい作品は観客を引っ張って行く方向が強引で楽しめないこともありますが、リオッタとダフォーは薬品開発問題と騙し合い要素を適度に混ぜ、その他にもいくつか意外な展開を入れてあるので、見ていて退屈はしませんでした。モラルは作る側で重視しているので、見る側もある程度真剣に受け取らないと行けないのでしょう。それだったらもう少し筋を通した方が良かったのではないかと思います。処刑人のようにモラル自体もお遊びの1部に織り込んで、一種のロビンフッド的エンターテイメントにしてしまうのとわけがちがいます。2人の共演というおもしろさへの期待、騙し合いかも知れない、真実かも知れないというあいまいさが生むスリル、大企業スリラーと、脚本にはそれ1つでもヒットしそうな要素が入っています。あぶはち取らずにはなっていないのですが、完全燃焼もしていませんでした。これからもこういうおもしろい俳優の共演に期待したいところです。

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