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2010 Polen/Norwegen/Irland/Ungarn 83 Min. 劇映画
出演者
Vincent Gallo
(Mohammed - タリバンの抵抗者)
Emmanuelle Seigner
(Margaret - 欧州の唖の女性)
米兵役大勢
アフガニスタンの捕虜役大勢
欧州の木こり役数人
見た時期:2011年3月
なぜか1ヶ月も経ったのに被災した方はまだ大変な生活が続いているようです。まあ、原発は専門の知識を持った人と、専門の装備を持った人と、そういう所に動員されるだけの訓練を受けた人でないと手がつけられないので、その人たちに任せるしかありませんが、一般の被災者の方にはもう少し手際良く対応できるのではないかという気がしないでもありません。
これこれはこのぐらいの時間がかかるという話でもいいですし、時間の予想がつかなくても、例えば法律の変更、瓦礫の撤去、地質の測定、住宅建設の土地確保、都市計画、村計画を立てるなど、仕事の順番ぐらい示してもいいのではないかと思います。そうするとただ避難して待っているだけという状態から気持ちだけでも抜けられます。
あの大きな船をどうやって陸地から海に運ぶのか見当もつきませんが、漁師の人たちに国が新しい船をリースできないものか考えたりしています。10年ぐらいしたら、再生した漁業協同組合が中古の値段で買い取ってもいいですし、こんな場合なのでずっと国の所有にしておいてもいいですし。
・・・などと考える毎日です。
さて、映画の話ですが、ベニスの映画祭で監督、主演に賞が出ています。
普通ファンタにはあまりオスカーや、有名な国の映画祭で賞を貰うような作品は来ません。そういう賞はもっぱら問題作と言われる作品に与えられるもので、ファンタのようなエンターテイメント中心、そしてメジャー作品が少なく、B級作品がもてはやされるような所には、後光の差すような高貴な作品はあまり来ません。
Essential Killing はいい作品ではありますが、あまりファンタ的なジャンルではありません。どちらかと言えばベルリン映画祭なんかに向いていると思います。
★ ストーリー
非常に単純なストーリーです。ふと思い出したのは子供の時に読んだ、母をたずねて三千里。実は設定も、登場人物も、国も全然似ていません。それでもつい思い出した理由は、長い長い道のりを誰かを訪ねて苦労しながら旅をする主人公が出て来るからでしょう。
時は現代、場所はタリバンとアメリカ兵が戦うアフガニスタン。主人公のムハメッドは少年ではなく、アメリカ人に抵抗している中年のタリバン。たまたま3人のアメリカ兵と出くわし、3人を殺してしまったため、ヘリコプターの隊に追われ捕虜になってしまいます。どこかに護送され、暫くアメリカ人がやっていると言われている方法で拷問を受けます。ムハメッドは通訳がついても一言も語らず、観客には語らないのか、語れないのかが分かりません。オレンジ色の囚人服を着せられ、殴られたり、水攻めに遭った後、どこかへ改めて護送されて行きます。
そのさなか、雪の降る寒い土地で護送車の運転手が野生のイノシシに出くわし、車が崖から転がってしまいます。さほど大きな落差ではなかったので、ムハメッドは助かり、ドサクサに紛れて闇夜に消えます。時々別な米兵に出くわしたりして、襲うチャンスもあり、雪の中で目立つオレンジ色の服はいつの間にか闇に紛れるのに便利な黒い服になっており、白銀の雪の中、いつの間にか白い服に着替えています。つまりその服を着ていた人は殺されている・・・。
地図も無く、足には怪我をし、飢え、ただひたすら故郷を目指して進みます。自分が進んでいる方向がアフガニスタンを向いているのかも良く分かりません。現在彷徨っている場所は極寒のポーランドかロシアあたり。理論的には陸路アフガニスタンにたどり着くことは可能です。彼の生命力をして、運が良ければやり遂げるかも知れないと思わせます。しかし、彼の運はある形でちょっとだけ良く、全体的には悪かった・・・のです。
★ ガロのタリバン
人間の本質に迫ったり、戦争が人をどういう風に変えるかを描いたりしているので、高貴な賞に値する作品だと思います。なのでアハハと笑いに来たり、キャーっと叫びに来る人の多いファンタとしては異色の作品と言えます。なぜここに出したのかちょっと考えて見ましたが、理由は1つしか思いつきませんでした。主演がビンセント・ガロだから。普段のガロはファンタ大歓迎の作品に出ています。大抵は悪役。
今回のガロは観客全員の同情を集めると思います。全くのシリアス・ドラマで、殺人計画とか、陰謀とか、精神異常者が哀れな被害者を殺めるとかいう筋ではありません。祖国の妻の元に戻りたいタリバン男。描写ではタリバンの兵士かどうかも分かりません。もしかしたらただのアフガン人で、追いかけられたから米兵を殺したのかもしれません。その辺の事情や詳しく描写されていません。タリバンという言葉もマドラッサという言葉も今では悪の権化のように言われていますが、元々は単純名詞で《学生》、《学校》という意味。ですから本来は《学生》や《学校》の前か後に特定の関係者の名前でもつけないと、アラビア中の普通の学生、学校が悪いという話になってしまいます。尤もアフガニスタン、パキスタンの特定タリバンは現在では当初の目的からかなり外れており、今後もどの方向に行くのか見当がつきません。
ビンセント・ガロはシシリア系のアメリカ人で、確か青い目だったと思います。ですがモハメッドを演じるに当たってあまり大きな目のアップは無いので、うまくアフガン人に化けています。台詞も無いようなものなので、外国人が演じてもばれません。青い目は北アフリカなどのアラビア系の宗教の人には嫌がられる傾向があります。ガロはこの役でコンタクト・レンズを使ったのか、あるいはカメラで真正面から撮らないようにしたのかも知れません。ただ、本当のアフガン人にこの作品を見せたらどう反応するかは分かりません。10年以上前近所の市場でアフガン人留学がアルバイトをしていました。ちょくちょく行くので口をきくようになりましたが、ベルリンの他の学生と全く変わらない普通の青年で、イスラム教なのかも分かりませんでした。およそタリバンとは縁遠い感じの人でした。アフガン情勢が厳しくなったためなのか、単に学業が終わったからなのか、市場が不況で店が減ったからなのか、いつの間にか姿を見なくなりました。でなければ、彼の感想を聞いてみたいところです。
★ 出演者
モハメッドも含め、これと言った会話もストーリー上の引っかかりも無いので、強いて名前を挙げるとすれば、ガロとポランスキーの細君(エマニュエル・セニエ)ぐらい。彼女はたまたま自分の家の前を通りかかったモハメッドが怪我をしているので手当てをしてあげるだけです。そして白馬を貸してあげます。その親切が彼のために良かったかは議論の余地がありますが、彼女は良かれと思って思いやりを示し、モハメッドは感謝をしています。
他の出演者は上に書いたように、《その他大勢》です。
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