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デュエット / Duets ♪

Bruce Paltrow

2000 USA 112 Min. 劇映画

出演者

Huey Lewis
(Ricky Dean - カラオケ・バーで賭けをする男)

Gwyneth Paltrow
(Liv - リッキーの娘)

Angie Dickinson
(Blair - リブの祖母)

Paul Giamatti
(Todd Woods - 出張の多いセールスマン)

Erika von Tagen
(Julie Woods)

Kiersten Warren
(Candy Woods)

Andre Braugher
(Reggie Kane - 脱獄囚)

Arnold McCuller
(Reggie Kane - 歌声)

Scott Speedman
(Billy Hannan - タクシーの運転手)

Steve Oatway
(Ralph Beckerman - タクシーを共有する男)

Maria Bello
(Suzi Loomis - 文無しの女)

Lochlyn Munro
(Ronny Jackson - カラオケ・シンガー)

見た時期:2007年9月

IE 以外のブラウザーで見ておられる方、音符の横に疑問符が見えるかも知れませんが、別に疑問をはさんでいるわけではありません。他意はありません。楽しい歌の映画です。

この辺りで1度ファンタを離れましょう。

デュエットを知ったきっかけはユーチューブです。音楽を聞いている時にグウィニス・パートロフにぶつかりました。最近俳優が歌うことがありますが、中には吹き替えでなく、自分の喉を聞かせてくれる俳優もいるようです。パートロフもどうやら自分で歌っている様子。ついでに横にあった別なページをクリックすると今度は私がわりと好きな俳優ポール・ジアマッティーまでが歌っています。そして2人の選んだ曲はソウル。

私はこれまでパートロフは嫌い、ジアマッティーは好きと、好みがはっきりしていたのですが、デュエットを機にパートロフがグレイ・ゾーンに入ってしまいました。彼女は歌が非常に上手く、「なぜ俳優などになったんだろう」と考え込んでしまいました。歌手というのは3分ほどで人生を歌い切ってしまう技能を持った人、故に2時間もかかる俳優に比べ演技力はずっと上だというのが私の持論です。

ユーチューブに載っていた2人の歌は映画のシーンだと分かり、元の映画探しに取りかかりました。ちょっと古かったので店からDVDを借りるのは大変だったのですが、ついに同業者から借りることができる店が予約を受け付けてくれ、週末に見ることができました。ドイツ語版で何のスペシャルもついていない《がっかり版》です。

しかしとにかく手に入ったというので気を取り直して見ると、ユーチューブのシーンがちょっと映画と違っているのです。そしてしょ〜もないストーリー。それでも何とか見ていられるのは、適材適所のキャスティングだったため。ラストはインパクトが強いのですが、それまでの積み上げがちゃんとできていなかったのでやや不発。あんな終わり方でなく、平凡に終わってもいい作品になったと思います。

とまああれこれ欠点らしき事を挙げることはできるのですが、見終わると不満が残らない作品です。

この作品は映画界の話題をさらうはずでした。元々のキャスティングがブラッド・ピットだったのです。そのためドイツ語のタイトルは《夢のカップル》となっています。でも何が《夢のカップル》なんだろう。パートロフとピットの絡みはほとんど無いのです。ピットが演じるはずだった役はマリア・ベロや別な女性との絡みになっています。

スッコト・スピードマンが代役を務めたのですが、私はスピードマンで良かったと思います。この役にピットを持って来て目立たせると全体のバランスがドタっと崩れます。スモーキン・エース/暗殺者がいっぱいの乗りでしたらベン・アフレックでも良かったかも知れませんが、パートロフの前にアフレックを出すとなると、どうしても優等生を演じないとダメらしく、役が機能しなかったかも知れません。パートロフというのはめんこいおなごではあるけれど、周囲に規律を強いるような雰囲気があります。

構成はカラオケで歌う3組をオムニバスのように組み合わせ、3つの別なエピソードを流し、俳優は皆それぞれの場所からカラオケ大会が開かれるネブラスカに集まって来るという一種のロードムービーです。うち2組は本当にデュエットで歌い、1組は女性のソロです。しかし彼女を支える男(ピットのはずがスピードマン。ピットが誰かを支えるだろうか・・・)が1人ついているので、人生のデュエット。

6人それぞれのあまり上手く行っていない人生が、カラオケ大会に参加することで少しずつ動いて行きます。まずは3組のカップルの出会いからご紹介。

☆ にわか作りの親子関係

歌など歌いそうにもない出で立ちのむさい男リッキーがカラオケ・バーで他の客と言い争い、行きがかり上賭けになります。持ち金をバーテンダーに預けておいて、そろぞれ1曲歌を歌い、どちらが客に受けるかを競うのです。受けた方が全額をせしめるというわけです。無論リッキーはめぼしをつけた男を挑発しているので、勝ちます。彼はそうやって日銭を稼ぎ、その後はバーにいた美女を誘ってしけこむというぱっとしない生活でいつも成功を収めていました。

そんなある日彼の元にラスベガスから電話が入り、「昔の女が死んだ」と連絡があります。彼は20年以上前に女を妊娠させトンずらしていました。葬儀代を負担するぐらいの良心は持ち合わせていたので、早速ラスベガスに向かいます。そこでは死んだ女の母親(懐かしい、アンジー・ディッキンソン)から散々文句を言われ、父親のことをほとんど知らなかった年頃の娘にはストーカーのごとくくっつかれてしまいます。

むさい親父に必死でくっつくグイニスの演技はほほえましいです。父親は葬儀が終わったらまた元の生活に戻ろうと考えているのですが、娘はくっついて来てしまいます。これでカップルが1組できあがり。

☆ 蒸発親父と脱獄囚

全然別な町では疲労困憊のセールスマンが行く町を間違え、仕事に失敗し、がっかりして帰宅します。家に戻っても誰も歓迎してくれません。皆がやりたい事を勝手にやっています。中産階級らしく、持ち家でそれなりに収入はあるようですが、父親のトッドはいつも旅行中。家族は誰も彼に注意を払わなくなっています。

切れたのか燃え尽きたのか分かりませんが、彼は「タバコを買いに行く」と言ったままふらりと家出。そして出会うのがリジー。リジーは脱獄囚。上着やコートは一般市民の物を着ていますが、まだ靴は刑務所のまま。道中ヒッチハイクで乗せてくれた人から金を取ったりしますが、殺人鬼とか異常者ではありません。生きるための手段として時々人を襲うようです。

2人の出会いは偶然。トッドが家出の後あるカラオケ・バーで人前で歌うのをためらっていたら、「不安を取り除くのにいい」とか言われてドラッグをもらいます(皆さん、真似をしては行けませんよ。とんでもない事になりますから。たとえイケメンのお兄さんから勧められても NO と言いましょう・・・などと書いていたら2009年になって本当にイケメンのお兄さんがドラッグ問題に巻き込まれて捕まってしまいました。やっぱり気をつけましょう。後記)。それが効き過ぎて彼は超ハイ状態。初めてカラオケで歌った曲が何とラニ・ホールのハロー・イッツ・ミー。この曲は彼女のソロ・アルバムのタイトルになっていますが、それほど世間に知られた曲ではないと思います。(トッド・ラングレンだから知られているか?)ラニ・ホールと言えばやはりマシュ・ケ・ナダ。一連のブラジルの曲やアメリカではやったポップスのカーバー・バージョンで有名な人で、そちらの関係では世界ツアーもやっています。ハロー・イッツ・ミーは歌うのが難しい曲。ジアマッティーがいとも簡単に歌ってしまったので唖然。

このトッドが人気の全く無い場所でヒッチハイクをしていたリジーを拾い、乗せてやります。リジーが強盗になるかも知れないのに、ハイのトッドは全然気にしません。

2人はある町で休憩している時にカラオケで歌うことになります。人前で目立つことをするのは気が進まないリジー、ハイでカラオケが気に入ってすっかりやる気になっているトッド。そのバーに2人の警官が入って来るので気が気でないリジー。結局強引に言われてトライ・ア・リトル・テンダーネス(難しい曲)を歌うことになってしまいます。警官が近づいて来るのであわやと思ったら、2人はカラオケの話だけして去って行きます。ほっ。2つ目のカップル誕生。無理やり歌わされてしまったリジーもやたら歌が上手かったのです。(どうやらこの俳優だけは吹き替えのようですが。)

☆ 文無し女とトンズラ運ちゃん

これとはまた別な町でタクシーの運転手のビリーがちょうど今恋人の浮気を発見したところ。すっかり腹を立て町を出たくなります。しかし彼の所有するタクシーは半分はその恋人の物。去るには残り半分の金を払うか、タクシーを放棄するか。そんな時に文無しで、乞食から金を奪うような図々しい女スージと知り合います。彼女はにっちもさっちも行かなくなるとブロー・ジョブを提供してその場を切り抜けるという図太さも持っています。一応モラルとか義務などにも注意を向けるビリーはスージに呆れながらも、われ鍋とじ蓋式に親しくなって行きます。これで3組目成立。

☆ 全国大会に向かって

3組のカップルは途中のどこかでカラオケに出会い、ビリー以外は皆歌ってみます。それまで経験のある人、無い人、皆なかなかの喉です。その場の人気者になりオマハの大会出場権を得ます。

オマハの決勝は各州からの代表参加ということなので、全部で50組ほど出演するのでしょう。しかしもらえる賞金は5000ドル切り。地方選出では500ドル。それほど高くはありません。しかも他の選手が歌うとみんなやんやの喝采で、戦っているという雰囲気ではありません。皆がカラオケを楽しんでいます。

映画の最後はちょっとショックな終わり方なのですが、ああいう風にする必要があったのかと疑問に思いました。ああいうショーダウンを用意するのだったら、その前をもう少し固めておいた方がいいです。しかしそういう風にしてしまうと6人の主演のキャラクターや生活を描く時にショーダウン用の筋に変更せざるを得ず、人生をたっぷり描くことができないでしょう。この映画の目的は3組6人の人生を描くこと、カラオケ、歌うことの楽しさを伝えること。そこへあのショーダウンが入ると前の2つが押されて、調和が崩れます。やめてアメリカ人好みのハッピーエンドにしてもそれほど妥協したという感じにはならないのではと思いました。長い間無理やりハッピーエンドばかり作るハリウッドでしたが、無理やりのショックな最後も無理やりハッピーエンドと同じぐらい変です。

★ 悲劇のデュエット

デュエットは小ぶりの佳作ですが、二重の意味で悲劇の作品です。ブラッド・ピットとグウィニス・パートロフ共演の夢のカップルのはずが直前に婚約破棄。その後パートロフは長い間ショックで精神状態が不安定でした。セブンに出た1995年頃2人はルンルンで、デュエットは2年後に制作予定でした。同じ頃オスカーを取ったパートロフではありますが、とても喜んでいるとは言えない大変な時期。ピットが降りたこともありデュエットは制作が延期されていました。

もう1つの悲劇は父親の病気。デュエットはほぼ遺作にあたります。最後の作品を娘を使って撮ったのですが、ブルース・パートロフは映画監督が専門の人ではなくプロデュースをしたりあれこれ映画の裏で仕事をしていたようです。この作品の後イタリアへ引っ込み、最後の数ヶ月を娘など家族と一緒に過ごしたようです。お父さんっ子だったらしいグウィニスはこの時期もかなり大変だった様子。

セブンに出ていた時の彼女は今でもよく覚えていますが、非常に健康そう、自然で感じのいい演技をしていました。だからこそ彼女の最後はセブンの中で悲劇として引き立ちました。ピットと別れてからの彼女のアウトフィットはお世辞にもいいとは言えず、不健康なメイクやいかにも染めたという感じの髪、全然合っているとは言えない髪形や衣装。どんどん不自然になって行きました。

デュエットでも彼女のアウトフィットはお世辞にもいいとは言えませんが、歌う姿はなかなか良かったです。映画では吹き替えをしていますが、歌っているのは本人。私がユーチューブで見たのは映画の歌うシーンを吹き変えいているビデオだったのです。

彼女とカップルになっているのは父親役のヒューイ・ルイス。本職は歌手です。この2人が録音スタジオで歌っているのはスモーキー・ロビンソンのクルージン。冒頭のシーンではルイスはソロでフィーリング・オールライトも歌って見せます。2人が歌うクルージンはスモーキーのバージョンよりずっといいです。私はロビンソンのファンで、CDやDVDも2、3枚持っていますが、ロビンソンの曲は他の人が歌った方が解釈がいい物も多いです。

その他にパートロフはソロでベット・デイヴィス・アイズも歌いますがこれも凄くいいです。最後のクレジットの時にはモータウンのテンプで有名な"Just My Imagination (Running Away With Me)"も彼女の歌で流れます。パートロフとモータウンという意外な組み合わせですが、彼女はモータウンの曲を彼女風の解釈で、ソウルとしてでなく、ポップスとして歌って見せます。

★ 歌手でも通るパートロフ

こうしてみるとパートロフがなぜ俳優になったのか疑問に思えて来ます。歌はどう見ても友達ということになっているマドンナの競争相手にもなりません。マドンナ即落選、パートロフにはグラミー賞をあげたい。パートロフは演技でオスカーをもらっていますが、私がこれまでに見た映画の中でいいと思ったのはセブンだけ。彼女がこれまでに出演したのは31本で、私が見たのは8本。この中で良かったのはセブンのみ。スカイ・キャプテンの路線は少し開拓したらいいものができるかなとは思いました。しかし全体として見ると俳優としてはあまりぱっとしません。

後記: スカイ・キャプテンの路線を踏襲したようなアイアンマンが2008年に出ました。

キッドマンがミュージカルの主演を務め歌もそれなりにこなしていましたが、上手さではユアン・マグレガーに負けていました。パートロフのレベルはマグレガーに匹敵し、その辺のプロの歌手よりずっといいのです。俳優としてはあまりいい印象を持っていなかったのですが、こんなに歌が上手いとは思いませんでした。カラオケで食っている男の娘、元から才能があるなどという役がぴったりです。

次にいいのはポール・ジアマッティー。のっけから難しい曲を選びますが、2曲目は共演の俳優とデュエット。この俳優は自分では歌っていませんが、彼の声を担当する人との組み合わせはすばらしいです。ジョニー・デップ、キアヌ・リーヴス、ラッセル・クロウだけでなくハリウッドの俳優には歌も上手な人はたくさんいます。あのデ・ニーロでもミュージカルをやると言い出すぐらいです。しかしただレッスンを受けて歌えるとか、バンドをやっているというのではなく、パートロフとジアマッティには歌心があります。私からは誉め言葉の大盤振る舞いです。

それに比べちょっと不利なのはマリア・ベロ。レッスンを受け、上手に役をこなしていますが、あと1つ歌の心が不足気味。パートロフとジアマッティが良過ぎたためこういうマイナス点ががつきますが、彼女に歌手の役を振っても大丈夫なぐらい安定した歌い方です。

とまあ俳優の意外な面を見ることのできる作品ですが、ドイツでは大ヒットしませんでした。と言うことはDVDが安売りに出される可能性が大きく、私は虎視眈々と狙っています。

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