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2003 Schweden 100 Min. 劇映画
出演者
Gustav Hammarsten
(Gunnar Wern - 文学批評家、小説家)
Magnus Roosmann
(Henry - 医者)
Anna Björk
(Marie - ヘンリーの愛人)
Kristina Tðrnqvist
(Karin - ヘンリーの妻)
Robert Gustafsson
(負傷し続ける兵士)
Lena Nyman
(Märit - カリンのコンパートメントに乗り合わせたロシア女性)
Gösta Ekman
(Pompe - グンナーのコンパートメントに乗り合わせたゲイの男性)
Lars Amble
(Sixten - グンナーのコンパートメントに乗り合わせたゲイの男性)
Jakob Stefansson
(Kyparen - 食堂車のウエイター)
Claes Ljungmark
(Bartendern - 食堂車のバーテン)
Marie Göranzon
(先輩修道女)
Hanna Ekman
(後輩修道女)
Margreth Weivers
(老女)
見た時期:2006年8月
非常に凝った作品なのですが、その努力が観客にそれほど伝わって来ません。しかしこの種の凝り方が好きだという方には長く覚えられる作品かも知れません。
1940年代のシーンはモノクローム、1961年のシーンはやや色褪せたカラー。その当時の感じを出していますが、作られたのは2003年。画面を凝り過ぎると物語がおろそかになる時もありますが、Skenbart - en film om tåg はそういう風にはならず、結末にもアッと驚かされます。タイトルはおおよそ《外見上 ― 列車の映画》という意味、ドイツ語のタイトルは《ベルリン急行の陰謀》です。
風刺のきいたスリラーで、話の展開もヒッチコックの古い作品やその当時の他のスリラーを思い起こさせるような作り方になっています。その部分の撮影も当時の作品だと信じたくなるような作り方です。これが2003年の作品だとは到底信じ難い・・・のですが、2003年に間違い無いようです。最近の作品だと分かる唯一の手がかりは宗教問題の扱い方。
★ ストーリー
時は1945年、終戦直後のクリスマス。場所はストックホルム発ベルリン行きの直行列車。ドイツを走る列車にはまだ古いタイプもあるので、映画の舞台になるような列車には私も何度も乗りました。コンパートメントの部分、横向けに左右2人ずつ座る座席がずらっと並んだ大部屋など、まだ見ることができます。
文学批評家グンナーが、ストックホルムから直行列車で戦後復興前の破壊された町ベルリンへ向かうところから始まります。楽天家で善良な人柄のグンナーはスウェーデンではある程度人に知られた人。ベルリンへ行って壁塗りをしよう、つまり肉体労働で汗を流して復興を助けようと考えています。有名人がチャリティー・コンサートを企画したり、人助けをしようと各国へ出掛けて行くニュースを最近時たま耳にしますが、中には危なっかしい企画もあるようで、その辺を皮肉ったのかも知れません。
グンナーはインテリで、文学の批評で食べているだけでなく、小説も書いているのですが、ちょっと慌て者で、冒頭もせっかく書いた原稿の上でインク瓶を倒してしまい、文章をダメにしてしまったりします。
彼の乗った列車には良からぬ事を企んでいる男女も乗っています。医者とその愛人。実は医者はアリバイ作りのために列車で同行せず、家にいる予定だったのですが、愛人と揉めている間に列車が発車してしまいます。切符を持っていないので、彼女の個室に隠れています。実は2人は医者の正妻を殺して夫婦になろうと企てているのです。男はカソリック。離婚ではまずいので、妻に死んでもらいたいのです。この愛人というのが殺人などという仕事には向いておらず、時々パニックを起こしてしまいます。それで医者が「ちゃんとしろ」と言い聞かせている間に列車が発車してしまいます。
医者は自信たっぷりの男で、医学知識を生かし、妻に与えている頭痛薬を使っての殺人を企んでいました。この錠剤にアルコールが加わると混乱し、それに乗じて愛人が妻を列車から突き落とすことになっています。で、妻のコンパートメントの隣の個室に愛人が陣取っていました。
妻は普通のコンパートメントなので同乗者が1人。ちょっと年配の女性。
さらにこの列車には席がどこか分からない負傷兵が乗っています。実は彼は駅で列車を待っている最中にもグンナーの不注意で怪我をしているのに、さらに痛い目に遭っていました。しかし根っからの善人で、負傷兵は怒るどころか、自分が悪かったと謝っています。グンナーが列車が発車する時にまだ負傷兵が乗り込んでいないのに気づいて、手を貸してどうにか間に合うように乗り込ませます。親切心からやった事だったのですが、実はこの兵士、別な方向に行く予定だった様子。それで座る場所がなかったのでしょう。
この善良な負傷兵は善良なグンナーに列車で何度か出会うのですが、そのたびに怪我が増えて行きます。元々は腕と足を怪我していて、顔は無傷だったのに、いつの間にか顔にも包帯を。しかもその包帯に火をつけられてしまい、大火傷。最後には列車から突き落とされ、両足切断に至ります。しかし生き残れたのは良かった。彼は何も悪いことはしていないのです。グンナーも全く悪気は無いのです。
2人の修道女に付き添われたバルト地方の亡命者のグループも乗っています。ガリガリに痩せて、お腹を空かせた彼らに同情した善良なグンナーはストックホルムの駅で自分が買おうと思っていたオレンジとチョコレートをお腹を空かせた亡命者にプレゼントしていました。しかし栄養失調で餓死寸前だった人たちにいきなりカロリーの高い物を食べさせるとどういう事になるかは考えなかったようです。
このようにグンナーが来るとトラブルが起こるので、車掌、食堂車の従業員はかんかん。修道女に至っては彼のおかげで信仰を失い、お酒を飲み始めます。当然ながら正妻殺人計画もガタガタに狂い始めます。・・・おや、そうだろうか。ここでオリジナルのタイトルが重要に見えて来ます。列車はとにかくベルリンに到着。ここであれっと思う出来事が1つ。
そして時は飛び、1961年へ。カラーに変わりますが、現代の鮮やかなカラーではなく、60年代風のカラーになります。監督は凝っています。1961年と言えば、ベルリンの壁ができた年。グンナーは列車内の出来事の責任を問われて、ドイツ警察に逮捕されています。何年の刑かは分かりませんが、少なくとも16年はムショ暮らしをしている様子。そして1961年には念願かなってベルリンの壁を作る仕事に従事しています。1945年の明るさはすっかり消え、鬱気味。彼の側で車椅子に乗って命令を出している両足の無い人は誰でしょう。
といったわけで、40年代の雰囲気をたっぷり染み込ませ、有名な映画をたっぷりパクって、恐ろしくブラックなユーモアで進んだ話は、60年代の象徴的な出来事で幕を閉じます。ベルリン特急、オリエント急行殺人事件などは思い出して下さると便利かと思います。
昨年のファンタでもスウェーデンのコメディーは見ましたが、デンマークに比べやや落ちるようです。デンマークの方が肩に力が入っておらず、ドライなユーモアを適度な量入れてあります。スウェーデンの作品は脚本が良く練れておらず、凝る所は凝り過ぎといった感があります。Skenbart - en film om tåg も気合を入れて真面目に作ってありますが、コメディーは作る側も少し楽しみながら作った方がいいかと思います。
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