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2006 D/USA 108 Min. 劇映画
出演者
Jared Leto
(Ray Fernandez - 結婚詐欺師)
Salma Hayek
(Martha Beck - 看護婦長、結婚詐欺師)
John Travolta
(Elmer Robinson - 内勤の刑事)
Dan Byrd
(Eddie Robinson - エルマーの息子)
James Gandolfini
(Charles Hilderbrandt - ロビンソンの相棒刑事)
Scott Caan (Reilly)
Laura Dern
(Rene Fodie)
Bruce MacVittie (Eastman)
Michael Gaston
(D.A. Hunt)
Alice Krige
(Janet Long)
Dagmara Dominczyk
(Delphine Downing - 被害者)
Bailee Madison
(Rainelle Downing - デルフィーヌの娘、被害者)
見た時期:2007年12月
同じく人の死に関わる実話ですが、全く別な話です。私がこの作品に興味を持った理由は俳優。トラボルタの映画を見ることは比較的多く、彼個人はあまり好きではないのですが、出るたびに前と全く違うタイプの作品ができるので関心を持っています。ガンドルフィーニも贔屓にしている俳優で、テレビに行ってしまったのを暫く嘆いていました。ジャレッド・レトも見た作品は少ないのですが、印象に残る俳優で、主演とか準主演と聞くと見ようかなと思います。そしてできればいつも見たいと思っているのがサルマ・ハヤック。私が好きなのはどちらかと言えばコメディーなのですが、シリアス・ドラマでもばっちり存在感があるという事はフリーダで知りました。
★ 次の時代のボニーとクライド
などと書くと良い事のように思えますが、悪い話です。ハヤックとレトが演じるのは10年から15年ほど遅く出たボニーとクライドのような人物。実在です。先に本当の事件をご紹介しましょう。
★ レイモンド
マーサ・ベックとレイモンド・フェルナンデスは共にアメリカ人で6歳ほどレイモンドが年上。レイモンドは暫く両親の出身国スペインでも暮らしたことがあります。彼はスペインでは結婚し、子供も4人います。普通の犯罪者とやや違うのは彼がイギリス情報部のために仕事をしている点。映画でこのシーンを見た時はほらを吹いたのかと思ったのですが、本当だったようです。優秀だったという話もあります。その後事故で頭を負傷。それを機にセックス依存症になったという話もあるのですが、映画ではその辺はさらっとかわしています。一般犯罪者と比べるとやや変り種の奇妙な人生を歩み、やがて結婚詐欺に天賦の才能を示し始めます。
ベルリンの有名なタウン誌にもロンリー・ハーツという出会い系の欄があったのですが、彼はそれを使い大戦後の戦争未亡人などとコンタクトを取り、お目当てのセックスと金に何度もありつきます。映画にははっきり出て来ませんが同時に数人の女性を騙していたようです。詐欺がうまく行かないと殺すということをいつから始めたのかは分かりませんが、マーサに出会う前にすでに人を殺していた可能性もあります。
いくつかの悪い偶然が重なって酷い事件になるのですが、その1つが時代背景。戦争が終わり、未亡人が増えていますが、独身で戦死した兵士も多いので、結婚適齢期の女性が余る時代。カモがごろごろしているというのがレイモンド側の視点かも知れません。レイモンドに事故が無かったらチンピラ程度で済んでいたかも知れないという仮説があります。事故を機にがらっと変わったらしいのです。それでもマーサに出会わなかったら普段は人を殺めない犯罪を犯し、たまに何かの偶然で人を殺したような、つまり2桁の人数を殺めるような事は無かったかも知れません。1人殺してもとんでもない事件に違いありませんが、マーサとレイモンドの事件を追うと唖然とします。
★ マーサ
マーサは子供の頃からセックス依存症の傾向がありました。ホルモン系のトラブルだったのかも知れません。母親はそういう事態に理解が無く(当時は研究も進んでおらず期待する方が無理)、さらに躾の厳しい人だったので、マーサは症状を理解する者も治療する者も無いまま母親にブースカ言われながら暮らし、やがて看護婦の教育を受けるべく、親元を離れます。そこに至る前に近親者に性的な虐待を受けたという話もあります。
満足なカウンセリング、治療を受けることも無く(40年代、50年代ではまだ一般的に無理)トラブルを何度か起こし、結婚したり出産したり、別れたり。彼女は自分ではレイモンドの出すロンリー・ハーツの広告に返事を出していませんが、知り合いが勝手に出した手紙がきっかけでレイモンドと知り合います。
マーサはレイモンドのお目当ての金を持っておらず意味がありません。即断で別れようとするレイモンドにマーサはストーカー的に密着。嫌がるレイモンドをどうやって引き止めたのかは分からないのですが、映画ではマーサの方がレイモンドより頭が良いように描かれています。それまでは結婚に期待する女性を騙すレイモンド主導型だったのが、ここからはマーサ主導型に変わります。結婚詐欺をペアでやるわけには行かないので、マーサはレイモンドの妹と名乗るようになります。婚約者の銀行口座を空にするとトンズラ。
マーサと出会う前にレイモンドが死体をいくつ作り出したのかは分かりませんが、2人が一緒に仕事をするようになってからはぞろぞろ。日本にも最近はひどい犯罪が増え、マーサとレイモンドの話を今耳にしてもそれほど驚きませんが、事件が起きた当時の日本はまだかなりきちんとした国で、60年代、70年代、80年代あたりまでにこの話を聞いたとしたら驚いたと思います。何人目かで隣人が銃声を聞き通報、逮捕。1949年のことです。全部で20人ほど犠牲者がいたようですが、正確な数は分かっていません。
物価は50年、60年前と現在では違いますが、犠牲者からせしめたお金が数千ドルと聞いてあまり多いとは思いませんでした。それで犠牲者の人数が必然的に増えたのかと思いました。本当のところは分かりません。
★ トラボルタとガンドルフィーニ
ハヤックとレトだけでも十分おもしろい作品になったと思いますが、さらにトラボルタとガンドルフィーニがサポートに付き、深みを持たせています。2人は刑事役で、最初から登場し、トラボルタが語り手です。刑事のエピソードのどこまでが実話なのかは分かりません。監督はエルマー・ロビンソンの実の孫です。映画では事件に関心を持つロビンソンが相棒のヒルデブラントと一緒に州境を越えて捜査に当たります。その彼には扱いの難しい年頃の息子がいて、家庭問題にも触れています。
ノスタルジックな刑事物というスタイルを取り、2人は絵になります。後ろにかかる音楽はノスタルジックなトーンを狙ったジャズ。私はこの種の曲が好きでないのですが、これがぴったりだと感じる人もいるでしょう。
ハヤック主演のフリーダでも衣装に凝っていましたが、この映画でも衣装には気を使っています。カメラもきれいで、見ていて感じが良かったです。さらに古い自動車もバンバン出て来るので、雰囲気はいいです。
ロビンソンがある女性の死因に不審を抱き、同僚刑事より細かく事件を見るところから始まります。実際にはマーサとレイモンドは一般市民の通報により捕まったようなのですが、ロンリーハートではロビンソン刑事の捜査の積み重ねという風になっています。孫が自分の祖父を映画化するということは積み重ねがあったのではと思われます。
★ せっかく揃った人材、セット、衣装、車
実際の事件は猟奇殺人とは言いませんがグロテスクな面があり、きっちり事実に基づいて映画化すると成人映画になってしまいそう。ロンリーハートは事実に比べるとかなり上品な扱いになっています。暑苦しそうなハヤックのまなざし、いい加減でいくらか気の弱そうなレトは実際の2人といくらか違うようです。特にハヤックはすらっとした魅力的な美人ですが、本当のマーサはちょっと体重が多めの人です。
ロンリーハートがブラック・ダリアと似て、作品として弱いのは、監督が重点を決めなかったところにあるようです。事件自体がショッキングだったらそれだけで客が来るだろうと思ったのかも知れません。責任がプロデューサーにあるのか、脚本家にあるのか、監督にあるのかは分かりません。俳優は良くやっていると思います。せっかくハヤックが個性的な暑苦しい目を持っているのだから、彼女の嫉妬をもう少ししつこく描くか(実際のマーサに比べるとハヤックの演技は淡白です)、レトがお得意のエキセントリックさを出すか(彼の他の作品に比べるとおとなしいです)、戦後男性が不足した時代に欲求不満になっていた被害者の様子をもう少し詳しく描くか、重点を置けそうな要素はいくつかありました。
映画監督としてはあまり作品数が多くなく、もっぱらテレビで活躍していた人ですが、長編劇映画をまとめる技術、美的感性は十分。今後の活躍に期待しています。
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