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クロッシング・ライン ヨーロッパ特別捜査チーム / Crossing Lines - Obscura

Ashley Pearce

F/D/USA/Belgien 2015 @43 Min. 劇映画

出演者

Lara Rossi
(Arabela Seeger - オランダの刑事)

Donald Sutherland
(Michel Dorn - 国際刑事裁判所の監察官)

Elsa Mollien
(Rebecca Daniel - 国際刑事裁判所検事)

Thomas Wlaschiha
(Sebastian Berger - ベルリン警察警部)

Goran Višnjič
(Marco Corazza - イタリアの警視)

Elizabeth Mitchell
(Carine Strand - 米国の刑事)

Stuart Martin
(Luke Wilkinson - 英国の警視)

Naomi Battrick
(Ellie Delfont-Bogard - 英国の刑事)

Michelle Fairley
(Sophie Baines - 国際刑事裁判所所属)

見た時期:2015年12月

大分前に書いたものです。

★ 日本でも放送中

この作品には邦題もついていて、国内でも放送されています。ドイツでは現在(2015年12月)第3シーズンの最終回です。

ちなみにパリのクロエちゃんは第4シーズンの最終回に首を吊ったまま暫くお休み。続きに同じ女優が出演しているので、その後は幽霊として出演を続けるか、誰かが助けに来て生還すると決まっていますが、来年(2016年)の2月頃までロープでぶら下がったままです。

★ つぎはぎのベルリン

クロッシング・ライン ヨーロッパ特別捜査チーム第3シーズンの最終回は舞台がベルリンなのですが、ラン・ローラ・ランと同じで、地理的にはいいかげんです。

実在するホテルが使われているのですが、そのホテルは井上さんが泊まったホテルから歩いて10分ほどの所にあります。ところがロケで撮影されている場所は東ベルリンの中央駅の付近。

別なシーンではある男が暗殺されそうになるのですが、撮影されているシーンはアレクサンダー広場と東ドイツの中程度の都市の商店街のような感じです。別々な場所で撮って合成した疑いがあります。

アレクサンダー広場のシーンは以前ボーン・スプレマシーの撮影に使われたあたりで、追跡を路面電車に阻まれます。

ヒットウーマンに腹を撃たれる男が収容される大学病院は本物の大学病院のようです。この病院はベルリンの中央、北、南に分散していてそれぞれかなり大きな建物、敷地です。歴史に出て来そうな古い建物から、前世紀の末までに建てられ、近代的とは言うものの2016年から見るとやや古くなっている物までありますが、設備はかなり近代的です。撮影に使われたのは旧東ドイツの建物のように見えました。このすぐ近くが上に書いたホテルとされた場所です。

★ サザーランドの夢の世界

サザーランドは映画界に居ながら一生をイデオロギーに捧げたような人物で、このシリーズはもしかしたら彼の夢の番組かも知れません。

サザーランドはカナダ人。そのためハリウッドからは酷い目に遭うのが普通なのですが、なぜか比較的高い地位を得ています。所謂大金を貰うスターではありませんが、彼の出演する作品はイデオロギー性が高く、そこを評価されているようです。

父親サザーランドがイデオロギー的過ぎ、立派過ぎたのか、息子サザーランドはちょくちょく問題を起こしています。父親サザーランド自身のゴシップやスキャンダルは聞いたことがありません。

注: キーファーというのはドイツ語で松のことです。彼が太っていれば「松男デラックス」と呼ばれたかも知れません。日本なら名前に出て来てもおかしくありませんが、欧米でこの言葉を名前に使うのは珍しいです。松はカナダにもたくさん生えており、深い緑色なので、自然保護に関心のある人なら、こういう名前を子供につけたくなるのかも知れません。

ドナルド・サザーランドはアメリカ大陸の出身ではありますが、アメリカ人でないためか、やや欧州的なスタンスを感じることがあります。芝居の勉強のために英国に滞在していたことがあります。彼の仕事を見渡すと、ギャラより脚本で作品を選んでいるのではないかとも思えます。

クロッシング・ライン ヨーロッパ特別捜査チームは彼に取ってはすばらしい枠組み設定なのではないかと思います。欧州各地でロケをやり、各国から色々な経歴を持つ刑事やスペシャリストを集めたティームをまとめる役です。本人は白髪の老人として顧問的な立場を取り、安物のカトリーヌ・ドヌーヴといった顔立ちの女性にティームのチーフをやらせています。この2人は国際刑事裁判所所属ということになっています。ティームの中に息子サザーランドによく似た顔立ちの若手の俳優も混ざっているのがご愛嬌。

過去のシーズンにはウィリアム・フィヒトナーが主演級でレギュラー出演していましたが、現在は引退しています。

父ちゃんサザーランドの持つ正義漢的なスタンスは鼻につきます。夢のようなすばらしい、人種、国境を越えた協力関係と言われると、聞いた人は反対できません。彼は一生をその種の理想主義にかけて来たので、本人は高齢になってこういう役に納まって満足かも知れません。欧州の制作会社もその辺は心得ているのでしょう。

★ 目の前をもうちょっと見てから理想の話をしよう

私は30年以上こちらに住み、上層階級から貧困階級まで様々な場面に接し、現実の生活を見て来たので、色々な人が色々な立場から色々な意見を持っていることを体感しています。その上で父ちゃんサザーランド(あるいは彼の演じている役)を見ると、こういう人がお花畑で夢見る若者を作り出すのだなあと思わずにいられません。

人種、宗教、教育レベル、職種、性、年齢が違うと、どうしても仲良くなれない人の組み合わせがありますし、説得しても絶対に納得してもらえない組み合わせがあります。その反面例えば貧困層は皆が同じように貧しいので、やたら喋りまくらないでも、人種や年齢を越えてお互いがさっと相手を理解できてしまうことがあります。で、よく見ると1人はキリスト教のプロテスタント、もう1人はイスラム教だったり、1人は無神論者だったりします。

金持ちは金持ち同士、貧乏人は貧乏人同士ですぐ仲良くなれ、そこにはあまり人種差別は起きません。宗教の差すら気にならない人が結構います。大学などにいると(父ちゃんサザーランドが持っているような)理性で「人種差別は行けないとか、宗教で差別しては行けない」と自覚して自重している人を見かけますが、自重しないと行けないところが問題。自然に異なる人を受け入れるのではなく、自制、自重しているのです。貧困層は相手が気に入らないとガンガン文句を言いますが、言ってしまうとすっきりするのか、その後は友達になり、その後は差別自体が消えてしまうので、自重する必要もなくなります。 共通の振る舞い、共通の価値観があると、意外と人種差別は少なかったりします。その反面その共通性で結ばれた人たちが揃って別な階層の人を差別することはあるかも知れません。こういった点に目をつけて研究する社会学者、政治学者、心理学者にこれまで会ったことがありません。誰かやっているのかなあ。

フランスについてはやや懐疑的に見ています。フランスの理想主義と父ちゃんサザーランドのスタンスは何となく似ている感じで、平等とかリベラルという言葉がぴったりなのですが、「こうすべきだ」という感じが漂い、自分以外の階層、宗教、思想との間に透明な防弾ガラスの壁があるのではないかという気がします。違う人たちを平等に眺めるけれど近づかないという印象を受けます。

その種の壁をドイツでも特定の階層では感じたことがありますが、逆に「この人は文句があれば相手が何人(なにじん)でも物怖じせず物を言う」と感じることもあります。そういう人の頭の中には人種や宗教の区別は無く、今そこにあるトラブルだけがあるようです。「お前は俺の足を踏んだ、謝れ」ってな感じで、そのことだけが問題なのです。

人種や宗教の問題となると解決が難しいように思いがちですが、解決法は意外と単純で、目の前にあるのかも知れません。

★ 平板な未来

格差は度を越えると争いの元になると思うのですが、時々聞く平等主義もよく考えてからと思います。欧州が統一を目指しつつも言語の統一をしなかったのはよかったと思います。クロッシング・ライン ヨーロッパ特別捜査チームの刑事たちには語学の勉強が要求されるので確かに捜査の仕事は大変ですが、私は宗教も人種も言語も差をキープしないと長期的に見て地球の発展が停滞してしまうと恐れています。

注: EU では現在はアイルランド語、イタリア語、英語、エストニア語、オランダ語、ギリシャ語、クロアチア語、スウェーデン語、スペイン語、スロバキア語、スロベニア語、チェコ語、デンマーク語、ドイツ語、ハンガリー語、フィンランド語、フランス語、ブルガリア語、ポーランド語、ポルトガル語、マルタ語、ラトビア語、リトアニア語、ルーマニア語が公用語で、その他に少数の人々の使用する言語も次々に EU の公の場での使用が認められています。主として印欧語族の言語ですが、フィンランド語、ハンガリー語などアジア系の言語も入っています。多くの人が母国語に加え旅行先で買い物ができる程度に分かるもう1つの言語を使い、学校でも1つか2つ外国語を勉強しています。

文化に違いがあって、お互い自分と違う物事を見て、考えるきっかけを貰い、発展して行くわけで、全ての人が同じように混血し、1つの言語を使い、1つの宗教を持つか、宗教を廃止し、世界中どこへ行っても同じタイプの人がいて、同じ物を食べ、同じ服を着て、同じタイプの家に住んだのではその先の発展が危ぶまれます。

違いを保ちつつ差別をなくす知恵を人間は持っていると期待してしまうのですが。

父ちゃんサザーランドは人生の後半にテレビの世界で夢の映像化にこぎつけましたが、 若い人がその後に続くかは未知数。また、こういう欧州事情を反映した番組にアメリカの人、カナダの人、英国の人たちはどういう感想を持つのかに興味があります。この人たちって、同じ英語を使っていても考え方が全然違うのですよ。そしてサザーランドがカナダ代表というわけでもありませんし。

校正をする時間が無くてこの記事を寝かしている間に、英国が欧州連合から脱退する決断を下しました。多少経済の混乱や停滞が起きるかも知れませんが、ゆったりと座ってよく考えてみると、中期、長期的にはこの方がお互いのためになるのかも知れません。英国に育った若い世代は比較的欧州連合に違和感を持っていないようなのですが、これまでの英国と欧州の歴史を考えると、お互いちょっと距離を置いて、相手の内情に手を突っ込まない方がそれぞれが満足できるようになるかも知れません。

そしてサザーランドだけでなく、欧州の理想主義者に取ってもこのあたりで1度現実を見て、物事には限度があるということを思い出す良い機会かと思います。すばらしい理想でしたが、外国から来て話を聞かされると「本当にそれ、実現すると思っているの?」と思わざるを得ないすばらしい話でした。現実がうまく行かなくなればなるほど自分にその理想を言い聞かせていた人たちはごっそり年金生活に入る世代。まだ現実を見た上で理想を目指す世代が育っていませんが、今回の英国の様子を見て「何かがうまく行っていない」と気づいた人は多いはず。

日本は欧州より年寄り世代と若い世代の政治家の連携がうまく行っているように見えます。長い間危機感を持って発言していたかなり年配の政治家と、次の世代の連絡が比較的うまく行っていています。欧州はある世代が前の世代をばっさり切ってしまうことが時々起き、古いとして否定された世代の中の良い点が注目されず、無視されてしまう傾向があります。日本は全部をばっさりやらず、役に立たなくなった所を削って行く方式の方が好まれるようです。

欧州は国によりますが今政治家が途方にくれているという印象を受けます。日本は日に日に現実を見られる人が増えているようで、この激動の時代に頑張っている人がいてくれることはありがたいです。

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