映画のページ

ハリウッドランド /
Hollywoodland /
Die Hollywood-Verschwörung /
Hollywoodland - Bastidores da Fama

Allen Coulter

2006 USA 126 Min. 劇映画

出演者

Ben Affleck
(George Reeves - 俳優)

Robin Tunney
(Leonore Lemmon - ジョージの婚約者)

Adrien Brody
(Louis Simo - 私立探偵)

Molly Parker
(Laurie Simo - 別れた妻)

Zach Mills
(Evan Simo - 息子、スーパーマンのファン)

Bob Hoskins
(Eddie Mannix - MGMの重役)

Diane Lane
(Toni Mannix - エディーの妻、ジョージの愛人)

Ayumi Iizuka
(吉田 -エディーの愛人 )

Veronica Watt
(Rita Hayworth - 女優)

Peter James Haworth
(Fred Zinnemann - 監督)

見た時期:2007年8月

内幕物なのですが、上品な作りです。ほとんど欠点が無い作品で、強いて言うと、主演をベン・アフレックが演じたところが良くないと言えるかも知れません。なぜか・・・。

実話を元に作られたもので、50年代テレビ・シリーズでスーパーマンを演じたジョージ・リーヴスが自殺に至るまでの経過を扱っています。私も日本で遅れてこのシリーズは見ており、全部見たかは分かりませんがかなりの数にはなっていると思います。日本でも50年代からテレビ放映があったようなのですが、うちは東京オリンピックに合わせてテレビを買ったので、かなり後で再放送を見ています。その頃ナショナル・キッドなどと言う和製スーパーヒーローまで登場していました。

私が記憶しているのはタイツにマント姿の大柄な男、「弾よりも速く」とかいうナレーション、そして70年代にはすっかり野暮ったく見え、90年代以降はまたレトロでカッコ良く見えるスーツと眼鏡姿のクラーク・ケント。日本でのインパクトはアメリカほどではなかったようですが、それでも大平透のスーパーマンを知らない人は日本にもいなかったのではないかと思います。

アメリカにはテレビと現実をはき違える傾向は50年代からあったようです。テレビのアンタッチャブルで万年悪役を演じていた俳優が私生活で人から攻撃を受けたりするという話を耳にしたことがありました。スーパーマンは善玉の代表みたいな人ですから、攻撃を受けることはなかったと思います。しかし良い人間として神様のように思われるのも、元をたどれば普通の俳優に過ぎないリーヴスにとっては大変なことだったでしょう。

ハリウッドランドのストーリーはリーヴスが自殺した直後から始まります。1959年の夏。状況証拠は自殺を示唆していました。映画でなく、事実の方ですが、友人の間では自殺でないという説が多かったそうです。偽装自殺も考えられますが、ハリウッドランドでも、実生活でも世間は一応自殺で納得し、葬儀という運びになります。

演出はしょっちゅう1959年の現在とリーヴスの生前との間を行き来するので、観客の思考は頻繁に中断されますが、全体の筋は現在も過去も前向きに進むので、それほど混乱しません。1人の貧乏探偵が刑事の知り合い、そのつてで、リーヴスの母親の調査依頼を受けるというのがハリウッドランドの中でのリーヴスの死後すぐの動きです。

色々探偵にかぎまわられるのを好まない人が出て来ます。特にリーヴスの愛人だった女性との面会は難しく、直接話を聞けるのはそれ以外の人だけ。それでもざっとつかんだのは、何年も前、リーヴスがまだ駆け出しの頃、MGM の重役の妻と知り合い、愛人関係が始まったことでした。

変態夫婦や、暴力亭主など問題の多い夫婦も数あるハリウッドではこの夫婦は中程度の、現代から見るとそれこそ健全な夫婦と言えるでしょう。当時はこの程度でも新聞に載るとスキャンダル。それで奥方は一切プレスの前に顔を出さないのです。どうなっていたかと言うと・・・。

MGM の重役は結構年で、日本人の愛人がいます。奥方の方はその時々に適当に浮気をして良く、ちょうどこの時期にはリーヴスと愛人関係に入ったようです。夫は腹を立てるわけでもなく、妻の必要な物は買ってやり、それぞれ楽しく暮らしています。むしろ心温まる夫婦愛とも言えそうなのは、奥方が苦しむことを旦那が嫌がるという点。ここが推理物好きの私にはもしかしたら犯罪の動機になるかもと思えはしたのですが、その辺ははっきりしません。

リーヴスと奥方の愛人関係は長く続き、その間にリーヴスは奥方に勧められてテレビ・シリーズのスーパーマンのオーディションを受けます。てっきり悪役と思ってその台詞を読み始めたら、主人公の方だと言われて本人はびっくり。しかし抜擢されてそこそこの成功を収めます。普通の俳優のつもりでいたので、妙なコスチュームに戸惑い、きまり悪い思いをしながらも子供たちには大受けとなります。

リーヴスのスーパーマンは有名ですが、映画化はアニメ、単発劇映画、テレビ・ドラマなど色々あり、リーヴスが最初ではありません。元ネタは1938年の漫画。リーヴスの主演は1951年の Superman and the Mole-Men に始まり、すぐ後に続いたテレビ・シリーズは 第1シーズン開始が1952年。それから死亡の年1958年の第6シーズンまで104話演じたと言われています。4月に最後のエピソードが放映され、自殺は6月です。

最近の俳優は子供に受けるというのがどういう事か良く分かっているようですが、当時はそこまで考えず、リーヴスはこのシーズンが終わったら他の作品に出るんだと思っています。ところが1度終わったシリーズが新しくスポンサーを得て新装開店。というわけでリーヴスは子供の間では絶対的な存在になってしまいます。プロデューサーの方から見るとリーヴスはスーパーマン以外の役は考えられないということで、これ以外の仕事が入らなくなってしまいます。

この傾向は当時から強かったようで、ロバート・ワグナーなども1度大スターになった後、テレビの愉快な泥棒役を貰うまで長い間悩んだようです。まじめな役でスターだったジェームズ・ガーナーなども同類でしょう。最近俳優が自分の会社を興すのも、プロデューサーに名を連ねるのもその辺を考慮してのことでしょう。

リーヴスの悲劇は60年代以降に上手にテレビで変身し、シリーズで良い評判を取ったワグナーやガーナーに比べ悩みが早い時期にやって来たことでしょう。ハリウッドの大スターがテレビに出ると落ちぶれたような印象を与える時期があり、まだ映画で大スターになっていないリーヴスは元から二流扱いです。若いうちはまだ希望を持っていられますが、中年になってしまい、まだタイツとマント姿です。ところが子供からは依然として神のように崇められます。

リーヴスは人物としては温厚で良い人に描かれています。うんざりしている役でも、子供が大勢集まって声援を送ってくれると、クラーク・ケントのポーズを取ってやったりします。全体に(シーンに直接現われない)本人の自殺以外は大きな事件は起きませんが、1箇所背筋の凍るシーンが盛り込んであります。

小さな子供のための催しでスーパーマンの余興をやっていたリーヴスに小さな子供がリボルバーをつきつけ「撃ってもいい?」と聞くのです。どこから持ち出したのか分かりませんがピストルは本物。リーヴスもいち早くそれに気づき、子供を静かに誘導して、撃たないようにするのですが、その子は完全にスーパーマンは実在すると信じ切っています。このエピソードは入れて良かったと思います。

結局探偵はリーヴスの人生をさまざまな人の証言や調査で辿っていきますが、決め手になる証拠も証人も現われません。自分の子供もスーパーマンのファンで、死後子供が鬱状態に陥ってしまいます。探偵も悩みながらとにかくジグゾーパズルの断片を集めて行きます。

ハリウッドランドは殺人だ、自殺だという断定はしません。血縁だった母親は自殺説に疑いを抱き探偵を雇ったのですが、探偵(そして観客)の視点からは判断がつきません。リーヴス自身には自殺してもおかしくない静かな悩みもあったからです。50年代の映画や小説を見ると、金持ちの年長の男性に囲われたような愛人というのが良く出て来ますが、リーヴスはその逆。《金持ちの年長の有名プロデューサーの正式の妻に囲われた愛人》として閉塞感を持ち、仮に才能があったとしてもその長い期間の内にチャンスを逸しています。あるいは才能が無かったのかも・・・。そしてもう全てに遅過ぎると悟ったら自殺も選択肢に入って来ます。人は時にはバカな方がいいと思います。「まだできるんだ、まだチャンスはあるんだ」と幻を信じていた方がいい時もあります。例えばロビン・ウィリアムスは後年願いかなってシリアスな役で輝いています。カバの私などはいつまでたっても希望を捨てておらず、驚くべき高年齢で夢がかなってしまうという経験を何度かしています。カバは長生きします。

演じているベン・アフレックは写真やテレビで私が知っているリーヴスよりずっと上品なイメージでした。彼自身がベニファーと言われた時期以降キャリアで躓いてしまった感があり、私の目から見ても長い間彼の才能が生かせる役に恵まれていませんでした。私は彼がカメオ出演したあまり有名でない作品も見る機会があったので、凄く才能はあると思っています。俳優としてはどんどん主演が舞い込む頭も良いマット・デーモンより、ベン・アフレックの方が才能には恵まれていると思います。ただ、ハリウッドというのはこの人にこれをやらせればぴったりと知ると、それ以外の役をどんどん持ち込む臍曲がりな町です。黒髪ふさふさのチャウ・ユン・ファに丸坊主の役を与えたり、歌を歌わせるとピカ一のグィニス・パートロフにしょーもない役をあげたり、コメディーをやらせると輝くキアヌ・リーヴスに SF アクションをやらせたり、暗い恐い役を演じる方がずっと迫力のあるロビン・ウィリアムスにコメディーをやらせたり(いや、これは彼自身の職業の選択でした)。

ベン・アフレックの起用がまずいと冒頭に書いたのは、彼のキャリアがリーヴスとかぶりそうに見えるからです。何かを経験した人にそれにそっくりの役を持ち込むというのも芸能界の悪習。本人が関与しているし、最近は俳優にも発言権ができているから、嫌だと言えばやらずにも済むでしょう。似て非なるリーヴスとアフレックのキャリアですが、思ったような役が来ないとか、1つのジャンルに閉じ込められそうだという点ではアフレックに感情移入は可能でしょう。それをやって上手く行くのは当然。観客の嫌らしい期待にはこれで十分応えられます。そこを外してもらいたかったのです、この才能のある俳優には。

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