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ザ・ヒットマン /
De Zaak Alzheimer /
The Alzheimer Case /
The Alzheimer Affair /
The Memory of a Killer
The Alzheimer Case - totgemacht

Erik Van Looy

2003 NL/Belgien 120 Min. 劇映画

出演者

Koen De Bouw
(Eric Vincke - アントヴェルペンの敏腕刑事、先に考えるタイプ)

Werner De Smedt
(Freddy Verstuyft - フィンクの相棒刑事、先に撃つタイプ)

Hilde De Baerdemaeker
(Linda de Leenheer - 刑事)

Geert Van Rampelberg
(Tom Coemans - 刑事)

Jan Decleir
(Angelo Ledda - ヒットマン)

Jo De Meyere
(Henri Gustave de Haeck - 元大臣、男爵)

Tom Van Dyck
(Jean de Haeck - 男爵の息子)

Gene Bervoets
(Seynaeve - アンジェロの依頼主、男爵から仕事を依頼される)

Bart Slegers
(Opperwachtmeester Lemmens - 男爵の護衛警官)

Deborah Ostrega
(Anja - ホテルの売春婦)

Laurien Van den Broeck
(Bieke - 子供の売春婦)

Dirk Roofthooft
(ビーケの父親、ポン引き)

Lucas van den Eijnde
(Bob Van Camp - ビデオを持っている男)

Els Dottermans
(Mevrouw Van Camp - ボブの妻)

見た時期:2004年8月

2004年 ファンタ参加作品

要注意: 派手なネタばれあり!

テンションが高い方のアジアのトップが地球を守れ!、欧米のトップがハイテンションとすれば、テンションを上げない地味組のトップは De Zaak Alzheimer ではないかと思います。Dédales とは鼻の差。こちらに軍配をあげた理由は役と役者。脚本に職人的な緻密さがありながら、職人芸だぞと押し売りをしない自然さがある点。その上それを演じた人が主演も脇役もすばらしいからです。渋いですぞ。

すぐネタがばれます。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

80年代のベルギー。アントヴェルペンで警察の囮捜査官が小児売春の捜査をしていました。いよいよ父親のポン引きと話がまとまるという寸前に売られる少女ビーケが刑事フィンケのマイクに気づきます。父親と、フィンケ救出のために乗り込んだ警察が撃ち合いになり、ビーケの目の前で父親が射殺されるという事になってしまいます。少女は警察に保護され、その後どこかで暮らします。ビーケはこの時まだ小学生の年齢。

別な場所では金持ちの家に押し込み強盗が入り、主人に金庫を開けさせ、賊がビデオを奪います。家の主人は殺されます。

さらに別な場所で老ヒットマン、アンジェロが依頼主から新しい仕事を受け、アントヴェルペンにやって来ます。出かけて行って殺すつもりだった2人目のターゲットが小学生ぐらいの子供だったのでヒットマンは撤退。子供には手を出さない主義だそうで、レオンが年を取るとこういう殺し屋になったかという感じです。

社会的地位の恐ろしく高い人物から依頼を受けていたアンジェロの雇い主は、思ったように子供が死んでくれなかったので困ってしまいます。誰かが少女ビーケを殺さないと地位の高い人が困るからです。で、リプレースメント・キラーを雇い、ビーケを殺し、ドサクサにもう1人若い女性アニヤを殺します。アニヤは前の晩、アンジェロとホテルのバーで知り合い、夜を共にした女性でした。ビーケとアニヤ殺しの罪はアンジェロに擦り付け、アンジェロを殺してしまえば一件落着のはずでした。ところがどっこい、たとえ老いたとは言え、アンジェロはレオン並みのプロ。そう簡単には映画は終わりません。まだ1時間以上残っていますからねえ。

ビーケはフィンケが先に扱った事件の対象でもあり、アンジェロが最初に殺した男が持っていたビデオにも映っていました。ですから話はややこしくなるばかりではなく、やばい事になって行きます。

これで大体メンバーが揃いましたが、話はここからドラマになって行きます。老ヒットマンというのは子供頃から頭の良い子で、将来を約束されているような人でしたが、事情があって裏の稼業へ。裏でも頭が良いので、めきめきと頭角をあらわし、自営業でずっと殺し屋を営んで来ました。もう白髪でかなりな年なのでそろそろ引退を考えています。彼の周囲の人間には殺し屋という商売には定年は無いという考えの人もいます。ドナルドサザーランドがあの年でもまだ現役だということを考えるとそれもうなずけますが、主人公のアンジェロはアルツハイマーにかかっているので、引退というのは賢明な決定かと思われます。

しかしリプレースメント・キラーが彼に罪を擦り付けてしまった上、アントヴェルペンで1番優秀な刑事ティームが捜査にあたっているので、すぐ見つかってしまいます。少なくとも名前が割れ、彼の生死が書類上誤魔化されているところまで嗅ぎつけられてしまいます。死んだはずだよアンジェロさん。

アンジェロにはパウルという兄(弟か?)がいて、彼もアルツハイマーで入院中。この訪問のシーンが素晴らしい演技です。周囲の事がすっかり分からなくなっている兄ですが、アンジェロが来るとふと何かを思い出すような視線をします。遠くに行ってしまった記憶が僅かに戻って来るかのように。ほんの数分のシーンですが、感動的です。

自分の行く末が良く分かっているアンジェロは、最後の記憶が消える前に一仕事片づける決心をします。それが並大抵の大きさではありません。味方になってくれそうな人物は皮肉にもあの敏腕刑事のみ。それで意を決して自分の方から警察に連絡して来ます。敏腕刑事も自分が小児売春の捜査をしていたため、アンジェロの話が他よりすんなり理解できます。それで途中から刑事とヒットマンの共同捜査という前代未聞の展開になってしまいます。目指すは悪徳男爵。

この男爵はこれといった事をしておらず、事件を起こした当人ではないのですが、馬鹿息子が小児売春の客になり、バッチリ現場をビデオに収められてしまっています。それを取り返すのが最初の依頼。これは相手が成人だったので、アンジェロは問題無くクリア。ヒットマンですから良心の呵責などはありません。問題はその次の仕事。これが子供を消すことだったのです。この子に証言されてしまっては男爵の馬鹿息子はイチコロ。息子がしでかした不始末とはいえ、男爵は元大臣な上貴族という地位と体面があります。これはまずい。それで上流階級のトラブルを解決する専門家に依頼。大金を払いますが、そんな事はこの際問題ではありません。で、うまく行くはずだったのが、アンジェロの謀反で話が逆向きになってしまったのです。アンジェロにしてみれば、自分が手を出さなかったのに少女は殺されてしまい、自分は病気だから失う物は無い。となればこれから記憶が無くなるまでは必殺仕置き人です。高齢で記憶がなければ裁判は逃れられるなどとせこいことは考えていません。

ヒットマン、姿勢正して

この作品のスリルは、単に犯罪を解明するというだけでなく、アルツハイマーが時限爆弾の役を果たしているので、急がなくてはという点と、悪役が政府の中枢にいるため、刑事でも潰される可能性がある点。

やや不真面目な口調で書きましたが、実は非常に地味な上に真面目な作品で、ファンタのコメントにも書いたように、アンジェロの俳優ジャン(ヤン?)・デクレアーには文句無くオスカーをあげたいほど。周囲を固めている俳優も手堅い演技。優秀作品です。

とにかく驚いたのは、これまで全く映画界に大きく斬り込んで来たことのないベルギーが突然最上級の作品を引っさげて上昇してきた点。お金はオランダからも出ているようですが、言葉を聞いているとベルギー語(フラマン語)中心。舞台もベルギーです。ファンタのパンフの解説でもビックリという論調。この作品は推理小説ファンにも受けるでしょう。映画を見た後、私は本が読みたくなってしまい、今小説の原作が存在するのか調査中。

ベルギーという国は言語が2つに分かれているだけでなく、国民性も2つに分かれており、双方が協力するということはあまり期待できません。今行なわれている実際の小児売春組織の捜査、裁判でもその点がはっきり前面に現われており、裁判が行なわれる場所、被告の使う言語など色々複雑な問題があり、遅々として進みませんでした。その上どうやら犯人に消えてもらうか死んでもらいたいと考えた人がいたらしく、犯人が1度フラフラ外へ出たという事件まで起きています。この事件というのがベルギーの上層部までかなり食い込んでいるので、今捕まって裁判を受けている男が何を言い出すか分からず針の筵に座っている政治家、司法関係者、貴族が大勢いると噂されています。De Zaak Alzheimer は自国の問題に正面から取り組んだという意味でも注目すべき作品ですが、それにアルツハイマーという独創的な要素を盛り込んだのでいっそうおもしろくなっており、その脚本を俳優が手堅い演技で演じているので、完璧な仕上がりです。

レオンメメントを混ぜ、無用なドラマを削り、静かに進行する犯罪物と要約することができるでしょう。日本に来るようでしたらぜひご覧下さい。

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