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ウォーク・ザ・ライン/君につづく道 /
Walk the Line /
Johnny & June - Pasión y locura /
En la cuerda floja /
Johnny & June /
Quando l'amore brucia l'anima

James Mangold

200 Min. 劇映画

出演者

Joaquin Phoenix
(John R. Cash - カントリー歌手)

Ridge Canipe
(John R. Cash、子供時代)

Lucas Till
(Jack Cash - ジョンの兄)

Robert Patrick
(Ray Cash - ジョンの父親)

Shelby Lynne
(Carrie Cash - ジョンの母親)

Ginnifer Goodwin
(Vivian Cash - ジョンの妻)

Hailey Anne Nelson
(Rosanne Cash - ジョンの娘)

Kerris Dorsey
(Kathy Cash)

Delaney Keefe
(Cindy Cash)

Wyatt Entrekin
(Tommy Cash - 子供時代)

Cody Hanford
(Tommy Cash、子供時代)

McGhee Monteith
(Reba Cash)

Carly Nahon
(Reba Cash、子供時代)

Reese Witherspoon
(June Carter - 1927年から続く音楽一家の歌手)

Sandra Ellis Lafferty
(Maybelle Carter - ジューンの母親、歌手)

Dan Beene
(Ezra Carter - ジューンの父親)

Victoria Hester
(Carlene Carter - ジューンの娘)

Dan John Miller
(Luther Perkins - キャッシュのバンドのギタリスト)

Tracee Mae Miller
(Birdie Perkins)

Larry Bagby
(Marshall Grant - キャッシュのバンドのベーシスト)

Brittany Shaw
(Etta Grant)

Shooter Jennings
(Waylon Jennings - キャッシュのバンドのギタリスト)

Clay Steakley
(W.S. Holland - キャッシュのバンドのドラマー)

Dallas Roberts
(Sam Phillips - 有名なレコード・プロデューサー)

Waylon Payne
(Jerry Lee Lewis - 売れっ子歌手)

Tyler Hilton
(Elvis Presley - 売り出し中の歌手)

Johnathan Rice
(Roy Orbison - 売れっ子歌手)

Johnny Holiday
(Carl Perkins - ロカビリー歌手)

J.W. Williams
(ドラッグの売人)

Shane Bowen
(ジョンのエージェント)

R. Elkins Wright
(Randy - ジョンの友人)

John Carter Cash (Bob Neal)

見た時期:2011年9月

偶然ですが暫く音楽の話題が続きます。

★ かつての黒子

最近オスカーを取るほどの俳優が本職の歌手と競合できるような歌声を聞かせてくれるようになり、うれしい限りです。

かつてはオードリー・ヘップバーン、ナタリー・ウッド、デボラ・カーなど大スターがミュージカルに出演し、自分で歌わないことがありました。当時の俳優は基礎教育が良くできてはいましたので、踊りが上手かったりしましたが、歌だけは苦手な人、あるいは監督の目には不十分に映る人がおり、歌の部分だけ吹き替えが行われていました。もちろん秘密にされていたので、実際に歌った人はクレジットされませんでした。

特に有名なゴースト・シンガーはマーニー・ニクソンと言います。マイ・フェア・レディーウエスト・サイド物語王様と私めぐり逢いなどで主演の吹き替え担当しました。無名のままでは気の毒だというので、ジュリー・アンドリュースがサウンド・オブ・ミュージックで彼女の顔が出るようにしたそうです。役は年配の尼僧。

ジュリー・アンドリュースは舞台でマイ・フェア・レディーの主演を務めた人で、舞台では無論自分で歌っていました。当然映画化でも主演と思っていたようなのですが、映画会社はオードリー・ヘップバーンを起用。ヘップバーンの歌があまり強力でなかったため吹き替えられました。ヘップバーンの地声はニクソンよりやや低めだったそうです。

マイ・フェア・レディーは表舞台に出る女優では英国人同士の戦いになり、声では英米の戦いになるというややこしいことになりました。アンドリュースが主演したことで有名なメリー・ポピンズは言わばマイ・フェア・レディーを外されたアンドリュースへの謝罪代わりに作られた作品で、同じくアンドリュースの当たり役サウンド・オブ・ミュージックで彼女はニクソンを表に出すように尽力。つまりはマイ・フェア・レディーでヘップバーンの声の代役を務めていた人をアンドリュースがサウンド・オブ・ミュージックで公表したことになります。舞台裏の戦いは熾烈です。

ドリス・デイのように元々楽団の専属歌手であるとか、コニー・スティーヴンスのように音楽一家に生まれるなど歌が本業の人を映画界に連れて来れば、吹き替えなど面倒な話は出なかったでしょう。

★ 最近の黒子

最近の俳優の基礎教育でも歌は欠かせない科目らしく、ロバート・デニーロを始め皆しっかり勉強しているようです。デニーロは「せっかく勉強しても発表する場が無い」と冗談を言いながら、ミュージカルに夢中な頭のおかしいマフィアを演じたことがあります。

近年の映画界はフェアになり、吹き替えをしたかどうか、した場合は誰が代わったかを発表するようになりました。例えばデュエットでは重要な役で出ている俳優で、歌手出身でない人がすばらしい喉を聞かせてくれています。歌の世界から来た主演、俳優業に専念して吹き替えを頼んでいる助演などが混ざった作品です。

★ もっと簡単な方法

吹き替えをしてクレジットに書いたりせず、俳優が元から自分で歌えば話はもっと簡単。最近はそういう作品が増えています。その1つがカントリー・シンガーのジョニー・キャッシュとジューン・カーターの伝記。2人とも自分で歌い、楽器も練習したそうです。

★ アメリカの演歌

カントリーは苦手で、私が好きなのはクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルぐらい。一まとめにカントリーと言っても色々な音楽が混ざっているので中にはいい曲もあるのかも知れませんが、私はどちらかと言えば R&B やソウルの方が好きです。

カントリーはアメリカの白人の出身地である欧州の伝統音楽に黒人が教会の音楽から発展させたゴスペル、ブルース、R&B をミックスさせたので、50年代以降のアメリカ人の多くが「自分たちの音楽だ」と感じられるようになって行きます。モダン・ジャズのような気取りも無く、クラシックのように「貧乏人はダメよ」という印象も作り出さず、庶民的に誰にでも手の届く音楽になりました。白人の方が大々的にやっていて、黒人のミュージッシャンは少ないですが、音楽自体には黒人の功績がたくさん加わっています。

人種差別のきつい南部の方がカントリーは盛んですが、音楽の世界では双方とも「これは白人/黒人の音楽/楽器だからダメ」と言わず、良さそうだとなるとどんどん取り入れて行きます。私はあまり身を入れて聞いたことはないのですが、ベルリンの通りで行われるお祭りの舞台ではちょくちょくカントリーをやっています。ドイツ人に取っては欧州人がアメリカに移住する前の音楽と頭の中で結びつくのかも知れません。ビール祭りでミュンヘンなどに行くと、カントリーかと思うような曲が流れて来ることがあります。

カントリー文化にはアジア人の血は全く流れていないのですが、カントリーは言わば日本で例えると演歌のようなもので、広く親しまれています。

★ あらすじ

ウォーク・ザ・ライン/君につづく道のジョニー・キャッシュは子供時代から後に有名になった刑務所でのコンサートまで、ジューン・カーターはキャッシュが地方のドサ周りをする頃から結婚を申し込まれるまでが描かれます。

冒頭はこれから刑務所でコンサートをするというシーン。そこから子供時代の回想シーンへ直結。そこからは時間軸に沿って家族、バンド、コンサート、私生活の問題などが描かれて行きます。

キャッシュがカーターとの結婚にこぎつけてからは、数行の文字による説明と写真で、老齢、病気で死亡などとなり、一応ハッピーエンド。しかし暗い後味で終わります。

★ 伝記映画

伝記映画を作る時は、見終わって観客が主人公について理解を深め、少し共感するように作ることが多いですが、この作品を見るとジョニー・キャッシュに関しては印象が悪くなります。話が終わるところがキャッシュの人生の何度目かの転機に当たり、その後の彼の人生は初めて一定の落ち着きを持つようになります。

ところが映画は彼の生い立ちから最悪の状態に至るところが4分の3ぐらいの比重を持ち、最後のところで周囲の強力なサポートで持ち直し、結婚にこぎつけ終わり。後の人生は何行かの文字で出るだけです。

何じゃこれはと思い、一日考えてみて、リース・ウィザースプーンにオスカーを取らせるためのプロジェクトだったという結論に至りました。

★ 得な役を貰ったウィザースプーン

私は一応ウィザースプーンのファン。大ブレークする前に出ていた作品にはおもしろいものがありました。

彼女が演じるのはウォーク・ザ・ライン/君につづく道の最後でジョニー・キャッシュの妻になる女性。ジューンは自分の力量をよく理解していて、その時その時の現状に満足のできる女性。自分自身を良くコントロールでき、家族関係も比較的良好。いつも幸せなわけではありませんが、自分の人生の幸せな部分が自分で見える人です。そのため家族の助言も尊重し、自分の気持ちも分かっており、自制の利く人です。なのでアンフェタミンとお酒が放せない男とは距離を保ちたがります。

他方、才能のある人を認めることのできる人で、姉の方が歌が上手いとか、キャッシュには才能があるなど、嫉妬をせず見極められます。感心な人物で、それを演じるのがウィザースプーン。私生活の離婚がこの作品の撮影と微妙に重なっているようです。

★ 私生活で釣る必要があるか

私生活と言えば、キャッシュを演じるフェニックスも兄を無くした人物。お兄さんの死には謎が付きまとい、後になってもあれこれ言われることがありました。

フェニックス家は元はボトム家といい、両親、子供揃って妙な宗教団体にいました。親子揃ってこれはまずいと気づいて脱退、名前もフェニックスに変えてやり直し。元々は生活苦から始めた芸能生活が上手く行き、兄はオスカー候補にもなります。外国の有名な賞も受賞。

ところがジョニー・キャッシュではありませんが、ホアキンの兄が突然死亡。死因はドラッグの過剰摂取と言われています。ウォーク・ザ・ライン/君につづく道とは逆に、ホアキンは兄が死にそうな時現場に居合わせ、救急にもちゃんと連絡を入れています。ホアキンはその2年後に映画で成功し始めます。亡き兄の跡を継ぐように何度か大きな賞にノミネートされています。ノミネートが多く、受賞は少ないですが、ウォーク・ザ・ライン/君につづく道では珍しく歌で受賞しています。

★ 歌の上手さ

ビミョーに本人のストーリーがちらつくキャスティングですが、この作品の売りはそこではなく、俳優が本当に歌うところ。私はキャッシュのファンではありませんが、フェニックスは確かに似ています。ただ、私が見たことのあるキャッシュに比べステージで薬の影響が強めてあるように思えました。キャッシュは夥しい数のステージをこなした人なので実際フェニックスが演じたようにラリっていることがあったのか、あるいはあそこまで酷くなかったのか、私はカントリー & ウェスタンの世界はほとんど知らないので何とも言えません。

私の耳には俳優が歌ったにしてはウィザースプーンの方が上手に聞こえました。とても澄んだ声で、歌い方はカントリーなのでドリー・パートンなどとも似ています。声はパートンよりも、本物のカーターよりもきれいだという印象。元々俳優の基礎訓練で歌もやっていたのか、役作りで気合を入れたのか分かりませんが、非常に達者な歌い方で、役どころと良く合っています。

役柄もキャッシュより好感が持てる、歌もフェニックスより上手いということで、フェニックスが割を食ったと言えなくもありません。まあ、フェニックスにグラミー賞が来たので、大きな慰めにはなるでしょう。

★ 子供の頃の躓き

家の中では厳しい父親の元、出来のいい期待された兄と、父親から出来が悪いと思われているジョン。 しかし兄は弟思いで、2人はとても仲が良かったです。ところが兄が作業中の事故で死亡。父親から責任の一部が弟ジョンにあるような言い方をされてしまいます。実は作業が危険なので弟は兄を心配していたのですが、兄が大丈夫だと言って、弟を遊びに行かせた直後の事故でした。

あまり口が立たず、言い訳もしない性格のジョンに、父親から非難轟々。親子関係はこれで決定的に悪くなってしまいます。加えて大好きだった兄が死んでしまったこともあり、ジョンの性格は暗くなってしまいます。心理学的な理解を示す人のいない時代、男はこれこれでなければという縛りの多い時代。キャッシュはここで躓いてしまいます。

★ キャッシュの最初の結婚

ヴィヴィアン夫人とは歌手になる前に結婚し、子供もいました。ヒット歌手の妻としてはヴィヴィアンは失格ですが、彼女が悪いのではありません。ヴィヴィアンはヒット歌手と結婚したのではなく、軍役が終わればサラリーマンかセールスマンになるだろうとか、父親の仕事を手伝ってくれればなどとごく普通の希望を持っていました。ですから思い込みの激しい熱狂的なティーンの女性ファンがセックスを匂わせるファンレターを山のように送って来るとは思っていませんでした。キャッシュ自身はあまりそういう手紙を気にしていなかったのですが、夫人は落ち着きません。

結婚後始めたセールスマンの仕事は引っ込み思案のジョンでは上手く行かず、妻からは子供を抱えてどうするつもりなのだとガミガミ言われます。しかし友達と組んだバンドを強引にレコード会社に売り込み、契約にこぎつけます。その後のキャッシュ夫妻はお金の心配はほとんどなくなります。

ヴィヴィアンも歌手のジューン・カーターも当時の女性としては特に落ち度が無いばかりではなく、普通の常識を持った女性。それに対しジョニー・キャッシュは兄の死後性格のどこかが故障中。

★ キャッシュと酒、ドラッグ

歌手の中には大酒飲みで有名な人が時々いますが、映画を見終わってキャッシュも際限なくアルコール漬けになっていたのかと納得。地方巡業が多く家族と離れて長期間旅行をする上、寝食は常に仲間内でということなので、自然と暇つぶしにアルコールに手が行ってしまう様子が描かれています。キャッシュはそれほど舞台恐怖症に描かれていませんでしたが、中には大スターになっても観客の前に出ることに恐怖心を持つ人もいるので、この商売でアルコールに走る人は時々いるようです。

レイ・チャールズは同じ頃誰かにそそのかされて麻薬に走り捕まったことがありますが、キャッシュにもアンフェタミンを薦めた人がいます。何とエルビス。当のエルビスはどうもステージの前上がるらしいです。しかしキャッシュはやがて薬を常用するようになり、それが理由でカーターから嫌われます。

エルビスがドラッグが原因で若くして死んだのは自分が招いた災いとも言えますが、キャッシュにも多大な迷惑をかけていたことになります。キャッシュは人生の何割かドラッグに溺れ、何割かそれと戦い、白髪の老人になるまでとにかく行き続け、歌い続けることができました。周囲にどういう人がいたかで随分人生が変わるものです。

カーターが距離を置きたがったことがキャッシュのドラッグ摂取を増やしたという話もありますが、それは言い方が間違っています。「ドラッグはダメ」と考える人に嫌われたからドラッグを増やす、「断わった人のせいだ」というのは世間では通らない中毒者の理屈。

しかしアホキャッシュはカーターがある日彼の錠剤を捨ててしまったため国境を越え、メキシコで調達。それを持って戻ったところをお縄。自業自得です。

★ 両方の女性から嫌われるキャッシュ

芸能界と縁の無い正妻のヴィヴィアンとの間は全然上手く行かず、大邸宅を買ってやっても喜んでくれません。ついに別居。

一方ドラッグが大嫌いなカーターからもノーと言われ、キャッシュはますますお酒とドラッグに突入。コンサートをめちゃくちゃにしてしまい、巡業は中止。お金も尽き、光熱費から電話まで止まり、カーターと仲直りを試みるために徒歩で遠い所から訪問。それでもノーと言われ、やけくそ。フラフラになりながらまた徒歩で帰路に。道中ぶっ倒れて、翌朝目を覚ましたら、木造のすばらしい家が目に入ります。

★ 家が気に入ったキャッシュ

どうやってお金を調達したのか分かりませんが、キャッシュはその家に住み始め、方向転換。自堕落な生活を止め、刑務所から来たファンレターに目をやります。そしてかつて曲作りでテーマにしたことのある刑務所を訪問し、そこでコンサートをやろうと思いつきます。周囲はどちらかと言えば反対ですが、案はどうにか通ります。

ドラッグを完全に止めていなかった彼は新居に両親を招待しますが、招く側としてそれらしい準備は無し。ジューンの一家が食料を持って助っ人に来て、両家の家族が知り合います。しかしジョンと父親が喧嘩になり、子供の頃の兄の死のことで父親から再びなじられます。

争いがきっかけで、ジューンはジョンの問題の核心を知るに至り、ジョンは父親と直接ぶつかったことで、次のステップに進み始めます。仲直りした J と J は再びステージで活躍し始めますが、ジューンは結婚には同意しません。

★ カーター家がジョンを守った

自分の父親と揉めた日、ジューンはもう1度「ドラッグはダメだ」と念を押します。彼女は「あの人、私がいないとだめなのよ」という風に考えるタイプではないので、心を鬼にしてジョンを去ることもできたでしょうが、自分の母親から「助けてあげなさい」風に言われてしまい、ようやくキャッシュの世話をすることに同意。

この後がユニークです。

当然ながら、ジョンが自分の娘と仲良くするなら、カーター家はジョンのドラッグ癖は容認できません。なので一家揃ってジョンの錠剤を捨ててしまい、ジョンが家にいる間見張っていて、売人がドラッグを配達してきた時にはショットガンで脅かして追い返してしまいます。禁断症状の間家族でジョンを見張っていて、どうやらドラッグ抜きに成功した様子。

★ 卑怯なプロポーズ

後味を悪くしたのは最後のシーン。頑としてプロポーズを断わり続けるジューンに業を煮やして、ジョンはある日、ステージの上、観客の前でプロポーズを強行。断わり切れずにジューンは承知します。これは映画の演出ではなく実話。

彼女がずっとジョンを拒み続けていたのは彼女が賢いから。ジョンが彼女にしがみつくのは、彼女を自分の生活の監視人にしたいからだと見抜いているからでしょう。その上、ジョンに関わり続けると彼女自身の生活がなくなってしまいます。ジョンは彼女の気を引くために良い事をするのではなく、負の行動が多い人。そこも彼女に見抜かれている様子。

なので、見ていて彼女が拒むのは賢明に見え、最後に承知した時は本当なら「何でやねん」と言いたかったですが、2人が結婚したことは知っていたので、「仕方ない」と思い直しました。ただ、こんなずるい手を使ったとは知りませんでした。キャッシュの生活はその後あまり大きな問題も無く進んだようですが、近くにいる人は大変だったと思います。

★ カーター一家の功績

この2人を救ったのはカーター一家でしょう。姉妹の間で歌の上手さに違いがあり、ジューンはどちらかと言えばピエロの役回りを引き受けて舞台を持たせていました。しかし実際の彼女のキャリアを見てみると、適度にメンバーを変えながらカーター一家は常に舞台に立っており、両親が娘たちをサポートする一方、ソロ・アルバムを出すチャンスもあり、適度な間隔を置いて皆がそれぞれ満足できるような活動をしていたようです。そこへ飛び込んで来たのが問題児キャッシュ。ジューン1人では大変だったと思われますが、周囲が支えていたら上手く行くでしょう。

エルビスと差がついたのは、金の亡者がスターの周囲をうろつきまわり、本人が予定と違う事をやると言い出すとあれこれ手を打つ人に囲まれていたエルビスに対し、キャッシュはカーター家に婿入りしたような立場で、家族揃って長期的にやって行こうという路線を取った点ではないかと思われます。子供も連れ子、2人の間に生まれた子供を合わせて結構な数になっています。うち1人の名前をクレジットで発見しました。父親とも映画によれば1度大喧嘩をしているので、それが良かったのかも知れません。

優等生ジューンが劣等性ジョンを救う話になっていて、カーター家のサポートは画面では出るものの、ストーリーの中では強調されていません。しかし1日頭を冷やしてから考えると、こういう家族のサポートをチョキチョキと鋏で片っ端から切って行った、60年代、70年代という時代を乗り越え、2003年まで生きたキャッシュ。しかしジューンが死んで数ヶ月で自分も死んでしまったことを考えると、何かに依存する性格は変わらなかったように思えます。依存されてしまったジューンは大変だったと思いますが、ドラッグやお酒は人生を破壊、キャッシュのようにジューンに依存すれば、運が良ければ仕事で発展。幸運なキャッシュの物語でした。

★ 賞は来れど

ウィザースプーンもフェニックスも色々な賞にノミネートされ、俳優業では大成功でしたが、私にはこの役がウィザースプーンにぴったりとは思えませんでした。過去に犯罪映画に出ていましたが、ああいうフィルム・ノワールでブロンドの女性を演じる方が魅力的です。フェニックスもちょっと間抜けな、悪い男に引っかかってしまうコメディーの方が良さが出ていました。ウィザースプーンはロマンチックなコメディーのオファーが一時山積みになり、メグ・ライアンの後を継いだようでしたが、ああいうコメディーも彼女向きではありません。今後どの路線で行くのでしょう。

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