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F/Belgien 2024 97 Min. 劇映画
出演者
Jonathan Feltre
(Mady Bala - 学生、夜はバイトの鍵屋)
Natacha Krief
(Claire - 鍵の仕事の依頼人)
Romain Duris
(Yannick - ギャングのボス)
Jonas Bloquet
(Theo - ヤニックの舎弟)
Thomas Mustin
(Remy - ヤニックの舎弟)
見た時期:2025年2月
期待せずに見始めたらその日のトップの作品でした。
近年無理やり弱者をテーマに取り上げたり、移民系の人を主演にしたりしつつ、作品を見終わってみてもその人たちを本当に理解しているのか、その人たちに何かしらの助けになっているのかがはっきりしない作品が増えていました。
La nuit se traîne の主人公は北アフリカ系かなと思われ、ベルギーでフランス語を話す青年。巻き込まれ型のスリラーですが、足が地に付いた作品です。
★ ストーリー
アフリカ系のベルギー人マディーはブリュッセルで学業の傍ら夜は鍵屋さんをやってお金を稼いでいます。日本ではこういう職業見た記憶が無いのですが、ドイツには以前からありました。ベルギーも同じような状況のようです。
家の中に鍵を置いたままドアを閉めてしまったり、鍵の入ったバッグを盗まれてしまったりして困った時に鍵屋さんに電話をすると、夜でも駆け付けて来て、鍵だけを壊したり、外したりしてくれます。この作品では料金は250€。客が300€払おうとしても、正直に250€だと言う形で、主人公マディーがまじめな人物だと言うことが表現されます。
★ 私の知らないブリュッセル
中央駅を含めブリュッセルには1970年代、80年代に何度か行ったことがあるのですが、主として電車の乗換えをしただけだったので、町の様子は記憶にありません。La nuit se traîne では駅はかなり近代的になっていました。
ブリュッセルで使われる言語は主としてフランス語。ベルギーには公用語が3つあり、主として地図の上半分がフラマン語、下半分がフランス語、ドイツの国境に近い所ではドイツ語が使われます。ドイツ語地域は小さいです。ブリュッセルはフラマン語とフランス語が混在しているとされていますが、私はあまりフラマン語は聞きませんでした。
フラマン語というのはやや発声法が違うだけで、ほぼオランダ語と同じ。なのでオランダ人が来ても話は通じると思います。またドイツ語が分かるとフラマン語の新聞などはざっと何が書いてあるか理解できます。
私は短期間フラマン語の地域にいたことがあり、話し言葉も簡単なことならざっと分かりました。自分でしゃべるのはカフェで飲み物を注文する程度。ですが、新聞はドイツ語が分かるようになると、徐々に理解できるようになりました。
★ ストーリーの続き
以下あっけらかんと筋をばらしますので、見る予定の人はこの辺で読むのを止めて下さい。
★ マディーの災難
その夜の2軒目の仕事に行くと、若い女性クレアが依頼主でした。料金を要求すると金はアパートの中にあるからと言って払わない。部屋に入ってみると踏み倒して逃げ出す。運の無い日でした。
このアパートはクレアの話と全く違い、彼女のアパートではありませんでした。中に釣るしてあったボクシングの練習のためのサンドバッグの中に実は大金が隠されていて、彼女はその金を盗ってトンズラ。後からやって来たギャングに捕まったマディーは色々聞かれて、命の危険を味わいます。
ギャングたちはマフィアのような組織の人間と思われますが、警察の秘密捜査部門かと思われるほど中でまとまっています。ボスのヤニックの命令で動く若手のテオたちは囮捜査の警官と言っても通りそうな印象で、ギャングにしてはきちんとしている所もあります。ボクシングをやっていた男が殺されていて、金をクレアが盗って消えてしまったので、ヤニックたちは他の組織との関係で窮地に陥っていました。なので何が何でも金を取り戻さなければ行けません。唯一の生き証人がたまたま鍵を開けたマディー。所謂巻き込まれ型のスリラーの典型。
最初はギャングたちに殺されそうになったマディーですが、助けてもらい、クレアの捜索を手伝わされます。そして舎弟の1人テオとクレアは兄妹。2人で金を持ってアムステルダムへ逃げる手はずになっていました。アムステルダムも安全な場所ではないので、そこで偽の旅券などを調達して外国へでも行くつもりなのかと思いました。
そういった事情が少しずつばれ始め、ヤニックと子分の1人が、テオとクレアが会う予定のブリュッセルの駅に出向きます。クレアを助けたいマディーも駅へ向かいますが、阻まれそうになります。主要な登場人物が揃ったその場で・・・ちょっとしたアクションも交え、ラストへ。
凝った筋書きで、とてもデビュー作とは思えませんでした。
★ 監督と話した
今回のファンタの唯一のゲスト、ブランシャー監督と話す機会がありました。
フランス、ベルギー合作だったので、まずは「君はベルギー人か」と聞いてみました。すると「そうだよ」との返事。じゃ、ってんで「フラマン語で映画撮ってよ」と早速おねだり。ついでに「どこの生まれ?」と聞いたら、「生まれてから子供時代はフラマン語の地区に住んでいた。暫くして家族とフランス語の地区に引っ越した」と言うではありませんか。で、私は「フラマン語のどの町にいたの」と聞くと、なんとそこは私が数回滞在していた所。その後も何度かフラマン語の映画作ってよと言ったら、「いいよ」との返事。期待しちゃうなあ。
実は2004年のファンタにベルギー、オランダ合作のザ・ヒットマンという作品が来たことがあったのです。使われている言語はフラマン語。出来のいいスリラーでした。ブランシャー監督、デビュー作でこの実力ですから、きっといい作品を作ってくれるでしょう。
★ 良かった所
アフリカ系の主人公の日常生活が現実的でした。私が学生をやっていた頃と違い、欧州の学生の生活は経済的に非常に厳しくなっています。授業料が以前はただだったのが、今では結構高いお金を必要とする国もあります。
80年代、90年代のドイツは学生課がしっかりしていて、結構高い時給のアルバイトを斡旋してくれましたが、2000年以降経済状態が徐々に悪化し、現在ではかなりの貧困生活を強いられているようです。近隣の国もお金が余っているという話は聞きません。なのでマディーが夜寝る時間を削ってアルバイトをしているのも理解出来ます。
私が学生だった頃は結構たくさん仕事がありましたが、今は仕事の取り合いになりそうな時代。フランスやベルギーだと旧植民地からの移民組と所謂白人の間でも仕事は取り合いになるのではないかと想像しています。マディーの経済状態はラリって遊んでいる大金持ちのボンボンの反対側。そのあたりがそれとなく表現されています。
学生をやっているだけあって、頭はしっかりしています。ギャングに酷い目に遭ってもパニックに陥らず、ちゃんと筋道を立てて考えています。クレアが気にかかっていますが、恋人にしようとかいう下心ではなく、命を助けなくちゃという動機。
もう1つ愉快に思えたのはギャング一味。正業についていない人たちですが、最初に登場するシーンでは、まるで警察の囮捜査の課のように見えました。どことなく堅気な雰囲気が漂うので、後で笑いました。
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