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Wes Anderson
2004 USA 119 Min. 劇映画
出演者
Bill Murray
(Steve Zissou - 深海研究者、深海映画製作者)
Seymour Cassel
(Esteban du Plantier - スティーヴの長年の親友)
Owen Wilson
(Ned Plimpton - ケンタッキーの副パイロット)
Cate Blanchett
(Jane Winslett-Richardson - ジャーナリスト、シングル・マザー候補者)
Anjelica Huston
(Eleanor Zissou - スティーヴの妻)
Willem Dafoe
(Klaus Daimler - ドイツ人クルー)
Jeff Goldblum
(Alistair Hennessey - スティーヴの昔からの知り合い、妻の元の恋人、出資者)
Michael Gambon
(Oseary Drakoulias)
Noah Taylor
(Vladimir Wolodarsky - ロシア人クルー)
Bud Cort (Bill Ubell)
Seu Jorge
(Pele dos Santos - ブラジル人クルー、歌を歌う)
Robyn Cohen
(Anne-Marie Sakowitz - クルー)
Waris Ahluwalia (Vikram Ray)
Niels Koizumi
(Bobby Ogata - 日本人クルー)
Pawel Wdowczak (Renzo Pietro)
Matthew Gray Gubler (研修生)
見た時期:2009年4月
ジーン・ハックマンの作品を先に見るつもりだったのですが、DVDが見つからなかったので、こちらを先に見ました。
ジャック・クストーと言えば私はまだ学校に行っていた時に、学校が映画の日を設けてくれて、全校で見に行ったように記憶しています。カラーの記録映画だったと思います。私には海に憧れる理由がいくつもあったのですが、夢かなわずすっかり諦めた後にこの映画を見たので、いくらか心が痛みました。自分ではやりたくて仕方の無い冒険を「危ないから」と止められたというような事情でした。
世の中には思いもよらない世界があることを知ってそれを「危ない・・・から止めておけ」と止める人種と、「おもしろい・・・からやってみよう」と思う人種があるようです。私には親が2人おり、「危ない・・・」ので簡単に乗ってしまわないように色々障害を儲けておいて、子供がその障害を全部乗り越えたら、その時点で許す親と、子供が心配なあまり「絶対にやらないように」止めてしまう親でした。それぞれ自分なりに子供の身を案じていたようですが、「自分がしっかり教育した」と自信があれば、子供もそれなりに自分の言った通りの注意を払い無茶はしないから、旅をさせても大丈夫」と思ったはずです。
と言うわけで半分ほど冒険が許され、半分は止められた状態で育ちました。水泳は止められた側に属します。そのため50メートル・プールをとにかく泳げるようになったのはベルリンに来てからでした。潜水は子供の頃からできたのですが、ちゃんとした水泳を習うことができず、40代に入ってからベルリンで大人のための水泳教室に行き、生まれて初めて50メートルを泳ぎました。その時のうれしかったことと言ったらありません。その後別な事情でまた泳ぎはだめになってしまいましたが、ほんの僅かの期間でもプールで自由に泳げたのは今でも思い出すだけでうれしい経験です。
小学校の頃から夢見ていた職業がジャック・クストーのクルーのような仕事でした。大きな影響を与えた2つの要素があります。1つは子供の頃テレビでやっていたビル船長という冒険ドラマ。刑事事件が海に絡んでビルという中年の船長とその娘が捜査に巻き込まれ、事件を解決するという筋でした。その頃からすでに推理小説が好きだったので、趣味にぴったり合いました。
もう1つは全国でも有名な潜水夫一家がいて、娘さんの1人が私の通っている学校にいたからです。国営放送の有名なクイズ番組に出演したので、彼女は全国に顔が知られるようになりました。元々テレビのおかげで潜水夫に憧れていた上に同じ学校にこういう人がいたので、憧れはますます強くなりました。
さらにその裏にはジュール・ヴェルヌの影響もあります。
しかし女の子がスポーツをやることに元々積極的でなかったので、親の1人は上手に関心を料理や手仕事にそらしてしまい、結局私はまともに平泳ぎもできないままでした。もう1人はその点ちょっとぐらいやらせてみようと思ったらしく、他の冒険のきっかけをいくつか作ってくれました。そのため私は近所の男の子たちと一緒になってせっせと冒険に励み、よく膝を擦りむいて家に帰ったものです。塀や木に登るのも大好きで、私が餓鬼大将だったこともあります。毛虫が頭の上から落ちて来るので、木に登るのも楽しい事ばかりではありませんでしたが。
というわけでかなわぬ夢だったのが、ジャック・クストーの深海の世界。そのクストーを揶揄した映画ができたというので、待っていました。無論私の子供時代の夢の世界の人なので揶揄してもらっては困るのですが、大人になってからクストーのそれまで表に出ていなかった生活も耳に入っていたので、まあ多少の事は仕方ないと思っていました。
私はクストー・オタクではないので、細部に渡っては知りませんでしたが、ライフ・アクアティックにはちょっとだけ知っている人にも「ああ、なるほど」と分かるシーンがいくつか出て来ます。極め付きは船の名前。ベラフォンテというのが映画に出て来るクストーの船の名前なのですが、実名はカリプソと言います。洒落のつもりなのでしょう。
船や潜水艦の様子は非常にレトロにしてあり、海の生物はおもちゃのようなアニメ。この辺は遊んでいます。私が見た記録映画の潜水艇の様子は、月へ向かうアポロのような印象で、当時としては超近代的だったように記憶しています。それがウォレス&グロミットの海洋版のようになっていて、わざと現実離れさせています。とは言っても今から40年、50年遡るのだと考えると、監督は以外とマジだったのかも知れません。
監督は主演の1人のオーウェン・ウィルソンの学生時代からの親友。そのためかウィルソンは重要な役を貰っています。本当の主演はビル・マーリーで、マーリーの嫌いな私も、この役は上手くはまっていると感じます。これまでで1番いいと思うのはロスト・イン・トランスレーションですが、ライフ・アクアティックも私の評価は高いです。
非常におかしいのはウィレム・ダフォー。ドイツ人のクルーということになっています。非常に子供っぽいのに結構な年という役で、船長のクストー自身がいい年をして、子供っぽいため妙な関係になっています。そこを2人の俳優はよく理解して演じています。ダフォーは本来はシリアス・ドラマの俳優ですが、たまにコメディーを演じることがあり、なかなか達者です。
ドイツ人がアメリカ人より楽しめるのは吹き替え。オリジナル版を見ると、ダフォーは概ねドイツ語のアクセントの強い英語を話していますが、時々忘れてしまうらしく、普通の英語に帰っています。ところがドイツ語版ではただドイツ語を話すだけではなく、シュヴァーベンという州の方言を非常に強く出しています。世界的に有名なフランスの深海探索のクルーに入っているドイツ人の中年男がシュヴァーベン訛を話すというところで笑いを取っています。シュヴァーベンというのは住民が非常にまじめで働き者という評判のある州で、ダフォーも昼夜を問わず船長のために身を粉にして働くので、良く合います。
他にも豪華な俳優陣が並ぶのですが、その割にはマーレイにおんぶしているようで、演技が秀でるということはありません。その分クルーがティームとして存在感を持ちます。そこへ時々味の薄い食事に使われる唐辛子か山葵のように顔を出すのがジェフ・ゴールドブルーム。訳すと金の花というきれいな名前の人ですが、マーレイやヒューストンと長年のいきさつがからむ男。
適度な間を置いて、長年の因縁、資金集めの苦労、最近死なれた親友のエピソードなどが入れ替わり出て来て、その結果モザイクの全体像は奇妙な人物クストーの絵になるという仕掛けです。
見始めた時私は疲れていてドイツ語がちゃんと理解できなかったのだろうと思い、翌朝見直しました。すると、前の晩に理解した(できなかった)通りの事を言っていました。クストーの周囲では話が噛み合わないのが普通だったのです。
映画関係ではアメリカとフランスは長い間静かに敵対関係にあり、アメリカ映画でフランス人が揶揄されることはちょくちょくあります。この作品もそれを狙ったのかは不明。時期的にはそういう解釈も合います。ただクストーという人物もかなりエキセントリックだったようですので、こういう描かれ方の理由の1つは本人にもあるでしょう。
★ あらすじ
というほどのものはありませんが、冒頭クストーとされるジスー船長の長年の親友が大型の鮫に食い殺されてしまい、船長が復讐を誓います。船長以下のクルーは海洋映画を作り、冒頭はその映画のプレミア。スポンサーを見つけ、金を引き出し、その金で撮影をし、売るという商売で、一年中船に乗っていられるのが本人やクルーに取って最高のようです。
プライベートな生活も全て船の仕事を中心に回るようで、妻とは別居中。ある日船長の前にネッドという青年が現われます。女にだらしの無い船長が孕ませた女性がいて、最近病死。その時に実父のことを聞かされ、父親を訪ねて来た様子。パイロットのネッドを船長はクルーに入れます。
さらにそこに海洋雑誌記者も加わり、クルーは船長の親友を殺した鮫を探しに出ます。物語をややこしくするためにダフォーもトラブルを起こします。一生を船長や船のために捧げ、大人になることを止めてしまった男。それをさらにややこしくするために海賊も登場し、あれこれ揉めます。
しかしそういった出来事は全て船長やクルー、関係者の描写をするための道具。観客が「変な人の集団」と理解すればそれで目的達成。
★ 監督の意図の通り
監督の思惑通り私は「変な人たち」という感覚を持ちました。めでたし。
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