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クイーン /
The Queen /
Die Queen /
La Reina /
A Rainha /
La Regina /
Sa majesté la reine

Stephen Frears

2006 UK/F/I 103 Min. 劇映画

出演者

Helen Mirren
(エリザベス2世、現英国女王)

James Cromwell
(エジンバラ公、エリザベスの夫)

Alex Jennings
(チャールズ皇太子、ウェールズ大公、エリザベスの長男)

Sylvia Syms
(クイーン・マム、エリザベスの母、前王妃)

Jake Taylor Shantos
(ウィリアム王子、チャールズ皇太子の長男)

Dash Barber
(ヘンリー王子、チャールズ皇太子の次男)

Laurence Burg
(Diana - チャールズの前皇太子妃、ウィリアムとヘンリーの生母)

ダイアナ
(ウェールズ大公妃 - 本人)

Michel Gay
(Dodi Fayed - ダイアナの婚約者)

Dodi Fayed (本人)

Michael Sheen
(Tony Blair - 首相)

Helen McCrory
(Cherie Blair - トニー・ブレアの夫人)

Harry Alexander Coath
(Euan Blair)

Roger Allam
(Robin Janvrin - 女王の私設秘書)

Tim McMullan
(Stephen Lamport - 皇太子の私設秘書)

Douglas Reith
(Lord Airlie)

Mark Bazeley
(Alastair Campbell - 首相のPR係)

Bill Clinton
(本人、前アメリカ大統領)
Tom Cruise (本人、俳優)
Tom Hanks (本人、俳優)
Elton John (本人、歌手)
Nelson Mandela (本人)
Luciano Pavarotti
(本人、オペラ歌手)
Steven Spielberg
(本人、映画監督)
Camilla Parker-Bowles
(本人、コーンウォール公爵夫人)
Charles Spencer (本人、伯爵)

見た時期:2007年12月

人の死に関わる実話2つをご紹介しますが、全く違った出来事、アプローチです。今回は英国の元皇太子妃の死に関わった人の反応を描いた、ドキュメンタリー風のフィクションです。かなり本人に近い作りなのにフィクションと言うのは、俳優が脚本に沿って演じているからです。そっくりさんぶりはなかなかの出来で、どの俳優も右からとか左からとか1つのアングルから見るとそっくりですし、歩き方や目線、しゃべり方にも注意を払っています。

★ 女王ミレン

エリザベス女王を演じるヘレン・ミレンは最近エリザベス女王の役が続き、エリザベス1世も演じています。またエリザベスを映画化するのも流行っているらしく、ケイト・ブランシェットのエリザベスの続編も控えています。

英国に皇室映画ブームが起こっているのかと思いはしたのですが、ちょっと首をひねりたくもなります。エリザベスで重要な役を演じていた人2人は英国人ではありませんでした。ヘレン・ミレンも今でこそヘレン・ミレンなどと言っていますが、本名は Елена Васильевна Миронова。帝国時代のロシアの貴族です。お父さんが亡命し、イリーナは英国生まれ。立場にもよりますが、残っていればハンニバル・レクターの両親や妹のようにあっけなく命を落としたか、刑務所に入れられたり地位によっては処刑されたかも知れません。

英国には有能な俳優がごろごろいるのに、エリザベスを演じる人は元の英国の植民地の人だったり、元外国貴族の家柄の人だったりします。一国の国家元首、それも何百年も続いている象徴的な人物を映画で描く時に外国人や外国系の人を使うというのはなぜなのでしょう。国家元首を俳優に演技させる事に勇気が要る風潮の国があってもおかしくありませんが、製作決定が下され、いざカメラという時に、外国系の俳優の方がいいのでしょうか。あるいはヘレン・ミレンは貴族の出身だから向いているとか、もっと言うと、欧州の王族はどこかで親戚(エジンバラ公はギリシャ人)だから「そんなのどうでもええ」と考えるのでしょうか。英国では国民が何に遠慮し、何は「関係ねえ」なのか私には良く見えませんでした。

★ 本題に近づく

前世紀の印象に残った出来事に必ず数えられるだろうというダイアナ元英国皇太子妃の自動車事故。未だにあれは陰謀だったという説も流布されていて、研究を続けている人がいるだけではなく、フランスや英国の警察や裁判所では現在でも扱われることがある、一般の目から見ると未解決の事件です。

細かいゴシップは省きざっと経緯を書くと、若くして英国皇太子と結婚したダイアナ妃が、息子を2人産んだ後、スタートからギクシャクしていた家庭生活に区切りをつけ離婚。その後親子関係は維持しながら皇太子、元皇太子妃はそれぞれ気に入ったパートナーとの生活を始めていました。ちょうどエジプト系の富豪の息子と交際中だったダイアナ元皇太子妃はフランス滞在中にパパラッチに追いかけられ、高速で走る車がトンネルの中でコントロールを失い大破。4人乗っていたうち1人だけ重症で助かり、ドライバー、ダイアナ、婚約者ファヤッドの3人は即死あるいは直後に死亡。

映画は彼女の死が元夫の家族に及ぼした影響を描いています。中心になるのはタイトル通り元義母に当たる英国女王。普通の家族ではあり得ない立場の人たちの政治的な決断、PR作戦などと同時に、微妙なニュアンスで人間的な表情も出しています。

★ そっくりさん俳優が演じる現実

ある程度肉体的に似ている人しか選べないという制約があり、人選が難しかっただろうと思いますが、達者な俳優を見つけることができたようです。ヘレン・ミレンは予定通りというか、オスカーを得ましたが、私には役者としてはトニー・ブレアを演じたマイケル・シーンの方が上手だったのではと思えました。

裏には私がベルリンに住んでいるという事情があります。壁がまだあった頃ベルリンにはBBCの特別なラジオ放送があり、テレビを持たない私は1日中つけっぱなしにして聞いていました。当時のドイツのラジオは1日中音楽を流し、1時間に5分ほど内外のニュース、天気予報、交通情報を流すだけで、世の中で何が起きているかあまり分からなかったからです。BBCは元植民地の地域に偏る傾向が多少あったとは言え、一応国際的なニュースに関しては詳しく、早く、間違いが判明したら訂正もするという、わりとましな放送局に思えたからです。事件の後追いの解説報道も多々ありました。

その中で女王や時の首相が扱われる時間もあり、私はまるで天気予報や交通情報を聞くような当たり前の感覚で今日は女王が何を言った、首相が休暇に入ったなどと言うのを聞いていました。首相は何度か交代しましたが、女王はまだ1952年から通しで激務をこなしています。BBCには当時王室を擁護する立場の人もいたのではないかと思われるような論調もありました。財源、管轄などの点で女王がBBCに深く関わっていたのかも知れません。

このラジオ放送は壁が無くなった後も形を変えて残っており、良い状態の電波で入って来ます。トニー・ブレアの声は何だかんだと言っても毎日聞いていたと言って過言ではありません。インターネットが大普及してからはニュース・ビデオも見るようになり、言わば英国の国会や王室を見慣れていた、聞き慣れていたと言えるでしょう。そのため私の映画を見る目はいささか厳しかったのですが、重要人物を真似た俳優には合格点をつけます。

BBCの方は壁の崩壊と共に徐々に変化し、皇太子のゴシップまで報道するようになって行きました。そんなこともあって、クイーンに出て来るエピソードもラジオで何度か聞いていました。

クイーンでは真似することだけにエネルギーを注がず、上に書いたように俳優が似ているのは特定のアングルからだけ。そっくりショーのみで観客を引きつけようとしなかったのは作戦勝ちです。でないとストーリーがかすんでしまいます。そのストーリーはメディアで大々的に報じられた話なので、それを映画でなぞるのも一種のそっくりショー。それをやり過ぎると観客は似ている、似ていないという事に注意をそらされ、王室と首相のやり取りがかすんでしまいます。そこにも配慮して微妙な匙加減。オスカーでは6部門にノミネートされていて、取ったのはヘレン・ミレン。近年評判が高くなった女優ではありますが、サイレンサーなどずっこける作品もあります。脚本や監督の功績はノミネートという形にとどまっています。

★ 危機管理の実例

クイーンが描いているのはダイアナ元皇太子妃が亡くなってからの数日間。現実のこの期間、私はトニー・ブレアの危機管理の見事さに呆気に取られていました。英国のみでなく、全欧州を揺るがせたこの事件はジョン・F・ケネディーの死と同じぐらいのインパクトを持っていました。それをあの若い首相がこなせるかと思ったのは最初の数時間だけ。次々と起きる事故後の出来事に私は感嘆しました。私も比較的良く知っている出来事を映画化したので、そう言う点で採点は厳しいのですが、それも合格。

英国の外交の巧みさには時々驚かされますが、内政でもこれほどのスタッフがおり、状況を把握し、国民の怒りを上手に迂回させ、国民葬のような方向に持って行く、それも事故直後からPR係、秘書などが活発に動き、首相と女王も何度か言葉を交わしているのを見て、凄いなあと思いました。

それと同時に女王の自覚の強さにも感心します。これはクイーンを見てからの感想ではなく、ラジオで色々なニュースを聞いてそう思っていました。それを俳優ヘレン・ミレンがはっきり目で見えるように演技で示します。私が持っていたイメージと合っていました。もちろんそのどこまでが本当なのかは分かりません。「こういうイメージで行こう」ということで書かれた脚本ですから、違った面もあるのかも知れません。

作品全体は満点を出す気にはなりませんでしたが、90点台で通信簿なら5です。

ラジオや後の雑誌や新聞の情報しか知らない私には、映画が別な視点からの話だったので興味津々でした。センセーショナルなトーンは極力押さえ、経緯を時間通りに表現しようという試みでした。

英国の印象は元々かなり上だったのですが、年と共にレベル・ダウンしています。そんな印象の国ではありますが、俳優の実力、作る映画のおもしろさでは評価は高いです。基礎がきっちりできているのが当たり前で、その辺の無名な人でも一応俳優業を営んでいる人だったら安心して見ていられます。外国からハリウッドやニューヨークへ演技の勉強に行く人もいますが、ロンドンも立派な俳優を育てる町のようです。イギリスの俳優、紅茶、ジャムは最高。この作品は是非紅茶を飲みながらご覧下さい。

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