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インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実 /
Inside Job

Charles Ferguson

2010 USA 120 Min. ドキュメンタリー

出演者

Matt Damon (ナレーション)

本人出演 / アーカイブ映像

Sigridur Benediktsdottir
(アイスランドの経済学者)

Willem Buiter
(元金融関係者、後に経済関係の著述と講師、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、アイスランドの銀行問題についての論文の著者)

Christine Lagarde
(フランス経済・財政・産業大臣)

Dominique Strauss-Kahn
(国際通貨基金(IMF)専務理事 (2007-2011)、フランス経済・財政相)

Lee Hsien Loong
(シンガポール首相)

William Ackman
(ヘッジ・ファンド Pershing Square Capital Management の創立者、最高責任者)

Andrew Lo
(経済学教授、ヘッジファンド、金融工学専門家)

Frederic Mishkin
(連邦準備制度理事会のメンバー (2006-2008)、経済学教授)

Eliot Spitzer
(第63代ニューヨーク州司法長官)

Paul Volcker
(大統領経済回復諮問委員会委員長 (2009-2011)、第12代 アメリカ連邦準備制度理事会議長 (1979-1987)、ニューヨーク連邦準備銀行総裁 (1975-1979))

Ben Bernanke
(第14代連邦準備制度議長、第23代大統領経済諮問委員会委員長)

Timothy Geithner
(第75代米国財務長官、第9代ニューヨーク連邦準備銀行総裁)

Alan Greenspan
(第13代連邦準備制度議長、第10代大統領経済諮問委員会委員長)

Henry Waxman
(米下院民主党議員、政府監督改革委員会議長)

Gillian Tett
(英国人経済ジャーナリスト、ファイナンシャル・タイムズ他)

Ann Curry
(ジャーナリスト、ニュース番組のアンカー)

George W. Bush
(第43代米国大統領)

Barack Obama
(第44代米国大統領)

Daniel Alpert
Jonathan Alpert
John Campbell
Satyajit Das
Jerome Fons
Barney Frank
Scott Talbott

見た時期:2011年9月

★ ドキュメンタリー・ホラー

久しぶりに見たドキュメンタリー作品です。カメラが良く、非常に絵になるシーンの多い作品です。

内容はその辺のゲバルト・ポルノをはるかに凌ぐホラー。

経済関係のニュースを追っている人には、有名人がぞろぞろ出て来るので楽しいかも知れません。私もラジオや活字で知っていた人がインタビューに答えているので、よくここまで揃えたなあと感心しました。

注: 時たまポルノという言葉を使いますが、ドイツでポルノと言うとセックスの映画や雑誌という意味ではなく、目的と手段が逆転して、セックス・シーンを見せるために取ってつけたようなストーリーを考え出すような時に使います。しっかりしたストーリーが先にあって、その一部がセックス・シーンという場合の逆です。

同じような意味で、ストーリーの成り行き上暴力が出て来るのではなく、何でもいいからひどい暴力を見せたい人が映画を作ると、暴力(ゲバルト)ポルノと呼ばれます。

★ 逃げ

冒頭に但し書きがあり、「この映画はインタビューに出て来る意見を代表するものではありません」と断わってあります。それを見て「あれれ?」と思ったのですが、見終わって納得。ガス抜きが狙いなのか、アメリカ政治の一角が持つ意見に従った方向性なのか、いずれにしろ、お薦めは、各人の意見の周囲に見える客観的な出来事を参考にすること、あるいは「こういう職業の人がこういう事を言っている」という受け取り方をすること。「この人がこう言っているから」といってすぐご自分の意見を変えない方がいいです。まだ意見が無い方は、当分この話だけを鵜呑みにしないで、他の話も聞いてから意見を作って下さい。

★ アイスランドの悪夢

この作品は「半ば詐欺のようにして国民の金を吸い取って、破産者を大量に作り出したのはけしからん」という方針で作られています。私には無縁でないアイスランドがどういう目に遭ったかが冒頭に示され、天国のように美しい国の地獄が描き出されます。画面が美しいだけに悲惨さが際立ちます。日本の一部の人もアイスランドが一時期到達したこういう世界を夢見ていたのかも知れません。

ただ大分前からアイスランドの状況をアイスランド人から聞きかじっていた私は、潤沢な失業保険、生活保護、子供手当てを貰う生活には懐疑的でした。欧州の国々、ドイツにも贅沢な社会保険を好む傾向があります。しかし私はまさかアイスランドがああいうクラッシュを経験するとは思っていませんでした。そこへ火山の爆発。

福島という経験をした日本人には人事(ひとごと)ではありません。日本も長い間の不況で、別な形で経済は困難に瀕していました。アイスランドは一瞬でクラッシュ、日本は長い時間をかけてじわじわ地盤沈下という差があるだけ。そこへ東北大震災がアイスランドの火山噴火のように突然到来。そして放射能の問題を抱えました。順序や形が多少違っても、奥では何かしら似たような災厄に見えます。私は火山噴火の前既にアイスランドについてはかなり気にしていました。

そんな私に現状をまとめて知らせてくれたのがインサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実の冒頭部分です。きれいな家々が並び、近代的な建物の銀行が映り、この国の経済が破綻しているとは俄かに信じ難いです。楽しい夢に続いてアイスランド人はまるで悪夢も見続けなければ行けないかのようです。

注: そして、アイスランドにはもう一度大規模火山爆発があると研究者の間で言われているため、国を挙げて対策に取り組んでいるところです。日本にも今後数年間何度か大きな地震の危険があると言われていて(東北の余震)、国内にはそれを気にして対策をと言う人も現われています。

しょっちゅう「大変だ、大変だ」と言って人を恐怖に陥れる作戦なのかもしれませんが、アイスランドや日本のように本当に何か起きる国では、「今が大変だ」ということ以外に常に背景で次の天災に備えた方がいいという点は共通しています。

現在 EU では金融危機の話が盛んで、アイスランドの警告には耳を貸さないメディアがほとんどですが、アイスランドはわが道を行くと決めたようで、国民の大規模避難作戦を練っているところだそうです。日本も警察や消防がいつでもあるように、災害準備局でも作って、政争とは無関係なところで常に備えてはどうかと思います。

★ インタビュー集

その後はだ〜っとインタビューの連続です。

数章に分かれていて、ヘッジファンド、金融機関を指導する省庁、調査委員会、経済学を教えるエリート大学、心理学者、ジャーナリスト、金持ちの所有している不動産や飛行機、そしてハゲタカファンドに売春婦とコカインを供給する様子まで扱われます。犠牲者の様子もチラッと出て来ますが、この作品の主要目的は《被害者がどういう目に遭って泣いているか》ではなく、《加害者がどういう事をやったかを仕組みを見せながら紹介すること》です。その点焦点はぼけません。

加害者側に立つ人の考え方をまともに聞いていると胸糞が悪くなるか、ヒステリーを起こしますから、一歩下がって見てください。私は元々賭け金を持っていなかったので、このゲームに参加せず、そのため失うも物もありませんでしたが、この人たちがやったのはまさにラス・ベガスのギャンブルと同じです。皆さんが「なら、ラス・ベガスで自分の金を賭けてやってくれよ」と言いたくなったとしたら、そういう考え方が健康なのではと思います。この人たちが誰のお金で遊んだかを考えるともう・・・。

実質的なきっかけを作ったのはベルリンの壁ではないかと見終わって思いましたが、その辺は触れていません。ベルリンはその中心地だったので劇的な変化をします。そして《東西関係》というものが無くなったのを機に経済ジェットコースターがスタートしたのだと思います。その後私は町で店や会社がつぶれるのを目の当たりにし、物価の変動を経験し、銀行の妙な動きを耳にし、世の中が不健康に思えるようになりました。本当は健康も不健康も無く、世の中は常に動いているわけですが、壁があった間、歴史で言うとごくわずかな期間ですが、ベルリンは暫く動きが止まっており、私はその様子に慣れ、それを健康と見ていました。

それが1989年11月を機にどーっと動き出し、その先に金融クラッシュがあったわけです。

ロシア・マフィア、中国マフィアが問題になった時期もありましたが、インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実を見終わると、マフィアなんぞちょろいと見えてしまいます。捕まるリスクを犯して、言わば体を張ってたかが数千ユーロか数万ユーロを人から直接奪い取ろうというギャングには「ご苦労様」と言いたくなるほど、インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実に描かれている出来事は規模が大きく、1人のジャーナリスト、1人の経済学者では対抗も出来ず、止めることも出来ません。それこそ1つの国でも力は及ばないでしょう。

ただ映画でも疑問を表現しており、私にも分からないのは、それほどお金を自分の所に集めてどうする気なのかという点。確かにその辺の生活保護受給者のアパートなどには住みたくない、大きな館が欲しいと思う気持ちは分かります。そしてニューヨークとカリフォルニアで頻繁に仕事があるのなら、両方の町に家が欲しい、そしてクリスマスには気候が温暖なマイアミにも家が欲しいと思う人がいてもおかしくありません。それぞれの町に建てた家には車も欲しい、緊急の用事のためにプライベート・ジェットが欲しいなど。まあ、ある程度は億万長者となった人には凡人とは違う欲求があるでしょう。

しかし1人の人間にはお尻は1つしかありません。高級車を5台も10台もそろえてみても腰を下ろせるのは1度に1台。しかもこういう人たちは非常に忙しいので、そうそうドライブを楽しむわけにも行かない。中には事務所にこもりきりで、時たま外に出て来ると、近くで売春婦を買い、コカインを吸って、また仕事に戻るという極端な生活をしている人もいるようなのです。

インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実は精神分析医まで動員して、《この人たちが強欲なのはなぜか》も探ろうとしていますが、どうも今一つ私にはピンと来ませんでした。もしこんな金持ちが何かの理由で私にぽんとお金をくれたら、私にはやりたい事がいくつかあるのですが、それは皆他の人と絡んだことで、何かを育成したいとか、何かを発展させたい式の事柄です。なので必要なら事務所や家を買いますが、馬鹿でかい家である必要は無く、数件も必要ありません。

腹立たしいのは、自分を見失ったような人たちが、世界中のお金を自分の所に集め、その過程ですばらしい技術を持った会社も売り買いの対象にされ、中には倒産して閉店したところもあり、この調子で行くといずれ世界中の工業と農業が破綻する点です。まるでランド・オブ・ザ・デッドのようです。

インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実の全てを鵜呑みにする前に自分でもちょっと考えてみた方がいいですが、それでも私がおもしろいと思ったのはアメリカの前と現大統領の間にどれほどの差があるかという点。この映画を見る限りニューヨークがシカゴに移っただけで、大差はありません。その後ろで長期的に何を狙っているのかには違いがあるのかなとも思いますが、現在は良く見えません。

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