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The Disappeared

Johnny Kevorkian

2008 UK 96 Min. 劇映画

出演者

Greg Wise
(Jake Ryan - マシューとトムの父親)

Harry Treadaway
(Matthew Ryan - ジェイクの長男)

Lewis Lemperuer Palmer
(Tom Ryan - マシューの弟)

Ros Leeming
(Amy Tyler - マシューのアパートの隣人)

David Broughton-Davies
(エイミーの父親)

Benedict Martin
(Father Symmonds - 神父)

Tom Felton
(Simon - マシューの親友)

Georgia Groome
(Sophie Pryor - サイモンの妹)

Paula Bingham
(サイモンの母親)

Nikki Amuka-Bird
(Shelley Cartwright - 霊媒)

Tyler Anthony
(Rebecca Cartwright - シェリーの娘)

見た時期:2009年8月

2009年ファンタ参加作品

直接の結末はばらしませんが、どの方向へ行くかは最初から触れます。そういう事を知らずに見た方がいいかも知れません。予備知識を避けたい方は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

バランスのいい小ぶりな佳作です。どこの国が作ってもおかしくない規模です。ハリウッドのような大きな設備の整った場所でしか作れないという作品ではありません。特に大掛かりなロケは必要なく、アクション・シーンもありません。英国はこの手の作品なら毎月作るぐらいの力があるかも知れません。劇場よりテレビ向きかも知れません。

規模という視点から言うと、英国ですとウェールズやスコットランド、外国ですとアイルランドやカナダが作りそうなタイプの作品です。スカンジナビアの国々でも作れそうですが、その場合は画面の雰囲気がいくらか英語圏とは違うかも知れません。

内容という視点から見ると社会派の外見を持ち、よく見ると特定の宗教を槍玉に上げているので、その宗教に属する人たち、あるいはその宗教とちょうど反対側の別な宗派に属する人たちにとっては鬱憤晴らし、あるいはしかめ面という側面があります。なので、誰にでも好まれるとは言えません。無宗教だったり、宗教に無関心な場合「またこのテーマかよ・・・」と愚痴がこぼれるかも知れません。

私がそれでもこの作品をわりと良く評価しているのは、結末に来るまでそういった事情を上手に隠してあるからです。

★ ジャンルを知らずに見た方がいい

結末をばらすわけではありませんが、ジャンルを先に知ってしまうとおもしろさが半減するかも知れません。ファンタのプログラムにはジャンルが書かれているので、ちょっと不利です。映画関係のサイトにもジャンルを載せている所が多いので、そういう意味ではこの作品はそういうメディアの習慣で迷惑をしているかも知れません。

私はこの作品をシャマラン監督のちょうど反対側に置きたいです。シャマランには何度も騙され、今でも最近の作品を見ようか、止めようか迷っています。「アルジェントとシャマランには騙されるなよ」と友達には警告を出したいぐらいです。

それに比べケヴォーキアン監督の作品は、終わりまで見るといくらか「なあんだ」という気がしないでもないですが、そこまで引っ張って行く方法が巧みです。佳作と言うのはそのためです。

★ ネタをばらさない程度のあらすじ

貧しい父子が失業者の多い地区の公営住宅に住んでいます。母親の姿は元からありませんが、親父さんはちゃんと子供の世話をしたらしく、子供はそれなりにきちんと育っていました。

長兄がマシューといい、かなり年の離れた弟がトム。小学校にも上がっていないかも知れないぐらいの年です。マシューはティーンのようですが、就職できるぐらいの年齢です。父親から躾られていて普段マシューがトムの面倒を見ています。

たまたまある夜マシューがパーティーをしていたので、トムは夜半家の前にあるブランコで1人遊んでいました。トムはそれっきり消えてしまいます。

捜査届が出され、警察は聞き込みをする一方、一応家族もチェック。しかしマシューから怪しい話が出るでもなく、父親が子供を虐待していた様子もありません。捜査は続きますが、一応のチェックが終わるとその後は頓挫状態です。

これまで貧しいなりにうまく行っていた家族ですが、かわいい盛りの末息子が消え、兄にそれなりの責任もあるため、父親は塞ぎ込んでしまいます。きちんと躾られていたマシューはその辺を自覚しており、自分を責める毎日。トムが消えた日を境に暗い家庭になってしまいます。そして父親は時にははっきり長兄を責めます。

このあたりの描写が非常に的確で、観客は監督の意図する方向に入って行きます。「貧しいながらも楽しい我が家」の描写も極端に走らず、「それなりにうまく行っていた」という現実的な表現です。

非現実的な事が始まるのはこういった経過でトムが死んだものと見なされ始めてからのことです。マシューが幻聴を聞くようになります。自分を責め過ぎてノイローゼに陥ったのだとの解釈が可能です。声の主はトム。自分でも頭がおかしくなり始めたのだと信じてみるものの、弟の声は依然として聞こえて来ます。親父さんに話しても、親父さんや他の人には声は聞こえません。マシューが狂い始めているのか、幽霊がマシューだけに話しかけてくるのか、どちらでしょう。

こういう時には必ず彼を信じてくれる女の子が登場します。それが隣に住むやはり貧しいエイミー。彼女は何かしら自分でも問題を抱えている様子ですが、マシューと話をするようになります。そして一緒にトムの謎を調べ始めます。

いくらか冷静さを取り戻してよく考えて見ると、消えた子供はトム1人ではありませんでした。親友サイモンの妹も消えている。近所をうろつく不良グループとの揉めたり、不思議な力を持っているらしい女性に助言を求めてみたり、迷いながら少しずつ本当の答に近づいて行きます。

★ 全体のバランス

霊媒が出て来たり、呪いがどうのという話もあり、最初は刑事事件か、その後事件関係者の心理描写かと思っていると徐々に幽霊話になって行き、その後「あれ、本題は幽霊じゃなかったのか」という風にテーマが動いて行きます。

しかし監督に無理やり振り回されるのでもなく、間の飛んだこじつけでもなく、柔らかな展開です。ちょっと距離を置いて考えるとかなりあっちへ、こっちへと展開が激しいのですが、見ていて急がされているという印象も無く、全体を90分台でまとめたのは佳作と呼ばれるにふさわしいです。

この作品を見たのはファンタ2日目。初日はオープニング作品1本ですので実質初日。ファンタの欄にも書いたように今年は前半ペケのつく作品が多く、その中では The Disappeared は出来のいい方です。

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