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2009 USA 112 Min. 劇映画
出演者
Jeff Bridges
(Bad Blake - 落ちぶれた歌手)
Paul Herman
(Jack Greene - バドのエージェント兼マネージャー)
James Keane (マネージャー)
Anna Felix (Barmaid)
Tom Bower (Bill Wilson)
Ryan Bingham
(Tony - ボーリング場出演のバックバンド)
Beth Grant (Jo Ann)
Rick Dial
(Wesley Barnes - バンドのキーボード)
Maggie Gyllenhaal (Jean Craddock)
Jack Nation
(Buddy Craddock - ジーンの息子)
Debrianna Mansini (Ann)
Jerry Handy (Cowboy)
Colin Farrell
(Tommy Sweet - ヒット・シンガー、元バドの弟子)
Ryil Adamson (Ralphie)
J. Michael Oliva (Bear)
David Manzanares (Nick)
Robert Duvall
(Wayne Kramer - バドの友人)
Chris Bentley
(レコード会社の重役)
見た時期:2011年9月
★ 元ネタ
トーマス・コッブの小説で、そのモデルにされたのはカントリー・シンガーのハンク・トンプソン。戦後すぐから2007年まで活躍した人物。ジョニー・キャッシュと似て、軍役を追えた後2つの大学に行き、その後歌手の仕事に入ります。ただしあちらは朝鮮戦争のようで、こちらは第二次世界大戦。キャピトル、ワーナー、ドットなど有名な会社からレコードを出しています。
トンプソンが最高潮だったのは1952年。ちょうどジョニー・キャッシュが軍役についた頃ではないかと思います。クレイジー・ハートの主人公は50歳代後半で、落ちぶれたドサ回り歌手ということになっています。トンプソンの実生活から計算すると1980年頃ということになります。映画ではもう少し後のように見えます。
クレイジー・ハートには出て来ませんが、トンプソンの死に際は見事です。2007年11月1日に巡業を打ち切り引退。2日後肺癌が急激な悪化を見せ、11月6日に他界。最後のコンサートは2007年10月8日。殆ど現役のまま82歳で亡くなりました。
82歳まで生きた男の57歳と言うと、まだ小僧っ子。モデルにしたとは言え、出来上がったのは小説ですから、どこまでがトンプソンの人生そのものだったのかは分かりません。この頃にある女性の助けを間接的に受け、アルコールから足を洗ったというのがクレイジー・ハートの骨子です。もしそういう女性が実在したのだとすると、彼の人生に大いに貢献したことになります。
★ ブリッジスも歌った
最近俳優が本格的な歌手にもなれるという例が増えています。基礎訓練を受けた欧米の俳優は歌、踊りも習うので、中にはそちらの方面の才能が発見されることもあります。しかし俳優業に専念し、歌手デビューをしてくれたり、歌の入ったサウンドトラックを出してくれる俳優はあまり多くありません。
歌の世界で賞まで取ってしまったのは先日ご紹介したジョニー・キャッシュを演じたフェニックス。私はカントリーは嫌いな方で、唯一好きなのはロックフォード氏の事件メモで時々登場する曲、唯一好きなバンドは CCR。そういう私ですから、カントリーの曲を口ずさむことはありませんが、それでもブリッジスの歌は上手いと思いました。
★ あらすじ
ジョニー・キャッシュやエルビスほどではありませんが、バドはカントリー & ウェスタンのヒット・シンガー。今では落ちぶれ、ドサ回りの身。エージェントが仕事を回してくれるので何とか家を1軒持ち、生活していけますが、芸能人としては苦しい生活。実は曲を書けばエージェントが上手く契約を手配してくれてお金になるのですが、バドは最近ずっと曲も書いていません。
彼の持つトラウマはキャッシュほどではありませんが、成人した息子と家族としての繋がりが無いことが現在の人生に影を落としています。家庭が崩壊したのはどうやら自身の女性問題。ウォーク・ザ・ライン/君につづく道でも分かるように、巡業の多い歌手の家族に本気で防衛するつもりが無いと簡単に家庭崩壊に至ってしまいます。巡業に家族がついて回ると女性問題は解決できるかも知れませんが、子供が落ち着いて学校に行くことができず、別な心配事を抱え込むことになります。入るお金が多い分、トラブルも大変です。
というわけでバドの家庭は崩壊しており、現在は独り身。ボーリング場の片隅で演奏して、過去の栄光を知っている人や、単にコンサートがあるから見に来る人に囲まれてもあまりうれしそうではありません。打ち合わせをしようとバンドが言っても、お酒を飲む方が重要で、いい加減なパーフォーマンス。自堕落な生活を送っています。
そんな彼でも古い友達やなじみがいて、ある日、老ピアニストが自分の姪のジーンのインタビューを受けてくれと言い出します。快諾したら、彼女が突然彼の泊まっているモーテルにやって来ます。雑誌に記事を送るジャーナリストで、シングル・マザー。お互い憎からずということで関係が近くなります。
バドを深く理解を示してくれるため、徐々に彼は自分の生活を改め始めます。しかし結婚してくれるほど近くには届きません。ジーンの家庭に息子の父親の代わりとして入り、幼い息子から慕われますが、彼女は結婚は考えません。紆余曲折、失敗も経験し、バドは長年の友人に勧められアルコールと手を切る決心をします。取り合えず成功して、ジーンにもう1度接近しますが、彼女の考えは変わりません。
バドとジーンの関係を軸に、トミーというヒット・シンガーのエピソードが重なります。トミーはかつてはバドのバック・バンドにいて、言わばバドの弟子でした。レコード会社が新人として彼を売り出し、バドのキャリアが下を向く一方でトミーのキャリアが上を向き、現在では大スター。マネージャーはバドにトミーの前座という仕事を勧めますが、バドはこれまで断わっていました。あれこれあって、結局引き受け、2人は再会。
レコード界では契約、金儲けが友情や尊敬の気持ちを壊してしまうことが多々ありますが、トミーはちょうど今スランプ。名前ばかりが先行して、自分が心からいいと思える音楽になっていないことを自覚しています。ヒットは飛ばしていても、内心では困っていました。そこへバドとの再会。
トミーは上下関係の厳しい芸能界では普通考えられないのですが、前座のバドのステージに飛び込み出演し、デュエットをします。観客はトミー目当てで来ており、バドなど知らないファンもいますが、このパーフォーマンスは大受け。バドは楽屋でやや戸惑い気味。トミーの好意を感じる一方、施しを受けたような気持ちも混じります。
ところがトミーはヒットを飛ばしていても内情は・・・と率直にバドに語り、自分のために曲を書いてくれないかと言い出します。この話はゆっくりと実現に向かいます。
ジーンは結局バドと結婚せず、別れます。しかしジーンの勧めで自分の息子に電話をかけ、息子からはっきり「自分を見捨てた」と言われ、現実に直面したことが良いきっかけになり、吹っ切れます。アルコールを止めるきっかけも元はジーンに嫌われたくないから。というわけでジーンはバドに良い影響を与えます。
暫くして再会した2人。ジーンは他の人と結婚。それを怒ることなくじっと聞くバド。
★ 無理なハッピーエンドではない
この作品では1度破綻した生活を《大き過ぎない目標を立てて立て直すバド》が描かれています。普通最後バドが大成功とか、ジーンと結婚して幸せにとか、ありきたりであまり現実的でない結末になりますが、ここでは誰もがちょっと傷つき、ちょっと慰められ、足元がしっかりし始めて少し前に向かって歩き始めるという終わり方をします。恐らくはブリッジズの好みに合っているでしょう。
★ ブリッジズとファレル
ファレルが吹き替えたかは確認できていませんが、ブリッジズは本当に歌ったようです。私はクレイジー・ハートを見る前にブリッジズがバンドと一緒にあるトークショーのゲスト出演をしてい1曲歌うのを見ていました。そちらもカントリーですが、このジャンルとしては様になっています。
映画の中でも本当に歌ったらしく、聞いているとフェニックスの曲よりゆったりしていて聞き易いです。ギターも本当に弾いています。ブリッジズは有名な俳優の息子で、兄も俳優。恐らくは芸能界、家庭の修羅場も見たでしょうが、趣味が多く、映画で賞を逃してもあまり気にしていない様子。クレイジー・ハートでは大きな賞を手にしています。
ファレルは武勇伝の多い人で、色々な事件に巻き込まれています。1番私の印象に残っているのはアンジェリーナ・ジョリーとの関係。ジョリーはエキセントリックな行動で有名ですが、その彼女も呆れる酒豪がファレル。暴飲に近い勢いで強いお酒を飲むため、ジョリーが呆れて逃げ出したというエピソードがあります。
ただ、アイルランド人、英国人の酒量は大陸側の欧州人も驚くぐらい多く、一種の伝統とも言えるので、ファレルはお酒に強いアイルランド人の常識をちょっと外れたぐらいで、それほど凄い外れ方ではないのかも知れません。クレイジー・ハートでは焦点はファレルでなく、大酒飲みのブリッジズという設定です。
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