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アイアンマン /
Iron Man /
Ironman /
Iron man - El hombre de hierro /
Homem de Ferro

Jon Favreau

2008 USA 126 Min. 劇映画

出演者

Robert Downey Jr.
(Tony Stark - 兵器商人、技術者)

Terrence Howard
(Jim Rhodes - 大佐、トニーの友人)

Jeff Bridges
(Obadiah Stane - 兵器商人、トニーの父親の共同経営者)

Gwyneth Paltrow
(Pepper Potts - トニーの秘書)

Leslie Bibb
(Christine Everhart - ジャーナリスト)

Shaun Toub
(Yinsen - アフガニスタンのゲリラの捕虜)

Faran Tahir
(Raza - アフガニスタンのゲリラ)

Bill Smitrovich
(Gabriel - 米軍将軍)

Clark Gregg
(Phil Coulson - アメリカ政府のエージェント)

Jon Favreau (Hogan)
Stan Lee (本人役)

見た時期:2008年5月

ドイツ公開と同時に見たのですが、うちのコンピューターがエンストを起こし、記事を出すのが遅れました。そうこうするうちにアメリカでは興行収入で1番になったようです。スーパーヒーロー物としては地味な作品ですが、好感が持てます。

★ 鉄男ではない

ずっと前ベルリンに鉄男という日本の映画が来ました。そこに集まった観客はやや異様な雰囲気で、その後根強いファン層というのがあります。ファンタに来る層と似て非、いくらかずれています。アイアンマンはこの鉄男とは全く関係の無い作品です。唯一の共通点は漫画が元になっているというところ。

★ これからは儲かるぞ

今まで何度かマーベルの漫画を映画化した作品を見て来ました。たとえばスパイダーマンは世界総計で16億ドル儲かったそうです。マーベルの取り分は数千万ドル。多くの原作を映画界に提供した者としてはちょっと不満。それでアイアンマンからは自ら映画を製作しようと思いつき早速実行。

金儲けに乗り出したにしては私好みの、というか、渋いキャスティングです。これでほんまに儲かるんかいなと思ってしまいました。最近スーパーヒーローの平均年齢が上昇中で、わが憧れのロン・パールマンは御年58。ロバート・ダウニー二世は御年43歳。しかも Mr.インクレディブルのような窓際族ではなく、立派な現役スーパーヒーローです。大国の平均年齢上昇と共に主人公の平均年齢も上昇中です。

★ ダウニー二世のリスク

マーベルのような有名な会社がいよいよ本格的に映画事業に乗り出すという時にロバート・ダウニー二世を使うというのはリスクの高い決定で、尊敬してしまいます。私はダウニー君が好きなのですが、80年代後半あたりから色々問題を抱え始め、せっかくアッテンボローのチャップリンでオスカー候補に挙がったのに墜落。ご存知の方もおられると思いますが、その後スキャンダル続きでした。彼はサタデー・ナイト・ライブの出で、有能なコメディアン。しかし十分才能を生かすことができず、悩みをまずい方法で紛らわそうとしたようです。

何度か失敗を繰り返した後、ついに転機が来たらしく、最近はまともな仕事が増え、スキャンダルの話はとんと聞きません。シリアスな作品も多く、私はコメディーが見たいと思っていました。例えば渋い俳優を集めてあるスキャナー・ダークリーは重い話なのですが、コメディーっぽい部分もあります。

そのダウニー君がアイアンマンでは本当の意味での主演。一気に3本契約したそうですので続編が2つあります。彼を起用するとは目が高いと喜んだ半面、へええ、思い切ったキャスティングだなとも思いました。彼の役は10歳、15歳若い人でも務まります。目が高いと言うのはダウニー君演じるトニー・スターク(ドイツ語ではシュタークと読み、《強い》という意味)の境遇のため。人質に取られたことがきっかけで人生を180度転換させてしまうのですが、そのあたりの説得力を出すためにダウニー君を選んだのは大正解です。しかしハリウッドでただ金儲けだけを考えている、映画に造詣が深くないビジネスマンだったらこの選択をするだろうかと考えました。マーベルは今後映画化を自分の手でやる予定なのですが、もしかすると今後もストーリーに合った配役になるかも知れません。期待しちゃうなあ。

★ 悪役にも捻ったキャスティング

スーパーヒーローの映画にはもちろんスーパー悪役も登場します。ジャック・ニコルソン、アーノルド・シュヴァルツェンエッガーなども大悪党をやったことがあります。ここで起用されたのはなんとあのレボフスキーのジェフ・ブリッジス。彼がこれまでに悪役をやったのは見たことがありません。しかも私はアイアンマンの悪党がブリッジスだとは気づかなかったのですよ。何しろ禿げているのです。多分鬘なのでしょう。普段悪役をやらない人がやったという意外性もおもしろいですし、ブリッジスはいつものように力を入れ過ぎず、サボらず、ちょうどいい匙加減で登場します。元々が漫画だと考えると彼もダウニー君もかなり気合を入れています。《たかが漫画扱い》はしていません。

★ そして必ず出て来る美人の助手

そこへ出て来るパートロフ嬢。お嬢さんなどと言っては行けませんね。もう結婚しているし、子供もいるのですから。スカイ・キャプテンの乗りでがんばっています。私が勝手に作っている《使われ方が間違っている俳優のリスト》に載っているパートロフですが、徐々に合った役に近づいて来たように思います。ずっと前のセブンは良かったのですが、その後取らない方が良かったオスカーを貰ってしまい、しょ〜もない映画が続きました。ちょっと前に俳優とは違う職業の方が才能があるのではないかと思ったばかりなのですが、《漫画に出て来る主人公の有能な助手》という役どころはぴったりです。スカイ・キャプテンも彼女の部分は他の映画よりいいのではと思いましたが、アイアンマンはそこを強調した感じで、この路線が続けば今後期待できそうです。脚本が良かったためで、彼女の演技が良かったのかどうかは分かりませんが、最初の方にすぱっと台詞が決まるシーンもあります。マドンナなどがこの役をやったら全然合わないと思いますが、パートロフ嬢だったので効果満点。本人もそのあたりの匙加減を理解できる俳優なのではないかと思っています。

★ 元はベトナム戦争だった

アフガニスタンの戦争が深く関わるストーリーなのですが、原作ではベトナム戦争だったそうです。何しろ描かれ始めたのが40年前。それをアフガニスタンに移し変えて全体を現代にマッチさせたようです。それでもストーリーが持つということは人類が進歩していない証拠ですが、まあそこはあまり深く突っ込まずに。

★ パクったか

この作品、鉄腕アトム鉄人28号ウォレス&グロミットLord of War などいくつかの作品を思い起こさせます。特に鉄腕アトム鉄人28号の色彩は濃いです。パクったのかとも思いますが、本当の所は分かりません。原作は1963年から存在しています。鉄腕アトムは1951年から、鉄人28号は1956年から存在しています。しかしあのアメリカが敗戦国日本の漫画を真似るか、そして当時はまだメディアの交流が今ほど盛んでなく、日本で大流行していてもそうすぐにアメリカには伝わらなかっただろうなどと考え、パクったとは言い切らないことにしています。

とは言っても今回の映画化にあたってデザインでは何かしらのヒントにしたのかも知れません。何しろ似ているんですよ。そして主人公が仕事をする地下室はウォレス&グロミットを超近代的にして、金にあかせて揃えられるすべての技術を揃えたという感じです。そしてストーリーは Lord of War の骨子から発展させたような印象を受けますが、この部分は Lord of War の方が後出しなのでパクリではありません。

★ パクっても

私はパクリについては結果重視と考えています。シーンをぱくってあってもストーリーにきちんと背骨が通っていればうるさい事は言わない方針です。ウォレス&グロミットは有名な映画の引用の羅列ですが、それでいてしっかりと独自のメッセージがあります。バイオハザードも重点を定め、他はパクリで済ませるという方式でした。そういう意味でアイアンマンもまあ何とか自分を主張しています。

★ ストーリー

比較的単純な話です。それまで良心が咎めることもなくどんどん兵器を開発していた技術者のトニー。子供の頃から天才技術者と呼ばれ、親の跡を継いで大会社のトップに収まっています。共同経営をやっているのが父親の友人オバディア。元々は父親とオバディアが作った会社です。軍からの定期的な発注があり、会社の株は高値。贅沢な生活をし、暇な時間には欲しいだけ女性も手に入り人生を満喫しています。

ある日商用でアフガニスタンへ行った時ゲリラに襲われ人質に取られてしまいます。自社の製品で攻撃を受けるという皮肉。心臓を撃たれ本当は死ぬところを同じように人質に取られていた現地の外科医に救われます。とは言うものの現在は応急処置で、妙な人工心臓が入っています。放っておくと間もなく命取りになるとのこと。

大物を人質に取ったことを知ったゲリラの親分はトニーに武器の開発を強要します。トニーはそれを作っているふりをしながら実は鉄人28号のような形の鎧を作り、命からがら逃げ出します。しかし自分を助けるために外科医が命を投げうったのでしょげています。と同時に自分が軍に納品したはずの武器がなぜかゲリラの駐屯地に山積みされていたのでそちらもショック。どこかから違法に横流しが行われている様子。

無事に帰国でき、現場に復帰したトニーは記者団に「これからは武器は作らない、別な研究をやる」と言い出して周囲を慌てさせます。金持ちのトニーはそれでいいのでしょうが、長年ビジネスのパートナーをやっているオバディアは株価が下がるので大慌て。トニーの説得はできず、周囲には「怪我のショックでまだまともではない」と言いつくろっています。2人の間ではトニーが暫く休暇を取るという形で話がつきます。

《休暇中》のトニーはアフガニスタンで脱走する時に使った鎧の開発を始めます。出来上がったバージョン2は鉄人28号のような形の鎧で、性能は鉄腕アトムのよう。空を飛びラララ、かなり上空まで行って気温が下がったため凍りついてしまったり、失敗を繰り返しながら徐々に完成に近づきます。

休暇中の発明がうまく行き、秘書ともいくらかロマンティックな感じになり、パーティー三昧の生活にも復帰。そこで久しぶりに会ったオバディアに、ビジネスにも復帰すると言います。ところがオバディアはすでにトニーを経営からはずしており、トニーの意向を無視してせっせと武器を製造していました。儲かるのなら買い手は誰でもいいとばかりに敵味方両方に売っていました。トニーが拉致される前から実は裏商売にも励んでいて、アフガニスタンのゲリラもお得意さん。

トニーはテレビでアフガニスタンの様子を見ていましたが、そこではまたしても自社の武器が使われています。どぎゃんかせな、あかん!ついにスーパーヒーロー、アイアンマンのデビューと相成ります。

その後ガンダムのような大型のバージョン3が登場。実はこれはオバディア。商用でアフガニスタンに飛んだオバディアは、帰りにトニーが作った鉄人バージョン1のスクラップを持ち帰ります。トニーは実は拉致された時死ぬはずで、会社はその時にオバディアの独占となるはずでした。オバディアがスクラップを研究して作ったのがバージョン3。

激しい戦いで、途中トニーの心臓がだめになってしまったりはらはらの連続となりますが、2人の対決ではトニーの勝ち。なにしろ3本分契約にサインしているので、ここでダウニー君が死ぬわけには行かず、やられるのはブリッジス君の方。

多分2作目にも登場するだろうと思える人も何人かおり、トニーと秘書の間ももしかしたらもう少し親密になるかも知れません。後半かなり端折りましたが、そこは映画館で見て下さい。

クレジットが終わった後に短いシーンがあるので、席をすぐ立たない方がいいです。2作目で誰が活躍するかのヒントかも知れません。

★ たかが漫画、されど

今から40年も前となるとまだ漫画は子供のためという固定概念で済んだ時代です。そこで武器商人の話、しかもこちら側と向こう側の両方に売りつけて金儲けをする男の話ですよ。これはもう完全に大人の世界です。私はアメリカの漫画を見たことはほとんどありませんでした。チラッと知っていたのはスヌーピーとアメリカの家庭を舞台にした短い漫画だけ。壮大なストーリー漫画は見たことがありませんでした。子供の時にはもっぱら国産の鉄腕アトム鉄人28号伊賀の影丸エイトマンなどを愛用していました。アニメでなく雑誌の連載やシリーズを全集にしたような物も見ています。子供だったのでストーリーに世界情勢が盛り込まれているかなどには考えが及ばず、何か1つスパイ物っぽい話でだけチラッと政治を見たような気がします。

アメリカは漫画にこういう大人の世界を持ち込むんですね。昔からそうなのか、それともこの頃から始まった新しい傾向なのかは調べてみないと分かりません。私は漫画世代ではなく上に書いたようなものが友達の家やどこかの待合室で見られたので見ただけで、自分からお金を払って買った漫画というのは皆無に近いです。

だから嫌いというのではなく、今や文化の一翼を担っています。私が漫画にあまり食指が動かないのは頻繁にページをめくらなければならないからです。絵が多いので、1ページにあまりたくさんテキストが書いてないのですよ。例えばジェフリー・ディーヴァーの長編を漫画にすると500ページでは済まないでしょう。すると手がくたびれるので、ついつい小説の方を買ってしまうのです。

★ どうせ見るなら映画館

アイアンマンは他を圧倒するような凄い作品ではありません。しかし政治が織り込まれていながらリラックスして見ていられる作品で、ユーモアの努力も見られます。もしダウニー君とパートロフ嬢が3作連続で出演するのだったら、更なるユーモアが期待できるかも知れません。そしてガンダムばりの鉄人大決戦シーンもあるので、できれば映画館でご覧になることをお勧めします。ポップコーンを用意なさるといいかも知れません。

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